IFもしも鬼化したのが炭治郎だったら   作:カボチャ自動販売機

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3話 伊黒小芭内

「帰ったらすぐに甘露寺の元へ向かうんだぞ。いいな」

 

『蛇柱』伊黒小芭内は、飴細工職人が、ゴルフボール程に丸められた熱々の飴から、器用に鳥の形を作り出していくのを眺めつつ、竈門禰豆子に言った。

 

透明感は残しつつ、練られ、空気を含んだことで白くなった飴を、さらに空気を吹いて膨らませ、握りばさみでつまみ、伸ばし、切って鳥の形へと変化させていく様は面白く、美しいのだが、それを眺めているのが相棒である蛇こそ巻いていないものの、左目が青緑、右目が黄の特徴的な瞳に、口許をグルグルと巻いた包帯で隠した怪しさ満点の男なのだから何とも言えない。

心なしかキラキラとした目を向けていて、全く視線を逸らそうとせず、職人の一挙手一投足を見逃すまいと真剣だ。

 

その真剣な顔のまま出た言葉に、禰豆子は呆れてしまいそうになる。

 

「一緒に来ますか?」

 

「いや、それを甘露寺は望んではいないだろう」

 

なんだこいつ。思わず禰豆子は素でそう思ってしまったが、声に出すことはなかった。ネチネチどころがジメジメしてるな、とか、そんなことは勿論思いもしていないわけだが。

 

「でも文通、返ってきたんですよね?」

 

「ああ、楽しそうで何よりだった」

 

こんな調子で二人が一体どんな文通をしているのか気になった禰豆子だったが、人の手紙を盗み見る趣味はない。二人には二人にしか分からないやりとりがあるのだろう。

こんなにも蜜璃を意識しているというのに、積極性があまり無く、文通だけで満足している節すらある小芭内と、誰にでもキュンキュンしていて、チョロい様に思えて、鈍感で幼いところのある蜜璃では、一生進まなそうだな、と思いつつ、この二人にはそれくらいで丁度良いのかもしれないとも思う。

禰豆子は、年下なのに何故か見守るようなポジションで二人のことを考えていた。

 

「何か土産を買っていかなくてはな」

 

小芭内は出来上がった飴を禰豆子に渡すと、周囲の店を見渡して唸っている。蜜璃の好物は桜餅であるが、最近は西洋菓子にもハマっていることを小芭内は知っていた。西洋菓子はこうして都会にまで出向かなくては中々買えるものではない。とはいえ、甘露寺邸の料理人は並ではなく、西洋菓子もいくつか作れる程だ。

小芭内はそんな環境にある甘露寺が食べたことがないものを禰豆子に土産として持って行かせたい、と自らハードルを上げて、店を探していた。

 

「蜜璃さんは養蜂していますから、蜂蜜に合いそうなものが良いんじゃないですか?」

 

禰豆子と小芭内は発展した町を二人並んで歩く。

小芭内の格好は中々に目立っていたが、蛇を服の中へ隠しているだけマシだろう。禰豆子も街中では恥ずかしいので、いつも羽織っている桃色の着物をしっかり締めて胸元を隠していた。

禰豆子自身気がついていないが、かなり容姿や格好が派手な者が多い柱と並んで歩き過ぎたため、注目されることに馴れてしまっている。今も多少チラチラと注がれる視線はすっかり無視出来ていた。

 

禰豆子は蜜璃との捜索を終えた後、それぞれ二人の柱とも炭治郎探索を行った。

『風柱』不死川実弥と、『音柱』宇髄天元である。全身傷だらけな上に鬼より目付きが悪い男と、派手が服を着て躍り狂っているような男だ。その隣にいれば嫌でも注目に馴れるだろう。そもそも、禰豆子が良く行動を共にしている蜜璃が柱の中で最も奇抜で目立つわけだが。あの派手髪で大量の食事を食らっている姿は一度見たら忘れられないインパクトだろう。

 

「養蜂をしているからこそ、そういうものは食べ馴れているだろう。それなのに、差し入れしてみろ。俺は、甘露寺がその食べ物を知らないのではないか、と侮っていたと思われる」

 

怒濤の勢いでネガティブを垂れ流す小芭内に、ドン引いてしまいそうになった禰豆子だが、それだけ蜜璃のために真剣に選んでいるのだと解釈することにした。

小芭内は蜜璃とは違い、それなりに指導力のある柱だ。理不尽な面もあるが、蜜璃に嫌われたくない小芭内は、禰豆子を丁重に扱い、技を教えた。水の呼吸の使い手である禰豆子には、その派生である蛇の呼吸の技は相性が良い。禰豆子自身、小芭内の指導で自らの技が一段も二段も強くなったのを感じている。

師匠としては蜜璃よりも尊敬しているくらいなのだが、どうもそういう一面よりも、へたれな一面を見せられることが多い。

素直に尊敬させてくれる柱はいないのか、と禰豆子はため息を吐いた。何やら豊満なものを揺らしながら、桃色の塊が自らを指して騒いでいる姿を幻視したが、無視する。

 

「だが、養蜂をしていることを知っていながらそれを考慮しないのも配慮にかけているとは思われないだろうか」

 

「私、小芭内さんの中の蜜璃さん嫌いです」

 

ネチネチした人間が想定する人間もまた、ネチネチし出すらしい、とそんな発見をして、憂鬱な気持ちになった。とはいえ、禰豆子としてはこんな小芭内は許せる範囲だ。

『風柱』不死川実弥は捜索中ずっとイライラしていて気まずかったし、『音柱』宇髄天元は三人もいるという妻との惚気話を延々とされ辛かった。その点、小芭内は、無駄なことは話さないし、ある程度の常識もある。こうして、ネチネチうじうじと蜜璃のことをそれとなく相談してくるのが多少うざかったものの、年中横で舌打ちしたり、夫婦の情事まで話しだそうとするド派手セクハラよりはずっとマシだったからだ。

 

禰豆子と小芭内の二人は、炭治郎の目撃情報のあったこの街の付近を3日間探索し続けたものの、炭治郎どころがその手がかりになるようなものすら見つけられず、帰宅を決めた所だった。都会ということもあり、蜜璃も行きたがったのだが、本来、柱というのは忙しい立場。仕事が立て込んでおり泣く泣く諦めた。

そういう経緯があり、またも蜜璃から妬まれ気味の小芭内はお土産で気を引こうと必死なのである。

 

「……桜餅にしよう」

 

「うわ……」

 

悩みに悩んだ小芭内が選んだのは、結局『安全牌』だった。この男、今まで悩んでいた時間を一瞬にして無にした。もうすっかり日も落ちて暗くなるまで悩んだ末に出した答えが桜餅。蜜璃への土産としては誰もが最初に思い付くそれを悩みに悩んで選ぶとは、流石の禰豆子も呆れ果てていた。

田舎の菓子屋ならもうとっくに閉まっている時間だが、都会は夜でも明るく、まだまだ店々も賑わっている。その店々を見て、今度はどの店で桜餅を買うか、を悩み始めた。うんうん唸っている小芭内に、もう勝手にやってくれ、と禰豆子は座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑踏の中、一組の男女が二人の様子を見ていた。

黒髪を後ろで纏めて、上品に着物を着こなした美人と、書生のような恰好をしたつり目の少年だ。

 

「これ以上近づけばいくら俺の術があっても悟られますね。隣の男、相当な手練れだ」

 

「ええ、今回は禰豆子さんの様子を見れたことで良しとしましょうか」

 

「よろしいのですか?それ(・・)を渡さなくて」

 

少年は女性が持っている木箱に視線を向けて首を傾げたが、女性は頷く。

 

「こればかりは直接渡さなくてはなりませんからね……また機会はあるでしょう。すぐに必要となるものでもありませんし……それに、もう一つの目的は果たしました」

 

妖艶に笑う女性に、少年はただ見入っていた。話の半分ももしかしたら理解していないかもしれない。彼にとって大切なのは、彼女と二人の時間で、彼は彼女がやりたいことに付き合っているだけでしかないのだから。

 

「珠世様……美しい」

 

少年の反応を気にすることなく、女性は禰豆子を見詰めた。

 

「彼女の力も何れ必要になるのかも知れませんね……出来ればそうあって欲しくないものですが」

 

憂いを帯びた表情で呟く女性に、少年は称賛の声を上げることも忘れ、浸った。染み渡るような美しさは、彼の語彙力では表現できない神秘。彼にとっては、やはりその表情に含まれる禰豆子への感傷や、ここにはいない一人の少年(・・・・・)への申し訳なさは、どうでも良いことであった。

 

「愈史郎、行きますよ」

 

「はい!」

 

二人は禰豆子と小芭内に背を向けて、人混みに呑まれるようにして消えていく。それと同時に、一人の男が禰豆子の元へと駆けていった。戸惑う禰豆子に男が押し付けているのは古びた書物。

 

その表紙は薄汚れ、文字も掠れていたが、辛うじて読めた最初の一文にはこう書かれていた。

 

――この呼吸は日の呼吸を越える呼吸である、と。

 

 

 

 

 

禰豆子と小芭内が蜜璃へのお土産選びで苦心していた、その日の夜。この時期には珍しく、冷えた寒い夜で、辺りにはうっすらと霧。そんな息をする度に喉まで冷えるような霧の中、『風柱』不死川実弥は目の前の男に問いかける。

 

「テメェが竈門炭治郎か」

 

緑と黒の格子柄が描かれた着物に、灼熱のような赤銅色の長い髪を乱雑に後頭部で縛り、顔を炎のような模様の入った狐の面で隠した男。

顔が隠れていたにもかかわらず、実弥がその男を炭治郎であると断定したのは、その左耳に日輪が描かれた花札のような独特の耳飾りが揺れていたからだ。

 

実弥の問いかけに面を外した男は、その髪と同色の赤みがかった瞳を向ける。その額には大きな火傷のような傷。禰豆子より通達されている兄の特徴と一致していた。

背丈が聞いていたよりもずっと高く、対峙している実弥より高いが、禰豆子が炭治郎と別れてから二年が経ち、また、鬼にとって肉体の改変はお手のもの。自らの体を大きくも小さくも自由自在なのだ。気にすることでもない。

 

面を外しただけで、特に何も言わない炭治郎に、実弥は舌打ちをして、気に入らねぇ、と呟いた。

 

「お館様はてめぇを仲間にしてェみたいだが、俺は違う。鬼は滅する、これが絶対だ。お館様でも、これは覆せねェ」

 

実弥の瞳に宿るのは憎悪、嫌悪、憤怒。炭治郎の鼻はそれらを嗅ぎ分ける。匂いからその人の感情まで読み取ってしまうのは、炭治郎が人間であった時からの能力だった。

実弥の感情から、炭治郎の話には聞く耳を持たないだろうと思ったが、対話を早々に諦めてしまっては理性なき鬼と同じ。炭治郎はあくまで対話をする姿勢を見せていた。

 

「だがな、鬼舞辻無惨の居場所は教えろ――俺が殺す」

 

攻撃的な笑みを浮かべて、実弥は告げる。それは戯れ言でも何でもなく、覚悟だった。彼から何もかもを奪い去った鬼舞辻無惨を殺し、ただ一つ残った大切なもの()だけは守るために。

奇しくもこの二人の行動原理は同じだった。

何もかもを奪われた復讐と、それを上回る大切な者を守りたいという愛。それを原動力に鬼を狩る。

 

「教えられない」

 

「あ?」

 

「貴方からは優しい匂いがする。だから教えられない――」

 

きっぱり断った炭治郎に、不機嫌そうな血走った瞳で睨みをきかせている実弥。炭治郎は、優しげな笑みを浮かべて、言う。

 

「――命を大切にして欲しい」

 

ブチブチと、何かが切れる音。

 

「てめぇ、俺を馬鹿にしてんなァ?ァア?」

 

命を大切にしろ、ということはつまり、鬼舞辻無惨を相手にすれば実弥は死ぬと、お前は弱いから教えないと、そう言っているようなものなのだから。

 

「馬鹿にはしてない。貴方は強い。強いけど命は一つしかない」

 

命は一つ。

当たり前のこと、しかしそれは鬼にとっては当たり前ではない。人間が死ぬような怪我でも、鬼は死なない。人間よりも高い身体能力と、特殊な能力を持つというのに、その体は不死なのだ。鬼殺隊はそんな理不尽な条件で、鬼の頚を日輪刀で斬るという、一つの勝利条件だけで、戦い、鬼を狩らなくてはならない。どんなに強くとも、一度でも大怪我をすれば、それで死ぬ。

 

「上弦の鬼ですら、その力は絶大なんだ」

 

十二鬼月。

鬼舞辻無惨が選別した直属の配下。『上弦』の六鬼と『下弦』の六鬼に分かれており、その中でも別格の強さを誇るのが『上弦』の鬼だ。その他大勢の鬼とは違う、天災のような脅威。

 

「鬼の言葉には耳を貸さねぇ。だからよォ――」

 

上弦の鬼と遭遇したことのない実弥には、どれだけ言われたところで臆することなどありはしない。人から伝え聞いた言葉で自分の価値観を変えたりはしない。

 

鬼なら殺し、人なら守る。

 

鬼が強かろうが、弱かろうが、やることはシンプルで、それが全て。

 

それでも阻むというのなら、お前では死ぬだけだというのなら――ただ斬って証明するだけ。

 

『風柱』不死川実弥の強さを。

 

 

「見せてくれよ!その上弦様とやり合ったっていうテメェの力をよォオオオ!!」

 

 

――【風の呼吸・壱ノ型 塵旋風・削ぎ】

 

刀を抜くのと、凄まじい勢いで飛び出したのは同時。

自らが風の刃となり、螺旋状に地面を抉りながら突進していく。

その攻撃を前にして炭治郎はただ左手を前に出す。――掌に、禍々しい緑の瞳。その瞳が瞬きをすると、一直線に炭治郎へ向かっていたはずの実弥が、不自然に方向を変える。それは自らの意思でなく、体が引っ張られるように、力が加わったためだった。

 

「小賢しいんだよォ!」

 

自らの攻撃が、何らかの血鬼術で邪魔されていることを悟った実弥の行動は早かった。

攻撃を邪魔する血鬼術は、相手の体を操作する類いのものではなく、力の方向性を制御する能力。一瞬にしてそれを読み取った実弥は、感覚から能力によって与えられている力の強制力を、それを上回る回転を持ってして巻き取りながら、台風のようになって、再び炭治郎に向かっていく。

むしろ威力を向上して再び迫る攻撃に、しかし炭治郎は焦った様子すら見せない。

 

左手の瞳が瞬きをすると、今度は炭治郎が不自然に飛び上がった。一切の予備動作無く、宙に逃げた炭治郎に、実弥は勢いをそのままに上体を反らし、刀を振りかぶる。

 

「逃がすかァ!」

 

――【風の呼吸・肆ノ型 昇上砂塵嵐】

 

舞い上がる砂塵のように、土砂を巻き込みながら斬撃は空を突かんばかりの勢いで飛んでいく。炭治郎は着物をはためかせながら空中で回転し、その斬撃をよけつつ、左手の能力で自らの方向を制御し、地上へ勢いよく降りる。既に攻撃態勢に入っている実弥を前に、炭治郎は膝を付いたまま動かない。

 

痛みで動けないのではない。鬼の身体能力と、力のベクトルをコントロールする血鬼術によって着地によるダメージはない。炭治郎がそこを動かなかったのは、その必要がなかったからだ。

トプンッと、水が滴るような音と共に地面へ現れたのは黒い沼。炭治郎の体がそこへ吸い込まれていく。

 

「ゴラァアアア!!」

 

 

――【風の呼吸・弐ノ型 爪々・科戸風】

 

一振りで四つの斬撃が飛び出し、地面を削りながら炭治郎へ向かう。沼に沈みながら炭治郎は左手を向け、斬撃のベクトルを変えるため、その掌の瞳が閉じられ――

 

「読んでんだよォ、クソ野郎がァ!」

 

――瞳は左手に一つだけ。発動の条件は瞬き。つまりは、その瞳が閉じられた瞬間、炭治郎はベクトル操作の血鬼術を使えない。それをこの短時間で看破していた実弥は、次の技を放つ。

 

――【風の呼吸・捌ノ型 初烈風斬り】

 

一迅の風を残して消えた実弥が、半身だけが沼から出たままの炭治郎の前に現れ、荒れ狂う風の斬撃を叩き込む。その余りの勢いに周囲の木々が斬り裂かれる中、実弥は舌打ちをしながら振り返った。

 

「直前で逸らしやがったかァ、そこそこ刀も使えやがるゥ」

 

実弥の視線の先に、右耳と左腕を失ったものの、しっかりと両足で立ち、鞘から放たれた刀を、右手で逆手に持っている炭治郎がいた。

頚を狙って放たれた【風の呼吸・捌ノ型 初烈風斬り】を、炭治郎は左腕で頚を守り、襲う斬撃をその刀で相殺したのだ。

 

「俺の強さが分かっただろうがァ」

 

「俺は治る」

 

挑発するように実弥が言えば、炭治郎は呟くように返すと、既に再生した左腕で、耳飾りを触る。その平然とした態度が、また実弥をイラつかせる。

 

「なら、分かるまで斬り刻んでやらァ!」

 

「――もう、止めた方が良い」

 

臨戦態勢のままの実弥を前にしながら、炭治郎は刀を納め、忠告した。

どこまでも舐めたやつだ、と沸騰しそうな怒りを全て刀に込め、実弥が技を繰り出そうと構え――

 

「――ガッ!?んだ……とッ」

 

――口から大量の血を吐き出して、膝を着く。刀は構えたまま、目線は炭治郎から逸らさず、それでも膝を着いてしまった。

 

「クソがァ……罠張ってやがったのかァ」

 

周囲を薄い霧が覆っていた。この霧は最初からあって、今日は冷える夜で、だから実弥は考慮していなかったが、この霧が全ての原因であることを察する。

 

――こいつを吸い込むと肺がやられるッ

 

実弥は、少しでも吸い込むのを止めようと、口許を押さえて炭治郎を睨む。

 

「暫く全集中の呼吸を使わなければ大丈夫。貴方ならそれでもう動けるようになるはずです」

 

技を使い、全集中の呼吸を使えば、それだけ空気を吸う。実弥は既に四度、技を放っていた。その肺には、炭治郎によって生み出された血の冷たい霧がたっぷり吸い込まれている。

 

「テメェ、何故手加減しやがるッッ!その気がありゃ、俺を殺せたはずだァア!」

 

実弥は無理矢理に立ち上がり叫んだ。それだけ多様な血鬼術と、実弥の剣撃ですら防いだ剣術があれば、こんな防戦一方の戦い方をする必要はなかったはずだ。それは明確な手加減、弱者を見下すようなその態度が気に食わなかった。

 

「俺は人間は殺さない」

 

その真っ赤な瞳に明確な意思。その覚悟は実弥を黙らせる。あの目は、何もかもを自分が背負うと、そう決めて突き進んでいる男の目だと、分かったからだ。

 

「鬼舞辻無惨は俺が殺します。必ず殺します――だけど一人じゃ全部は救えない」

 

覚悟が込められていた瞳を悲しみに染め、炭治郎はどこか遠くを見ていた。この二年間で炭治郎が何もかもを救えたわけじゃない。きっと今も、どこかで救えなかった命が失われているのだろう。鬼と人、元は同じなのに互いに殺し合う、それが酷く悲しくて、だから無惨を許せない。悲しみの分だけ、炭治郎の覚悟は堅く、鋭くなっていく。

 

「だから死なないで下さい。貴方ならもっと多くの人を救える」

 

炭治郎の鼻は、実弥の血が稀血であることを看破している。

鬼に幾度も狙われてきたのだろう。それでも立ち上がり、生き残ってきた。

酷く強い男で、寂しい男だと思った。大切なもの程遠ざけて、自分は傷ついて、誰かのためだけに刀を振るっている。

鬼殺隊の人はそういう人ばかりだと、炭治郎は思う。

 

何かを、誰か大切な人を失い、悲しみも辛さも知っていて、鬼の恐怖を理解していて、それでも立ち向かえる強い人達。

 

心からの尊敬と、心強さ。

 

「じゃあ、俺は行きます。体が冷えてますから、風邪をひかないように今夜は布団を被って寝てください」

 

炭治郎は、かなりズレたことを真剣な顔で言いながら、その場を走り去っていった。

呼吸もまともに使えないのでは、とても追い付けない速度だ。それが分かっていても、血反吐を吐いてでも追いかけるのが実弥だが、もう彼に戦う意思はなかったのだ。

 

その理由を彼は語らないだろう。次に会えば、また戦おうとするだろう。それでも今日は、この夜は、あの瞳が実弥の足を止めさせた。

実弥はらしくない、と感じながらも刀を鞘に納めて炭治郎が去っていった方向をただ眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――しかし、どういうことだァ?あいつの刀ァ、鬼狩りのくせに、日輪刀じゃねェ」

 

実弥の呟きは、誰の耳に入ることなく、夜の闇に溶けて消えた。




大正コソコソおまけ話


(ー_ー;)ンー 小芭内「本当にこの店の桜餅で良かったのか……他の店の方が甘露寺は旨いと思うかもしれない。やはり向こうも買って――」

(#`Д´)ノプンプン 禰豆子「小芭内さん、そろそろ私怒りますからね!?そうウジウジしてるから蜜璃さんに八つ当たりで無視されるんじゃないですかね!」


小芭内はまだ悩んでいた。そして弟子から怒られて、しょげていた。結構本気で傷ついていた。







(`Д´) 実弥「……チッ」


実弥は、しっかり布団を被って寝た。二枚重ねて寝た。

大正コソコソおまけ話について

  • 毎話あってほしい
  • たまにあってほしい
  • いらない
  • むしろここが本編
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