IFもしも鬼化したのが炭治郎だったら   作:カボチャ自動販売機

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オリジナル要素が盛り盛りです。



7話 胡蝶カナエ

普通の隊士なら肉片も同然だが、柱と戦えば殺される。

 

下弦の肆・零余子は自身の実力をそう把握していた。鬼の討伐ペースから考えて、近年の柱は特に強いことも分かっている。

 

十二鬼月なんて持て囃されていても所詮は下弦。頻繁に入れ替わる、他の鬼より少しマシ程度の立場でしかない。卓越した強さを持つ上弦とは雲泥の差があるのだ。

 

そんな下弦が集められ、自らを鬼にした親にして、忠誠を誓うべき主人にして、圧倒的力と支配権を持つ恐怖である無惨はただ無慈悲に、当たり前のように言った。

 

柱を殺せ。殺せぬのなら死ね。

 

出来るのなら疾うの昔にやっている。

それが出来ないから柱との交戦を避け、こそこそと人を喰らい、やっと下弦となれたのだ。柱を葬れる鬼など上弦の鬼だけ。不死の体であろうと命は一つ、首を斬られれば死んでしまう。

 

「もはや十二鬼月は上弦のみで良いと思っている。下弦の鬼は解体する……が、試したいことが出来た」

 

無惨はこれまで無闇に鬼へ血を与えてこなかった。それは血を与えた鬼が自分を害する可能性を考慮してものであり、また、自身のものを分け与えるという行為そのものが嫌いであるという傲慢さ故でもあった。

 

しかしここに来て、自らの血を与えられながら反逆する少年が現れたことで無惨は新たな考えに至る。

 

――鬼は心的要因によって覚醒する。

 

無惨が少年を鬼にした直後は、雑魚の鬼でしかなかった。それが、人を食わないという決意と同時に変質し、格段に強くなった。

強い願い、希望、欲望、人間の根元ともいえる部分が鬼の強さとなる。

 

無惨は目の前でひれ伏した下弦の鬼、全員に自らの腕から生やした触手を問答無用で刺し、血を与えた。

 

「血の量に耐え切らなければ死に、順応すればさらなる力を得るだろう」

 

無惨は己の血を分け与えた者の思考を読み取ることができる。姿が見える距離なら全ての思考を読み取ることさえ可能だ。下弦の鬼の多くは柱に対して恐怖心を持っている。それを利用する。

死への恐怖でひたすらに追い込むことで、無惨は鬼の覚醒を実験しようとしていた。

 

「私の役に立て。鬼狩りの柱を殺せ。出来なければ――私がお前らを殺すだけだ」

 

 

 

 

 

『順応』した零余子の力は数十倍に膨れ上がり――その能力は上弦に匹敵する。

 

「強い!私は強い!」

 

零余子の能力は植物の操作。今のように山の中ならば、存分にその力を振るえる。零余子の手によって操作され改造された植物には本来備わっていない力すら宿る。

 

――【血鬼術・葉龍牙】

 

牙のように鋭いトゲを生やし、龍のような形状でうねりながらしのぶと善逸を襲う食人植物もまた、本来そんな特性はない普通の植物だ。零余子の意思のままに岩をも粉砕する強靭な顎で獲物を狙い噛み砕かんとする。

 

無差別に地面を抉りながら迫る葉龍牙を、しのぶは縦横無尽に木々を飛び回り、回避する。気絶していた善逸も、刀の柄を握ったまま、しのぶに匹敵する程の速さで葉龍牙の攻撃を避け続けていた。

 

――【血鬼術・爆葉銃】

 

零余子の正面に整列して生えた四つの植物。零余子を凌ぐ程の高さがあるそれは、先端が丸く膨らんでおり、徐々に大きくなっていく。

 

「風穴開けろぉ!」

 

ギチギチ音をたてながら膨らんだ丸みが、限界を迎えたように破裂すると、飛び出したのは高熱の種子。目にも止まらぬ速度で放たれたそれは容易く木々を貫きながら、しのぶと善逸に迫る。

 

姿勢を低くして走りながら無数の種子から逃れるしのぶの横を閃光が横切る。

 

 

――【雷の呼吸・壱ノ型 霹靂一閃】

 

一瞬にして爆葉銃を斬り裂いた善逸がそのまま零余子に向けて飛べば、地面から壁のように太い幹がせり上がり阻むが、体を捻り、勢いをそのまま、足から壁に着地し、壁を走り登っていく。

 

「葉龍牙ぁあ!!」

 

目前にまで迫った善逸に、零余子が跳ねるように飛び、地に手を着くと、地面を割るようにして現れた葉龍牙が善逸を食らう。

 

「我妻君!?」

 

善逸を食らった後も止まること無く地面を食うように抉り、岩を砕き、木々を薙ぎ倒して進む葉龍牙は、体を捻りながら空へと登っていく。

 

「あはははぁ!!まずは一人ぃ!」

 

両手を広げて笑い声を上げる零余子が葉龍牙を見上げると、葉龍牙は苦しむように回り震えていた。

 

――【雷の呼吸・壱ノ型 霹靂一閃 六連(・・)

 

それは落雷のように、天から降る稲妻。

葉龍牙の内部から突き破って出てきた善逸が地上に向けて葉龍牙をジグザグに砕きながら降ってくる。

 

地上へと降り立った善逸に降り注ぐ木片と化した葉龍牙。

額から血を流しながらも、しっかりと着地した善逸は刀を鞘に戻す。

 

「禰豆子ちゃんを助けにいく」

 

善逸の奮闘に唖然としていたしのぶも、善逸の隣に一瞬で現れてため息を吐く。

 

「本当に、本当に嫌ですが、不本意ですが――今回は善逸君(・・・)に同意です」

 

善逸が暴れ回ったことで零余子の行動パターンをある程度分析出来た。

 

零余子は自分では動かず、改造した植物による遠距離攻撃を基本とし、近づかれた場合は即退避して、まずは自分から距離を取らせるように動く。そこから導き出される結論は、臆病で慎重、狡猾で懐疑的な性格。

 

そんな鬼が、善逸が目前に迫った時、退避しながら放った【血鬼術・葉龍牙】。それは態々地に手をついて発動された。今までそんな動作はなく、血鬼術を発動させていたというのに、突然の無駄な動作。

 

違和感。それを突き詰めることが戦闘においての洞察力。

 

葉龍牙も、爆葉銃も、壁のような植物も、それが植物である以上、その起点は地面にある。

善逸に目前まで迫られた零余子は後方に飛び、両足が地面から離れていた。だから態々、手をつく必要があったのではないだろうか。

 

つまり――零余子は、体の一部が地に接していなければ血鬼術が使えない。

 

「善逸君、血鬼術の対処はお任せして良いですか?本体の方は私が殺りますので」

 

弱点が分かったところで戦況が良くなったわけではない。それでもしのぶは言い切った。私が殺ると。

 

覚悟というよりも執着。

剥き出しになったしのぶの本性。

 

零余子の力は下弦の領域には収まらない。それは未だ退治したことのない領域、つまりは――上弦の領域に踏み込んでいる。しかし、だからこそ意味がある。

 

 

――姉さん

 

 

姉を殺した上弦の弐。それを殺すためだけにしのぶは全てを捧げてきた。

沸々と、怒りが、憎しみが、恨みが、蓋をしていた心の内から這い出てくる。

握りしめたしのぶの刀からする独特の音が、異常に優れた聴覚を持つ善逸の耳に届く。

 

刃の部分が大きく削ぎ落とされ、剣先にしか刃がない独特の刀は、鞘に収めることで仕込む毒を調合できる仕掛けが施されている。

 

しのぶが調合するのは、現状最も強力な毒。いつか上弦の弐を殺すために、執念と、呪いと、殺意を込めて、作り出したしのぶの全て。

 

復讐心に支配され、心の内から湧き出した怒りに身を任せようとしていたしのぶの頭に過る二人の顔。

 

禰豆子。

努力家でどこまでも優しい、自分をこれでもかと甘やかしてダメにしてしまって、なのにたまに厳しくて。

本当は寂しがり屋で、だから余計に一緒にいてあげたくて甘えてしまって。

最近、弟子になったばかりなのに、もう随分と自分の深いところまで踏み込んできた。

 

カナヲ。

妹で、家族で、弟子で、しのぶにとってずっと一番大切な存在で。

勝手に鬼殺隊に入ったりして、少しだけ前に進もうとして、自分を慕ってくれていて。

自分なんかよりずっと才能があって、きっとすぐに追い抜かれてしまうし、喜ぶべきことなのに、でもそれは何だか嫌で、そもそも戦ってほしくなんてなくて。

 

――しのぶは鬼殺隊を辞めなさい。

普通の女の子の幸せを手に入れて、お婆さんになるまで生きてほしいのよ。

 

死に際の姉の言葉の気持ちが分かる。大切な人が鬼と戦うだなんて自分が戦うよりもずっと怖い。

二人の弟子を強くするために指導しているのに、戦って欲しくはないという矛盾。自分がもっと強ければ、賢ければという傲慢な無念。

 

分かっている。

自分がこうして姉の言葉を、その死に際の言葉でさえ無視をして戦い続けているように、二人の意思を止めることなんて出来はしない。

 

ならば自分は見守ろう。出来る限りの技を教え、知識を与え、過保護なほどに手を出すのだ。

 

失うのはもう嫌だった。

守りたい存在、守らなくてはならない存在。過去にすがる自分が、唯一未来に繋ぐと決めた存在。

 

体の力を抜く。自分の未熟さを反省するのは後で良い。復讐も怒りも、持ち出すべきは今じゃない。今は少しでも早く、弟子達の元へ行かなくてはならないから。

 

守ると決めたものを、守るために。

 

 

「さっさと片付けて禰豆子さんとカナヲの所へ行きますよ」

 

 

相性最悪の二人はこの日初めて並び立ち、下弦の肆・零余子に刀を向けた。

 

 

 

 

 

禰豆子とカナヲのコンビネーションは意外な程に良い。これはひとえに、それぞれの役割がはっきりしているためだ。禰豆子が行動し、カナヲが続く。

 

「カナヲ、お願い!」

 

不規則に動き回っていた禰豆子とカナヲが縦に並んで走り出した。これは累の糸による攻撃を一ヶ所に集めた方が、分散され不規則になる攻撃よりも捌きやすいという判断であり、二人の役割をより明確にするためでもあった。

 

 

――【花の呼吸・肆ノ型 紅花衣】

 

つまりはカナヲによる防御と、禰豆子による攻撃。

楕円を描くように振られた刀は糸を斬り裂き、それと同時に、背後にいた禰豆子が駆け出し、累へと迫る。

 

累はその場から少し下がると、目の前に糸の壁が出現する。密集した糸の強度は攻撃に用いられていた糸とは比較にならない。直感的にこれを斬ることは出来ないと判断した禰豆子は目前で回転するように回避し、後方へ飛んだ。

糸にかすっていたのか着物の袖の先がスッパリと斬り落とされている。

 

「こういうのも面白いだろ」

 

累が編むように両手を動かしていくと、糸が絡み合い、捻れ、太くなっていく。作り出した糸を四方に飛ばすと、糸は花開くように解け、それぞれが木や岩に絡み付いた。

 

「カナヲ!役割交換!」

 

累の意図を察した禰豆子はカナヲを下げて刀を構えた。

 

直後、糸によって引っこ抜かれ、降り注ぐように投げられた太い木や岩。全集中の呼吸の使い手であれば決して斬れない硬度ではないが、禰豆子もカナヲも、一流の剣士ではあっても、その肉体は女性。一部例外(桃色不思議生物)を除いて、男性に比べ力が弱いのは女性剣士の宿命だ。木や岩を連続して斬り続けるのは難しい。

 

故に禰豆子は斬らないことを選択する。使う力を最小限に、流れをそっと逸らすように受け流す。

 

――【水の呼吸・拾壱ノ型 凪】

 

直感と視覚を頼りに、木を、岩を、逸らし、流し、落とす。5秒にも満たない時間に降り注いだ木や岩をそうして防ぎ続けた。

 

「禰豆子ちゃん!」

 

無傷のカナヲを守るように目の前に立っていた禰豆子が膝を突いた。地に落ちる刀の金属音。禰豆子の日輪刀はその半ばから折れてしまっていた。あまりに繊細で緻密な作業、少しの狂いが刀に大きな負担となる。守り切ったものの、刀は負担に耐えられず破損し、禰豆子は立っていられない程に消耗していた。

 

禰豆子とて、全ての攻撃を逸らせたわけではない。直感に従い、致命的な攻撃のみを逸らすのがやっとであった。左足の太ももには枝が突き刺さり、岩がぶつかったのか額からは血が流れている。服で隠れているが防ぎきれなかった岩や木が全身に降り注いでおり、禰豆子の体はボロボロであった。

 

筋肉を酷使した影響か、震えが止まらない腕で何とか腰からもう一本の刀を抜く。月明かりに照らされた青い刀身が、禰豆子に立ち上がれと叫んでいる。

 

「カナヲ、距離を詰めないと。もう一度あれをやられたら今度は防げない。二人で一気に突っ込もう」

 

「その体じゃ」

 

「大丈夫、私、長女だから」

 

強がるのが長女の仕事。

心配そうなカナヲに笑顔を向ける。苦しい。痛い。辛い。全部飲み込んで立ち上がる。

累は攻撃をしてこない。累にとって、脅威ではなく遊びの範疇なのだ。

 

油断している、慢心している、弄んでいる。

 

大いに結構。それを感謝こそすれ、バカにするなと息巻くほど禰豆子は自分を過信していない。

 

禰豆子は自分を繕うことをしなかった。強く見せることがこの場合、有効ではないと判断したからだ。心配するカナヲには申し訳なかったが、禰豆子は必要以上に消耗した姿を晒した。

 

実際、余裕はない。全力で技を振るうためには、残された余力を全て、次の技に込めるしかなかった。

 

 

「禰豆子ちゃん……」

 

心臓がうるさい。体が熱い。

ボロボロになって自分を守った禰豆子を前にして、カナヲに大きな変化が訪れる。

 

 

カナヲにとって禰豆子という存在は不思議だった。

全部どうでもよくて、何もかもが並列で平坦で同率のカナヲの世界に、大きな波をたてる存在。表や裏では計れない、選べない、想いや信念というものを教えてくれる人。

しのぶがカナヲを導く蝶であるのなら、禰豆子は暖かくカナヲを照らしてくれる光だった。その光に照されてカナヲは世界がより見えるようになって、大切なものや、自分の心の内にある想いや、そういうものが何となく分かるようになっていた。

 

それはずっと昔、何もなかった自分を救い、一枚の銅貨でカナヲが歩いていけるように指し示してくれた、しのぶの姉、胡蝶カナエのように。

 

カナヲの中に芽生えていた何かが膨れ上がって溢れる。

それは心。人間の原動力たるそれが、爆発する。

いつかの記憶。曖昧で朧気で、なのに心の奥底でいつまでも苛む悪夢。胡蝶カナエの死。

 

あの時感じたものにカナヲは名前を付けられない。ただそれはとてつもなく不快で、寂しくて、痛くて。

 

もう二度とそんな思いはしたくない。

 

 

「……禰豆子ちゃん、帰ったら頭撫でて」

 

「へっ?う、うん、良いけど」

 

戸惑う禰豆子も関係ない。分かってきた。これが心。これが想い。これが感情。

 

蝶屋敷で家事や怪我人の治療は上手く出来ないし、見様見真似で覚えた剣術が役に立てばと、無断で最終選別に挑み、突破して鬼殺隊に入った。

 

何となくだと思っていた。自分に出来そうだったからやっているのだと。

 

でも違った。

 

自分やしのぶや禰豆子や、普通に生きているだけの人から何もかもを奪おうとする鬼が許せなくて。

 

大切なものを二度と失いたくなくて。

 

だから自分は、鬼殺隊に入ったのだ。

 

カナエの形見である蝶の髪飾りを触る。禰豆子の後頭部にも同じような髪飾りがあった。

 

『お揃いだね』

 

蜜璃さんみたいな色だしカナヲとお揃いっぽくしたよ、と笑う禰豆子に、カナヲは何も返せなかったけど、本当は胸がいっぱいで、嬉しかったのだ。あの時は伝えられなかったことも今なら伝えられる。

 

嬉しいって伝えたい。

ありがとうって伝えたい。

友達だよって伝えたい。

 

しのぶにだって伝えたいことが沢山ある。他の蝶屋敷の皆にも。

 

 

カナヲの覚醒。

それは戦況を大きく変えた。

 

――【花の呼吸・伍ノ型 徒の芍薬】

 

 

「はっ?」

 

それは累が思わず呆けてしまう程の神速。いや、正確には累の瞬きの間に視界から外れ、死角を移動することで瞬時に移動したように見せた体術。

カナヲの並外れた視力は、累の瞬きの瞬間と、視点を察知し、作り出されている死角を見抜いた。

誰に習ったわけでもなく、本能的にカナヲは累の隙を突いたのだ。

 

無防備な累に放たれる【花の呼吸・伍ノ型 徒の芍薬】。

 

花開くように四方八方から放つ連撃は、累が咄嗟に生み出した糸を斬り裂いて突き進み――

 

 

「私が!皆を守るっ!」

 

 

――その頚を天高く斬り飛ばした。

 




大正こそこそオマケ話

( ̄□ ̄;)!! 密璃「禰豆子ちゃん、それは!?」

(。・_・。)ドヤッ 禰豆子「ああ、蝶屋敷では皆つけてますし、私も作ってみたんですよ」

(|| ゜Д゜)アウアウ 密璃「そ、そんなのつけちゃったら本当にしのぶちゃんの弟子みたいじゃない!可愛いけど!」

( ̄д ̄)エー 禰豆子「本当にしのぶさんの弟子なんですけど」





(*´ー`*)テレッ 禰豆子「でもほら、この色、密璃さんみたいだなって選んだんですよ」

(>w<*)カワイスギ 密璃「禰豆子ちゃん好きー!」


一瞬で機嫌直った。


禰豆子に頗る甘やかして欲しいのは?

  • 膝枕柱
  • 桜餅柱
  • ナデヲ
  • 蝶屋敷の青い人
  • 全員いっちゃいなよ

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