あるバレンタインの日のこと。
蘭はモカへのお返しに考え倦んで、本人に尋ねたら……?

星が綺麗ですね。

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こんにちは、くいらです。
バレンタインに衝動で妄想したものを文字に起こしてみました。


ウェイン輝くバレンタイン

「ねえ、モカ……?」

 

 

私の名前は、美竹蘭。どこにでもいるようなごく普通の女子高生、と、自分では思っている。目立ちたくはないし、波瀾万丈(はらんばんじょう)で起伏に富んだ人生を送りたいとも思っていない。

 

 

ひたすらに、「いつも通り」の毎日を過ごしていたい。

いつまでも、過ごしていたい。

 

 

華道の家元の娘で、最近はそっち方面で色々やっていることはあるけれども、それはこの話には関係のないことなので、ここでは割愛する。

家族とは、華道とバンド活動の兼ね合いについて、よく口論になったものだ。今となっては過去の話で、現在は家族ともそれなりに上手くやれている。

 

 

日頃は幼馴染とバンド活動をやっており、それなりに青春を謳歌している。

 

 

今日は、その幼馴染の1人であり、うちのバンドのギタリストである「青葉モカ」が私の家に来訪している。

私は隣で棒状のチョコレートを、「さくさくさくさく」と小気味良い音を立てながら食べている白髪の少女に尋ねた。

 

 

「なーにー?蘭~?」

「えっと……あのさ、その……チョコレートのお返し、何が良い?」

 

 

私は(そもそも)、バレンタインデーにチョコレートを用意し、誰かに渡すというのが億劫なので、チョコを購入することも作ることもない。

誰かからチョコを貰える事などないと、最初から分かっているから。

 

 

しかし、しかしだ。

 

 

態態(わざわざ)ハンドメイドのチョコレートを頂いて(それもモカからの)、何も返さない訳にはいかない……というのが正直な所だ(チョコを渡される時に『本命だよ~(笑)』と言われながら渡され、赤面し硬直してしまったのは忘れたい黒歴史)。

 

 

「うーん……別に何もいらないよ~?お返しとかそんなのが欲しくて蘭にあげた訳じゃないしー」

 

 

優しさが酷く心に()みる。同時に、モカに何も用意していなかった自分の愚かさを恨む。

モカは私の為に手作りチョコを(こしら)えてくれていたのに、私の方は何も準備していなくて……。

もしかしたら、これが発端でモカに嫌われてしまうのではないか?駄目だ。断じてそんな事はあっちゃいけない。モカに嫌われてしまったら、二度と立ち直れず、直ちに如何なる方法を用いてでも自殺を図る自信がある。

 

 

(しか)し、今すぐにモカの為に用意出来る物も手元にはただの一つもありはしない。どうしたものか。

私が頭を抱えて唸っていると、不意に横から声がした。

 

 

「そうだねー……じゃあ私へのお返しは蘭がいいかなー」

 

 

は?と思い、声の方へ首を向けると、刹那、唇に温かい感触がした。

 

 

「んっ?!……はぁっ、ぁっ」

 

 

(おもむろ)にモカの舌が口の中に入ってきては、口腔内を蠢き、蹂躙する。思わず体が後ろに飛んで、その魔手から逃れようとするも、肩を掴まれ、思うように動けない。

 

 

それはチョコよりもずっと苦くて、それなのに、蕩けるような甘い味で。

 

 

私は途中から抵抗することを諦め、何時の間にか、モカのなすがままに身を委ねていた。

永劫とも思えるような時間の間、何も考えることなく、私達は一つに繋がっていた。

 

        

          *

 

 

「えっへへー……キスだけで大袈裟だな~。蘭はそういうところが可愛いよね~」

「はぁっ、はぁっ……いや初めてなのにこれは……」

 

 

覚束無い思考の中、時計を見ると、まだ十分も経っていなかった。嘘でしょ死ぬかと思ったのに……。

 

 

「来年はもっと先まで行ってみる~……?」

「いや本当無理だから!?来年は私もちゃんと用意しとくから!」

「ちぇー、つまんないのー」

 

 

全く、これだからモカは……。もっと先ってことは、それって……。いや、もう考えるのはやめにしよう。これ以上は戻ってはこれないし、何となく、駄目な気がする。

 

 

「それじゃ、そろそろ帰りなよ。モカの家まで送っていこうか?」

「わーい、蘭のえすこーとだ~。それではお言葉に甘えちゃおーかなー」

 

 

そんな感じで、私達は家を出た。

 

 

踵が四つアスファルトの上。

私は、さっきの出来事を思い返していた。もしも、私達がこれからも一緒にいて、あの先に行く事はあるのだろうか。今の関係以上のものになることはあるのだろうか。

 

 

忘れられないあの味。

忘れたくないあの味。

 

 

これからの事は分からないけど、来年までは一緒にいられるだろうか。

 

 

踵が四つ、(さん)と澄む夕日の下。

照らされた足跡の平行線を後目(あとめ)に、他愛もない話をしながら、歩いていく。

 

 

自分の体温とは違う、冷えた手の熱さを感じながら。

 

 

 

仰いだ夜空。北斗七星(ウェイン)輝く、バレンタイン。

 

 


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