自分のもどかしい恋心を相談することにした鈴仙。
その相手は因幡てゐだった。

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鈴仙の恋愛相談

私には好きな人がいる。

好きだって言いきると恥ずかしいものがあるから、「気になる人」くらいで表現しておくほうがいいのだろうけれど、そうすると今度は自分の気持ちを偽ってるみたいで、それはそれで違う気がする。もどかしい気分だ。

しかし誰かに相談を持ち掛けるときに直球に「好きな人がいる」と言ってしまうと引かれてしまいそうな気がする。相手が相手だけに、尚更。

だからって「気になる人」っていうのは、やっぱり駄目な気がする。

なら、たとえ話として相談するのもいいかもしれない。たとえ話や、友人の話として持ち掛けるのならば、それほど気恥ずかしくはないと思う。

しかしそれを突き通せるほどに私は嘘が上手じゃない。それも、相談しようとしている相手が相手だけに、尚更。

やっぱり、自分の気持ちを素直に言うべきなのだろう。

それが相談に乗ってもらう身としての礼儀なのだ。

「私、ある人を好きになったかもなの」

「あっそ。どーせ魂魄の娘のことでしょ」

やっぱり因幡てゐに相談したのは間違いだったと、遅まきながら気づく鈴仙・優曇華院・イナバだった。

 

  ×  ×  ×

 

「私、結構な勇気をだして相談を持ち掛けたんだからさ、もっと答えようはあったんじゃないの?」

迷いの竹林の最奥に建つ永遠亭。その縁側に寝転がっているてゐを見下ろしながら、恥ずかしさを紛らわすようにそう強く言った。

「そうは言われてもね。あんたの恋愛相談なんか八割惚気でしょ?聞かされるこっちはたまったもんじゃないさね」

「惚気って。別に、まだ付き合ってないわよ。その、妖夢とは」

「週末欠かさずに人里まで遊びに行く仲の奴から付き合ってないなんて言われてもねえ。爆笑もできないよ?」

「別に、遊びに行ってるだけじゃない。ほかにやましいところはないわよ」

「やましかったら問題さね。いや、別にそういうわけでもないのか。従者とはいえ、恋愛の自由くらいは、暴飲暴食の娘も、うちの事実上の主も認めるか」

事実上の主とは、言いえて妙だ。確かに的を射てはいるけれども。思わず笑いそうになる。

あと、暴飲暴食の娘は多分幽々子様のことなんだろうけれど、流石に失礼だと思う。

「あたしの方が年上だけどね」

「そういう問題じゃないでしょ」

そうじゃなくて。

「そう、私が好きかもな人がいるってことだよ」

「好きかもって、好きなんじゃないのかい?」

「そこがいまいち踏み切れないから、こうして相談してるんじゃない」

「踏み切れないねえ」

そんなの誰かに相談して決めるものじゃないともうけどな。と、てゐは言う。

「でも、おかしくない?女の子が女の子を好きになるなんて」

「二人とも女の子って呼べる年齢じゃないでしょ」

「そこは別に大切じゃない」

「別にいいんじゃない?同性愛に限らず、人心なんて、本来は抑制するようなものじゃないんだからさ」

「それは理詰めでしょ。私が言ってるのは、妖夢はどう思うかってことよ」

「引かれるかもってことを心配してるってわけかい?」

全く、なんでこの兎はオブラートをビリビリに破いてくるのだろうか。

「まあ、そういうことよ。引かれないにせよ、相手が普通に異性愛者だったら、やっぱりそのあとの関係って難しいじゃない?」

「告白の後に異性愛者も同性愛も関係ないと思うけどね。普通にフラれれば、どんな関係だろうがその後は難しくなるものさね」

「でもやっぱり、レズって普通じゃないわよ。本来生物の第一目的は子孫繁栄で、そのために雌雄区別がされてるんだから、その定理から常軌を逸したら、変って思うのが普通じゃないかしら」

「まあ、それはその通りだろうね。恋愛事情に限りなく、どんな物事ででも多数から逸した存在は、部外として、異常として、忌み嫌われるのが人の思考の、それこそ定理だから、仕方がないさ。ままならないことには変わりないけれどねえ」

誰だって、理解できない相手は怖いものさ。

その理屈はわからなくはない。むしろ、それは私がずっと感じ続けていたモノだ。

私の妖夢への恋心に、感じ続けていたモノだ。

「でも、やっぱり妖夢とは仲良くいたいし、その、恋人になりたいっていう気持ちも、ちゃんとあるのよ。でも告白したことで今の関係から悪化しちゃうのは、それだけは嫌なの」

「ワガママだなあ。わからなくはないけどね」

「だからって、ずっとこのままっていうのも、もろ手を上げて喜べるものじゃない。別に今の関係が不満ってことじゃないのだけど」

「なるほどね」

そういいながら、やっと上半身を起こして、肘をついて、あたかも考えているかのようなポーズを取り始めたてゐだけれども、どうだろう、普段の行いのせいであまり好意的に受け取れない。

これは私がひねくれただけなのかしら。

そんな私と打って変わって、てゐは真面目な顔で私を見据えた。

「こういうことを言うのは気が引けるんだけどさ、結局のところ」

おもむろに顔をあげて、立ち上がって、私と目線を合わせて、てゐは私に言い放った。

まるで大人が、大人ぶっている子供を叱りつけるように、この兎は言い放った。

「鈴仙はいったい、どうしたいの?」

 

  ×  ×  ×

 

「相談っていうのはさ、最終的にベストアンサーを他人から授かるものなんだと、あたしは解釈していてさ。そのベストアンサーの条件っていうのは、相談を持ち掛けた相手が100%納得できるものじゃないといけないと思うんだよ。譲歩するくらいなら最初から相談なんてしてないだろうし、それができないからこそ他人に、鈴仙の場合は普段から少々嫌っているあたしなんかに相談するわけだ。まあ、お師匠や姫に相談するよりはいくらかマシだろうけどね。理想は霊夢や咲夜あたりだと思うけど、身内で済ませたかったのかというのは容易に想像がつくかな。で、話がすこしズレたけど、結局のところ、大抵相談を持ち掛ける人間の中では、答えが決まっているものだったりするものだってことさね。どっちの服がいいか聞いてくるめんどくさい彼女のテンプレートみたいなもので、本当に心の底で欲しがっているのは、アドバイスでも最適解でもなくて、あと一歩踏み出すための口実ってことさ。自分で結果を背負い込むのが嫌だから、他人を口実にして、それに責任を求めているだけなんだと、あたしなんかは愚考するわけさね。ま、人間の卑怯なところ代表だ」

「、、、私、人間じゃないし」

「そういう問題じゃないってことはわかってるだろう?」

その通りだ。でもそれくらいしか言えないほどに、てゐの言い分に圧倒されてしまったのが事実だった。

彼女が言ったことはただの精神論で、心理学で、科学的根拠は一切ない暴論のようなものなのに、私には、少なくとも今の私には、てゐの言葉は正論にしか聞こえなかった。

心にモヤモヤしたものが溜まっていくのがわかる。

でも、てゐを責めるのはどこかお門違いだとわかる。

今日の私はもどかしいばかりだ。

「でもさ、てゐ。そういう現実的な事を相談を持ち掛けた人に言わないでしょ、普通。どれだけ残酷なこと言ってると思ってるのよ」

「あたしを責めるんじゃないよ。それに、あたしは言うべきだと思ったから、こうして真面目に言っているのさ」

特に今回の場合はね、と。

体の向きを変えて、屋敷の中へと帰っていくてゐが、去り際に今まで聞いたことのないような優しい口調で、でも、強いニュアンスを込めて、的確で、ストンと胸に落ちるようなアドバイスを、こんな私に授けてくれた。

「好いた好かれたの話で、他人に責任を押し付けるべきじゃないのさ。それこそ、自分の気持ちを偽ることになりかねないからね」

 

  ×  ×  ×

 

結局私がとった行動というのは、正直に打ち明けるというものだった。

何一つ包み隠さずに、私自身の考えと、胸の内を、すべて伝えることにした。

最初こそ妖夢は驚いていたけれど、それでも、ちゃんと私のことを認めてくれた。

「私は、私自身が同性愛者かどうかはまだわからないけれど、でも、鈴仙の事を好きなのは確かなんだ。今はLoveかlikeか、まだわからないけれど。でも、このまま鈴仙と一緒にいれば、きっと本当に鈴仙の事を、恋愛対象として好きになっちゃうと思うし、それはとても嬉しいことだと思う、かな」

と、頬を赤らめながら話す妖夢に、私は思わず抱き着いてしまった。

永遠亭に戻って、てゐを見かけた。今日はまだ落とし穴にかけられてないので、私としては珍しく、正直にお礼を言うことにした。

「べつにあたしが何かしたって訳じゃないけどね」

「それでも、やっぱりてゐに相談したのは間違いじゃなかったのよ。幸運の兎は伊達じゃないわね」

「能力を使ったわけでもないんだけどね~」

てゐが手を頭の後ろに組みながら歩く時は、何か良からぬことを企んでいる時か、照れている時だ。

なんだ、かわいいところあるじゃない。

「でも、やっぱり言い方は他にあったと思うわよ。その時も言ったけど残酷なことには変わりなかったわ」

「ま、そういうつもりでいったしね」

「え?」

「最初に言った通り、結局惚気を聞かされるのはごめんだからね、惚気を言えない雰囲気を作りたかっただけだったのさ。あと、そのあたりに落とし穴があるはずだから、気を付けることさね」

てゐのセリフを聞いた時は、すでに私は穴の中だった。

 




今回は読んでいただきありがとうございます。

以前pixivにあげたやつの編集版をこちらにあげてみました。

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