ソードアート・オンライン 全プレイヤーの裏切り者   作:眠猫の玉手箱

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現実世界側。第0章に出てきたキャラが大量に出てくるので、
人物紹介(SAO正式サービス開始前)
https://syosetu.org/novel/218504/8.html
を読んでおいた方が理解が深まるかもしれません。

前作のあらすじでアーガス側の話は3話ほどと言ったな。アレは嘘だ。
がんばれば3話にまとめられるけど、区切ったほうが収まりが良かったので4話投稿予定です。



閑話1:無能の集まりアーガス

 ソードアート・オンラインが茅場の手によってデスゲームに変わったあの日、アーガス社員は皆お手上げ状態だった。

 

 アーガス内のすべてのナーヴギアが再起不可能なまでに破壊され、なおかつ会社内のインターネット設備まで完膚なきまでに断ち切られた。たったそれのことだけでアーガスは茅場晶彦にアインクラッドを全て奪われてしまったのだ。

 

 それからおよそ一ヶ月。アーガスは政府から派遣された『仮想課』なる集団と共に尽力し、なんとかソードアート・オンラインへの新規ログインは停止できた。が、できたのはそれだけ。既にログインしたユーザーを救い出すこともできず、アインクラッド内とコンタクトするどころから状況すら確認できなかったのである。

 

 そんなこんなで世間様からのアーガス社員の扱いは最悪だった。マスコミからはアーガスは悪の大犯罪者茅場の下っ端扱いか、良くて(仮想課ひっくるめて)無能集団扱い。アーガス社員であることを知っている親類知り合いからくる心無い言葉。社内にいても問題解決の糸口は全く見えず、日々増えていく会社前にたむろするマスコミやデモ隊の叫びにより環境が更に悪化していく一方。

 

 アーガスに居る社員全員が限界だった。あの人間離れした体力を持つ木田(サンタ)ですら疲労が目に見えていた。

 

「あーもう限界!夕飯食べたい!どっか旨いところ!レトルトやだ!」

 

 とうとう木田が叫ぶ。

 それに帰ってくる言葉はない。近くのデスクに座る遠藤が軽くうごめいただけである。

 

「遠藤君もそう思うでしょ!」

「...そーすね」

 

 反応がなかったことに腹を立てた木田が唯一反応(生理現象)を見せた遠藤に同意を求める。

 遠藤は答える面倒くささと、ここで答えなかった場合の木田の行動の被害を考え後者を取った。

 

 木田の抑止力(止められるとは言っていない)だった茅場と白澤がいない以上、暴走した木田を側から止めるのはカーディナルをクラッキングして茅場からアインクラッドを取り戻す並に難しい。要するに現状の戦力では限りなく不可能に近いという意味だ。

 

 ちなみに遠藤自身も昼にカロリーメイト一本だけだったのでどっか食べに行きたいというのは本音だったりする。

 

「全員ダメダメね。ならば...」

 

 時刻は20時半。近場でやってて、尚且つアーガス社員総員で行っても入店できる店を脳内に思い浮かべながら木田の足が動き、とある人の元へと向かう。

 

「なんだ木田。何か事態の収拾策でも思いついたか」

 止まったのは上司である宮田のデスク。宮田も他社員と同じく気力がない。自慢のスーツもよれよれである。

 

「まさか。あの茅場君のしわざをたった一ヶ月程度で解決できるとでも?今の状態だと最短でも10年はないと無理ね」

「難しいことを言っているのは分かってる。だがそれでも解決に向けて最善の努力を____「随分と外聞のよいセリフを吐くようになったわね。宮田さん」

 

 木田の言葉に仕事の手を止める宮田。

 

「...無理もないだろう。社長がS()A()O()()()()()()()()()()()()()()ずっと俺が会社代表として頭を下げてきたからな。俺は、いやアーガスは何一つ間違えたことしていないというのにも関わらずだ」

「ええそうね。しいて言えば、茅場君にアインクラッドを乗っ取られてしまうほどセキュリティが内部に対してガバガバだったことくらいかしら」

 

 なにが悪かったんだ?そうつぶやく宮田。

 

 実際宮田にとって『なにが悪かったんだ?』これが本音だった。社員に()()()()()無理をいい、自身も馬車馬のように働き、カーディナルやメンタルヘルスカウンセリングプログラムの開発に尽力し、大小様々なトラブルを解決しようやく発売までこぎつけた世界初のフルダイブゲーム、ソードアート・オンライン。

 

 その結果できたのはたくさんの人の怨嗟の声だった。 

 

 宮田が『ゲームであり遊び』のつもりで作った世界は、その実たった一人の男のエゴによって『ゲームであって遊びではない』世界になってしまったのだ。理解したくもないし、茅場もなにも残さず行方不明になったとなると理解しようもない。

 ただ不可逆の現状があるだけ。

 

「お前なら理解できるか。茅場の行動の意味を」

「無理。それ聞くの何回目です?」

「2回目だ...どうせ警察にも似たようなこと聞かれたんだろ」

「そういやそうだったわ。あの人たちも同じようなこと何回も聞かなくていいのにね」

 

 そう言って笑う木田。

 

「......悪いな愚痴って」

「私でよければいくらでも。それに私男の人の情けない姿見るの好きなので」

「リアルで性癖ぶっちゃけるな。仮想世界でのサンタ*1ちゃんならともかく現実の長身の美男子に言われても困るんだよ。それで、用件は何なんだ?」

 

 木田の言葉に多少引きながらも、いつものことだと流し用件を尋ねる宮田。

 

「そろそろ皆に疲れが見え始めたからさ、ストレスの貯めすぎも良くないし、このあたりでいっちょ社員全員で飲みに行かない?」

 

 宮田が信じられないようなものを見る目で木田を凝視する。

 

「...木田にしてはかつてないほどにまともな意見だな」

「私がまともじゃない意見を出したことなんてあったかしら?」

「巨大クラブガニヘッドホン...深夜の廃居酒屋病院...ヌルヌルまみれのロ...「そこまでにしてください私が悪かったです。」

 

 宮田が実例をひとつづつ挙げていくたびに、木田の威勢が失われていく

 開発時木田の意見は突飛なものが多く、その多くは企画段階か、開発時のテスト段階で多くの開発陣の批評で没ったのだ。

 その中でも特に深夜の廃居酒屋病院は開発のテスト段階まで進んだもののシチュエーション、ストーリー、デバフが群を抜いて酷く、翌日の社員の大量休暇を招く遠因になったというのはある意味伝説だったりする。白澤はトラウマ誘発によるショックで死にかけた。

 

「......もうあのメンバーで一緒に馬鹿騒ぎすることもないんだろうな」

「苦労も多かったけどね。あの3チームデスマッチとか楽しかったな」

「茅場とお前が参加者の9割倒したクソゲーじゃねぇか」

「最後は宮田さんと白澤君率いる塩ラーメン派残党舞台ににいいとこ取りされたけどね」

 

 βテスト前に始まりの街で実施された、チームデスマッチ。それは、味噌らぁめん派リーダー木田と醤油ラーメン派リーダーの茅場の伝説の一騎打ちがあり、戦いの余波で(当時は破壊不能オブジェクト設定が存在していなかった)始まりの街が壊滅し、最終的に木田によって打破されたと思われていた塩ラーメン派宮田と白澤、他数名によって勝利条件を満たされたという伝説の戦いである。

 

「白澤、アイツの立ち回りは上手かったからな...いいやつだったよ」

「勝手に殺すな」

 

 しみじみと語る宮田にまだ死んだわけじゃないと言わんばかりにジト目を向ける木田。

 

「実際のところ、白澤は今何してるんだろうな、あの世界で」

「茅場君の企みは知らなかったと思うし、どうなんでしょうね。案外圏内でじっとしてるのかも」

 

 茅場の協力者ではない。そう取れる言葉を口にした木田に引っかかりを覚える宮田。

 

「随分と白澤のこと信頼してるんだな。実は茅場の協力者で茅場をサポートするためにログインした可能性もあると思うが」

「ないない絶対ない。デスゲームなんて起こしたら、アーガスが運営する仮想世界の存続が困難になることくらい白澤君にも分かってるはず」

「『アーガスが運営する仮想世界』......『アンカー』の方だよな」

 

 そういえば、あの男はそれの縁でアーガスに入社したのだと今更ながらに思い出す宮田。

 

「白澤君が、あの世界を唐突に終焉させるようなことなんて絶対にしない」

「今のお前がそこまで言うならそうなんだろう。まぁ一ヶ月音沙汰なしのやつはどうでもいい」

 

 このままだと話がどんどん脱線していく。そう危惧した宮田が話を中断させる。

 

「仮想空間は使えんし、木田は店の選定を頼む。俺はとりあえず全員に声かけてくる」

「この状態で候補に仮想空間を挙げるのはなんというか...まぁいいや。一応聞いておきますけど、なんか希望あります?」

「キンキンに冷えたビールさえあればなんでもいい」

「おけ」

  

 少しだけ引っかかったものの上機嫌で早速どこかしらに電話をかける木田。実際彼女の性癖はともかく店選びのセンスはいい。

 木田はもちろん普段は仏頂面な宮田も久々の休息らしい休息にわくわくを隠せなかった。

 

お二人ともふざけてるんですか?

 

 だからこそ二人とも彼女の存在になかなか気づけなかった。

 静かなけれど、いつもとは明らかに違う声が聞こえた。

 

 「柊...?」

 

 そこにいたのはただ一人のサーバー担当だった。名前は柊。普段はおとなしく社畜適性の高い上司の言うことに素直に従う彼女ではあるが、今は怒髪冠を衝くという表現がふさわしいほど怒っているようだった。

 

「黙って聞いていれば、この状態で飲み会とかふざけてるんですか!! 今でも8500人あまりが今なお茅場さんに命を握られて続けているんですよ!」

「まぁまて落ち着けヒイラg」

「なんで宮田さんはこの状況下で落ち着いていられるんですか! 一刻も早く助け出さないと犠牲者の数は増える一方なんですよ!」

 

 あれから一ヶ月経ったからだ。宮田は寸前まで言いかけた。一ヶ月という短いようで長い期間は、茅場の凶行の意味は理解できずともその現実に適応するだけの時間を、茅場への怒りを上手くいなしてしまう慣れを宮田に与えてしまった。

 けれどそれを今の彼女にそのまま言うのは

 あまりにも酷であった。

 

「それは...」

「悪い柊、俺疲れたんだ。俺を助けると思って一緒に休んでくれないか」

 言い淀む宮田の後ろから突然遠藤が割り込んでくる。

 

「一人で休めば。1分でも2分でも」

「...いや柊お前も休んだ方がいい。お前最近自分の顔見たか?」

 

 遠藤の声に顔を赤くする柊。たしかに化粧で多少は誤魔化されているが、彼女の目の下にはかなり酷い隈ができていた。

「うるさい」

「そもそもお前ちゃんと寝れてるのか?2徹してる宮田さんより顔色悪いぜ」

 

 パシャリと、柊が抱えていた書類の束が落ちて、そのまま柊が崩れ落ちる。

「寝れるわけない。だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 柊がさっきの怒りで怒鳴る体力すら失われたのかぼそりと呟く。サーバー担当。役目は色々あるが、(SAOが茅場に強奪される前の)アーガスにおいては、ログイン、ログアウト障害などを解決する担当者でもあった。

 

「それは茅場さん「だけが悪かったとでも言いたいの?」」

 遠藤の事態の元凶を責めるが続く柊の声で黙り込む。

 

「多分茅場さんがこんなことをしなければ今回の事件は起こらなかった。それは間違いない。

それでもこの事態を収束するために尽力をしなければならない私の責任はあるんだ」

「少なくとも私はこの事態を容認できないのと同じように、あの人たちも息子が囚われたことに納得できない」

「毎日毎日朝一番に、解決したかとメールが来ても答えられるわけがない」

「寝ても覚めても誰かに突き動かされているように感じる」

「じっとしてなんかいられない」

「だから私は頑張らないといけないんだ」

「それに、私が頑張ればたくさんの人が喜ぶ__そう考えたら素晴らしいことだと思わない?」

  

 柊が疲れ切った中で何とかひねり出したであろうこわばった笑みを浮かべる。宮田はほんのすこしだけ仕事を任せすぎたのを後悔した。でも減らせるだけ人的余裕はない

  遠藤は___

 

「柊がなにを引け目に感じているか知らないけどよ。お前は間違えていると思う」

 

 柊に気圧されながらもそれでも言葉を紡いだ。

 

「...なにが間違えっていうのよ」

「お前のソレは頑張りじゃなくて破れかぶれの特攻だよ。そのあの人たちっていうのが誰かは知らないけど、きっとお前にとって大事な人なんだと思う。でもさ、そのお前のやり方だと......」

 

 お前自身が救われないじゃないか

 

 柊が押し黙ったのは、救われない。という言葉に正当性があり自分が間違っていたと自覚したからという訳ではない。その言葉が真に彼女のことを心の底から労わる優しい言葉だったからだ。

*1
木田が開発時に使っていた10代後半の女の子アバター。中身とは違って見た目は清楚でかわいい




白澤が攻略組に居られなくなったのも
社長がSAO被害者の遺族に襲われたのも
木田が限界(笑)を迎えたのも
遠藤が疲れ果てたのも
宮田さんが愚痴をこぼすほど疲労困憊したのも
柊が精神的にボロボロになったのも
更新が空いたのも
次回更新が1時間後なのも

全部茅場って奴が悪いんだ!

裏話をすると、実はこの話エリカとゴンダの話があんまりにも沼ったため書き始めたものだったりする。
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