頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

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ルートが二つに分かれます


博麗霊夢ルート

 強風もなく、暑すぎることも寒すぎることもない。そんないい天気の今日。何とか平凡になるように願う一日がまた始まった。おふくろは今日も里に顔を出している。大人女子達と女子会と洒落込むらしい。女子会というものがどのようなものかはよく分からないが、おふくろを含めた女性陣が楽しむなにかのだろう。

 おふくろが神社を留守にすることは多い。おふくろの子供たちである俺と霊夢に、神社の、言い方が悪いが運営を任せている。子供とて、俺もそこそこいい歳だし妹も少女の枠組みから抜け出し中。そして、自慢になるが俺は強い。妹も同じく。次代の博麗の武士と博麗の巫女を就任しているほどの実力をすでに持っているのだ。おふくろも親父も歴代の方々同様に強かったらしいが、すでに全盛期を終えた者ともういない者。肩書きを背負うに足る俺たちがいるのならば引退しても構わない。とはいえ、年末に行う大祓いなどといった大行事を取り仕切るのは俺たちではなく、おふくろ。そもそも、やってもあまり参拝客も来ないため、あまり収益はない。昔から博麗の者の基本のしのぎは妖怪退治なのだから、しょうがない。永遠亭が発見される前は疫病に対して祈祷も行っていた。神社の者らしく色々やってはいたのだが、懐事情は裕福とはいえない。極貧とまではいかないが、ときにはおかずの数と量が悲しいことになる程度。故に、俺が『博麗の武士』としての仕事の他、副業として森近霖之助が店主をしている古道具屋《香霖堂》と、本居小鈴が店番をしている人里の貸本屋《鈴奈庵》でバイト(店番代理・万引き犯の捕縛など)をして収入を得ていることもある。

 

 博麗の巫女の役割は【調停】。博麗の武士の役割は【鎮定】。

 

 どちらも争いをやめさせる役割だが、大分勝手が違う。どちらも割りと血なまぐさいことをやっているが、『博麗の巫女』は《人と妖を共に平和に治める》、『博麗の武士』は《人と妖を平等に抑える》というものだ。普段の霊夢を見れば分るが、人であろうと妖であろうと平等に関心がない。俺はといえば、どちらも平等に差別する。二人とも、誰に対しても平等に応対する。そこに、主観が客観がどうたらというものは含まれない。そういうふうになるよう幼い頃から育てられたのだ。『博麗の巫女』の役割もそうだが、どちらも骨が折れる。霊夢がスペルカードルールを提案していなければ、人と妖の間はさほど埋まらなかったのだ。そもそもは面倒くさがり屋の霊夢が、おふくろ世代までの旧式且つだるいほどの仕事量をこなしたくないのが始まりだったが、思いのほか上手くいった。緻密な計算をした上でのものではなく、俺にはない神懸り的な勘での施行だけど、俺の仕事も大いに減った。スペルカードルールが生まれるまでは、平等に幻想郷で悪事を働く者を斬り捨てていたのだ。人だからと妖だからと、どちらに偏ることなく幻想郷が穏やかであるよう鎮めてきたのだ。多いときは十以上のものを一日でこなしたこともある。けれど、今はそういうこともあまりなくなった。

 

 だから、今日、霊夢は年始年末どちらでも大量に残るおみくじ作りをしていたり、俺は境内の掃除をする。という暢気に過ごせる一日を送れるのだ。

 

 出来上がったものを見てみると、結構面白い。

 

 大吉では、《思い悩むことなし。自分の信ずる道を行け。犬も棒に当たるようにヘマをするが、当たった棒は汝の金棒である。壁にぶち当たるとき、それで打ち壊せ。明るい明日が欲しいならば一歩前に足を踏み出すべし》、と。

 大凶では《今は休むべし。足踏みをしすぎて床が抜ける。棚から牡丹餅が落ちるが、その餅はカビている。好機はすぐそこにあるけれども、今見えているそれはカビた餅。今の自分と過去の自分をよく見比べてみると良し》、と。

 

 俺もたまに作っていたことはあるが、ここまで個性的なものは作らなかった。大凶で書かれている牡丹餅とは、昨日のものだろう。カビていた。池に住む亀におふくろと共に餌として与えていたのを知っているのだ。

 

 どちらも最後には《博麗神社に賽銭をすると運気は向上す》と書いてある。これは、俺も書いた。おふくろも書いてる。代々、書いているのだ。

 

「はい」

 

「ありがとうな」

 

 

 二人とも一段落したため休憩に入った。程よく温かい茶を啜る。茶菓子は葛餅だった。

 

 

「ん。この茶、微妙だな」

 

「安物だし」

 

「いつも玉露だといいのになぁ」

 

「だったら、お母さんがほとんど飲んじゃうわよ」

 

「おふくろも美味い物に飢えてるものな…」

 

 

 一応、残しはするだろうが、二、三杯、淹れたらお終いという感じになるだろう。どこぞの竹林のお姫様や小さく紅いお嬢様がいつも食べているような豪勢な食事は基本ない博麗家。美味しそうなものがあれば、早い者勝ちである。

 

 

「土産、あるか?」

 

「さぁ? 聞いてなかったから分らない」

 

「土産とか言って、そこら辺に生えてる食べられる野草持ってきたこともあるからなぁ」

 

「ヨモギを大量に持ってきたり、ね。 あー…、しばらくヨモギの匂いさえダメになったの思い出した」

 

「餡子なしのヨモギ餅をしこたま食わされたのは、親の愛か…?」

 

「それは違うと思うの…」

 

「愛であってくれ…」

 

 

 竹で作られた串で、その竹の笹で作った皿に乗せた葛餅を口に含む二人。確かに感じるはずの甘みは、昔にたらふく食わされたヨモギの青臭さを思い出し、あまり感じることが出来なった。二人とも甘味を食べた顔ではない。心なしかうんざりした顔だった。

 

 

「美味いものが美味く感じられん悲しみよ…」

 

「無常観に満ちるわね…」

 

 

 霊夢の声はそれによく満ちていた。夢蔵は過去の自分と今の自分の味覚が絶妙に重なっていることに悲しみを感じてしまう。それをなんとか捨てようと意識を変えようとした。脳の情報の入れ替えである。意識を変えるなら、新たな刺激を入れるべきだ。思い出すものでもいいかもしれないが、意識の換気には向かない。部屋の空気を換えるとするならば窓を開けるべきだ。開けずに香などで空気を誤魔化そうとしても、上書きされずに空気がより濁るだけだ。つまり、新鮮な視点を欲した。

 

 とりあえず、視点を夢蔵自身の無骨な手から妹である霊夢に移した。

 

 

「………」

 

 

 口の中の感じを変えようとしているのだろう、お茶を飲んでいる。

 

 湯飲みにくっついている小さめの唇はぷっくりとしていて柔らかそうで、男の夢蔵とは違う。口紅をしているのだろう、桃色に少し赤を濃すぎない程度に足したような色合い。夢蔵のはケアをしないためかさついている。一週間ほど前に唇の数箇所が割れた。醤油や味噌汁で痛そうな顔をする。そんな様子を見かねた霊夢に軟膏を塗りたくられている。治ったと安心してケアをサボっているから、またそのうち割れて、また霊夢に軟膏を塗りつけられるだろう。

 唇から少し視点を上に移行すれば、夢蔵と同じ茶色の瞳が見えた。夢蔵より明るめの茶色である。夢蔵は少々暗め。霊夢の瞳の方が宝石のように心惹かれるような色合いだと感じていた。夢蔵の方は数珠に誂える石に似ている。自身の目がビー玉のように軽ろやかに澄んでいればよかったのにと思いながら、霊夢の瞳をもう少し見る。光の加減を調整するよう、少し傾く。すると、茶色が濃くなったように見えた。夢蔵のとはまた違った色合いで、上手くできたべっ甲飴のような舐めたい色。

 少々危ない思考に入ったと感じ、視点を広げる。切り揃えた前髪はあと少し伸びたら目に入りそうで、邪魔にならないのだろうかと、女のオシャレは我慢かと同時に思う。健康的に日焼けた肌に薄く化粧をしている。小さな頃に兄妹で母親のおしろいに塗れていたのを思い出す。顔が真っ白になっていて、綺麗に見せるのではなくお化けに見せていた。でも、昔はおばけだったが今は女に化けたのだ。濃すぎず上手くやった化粧をした顔は、先ほど食べた葛餅のような透明感を感じ取った。

 

 なんとなく新しく思った。

 

 

「…綺麗だな」

 

 

 見慣れた顔は見事に成長していたのだ。思わず漏れた言葉はチャラついたものはなく、渇いた口内を潤すようで。

 

 だから、霊夢が思わず咽ることになる。

 

 

 気管に入らせたのだろう霊夢の背を慌てて叩く。二分ほど咳が止まらなかったが、落ち着いた。

 

 

「…すまん」

 

「………」

 

 

 霊夢はそっぽを向いている。夢蔵が詫びにと自身のほうに残っていた葛餅を少し分けているが手をつけない。微妙な沈黙が続く。五分ほど経って、ようやく霊夢は口を開いた。

 

 

「なんで」

 

「んぉ?」

 

「なんで、そんなこと言ったの?」

 

「すまん」

 

「謝らないでよ。理由聞きたいだけなんだから」

 

「………」

 

「ねぇ、なんで?」

 

 

 黙秘を決め込む。が、妹はそれを無言で棄却させた。自分一人だけで手元にある串で遊んでいても逃げることはできなかったようだ。

 

 

「…お前が綺麗だと思ったから」

 

「………なに、それ?」

 

 

 遊んでいる串に、霊夢の串が加わった。

 

 

「霊夢は…どんな男と結ばれるんだろうな」

 

 

 話をすりかえた。卑怯である。

 

 

「まずは、おふくろに認められること。難関だよな、おふくろって親父以上の男はいないって言ってんだから。次に、適度に不真面目な奴であること。仕事が結構面倒だから、真面目すぎればやってられん。他には、そうだな。俺に、勝てなくてもいいから認められること。弱すぎてもダメだし強すぎてもダメだ。心は強く、情けに寄らず、平等足らねばな。最後、は」

 

 

 そっぽをむいたままの霊夢をようやく見る。

 

 

「霊夢を必ず幸せにすること! 絶対条件だ!!」

 

 

 気を損ねたままでいる妹に笑って見せた。

 

 その日は近いのか遠いのか、分らない。どんな相手なんだろうと考えてみることも出来ない。きっと、連れてきたら癇癪を起こすのは母親より夢蔵が先で激しくもあるのだろう。父親がいなくなってから、兄として父親代わりとして寂しくないよう立ち回ってきた。小さな頃はよく泣かせてしまったが、もうそんなことはない。未来で泣くことにはなるだろうが、夢蔵の方が大泣きする自信がある。目に入れても痛くない可愛いくてたまらない妹だ。一生懸命頑張ることがなくても、霖之助にツケをして夢蔵が返すことになっても、霊夢が夢蔵と一緒にいてさえくれればどうでもいい。

 

 可愛くて大切な、たった一人の妹である博麗霊夢が好きになる男が羨ましい。

 

 近親相姦願望はない。そもそも夢蔵が霊夢に対して抱いているのは家族愛。それ以上も以下もない。過剰なところもあろうが、枠から外れることは決してない。愛している、けれど家族として。その愛は最上の愛として完成していている。綺麗にしか見えない、優しき感情。兄として抱いた、ありったけの純愛。最初で最後の、穢れ無き愛だ。この世で二つとない、兄妹の情。それを受けて育った霊夢は、家族の贔屓を抜きにして綺麗に女らしく成長した。そこらの女など比較にならないほど見事に。世が世なら、やんごとなき身分のものに輿入れできるほど。

 

 夢蔵にとって妹の霊夢以上の女はいない、と刻み込んだ。

 

 故に。

 

 

「夢蔵兄と一緒にいる」

 

 

 妹である霊夢は歪に育った。

 

 

「それは無理だ」

 

 

 そうであることにまだ気づかないフリをして夢蔵は言う。

 

 

「無理じゃない。私は博麗の巫女で、夢蔵兄は博麗の武士。ちゃんとできてるんだから、他にいらない」

 

「霊夢」

 

「博麗の巫女である私には、博麗の武士である夢蔵兄が必要不可欠。代わりなんてできっこないし、いらない。それは夢蔵兄にとってもそうじゃないの」

 

 

 代々の博麗の巫女と博麗の武士が両者とも血縁関係であったことはなかった。初代から始まって先代までなかったのだ。

 

 博麗の者は何かしら神懸った才を持つ。だから、常人と上手くいく事は少ない。ただの知人としてのつながりは上手く取り繕えるが、深い関係になるために必要な波長が合うことがあまりないのだ。博麗の巫女足らんとするものの波長は普通の者ではない。何者にも平等たれ、という教育をされてきた者ら。昨日挨拶した者を処断するということもある。『誰でも平等に応対する』。これでは、ヘイトを溜めてしまう。彼女らは意に返すこともなかろうが、信仰がなくなれば調整している幻想郷の維持費などがなくなって幻想郷は消えてしまう。そのヘイトを代わりに受ける役目が博麗の武士。彼らの役目のおかげで、博麗の巫女の『誰でも平等に応対する』という意向に悪い目を向けなくなった。

 ヘイトを受け続ける者。並大抵の精神を持つ者ではない。巫女のように突出した才はないが、心が歪な者が選ばれた。精神異常者ではない。歴代で割りと普通と分類されるという三代目は、近くの者の感情を自分の中に受け入れることが出来る人物であった。喜怒哀楽、どれも全部受け入れた。当人さえ制御できぬ者を受け入れ助けたのだ。そして、最も変だと言われるのが先代の博麗の武士。それは、夢蔵らの父親である。性格はよくいる優しい男、顔は少々強面、背は百七十程、という割りとそこら辺にいる人だった。そうだというのに何処が最も変かといえば、先代の博麗の巫女、夢蔵らの母と結婚し子をなしたことだ。先先代までは、結ばれることなどなかった。蔵に残っている書物には浮ついた物が幾つかあったけれど、それが結ぶことはなく分かれた。初代から夢蔵らの父も同じように、博麗の武士は短命だったのもある。人のか妖のか、あるいはどちらにもか、に命を捧げた。初代の残した訓辞は、『どれもこれも等しく斬るべし』である。他の代に渡り、まだ訓示は色々あるが博麗の武士の志は之に集約される。『誰であっても何であっても、自分であっても、斬る』。忌まれる者、と謗られ畏れられる覚悟をする。それは、『全てを受け入れる』という極致でもあるのだ。そして同じように『全てを受け入れぬ』とも。

 

 先代の話に戻ろう。初代の訓示を曲げたから、彼は最も変なのだ。彼らの中で、結ばれてはならぬ、という決まりはなかったが、そういう心が歪になり損ねている奴は珍しかった。いつも胡散臭い笑みを浮かべている八雲紫も、しばらく間抜け面になるほどの衝撃。自分が人とは何処か異質な物があると自覚を持てる者が、上手く人に成れたのは彼が初めてだった。上手く成れずに異質のままが基本的なのに。そういうものが自分だけでなく他者を想うことは難しい。自己完結していなければいけないからだ。

 例えば、どれだけ頑張っても穴の開いた器を満たすことは出来ない。器の役目を果せない物として諦めなければいけないものだ。工夫して他の役割を持たせようが、器としての定義から外れているならそれに器としての価値はない。永遠に、穴の開いた器として在らねばならぬ。

 

 ひどく率直的な言い方をすれば、人として失敗作だからダメだ、ということ。そうなっているはずが、先代は違った。失敗作ではなく未完成のものだったから、結ばれることができた。

 

 ここまで長い前置きだったが、ようやく本題に入れる。

 

 博麗の巫女は才を持つ。博麗の武士は心が歪。それが混じって生まれた子は、両親の才と心の歪を受け継ぐ。異質であり異常であり、傑作が生まれてしまう。計算上、博麗の巫女になる子は《人と妖を共に平和に治める》【調停者】になろう。博麗の武士になる子であれば《人と妖を平等に抑える》【鎮定者】になろう。そして、それは呆れるほど見事に相成った。親和性は勿論、示量性も抜群にいい。どちらも子をなせば、血統、遺伝子どれも関係なく、より高性能な人間が誕生できる。けれど、博麗の巫女と博麗の武士の最高傑作は霊夢と夢蔵だけだ。それは、どちらも究極的な完成品であるということ。次に生まれる世代は、人として完成する者だ。だが、どうあがいても、もう血縁の繋がりがある者同士では濃くても薄くても、今代ほどの博麗の巫女にも博麗の武士にも成れない。先の二人が、それらの完成されたものだからだ。そして、血縁で両方になるのは彼らで最初で最後だ。

 

 何故か。究極的な未完成品だから。簡単な例を挙げれば、水と油になる。けっして相容れない者になるのだ。

 

 元々、本来は結ばれるべきでない者が結ばれた結果だ。他にも遺伝子学や優性論的にどうたらもあるが、結局は幻想郷の最高神、龍神が許さない。

 

 『博麗の巫女は誰にも遠くなくてはいけない。博麗の武士は誰よりも遠くにいなくてはいけない』。こう、幻想郷に住む全ての者にそう告げたことから、どれだけタブーなことか分るだろう。

 

 つまりは、霊夢と夢蔵は二人だけで完成してしまっている。

 

 

 

 

 兄である夢蔵兄が葛藤している様を見ていた。完成された出来損ないの片割れの様を。憎くてそう称すわけじゃない。他に適切な表現がないからだ。

 

 日常でも異変時でも、遠くへ離れないよう行ってしまわないよう、ずっと近くにいた。兄離れが出来ていないな、と魔理沙辺りに言われるけれど、そんなもの出来るわけがない。二人でようやく完成できるのに、そんなことすれば、どちらも壊れて逝ってしまう。傍から見れば見事に歪なわたしたち二人の関係。でも、わたしたちにとって、その歪こそが究極に至るための材料の一つ。小さな頃は分らなかったけれど、成長して育まれたものは夢蔵兄がいなければ成り立たないものしかない。それに不安を覚えることはない。どころか、とても安心する。

  

 まともに在ろうとしてきた夢蔵兄。どれほど苦労したのだろうか。父が死んでから今日まで、文字通り死にかけるほどに苦労して努力したのだろう。その様を見てきたし、心を痛めてきた。でも、その苦労も努力も無駄。わたしたちはまともに在れない。努力が報われることはないのに。決して報われることはない。

 

 それをようやく分ってくれた。ようやく完結すると、決めてくれたのだ。

 

 

「霊夢、二人でいよう」

 

「うん、二人でね」

 

「二人で、終わろう」

 

「うん、二人だけで」

 

 

 口約束で終わらないことを、しっとりとした雰囲気で感じ取る。

 

 子供のときから今に至るまで、わたしの真っ直ぐな情愛は温かい。心地よい温度だ。夢蔵兄も感じれるのだろう、本当に安心しているのが伝わる。覚り妖怪のような力ではない、在り方が同じだからできるのだ。

 

 葛餅を口に運ぶ。ようやく味覚が戻ったようだ。冷たい甘さに頬がより緩む。

 

 

「夢蔵兄」

 

「なんだ、霊夢」

 

 

 泣きそうになって、こらえるために隣の人を呼ぶ。

 

 自律も自戒もやる気がない兄妹愛。近親相姦願望はない。兄妹としてあるべき形に収めている。お母さんとお父さんの仲に憧れはあるものの、それは夫婦愛ではなく家族愛としてだ。枠組みから外れることはありえない。でも純粋ではない。兄が離れていかないか不安に駆られて、濁ることはよくあった。その度、兄と共に過ごすことで純化させてきたのだ。血のように赤黒く濁ることもあれば、泥水のような色に濁ったこともある。それにすぐ気づくのは私自身が先ではなく、夢蔵兄が先に気づく。そして無意識に純化させてしまう。それが嬉しかった。わたしをちゃんと見ていてくれる、離れないでくれる、遠くになんか行かないでくれるというのが良く分かったから。

 

 そして、純化が澄んだ今。

 

 

「ねぇ」

 

 

 だから、今日。ようやく本心を言える。

 

 

「だいすき」

 

 

 夢蔵兄が心底安堵しているのが分る。

 

 

「…まるで夢心地だ。このまま眠ればいい夢が見れそうじゃないか。夢を見るのは楽しくて仕方がないなぁ」

 

 

 そう言うと、静かに目を閉じてしまった。

 

 いい夢を。わたしと、いい夢を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きることを止めようかな

 

視界を白くする

 

視界を黒くする

どれぐらいのヒロイン数がいい

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