頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

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ルートが二つにわかれます


四季映姫・ヤマザナドゥルート

「博麗夢蔵、貴方は少し罪深すぎる」

 

 

 彼女の説教の始まりはその一言から始まる。その後は、色々言葉を変えつつも意味は同じ。

 

 “罪深い”

 

 夢蔵は、そこそこ善行を行っているつもりである。父親がなくなる前の幼い頃は、子供のヤンチャを少し超えてしまう悪ガキであった。霊夢につきっきりになる母親が恋しくなって妹が泣くまでいじめてしまったこともあれば、寺子屋で授業を聞かずに眠りこけていたこともあるし、木刀もしっかり振れないくせに父の刀を持ち出し友人とチャンバラごっこをしたり、喧嘩をして相手に痕が残ってしまうような怪我をさせてしまったこともある。だが、どれもこれも両親や教師、里の人などなどから散々に叱られて、その悪ガキっぷりは矯正されてきた。特に強制するきっかけは夢蔵たちの父の死がきっかけである。母と妹を守らねば、そのために智慧をつけねばと勉学に励み、力をつけねばと遊び半分でやっていた修行を真面目に取り組み、喧嘩は速めに相手を気絶させることにした。最後の方が少々いただけないが、それから何事も真面目に礼節をもって取り組んできた。その甲斐あってか、今は父の後に博麗の武士を継承し、里ではファンクラブができるほどの人気っぷり。

 

 元々善行というものは積んでいるといえば積んでいる。困っている人を助けたりだとか、なんなら妖怪でさえ差別なく助けている。それは夢蔵と霊夢の世話をしていた藍のおかげで差別意識がなかったのかもしれない。ともかく、善行は積んでいた。そして、それは悪ガキであった頃から今の夢蔵にまでずっと行っている。地獄行きであるとするとどのところに行くかといえば、アリや蚊など小さな虫から始まる生き物をいたずらに殺し懺悔もしなかったために行く等活地獄だろう。悪ガキ時代は、トンボの目を回させ動けなくしたところを捕まえて上手く羽を引きちぎった方が勝ちという、子供らしい無邪気で残酷な遊びもやったことはある。トンボは上手く千切っても死んでしまうし、上手く千切れなくても死ぬ。命の価値がまったく分からないからこそやっていた。いや、虫“なんか”だからやった。後は死ぬだけなトンボに目もくれず他のトンボを探したり、次は違う遊びに勤しんでいたりしたが、最後は墓を作ってやったのだ。親に言われしぶしぶだったが。命を遊んだ数だけの小石を遊んだ果ての姿はない塚を囲むように積んで、墓石を立て虫塚を作って線香まで焚かせられた。アリの餌になったか、鳥や猫の餌になったかは知らないが最終的にどんな生き物であれ土に返る。けれども、わざわざそこまでやった。虫“なんか”のために。そういう考えがいけなかったのだろうか。

 

 

「そういうのもあります」

 

 

 これだけではないらしい。自身の悪行を考えてみる。では、殺生の上、盗みを重ねたものが落ちる黒縄地獄だろうか。金銭を盗んだことはないが、友人を始め妹や母が大事に取っておいたおやつを盗み食いをしたことは多々ある。しっかり謝ったし、代わりのものを買ってきて許しを得ていた。だが、繰り返す。それがいけないのか。

 

 

「そういうのもありますね」

 

 

 他にもあるというのか。では、なんだろうか。淫らな行為は自分だけで済ませているし、飲酒で毒殺も盗みもしていない。

 

 

「貴方はよく嘘をつく」

 

 

 なんと。

 

 

「大叫喚地獄、その小地獄である十一炎処が一番貴方が落ちていきそうな場所です」

 

 

 大叫喚地獄。熱湯の大釜や猛火の鉄室に入れられ、号泣、叫喚する地獄。その苦しみは、殺生・盗み・邪淫をした者が落ちる衆合地獄の十倍である。そして、その小地獄である十一炎処は王、領主、長者のように人から信頼される立場にありながら、情によって偏った判断を下した者が落ちる。十方向から炎が吹き出して罪人を焼き、罪人の体内から十一番目の炎が生じて口から吹き出し舌を焼く。

 

 

 

 

 あぁ、なんということだ。

 

 

 

 

 

 

「貴方は罪深い。故に、正しいことを為しなさい」

 

 

 今日の説教だ。長時間正座をして説教されても別になんともないが、今はなんとも困る。

 

 

「嘘はいけません」

 

 

 言葉を挟みたいが、挟ませてくれないだろう。今はそわそわしてしょうがないと言うのに。

 

 

「嘘をつく。これが如何に重い罪であるのか、分かっていませんね」

 

 

 分かっている、つもりだ。

 

 

「嘘をつくというのは、欺くことです。自分だけでもいけないことですが、他者に対して行うなら重罪なのです」

 

 

 重罪を負った自覚はない。嘘をつくが、軽いものだ。その、はず。そのはずなのだ。

 

 

「貴方の嘘は、自分を偽ることです」

 

「していない!」

 

 

 思わず口が出る。いつもなら説教中は聞くだけにとどめているが、その言葉だけには反論をしたくてたまらなかったからだ。

 

 

「俺は、生まれてから今まで自分を偽ったことなどない! 仮にそうだったとしても、あのときからそんなことはしないよう心に決めてきた!!」

 

 

 普段の説教の鬱憤だとか、そろそろ足が痺れてくる頃合だからだとか、そんなことはこの怒りに含まれていない。正座から立ち上がり、妹より高めな身長の映姫を見下ろして怒鳴った。

 

 今の自分は偽りであると言っているのが苛立つのだ。父の死から経て、今ここにいる自分を否定することに苛立つ。

 

 言ってはならぬことを言ったのだ。この怒りは正当なもののはず、たとえ閻魔だからといえどそれを黒にはさせない。

 

 

「この俺は、見たくもない現実を受け止め続けてきたのだ! 幼い頃から、ずっと! ずっとあるだろう日常が欠けてしまったけれどもっ! それを補おうと今もこうして生きている!!」

 

 

 口が止まらない。いや、止める気が湧かない。らしくなく感情のまま怒鳴る。映姫はそれに気圧されるでもなく、ただじっとこちらを見る。何も感じていないようなその様に、手が出ないようにすることに気を割くことが困難になる。

 

 一思いに殴ろうかとも、考える。閻魔になんということをだとか、女子になんてことをだとか、殴った後に思うだろう。下手をすれば映姫を殺めてしまう可能性は高い。殴ってこの怒りを発散させたいのもある。だが、それだけではない。殴ることで、映姫が自分を見ることを止めさせたいのだ。自分から視線をそらすのは癪に障る。いつものように軽く流せることは、今はやる気がしない。

 

 情けないが、ただの力の強いだけの人間なのだ、博麗夢蔵は。それは十二分に分かっている。如何に無双に振舞っていても、怪我や病気で死ぬこともある。万が一にもないが自殺という場合もあるのだ。身体面で鍛え上げた。精神面も。だが、感情のないモノにはならなかった。鍛え上げれば、そのように振舞うことは出来るだろう。それでも、何事もなかったようにはならないのだ。ただの紙切れで指が切れてしまうように、致命的でないものの酷く痛むことはある。

 彼のこの怒声は、痛みから来るものだ。それを彼は自覚していないが。痛めば治そうとする。体が痛めば、体の細胞や医者の適切な処置が治すだろう。心が痛めば? 精神的治療は薬物やカウンセリングが基本で他者の助けが必要不可欠である。だが、もっとも重要なのは自分自身の治す気概だ。本人に治す気がなければどうしようもない。これは身体的な怪我や病気も同じである。本人が治したいと思わなければ意味が無い。いけないかといわれればそうでもない。その人、一人だけで全て完結しているなら勝手にするといいのだ。だけれども、一人で完結することはありえない。そこに生きているのはその人だけではない。飲むためや排泄処理、洗濯のためと様々に生き物に必須な水にだって他にも必要とするものがいるから勝手に使えない。

 誰かに迷惑をかけて、その迷惑の分を恩で返すことで人間は成長してきた。だというのに、迷惑しかかけていないなら炉端の石のほうが価値がある。金銭という物理的なものもあれば、満足感という精神面のものを満たす。そうすることで、“生きる”ことに“安心し納得できる”。何かしら不安定であったり不満が多ければ、改善しようとするはずだ。それが“分からなくなってしまう”のが精神を病んでしまったものだ。遺伝的であれ外的要因であれ、精神が脆くなくても分からなくなるときは誰でも来る。それがずっと続いてしまうから病んでしまうのだ。ずっと暗い中にいたいとは誰も思わない。少しの間は平気かもしれないが、いつか明かりを探す。どんな小さな明かりであっても、それを求める。もう壊れて戻れない人は、明かりを探す気がないだけではない。もう真っ暗なままでいいということに“安心し納得してしまった”のだ。盲目の人の視界のように、真っ暗なままが普通になってしまう。

 

 真っ暗なまま突き進んだ先には、何もない。終わりも始まりもない。停滞だ。いや、進むではないだろう。真っ暗なところに居続けているのだから。身動ぎもしない。下手をすれば呼吸さえ意味も無いと止めてしまっているだろう。

 

 では、夢蔵の話に戻ろう。

 

 自分の“(痛み)”を見られたくない彼は、ただの人だ。心に傷をつけられ、今も自分で傷をつけている、ただの人なのだ。

 

 

 

「一つ、言いましょう」

 

 

 頭に血が上った夢蔵に対し、酷く低い温度の声。

 

 

「貴方は何故、作らなかったのですか?」

 

「……?」

 

 

 映姫は手で丸を作る。

 

 

「“補うことなどできない”というのに」

 

「!?」

 

「欠けたなら、その欠けたもので補うしかできないものです。ですが、不可能。貴方は一捉しかなかったのに、無理やり選択肢を作ってしまった」

 

「…間違えたものではないはずだ」

 

「えぇ、“貴方以外”にとっては」

 

 

 夢蔵は両の手を握り締める。殴るための予備動作のためではない。自身の精神安定のための無意識に行った行動だ。

 

 

「いいですか。貴方は“間違えた”のです」

 

 

 丸をつぶす。ぐしゃりと。夢蔵のなかでは確かに聞こえた音だ。

 

 

「貴方は間違えた。誰もが救われる物語を作ろうとしたのに“間違えた”」

 

「ち、が」

 

 

 感情どころか体温も下がるような感覚。冷や汗が出てくる。

 

 

「貴方の母は、貴方の所為で貴方の父を忘れられなくなった。貴方の妹は、貴方の所為で自分を立たせることが無くなった」

 

 

 冷や汗が止まらない。手のひらだけのものが、額から頬に落ちる。冷たい汗の感覚が不愉快だった。

 

 

「そして、貴方。博麗夢蔵。貴方は」

 

「や…め」

 

 

 湧き出る汗の所為か、喉はカラカラで、声を出すということが困難だ。何をしゃべれば良いのか、そもそも音をどうやって出すのかすら分からなくなって思わず泣きそうになってくる。

 

 

「嘘を貫かねばならなくなった」

 

 

 ひゅっと、音が聞こえた。自分の喉から出されたその音が、自分の罪をやっと理解したから出たのだと気づけない。

 

 

「情により偏った判断。正しくない。貴方は作ればよかった。たとえ、全てがなくなるとしてもそれしか道はなかったのですよ」

 

 

 膝が笑い立てなくなる。膝を打ち崩れ折れる。頭がまっしろになり、耳鳴りが止まない。

 

 

「誰かが柱にならなければならなかった。そうですが、壊れれば新たに作り直すしかない。補うにもあまりに重要な柱過ぎた。彼は大黒柱でしたからね、貴方たちにとって」

 

「ぁ」

 

 

 脳裏に蘇る親父の姿。

 

 親父のようになりたいと言った、幼い自分の声も聞こえてくる。

 

 そういうと決まって親父が言うのだ。

 

 

 “夢蔵、お前はお前でいろ”

 

 

 それがどういう意味か、親父と同じ博麗の武士になっても分からない。親父より背が伸びた、親父より強くなった。けれども、それだけでは、足らないと思ったのだ。

 

 

「わたしの言葉をよく聞きなさい」

 

 

 救いの言葉であると信じ耳を傾ける。

 

 

「貴方は、彼のようには“なれない”」

 

「―――――」

 

 

 全て。

 

 積み上げたものにヒビが入り、崩れていく音が内側から聞こえた。

 

 

 

 不快な音ではない。

 

 

 福音なそれは、そんなものであるはずがない。

 

 

 

 

 これは、いつか地獄に堕ちたとしても夢蔵を離さない女の話だ。

 

 映姫が職務放棄をすることはない。彼女は真面目だ。せっかくの休暇を説教に割くほど、他者を気にかける。どんなに説教をしても地獄行きになってしまったものもいる。それでも、免れたものもいるのも事実。その成果がなくても、彼女は説教をやめることはないだろう。元が、人の救われたいという思いで作られた地蔵だったのだ。ならば、妖怪であれ人であれ救うために動く。たとえ無駄であっても、救われねばならぬという観念の元に。

 

 夢蔵もそうだった。罪を軽くさせるために。けれども、直球に夢蔵の罪が嘘をつくことだとは説教しなかった。何十にも包んで少し遠回りに、けれど聡い夢蔵なら響くだろうと信じ説教を行った。だが。効果はなく、長時間、正座をさせて説教しても平気な彼に手を焼いていた。

 

 何故、回りくどくしたのか。

 

 心の崩し方ならば、一撃で仕留めればいいと思うだろうが、そうはいかないのだ。特に夢蔵は難しすぎた。

 

 夢蔵は嘘をついていた。それは、自分を除いて皆が幸せであるようにするために。自己犠牲で行う尊い行いのように感じるだろう。これは尊くなどない。自己満足のためのでしかない。

 

 子供心に、父の代わりにならねばと思い行動した。母のため妹のためと、どんな試練も乗り越えてきたのだ。それもやめる時が来る。だが、彼はやめなかった。否、やめられなかった。

 

 妹である霊夢はもう年頃、母ももう立ち直っている、やめ時だ。家族に“縛られている”のをやめるときだ。

 

 博麗の武士を継いだとはいえ、一人の人間だ。母も、妹も、それぞれもう立てる。そのように、なるはずだった。

 それは、ならなかったのだ。映姫の説教にあったように、母は囚われ妹は自立できなくなった。全部、夢蔵の所為だ。上手くいくよう、立ち回ってきたつもりだろう。自分だけ嘘をつき続ければいいと、動いた結果、周りは彼の嘘がなければ立ち行かなくなってしまったのだ。

 

 “親父のようになりたい”。“お前はお前でいろ”。息子とその父の言葉。“父のようになれない”のになろうとしてしまった。その様を見ていく者らは、夢蔵が作り上げた“父のようになれない”彼を受け入れることが出来なくなってしまったのだ。目標を決めたなら達成するために動くもの。だが、目標は無くなったのだ。別の目標を作らねばならないのにしなかった。昔も、今でもなくなった目標を追い続けている。“その姿が夢蔵の姿だ”と皆焼きついてしまった。夢蔵自身も周りも、そうなるように無意識にやってしまったのは、諦めなかった原因の一つである。死んだ人に囚われる母、妹。彼女らだけではない、多くの人が先代博麗の武士を忘れなかった。それは素晴らしいことだ。けれども、誰も彼もがそこで立ち止まってしまった。流れなくてはならないものが滞った。それはいけないのだ。生きているものは死者に囚われるべきではなく、時折思い出す程度でいいというのに、それが出来なかった。偉大な人物であったが、その人の意思であると周りが勝手に決め夢蔵に押し付けた。無意識にだから性質が悪い。

 

 いやだとは言いたくなかったのだ、夢蔵は。彼も父に囚われていたから。

 

 だから、嘘を吐き続けた(罪を犯し続けた)

 

 それが、唯一自分に出来ることだと信じて。やめることをやめられなかった。

 

 

 そういう足掻く様が、四季映姫にとって“愛しくなる”きっかけだった。

 

 夢蔵ほど歪でないにしろ、そういうのもいたことはある。そして誰しも地獄に堕ちた。

 

 判決を言い渡すときの彼らの顔は、能面のようだった。誰しもそうで怒るでもなく泣くでもなく。ただ、そうか、と落ち着いて判決に従った。不満に思っているのか、そうではないのか。誰しも、どうでもいいとばかりに堕ちていった。それを見て心が痛まなかったことはない。もっと何とかしてあげればよかったと悔いたこともある。

 

 夢蔵がそうなるのは耐え切れないだろう。そうなれば溶けた銅を飲み干す苦痛さえ児戯になるほど、心が痛むだろう。

 

 ここまでなら、愛しくなるには足りない要素だ。過去の者らのようにさせたくないだけではそうはならない。

 

 要素は、三つほどあるのだ。

 

 一つ、夢蔵の嘘が優しいこと

 二つ、夢蔵の優しさが偽りなこと

 

 そして最後。最大要素は。

 

 “夢蔵がダメであること”

 

 

 二つの理由はいいだろう。結局、自分のためであるだろうが、皆のためと生きてきたその姿は哀れみを抱くだろうものだけれど蔑むことは出来ない。最後の理由、これは、映姫がなんとかしてあげなければという感情を遺憾なく発揮できるのが夢蔵だけなのだ。

 

 

 

「夢蔵」

 

 

 愛おしい。

 

 私は崩れ落ちた夢蔵の顔を両手で包んで上げさせた。さっきまでの憔悴しきった顔も愛おしいが、今の無垢な少年のような顔も愛おしい。

 

 

「えい、き」

 

 

 おそるおそる私の名を呼ぶ。赤子が初めて単語をしゃべるように、つたない発音。

 

 

「はい?」

 

 

 冷や汗で額に張り付いた髪が邪魔そうなので軽く撫でるように邪魔にならないようにどかす。

 

 

「ならなくていいの、か?」

 

「いいんですよ」

 

「もう、いいのか?」

 

「いいんです」

 

 

 目が潤んでいく。そして、涙腺を絞り上げ涙を次から次へあふれ出していく。

 

 

「お、れっ! おれ!!」

 

「いいんです」

 

 

 なだめるのはなく、より泣かせるために頭を撫でる。しゃくりあげて大声で泣き出す夢蔵に優しく微笑んであげる。

 

 あぁ、ようやく泣いてくれた。

 

 

「いっぱい、いっぱい頑張ったんのですから、もういいんですよ」

 

 

 言葉になってないが、辛かったと言っているのだろう、止まらない泣き声が嬉しかった。

 

 

「嘘はいけないんです」

 

 

 嘘はいけない。たとえ閻魔であっても許されない。

 

 

「もう、嘘をつかなくていいんです」

 

 

 頭を撫でながら、泣き顔を見る。今まで見たどんな顔よりも可愛くて愛おしかった。

 

 これで、もう一人で立てないだろう。今まで立ってきたつもりでなんとかなっていた状態が異常だった。不安定であったのだ。ずっと。夢蔵は、自身でも嘘と気づかないようにして立ってきたが、不安定であった。嘘は自分も他人も守ることもあれば、傷つけもする。嘘を守るために嘘をつき続けることは、傷ついて、また傷ついてということなのを誰も壊れるまで気づかない。壊れたら立てない。それを見てまだ嘘をつき続けろなど、酷すぎる。限界が来ていたのだ。そしてちょうど、限界を超える前にやめさせることが出来た。

 

 一人で立てない夢蔵を世話してあげよう。

 

 もう、一人でいられないから。朝起きて寝るまでずっと世話してあげよう。いくらでも、望むならなんでも。

 

 

「夢蔵」

 

 

 真っ赤になった目は純粋で。

 

 

「愛してますよ」

 

 

 私と二人でいるように、言い聞かせる。

 

 

「わたしといましょうね」

 

 

 頷く夢蔵の顔に自分の顔を近づける。昔、本で読んだ愛の交わし方では恥ずかしくなるらしいが、そうでもなかった。

 

 ただ、可愛くて愛おしい人を繋ぐのにこれが正しいやり方だと、そう確信して行う。

 

 触れるものが唇同士だけだというのに、何故こんなにも愛おしさがより溢れてくるのか。それは、きっと夢蔵が可愛くて愛おしいからだろう。

 

 

 一つの涙が唇の間に流れてきた。

 

 やたらしょっぱくて、とてつもなくまずい。それは確かに愛の味だった。。

 

 

 

 

 泣いてすっきりした後、俺は映姫に抱きしめられた。強く、それも少し痛みを感じるほど。その方が安心する。

 

 泣きすぎたのか目と頭が痛い。けれど、そんな痛みより抱きしめる痛みの方がより感じる。むしろ前者は自分のことなのに遠い出来事のようだ。

 

 

「なぁ、映姫」

 

「はい?」

 

 

 説教のときとは違う、優しい声に胸がうずく。

 

 くすぐられた感覚と痛みがある。それは、自身が本当に感じていることだからと分かって安心する。

 

 

「俺を暴いてくれてありがとう」

 

「そう答えますか」

 

「いつもは、もうやめてくれないかなしか考えてなかったけどな」

 

「いい痛みだったでしょう?」

 

「あぁ。泣くほど痛いけど、痛いからいいんだ」

 

 

 言葉だけだといじめのように感じられるがいいのだ。映姫から、与えられる痛みが、どうしようもなく安心できるから。

 

 

「泣いてもいいです。立たなくてもいいです。そばにいますから」

 

「うん」

 

 

 立たなくていいか。

 

 もう、いいか。

 

 そうも思う。けど、少しかっこつけたい。

 

 

「立つから」

 

「いいんですよ」

 

 

 やめろと、優しい声で圧をかけてくる。どろどろに甘い蜜の中にいるのはいいかもしれないが、たまに塩辛いものも食べたくなったときどうすればいいのか。なら、立つしかないのだ。

 

 

「映姫と、ちゃんと、いたいから」

 

「………」

 

 

 痛みを感じるほどの抱擁を解く。優しい微笑を絶やさずこちらを見る映姫。

 

 目は綺麗に暗くて安心してしまうが、なんとか踏みとどまる。

 

 

「だから、言わせてくれよ」

 

 

 この恋情は自分のもののはずなのに、こうもそれを語るには融通が利いてくれない。

 

 痛みが。胸の中で針があちこち刺して暴れ回っている。

 

 自分のもののはずなのだから、もう少し勝手がきけばいいのにと思わないでもない。だけど、痛みがなければきっと俺はダメなのだろう。

 

 

「なぁ、映姫」

 

 

 痛みの所為でまた涙が溢れてくる。自然な反応なのか異常反応なのか、もう種別がつかない。

 

 

「傍にいてください」

 

 

 最後の言葉は、恋情が弾ける。

 

 

「愛しています」

 

 

 誰かのもののように感じるそれは、確か、自分のもののはずと理解しようとした。けれど、それに意味は無いのだろう。

 

 先ほどにはない頬にこもる熱は映姫だけではない。白い顔に朱が差すその顔同様、日に焼けた俺もそうなのだ。

 

 

 

 

  まるで夢心地だ。このまま眠ればいい夢が見れそうじゃないか。夢を見るのは楽しくて仕方がないな。

 

 

 

 

 

起きることを止めようかな

 

視界を白くする

 

視界を黒くする

どれぐらいのヒロイン数がいい

  • 一人
  • 二人ぐらい
  • ハーレム
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