向かう手に受ける手。同じように脚を。
上がる互いの心拍。
美鈴が普段、門番の仕事の暇つぶしにしている型の練習での太極拳ではこうはならない。
今しているのは、実戦で用いる太極拳だ。素早く力強いものである。
そして彼女は妖怪でもあるのだ。速さは異常、力も異常。長年鍛え上げられたそれは、もはや美しささえ感じるもの。
岩をも砕くだろう一挙手一投足の動き。蝶のように舞い、蜂のように刺す。一種の芸術である。
“美しい”。そう思っている。夢蔵は見蕩れながらも、自身の手脚を緩めない。そうすることが何より無礼であることを知っているから。
一の動作に二の動作。三の次は四。そう決まっている太極拳の型に対し、夢蔵が用いる武は我流だ。
型がある太極拳とは別種過ぎるそれは美しくない。全てが不揃いで、不恰好で、酷いもの。故に愉快であるのだ。
何者でも、窮地に陥ればどう動くか分からない。逃げに徹しようと戦いに徹しようと、なんであろうとも。
幻想郷で腕に覚えがあるものといえば、妖怪らが基本である。人間での腕が覚えがある程度など、それこそ妖怪らにとっては赤子の手を捻るごとき幼稚な遊びにすらならない児戯だ。
だが、その弱い人間の中でも夢蔵は違う。彼の妹も母親も、亡き父も違うが、彼らを含めても彼は違うものだ。同じ人間のくくりにはいる。それで総合力は彼女らを併せ持っても、追い上げることができない。おふくろは全盛期はすでに過ぎているし、父はもういない。後に残った妹である霊夢は、そもそも努力する気がない。それは頼りになりすぎる兄がいるせいもあるが、それはいい。今は関係ない。
心だけは乱れまいと必死なものだ。美鈴も、夢蔵も。
自身らの情動を乗せるのには、まだ早すぎる。
掛け声で威圧する。これを文字に残そうとも、それはおかしくなるだろう。狂人の叫び声を記したところでギャグにしかならない。空気に振動を与え、鼓膜を圧迫させるそれは心を乱れさせる。
萎縮など互いにやらぬ。逆に鼓舞されていってしまう。
互いが最高を舞え。 武であって、美であるそれを。美鈴は洗練された武の美しさを、夢蔵は雑で粗悪な武の美しさを。
互いの最低を魅せろ。 美であって、舞であるそれを。夢蔵は人間の底を、美鈴は妖怪の底を。
互いに最奥を恋え。 美であって、美であり続けるそれを。 男と女の互いの意地を。
互いに真に求めるのは最後。乞う恋、請う恋、来う恋。
言葉にはしない。できないと言った方が正しいだろうか。互いに意地っ張りだからという、そんなものではない。それではあまりにも陳腐すぎる。互いしか目に入らぬ今に、そのような思考が邪魔なのかと言えばそうとも言おう。頭の中で互いの先を予測、計算する。一歩だけでは足らぬ、三歩先までせねばならぬ。いくつもの選択肢を考え、最適解を導く。それを体を全力で動かしながらする。同時に、並行的に、する。心の底を互いに知ろうとしながら。あるいは、互いの相手の最奥にいようと脈動する。あとの二つは互いに無意識下で行われているものだ。雑念、雑音。邪魔なものである。それがあるのは、男と女の仲であるなら当然のこと。さて、ではどうであるからか。
それは、恋は叶えてあるから。
いつまでも続いて欲しいひと時は、互いに膝をつくことで終わる。
ここまでは動の中でも少し動きがいのあるものであった。ここからは少し穏やかに。こんどは、心の動でのことを見よう。
「ふふふ」
美鈴は水につかりながら笑う。美しい赤色の髪も普段のお風呂では浸けないが今回は違う。
「どうした?」
夢蔵も水に浸かっている。大きな傷も小さな傷も色々とあるが、それでも男の美を損なわせていない。
「二人っきりはいいなーと思ってね」
「そうだな」
美鈴の練った気を互いに纏っているため、そこそこ深い水でも互いに浮いている。
夢蔵の胸部や腹部などに美鈴の長い髪が絡みつく。意思がないはずであるそれらは、自ら絡まりにいっているのではないか。
「ふふ」
ちゃぷっと小さな水音をさせながら、先ほどの実戦形式での剛拳を放った手を持ち上げる。
その手をゆっくり夢蔵の顔に向けて触れてくる。
優しい触れ方だ。優しすぎてくすぐるような感じなのだ。
夢蔵はすりつくようにその手に顔を寄せる。
美鈴の中に入るもののその脈動に、より中が熱くなる。
気を与えては別のものをもらう。だが、今は性的なことではない。
人間である夢蔵の気を変化させているのだ。
妖怪と人間では色々と違う。容姿であったり、力であったり。美鈴と夢蔵の容姿が違うのは当たり前だが、それが人から見て異常だと言うものではない。互いに人の形である。力で言えば、夢蔵のほうが強い。それは美鈴とは違う気であったりする。どれもこれも、見た目は同じ人間のようであって明確には違うのだ。妖怪と人間の体の仕組みから世渡りの仕組みまで。永琳に調べてもらえばよりわかるだろう、体を構成する体の仕組みや細胞など。
それを無くす。
美鈴は気を与えることで、自身と同じ妖怪になるように。気を奪うことで、人間から離れやすくするように、そして自分がより夢蔵に近くなるようにする。それは夢蔵の意思関係なく行われている行為である。これがばれれば、せっかく恋仲になったと言うのに離れてしまうかもしれない。けれども、それはできないはずだ。麻薬のような作用もさせているからだ。脳を基本とした全身に快楽物質を入れている。外皮からもそうだし、いつものように行う営みで出てくる体液を性器などにまとわりつかせ内からも摂取させている。それは、ゆっくりとしかし確実に夢蔵を溺れさせていく。
自慢になってしまうが、美鈴は美人である。和風美人とは違う中華系の美人顔。そして、鍛え上げた肉体美。細すぎるわけでも太すぎるわけでもない。出るところは出て、出なくていいところはきゅっと締まっている。少し女性にしては身長が高めだが、夢蔵はそれより大きいので釣り合いは十分取れる。見た目なら申し分ない。
見た目で目を奪われるのだ。女性の妖怪がみな、男にとって彼らの理想のような姿をとっているのかは知らないが、幻想郷を見渡せば老若あれど美しく可愛らしい容姿をしている。それにやられるものは少なくない。夢蔵もそれかと言えば違う。容姿だけに惹かれたのなら、美鈴も願い下げであるのだ。…そんな理由でないことを願う。
夢蔵の容姿は好きだ。好きになったから好きになった。思わずはっとする美男子と言うわけではない。成人しているが、日本人らしい実年齢よりも若く見える容姿は美鈴の好みからは外れていたが、今は違う。今はどんな男よりも魅力的に見えてしょうがない。今では夢蔵を思い出すだけで心臓と子宮が忙しくなる。
好きになるために必要なきっかけは、紅魔館に侵入してこようとした彼を撃退しようとしたときのこと。結局敗れてしまったが、そのおかげで彼に弟子入りし稽古をつけてもらう日々が始まった。その日々は、挨拶から始まり、準備運動を入念にした後稽古ををつけてもらう。門番をするのに必要な余力を残して終わりにしてくれるのがありがたいな、などと思うことからプラスの感情を増して、いつもお礼に渡していた土産物に美鈴手作りの菓子を渡すことが始まり、夢蔵が帰った後にはナイフでぶすぶす刺されまくってしまうが楽しくおしゃべりを稽古後にしたりと、感謝の気持ちと好きになる時間を増やし、好きを大量に生産していった。
遠いと思っていた彼は今は近い。物理的には今確実にそうなのだしいいが、実力的な問題で遠かったのだ。それが今は同じ場所に立った。そしたら、もう告白しかない。だから、今こうしている。
遠かったのだ。本当に。人間であるだけの彼が、時計の長針が一周しないうちに美鈴を片付けてしまうところから、一分増え二分増えと牛歩のような遅さだが着実に彼に近くなっていったのだ。稽古中に自身の感情が増幅していく。自分が強くなっていく喜びの感情だけだった。それが増えた。夢蔵とのふれあいで出来てしまった恋情が邪魔をするときもあっただろう。真面目に稽古をしていても、すぐ恋情が邪魔をする。今の自分は汗臭くないかと自身の体臭を気にして集中できなかったり、今日の土産物も喜んでくれるだろうかと悩んで集中が切れて、など。ここまでは良くはないが、まだいい方だ。美鈴のことを夢蔵はどう思っているのだろうと、好きだろうか、本当は嫌いだろうかと考え込み頭の中が忙しくなって手足が疎かになり夢蔵に不思議がられていたのは、よくあった。具合が悪いのかと心配そうに聞かれるのは申し訳なく、そして心配してくれる彼がより好きになってしまう自分がいた。
このときにすぐ告白すればよかったのか、と考えたこともあったがしなくてよかったとも思う。このとき、美鈴は博麗夢蔵という男に憧れから始まる間違った恋情を抱いていただけだったから。いや、それは恋情ですらなかったのかもしれない。パチュリーに恋愛書をねだったこともあり、それを読んで知ったのだが《憧れは理解とは最も遠い感情》なのだそうだ。
理解することは、相手を受け入れることだ。憧れとは、相手を受け入れないことだ。どうしてこうも違うのか。前者が現実に見ていて、後者が理想でしか捉らえていないからだ。簡単に言えば、自分に近いか遠いかだ。手が届いているか届かないかの方が分かりやすいだろうか。知識にしろ栄養補給だろうと、自分に手が届かなければ手に入らない。その場から動かないでいるだけなど、生きているだけではないか。生きるのに手足を使い、生きるためのものを摂取していかねばならないのに、怠惰にそっちから来いなどとふざけているではないか。足掻くか諦めているか、そんなことである。もっと優しい言い方をすれば、好きなのか、そうではないのかということだ。
理解は、相手を
好きではないとは、別に嫌いだとかそういうマイナスな感情を指すのではない。そのままの意味だ。どういう意味か。好きの“フリ”をしているのだ。
自己愛も他者愛も対象が自分であれ他者であれ、対象を受け入れて生まれている。憧れと言うものは、そう言ったものではない。憧れは手が届かないからこそ、そういうものになる。手が届かないと諦め、距離をとる。理解は手を届かせるものだ。手を届かせようと足掻くものだ。“諦めではない”。では、何故諦めてしまうのか。様々な回答があるが、今回はそんな美鈴と夢蔵の話だ。他者が割り込む余地はない。だからそこに立ち止まっていた美鈴の回答を語ろう。
紅魔館へ侵入しようとする夢蔵たちを撃退するため出てくるが敗北。その後は夢蔵の強さに憧れ、自ら弟子として志願する。たまに紅魔館に来る夢蔵に稽古を付けてもらっている。
こうして二人の関係は始まった。だが、“憧れ”はいけない。彼女は強さに、ということだが、なんであれそこに彼女の意思が集中してしまった。“憎しみ”や“怒り”であるならば、まだマシであったのに。どちらもマイナスの感情だが、理解よりの感情だ。何故なら、夢蔵に対する感情だからだ。
憧れも彼に対するものだろうと? 否、全然違う。憧れは、相手は“自分とは違う”ということを表している。何を当然なことを言うのかと思うだろう。ここで思い出して欲しい。理解とは相手をどうすることか。憧れとは相手をどうすることか。そう、“自分とは違う”ということは“相手を受け入れない”ということだ。どうしてこのようにしてしまうか。憧れることで、相手を受け入れないことで、自分を守るためだ。
高いか低いかはあれど、まったくプライドがないものはいないだろう。誰にでも譲れないものはある。そして、それは自身の大事な芯だ。その芯を折らせないよう、無くさないようにするための防衛本能が生み出したのが“憧れ”というものだ。折ってしまったら、無くしてしまったら、どうなるか。よくて無気力になる。悪くて、自身の命を自ら絶つ。そうならないようそういうものを抱く。
受け入れないことで、自分を守る。何故なら、自分が死なないようにするために。
美鈴は妖怪である強力な存在であるし関係ないのではないかというと、そんなもの関係あるに決まっている。
美鈴の自分とは、大きな枠組みなのだ。どういうことか。自分とは紅魔館の全てだ。当主のレミリアから始まり、自身が育てる花に至るまで。これら、全部合わせてようやく“自分”だ。愛していたのだ。全力をもって愛していたのだ。
自身の力及ばず敗れた。色々あったものの結果は丸く収まった。
けれども、守れていない。
スペルカードルールでなければ、と言うことはない。なんであれ勝敗は決してしまっているのだから。勝って守ればよかったものが、負けて守れなかった。
自身を敗者にした夢蔵は、受け入れがたいものだ。
勝って
ここで折れるのも容易い。むしろ折れるものだ。それでも、それはなかった。
夢蔵は強かったから。強すぎたから。
強いから、壊れそうな美鈴を見かねて弟子入りを許したのだ。
憧れて。
愛すべきものを壊されれば、そんな感情普通浮かばない。
憧れ“させた”。
これが、本当のことだったのだ。
憧れたからではない。“憧れさせられた”のだ。
覇気を操る程度の能力。夢蔵の程度の能力だ。これをもってなした。
洗脳の類だが、これで紅美鈴は“憧れた”。博麗夢蔵を受け入れなくなったのだ。
それに書物を読んで気づく。その書が魔術的な作用を働いたかどうかは知らない。自身で気づいたかどうかは重要ではないのだ。
受け入れようとすると、難しい。
好きだ。好きなはずだ。
悩む。悩む。悩む。
強く根付いた感情を無くすことは難しい。気を練って対処しようも、それすら利かない。
であれば、なぜこうして恋仲になれたかといえば簡単だ。
愛していたのだ。
あぁ、本当に愛していた。
それこそ、全力で愛していた。
だけれども。だけれども、愛を与えるだけでは足りなくなっている。愛を与え返して欲しいのだ。
感謝の言葉だとか、綺麗に花が咲いたとか、それで満足だったのが、足りなくなってしまった。
だから、捨てた。
「好きですよ」
与えれば。
「俺も好きだ」
与え返してくれる。
たった一言同士の通話で、満ちてくる。
足りなくなっても、すぐ満ちるのだ。すぐ足りなくなるが、同じようにすぐ満ちる。
「夢蔵さん」
体を反転させ自身の乳房を押し付ける。胸の鼓動は夢蔵に伝わらせて、この恋情を伝わらせて。
「夢蔵さんの全てが好きです」
“愛している”とは口に出せない。愛しているから口に出せない。
「ちゃんと私のものに成って下さいね…?」
愛している。
あぁ、愛している。
愛している…。
交ざる気に心の底から嬉しくなる。
「夢蔵さん」
何度も交わした口付けも、するたびいつも緊張する。強張る唇と、食いしばってしまう口。
すればもう何故緊張したのかさえ忘れるくらい没頭する。
舌を入れられ、蹂躙されていく。受け入れる。
息苦しくなっても受け入れる。
夢蔵を受け入れつづけるのだ。
「すき…、すきぃ…!!」
女に男を受け入れる。
激しく打ち付けてきて、そのたびに頭が白くなってしまう。
「好きだ、美鈴」
降りてくる女に男が突き上げる。
「好きだ、好きだっ」
「すきなのぉ!」
受け入れる。
好きだから。
だから、ねぇ。
私をもっと
もっと、もっと。
ねぇ。
「すき…」
夢蔵のことが好きすぎて、愛おしすぎて。
「美鈴、好きだ…っ!」
夢蔵が好きだと言ってくれるのが嬉しすぎて。
ずっといたい。
夢蔵は美鈴を愛している。
髪も目も唇も、彼女の何もかもを愛している。
それこそ、彼女がしていることも許容するほどに。
人から外れれば、もう博麗の武士ではいられない。おふくろも妹も、捨てなければならない。
後ろ髪引かれたこともある。父の死をきっかけに、家族が大事で大事で、守りたかった。
でも、この感情は、恋情は、そんなものいらぬと自身を動かすのだ。
愛していた。
あぁ、愛していた。
愛していたんだ…。
だが、愛しいものができてしまった。自分をこんなにも愛していると全部で伝えてくれるような存在が出来てしまったのだ。家族の為だけに生きている自分を変えてしまうほどの存在が。
最初は、ただ稽古事をする師匠と弟子の関係だった。それが変化していった。悪い方というものは言うだろう。だが、もう自分は良いと思っているだから構わないで欲しい。
妹のためと程度の力を使い、美鈴を生かした。そして、遠くも近くもない微妙な距離にいさせようとした。親しくなるが親しい程度に収まるように調整したものだ、それでいいと思ったのだ。
それが、稽古後の会話を楽しみにするようになり、今日は何を話そう、早く会いたいなどとなった。一秒でも長く一緒にいたくなり、一秒だけでも離れたくなくなる。
好きでも嫌いでもない。そういうものが好きによっていき、恋が生まれ、愛になった。
男の自分と近い身長の美鈴。だから、顔がよく見えた。真面目に稽古していても彼女の唇に目が行ってしまうようになるのは茶飯事で、触れたらどうなのだろうと、口づけをしたいなど欲望を押さえ込むのに必死でしょうがない様。頭の中がピンク色な自分を自分で何度も責めていたが、彼女といると止まらなかった。
頭の中が、美鈴と一緒になりたいでいっぱいになっていく。それを何度もおふくろと妹を思い出し、無くそうとする。それもあまり意味はなさず、長い時間美鈴と共にいた。
好きなのだ。好きすぎて。好きでいることが辛くなって。でも、なんとか押さえつけていた。
美鈴が“憧れ”というものでしか自分を見ないようにしたから。
自身の思いを告げても断られるだろう。そういうものにしたのだから。なにも自分に惚れるだろうなどと、ナルシズムなことを考えたからではない。妖怪の好きは、食欲にも繋がることが多いからだ。妖怪は人を食べる。いつであってもそれは変わらない。外の人間を食料にさせているが、里の人間が襲われることもある。
好きになった相手を殺したくない。
誰でも思うことを、夢蔵も思う。自身は人間で、美鈴は人間の容姿はしているものの妖怪だ。好きになってはいけない。
捨てようも捨てきれぬ、この恋情。会うたびに増していき歯止めがいつ壊れるかも知れぬ。心の奥にしまいこむしかない。奥へ奥へと押し込むたびに、全身に痛みが走る。一番痛いのは押し込む容器である心だ。奈落のように果てなくあればよかったのに、夢蔵の心は小さかったらしい。心を無くすかと思うも、そうすれば家族を思う心もなくなり、博麗夢蔵というものはいなくなってしまう。
八方塞であった。でも、美鈴が動かなければこちらも大丈夫のはずだ。
迎えてくれる笑顔に恋情が暴れる。送る少し寂しそうな顔に恋情が暴れる。
いますぐ好きだといって抱きしめたい。好きなんだと告げてしまいたい。
でも、互いのためと恋情を押さえつける。
一人のときに好きだと口に出すことさえ出来なかった。してしまえば、我慢が出来なくなってしまうから。
恋情を小さな心の奥に押し込めて押し込めて。けれど、すぐ出てきて小さな心の中で暴れまわる。今の強さになるまでに経たどんな修行よりも苦しく辛かった。
美鈴の姿を視界に入れる前から、名前を思い浮かべただけでもう大暴れ。
いっそ死んでやろうと思ったことは両手両足の指では数え足りないほどだ。
そんな苦行の日々は唐突に終わってしまった。
告白されたのだ。
舞い上がってしまう。止めさせる思考など欠片もなく、即時、自分も好きだと告げた。
ようやく届いた恋は、愛に変えることができた。
憧れだけにとどめたはずと思考することなど失礼だ。好きだ、好きだと自分では自覚がなかったが真っ赤になって涙まで流して告げたのだ。
おかしいということも思わなかった。恋情は暴れ、自分の感情でないようで、自身の信念を捨ててしまった。
家族のためあらねばという信念が、美鈴のためにあらねばというものに変わったのだ。
もう戻れぬのだろう。戻る気はないのだが。
「美鈴、好きだ」
何度でも、何度でも、伝えようと思う。この恋情は、自分のもののようで別物のようだ。
「夢蔵…さ、ん」
気は俺自身でも練れるのだ。それをもって俺をもっと知ってほしい。
「お前の何もかもが好きなんだ。どんなことをしようとも、されようとも、お前を好きでいる」
少し固まったあと嬉しそうに微笑む彼女に自分のもののはずの恋情が暴れだす。
けれど、痛くも辛くも苦しくもない。
まるで夢心地だ。このまま眠ればいい夢が見れそうじゃないか。
夢を見るのは楽しくて仕方がないな。
起きることを止めようかな
どれぐらいのヒロイン数がいい
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一人
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二人ぐらい
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ハーレム