頭ふっわふわな短編集   作:サラダ豆乳パン

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ルートが二つにわかれます


伊吹萃香ルート

 酒は良いものだ。

 

 そう思う連中は多いだろう。軽く酔えれば、さわやかな気分になる、陽気になる、とにかく気分がいい、など。ストレス解消、コミュニケーションの円滑化、疲労回復もできる。しかし、これだけではない。味にも色々こだわりがあるものだ。甘口か辛口か、喉越し、キレ、匂い。色もある。ビールのふんわりとした泡と蜂蜜色の液体におもわず唾を飲んでしまうほど魅了され、ワインなど果実酒は華のように綺麗な色を咲かせ、ウイスキーといった蒸留酒は夢をみせてくれるような琥珀色に心を奪われ、純米酒や清酒といった日本酒の美しき透明さは飲む者をいつか龍にもなれる魚にさせるほど。

 

 酒は悪いものだ。

 

 そういう人もいるだろう。酔いが強くなって気が大きくなると口だけでなく乱暴をする。口だけでも勘弁願いたいのに手は出るわ足は出るわならば、店側は出禁にするほかない。元から粗暴のものもいれば、普段は優しかったり、大人しかったりする連中も酔いすぎればこうなるものも少なくない。酔いすぎの連中も迷惑だが他の迷惑なのもいる。周りがイッキ飲みを進めたり、飲めないのに無理やり飲ませたり。そして、それが原因で大変なことになっても、自分の所為じゃない、と責任を放棄する。先の方は我を忘れて、後の方はその方が楽しいから、そんな理由で失敗を犯さないでほしい。酔いがひどければ死亡することもあるのだ。

 

 酒が生まれて今に至るまで。酒で失敗しないものはいなくならないし、死ぬ輩もいなくならない。気をつけろ、と昔の人が言ってもいなくならないのは何故だろう。酒の誕生から何百年も立ち、低く、安定しなかったアルコール度数は高く、そして調整できるようになり、味も匂いも、酒の薀蓄をたれる飲んだくれどもが納得する出来のものは数多くある。けれど、失敗も死ぬこともなくならない。人がバカすぎるからというものもある。賢いのに一週回ってバカというのも勿論ある。これだけではないが、まぁキリが無いのでここまで。

 

 結論から言おう。酒というのは良いものだ。酒自体に罪はない。飲む連中が自身や周りに程度や加減が分からんバカだらけだからいけないのであって、酒に罪はないのだ。酒と上手く付き合っているものは悲しいことに少ない。飲めば飲むほど偉いという、意味不明な意識は絶対にいらない。

 飲むものが、いいなぁ、とゆったり楽しむ。食品やそれ以外のものを肴に、一緒にいたいもの、あるいは一人だけで、酒と楽しめればそれでいい。初めは、そういうものだったはずだ。好きは押し付けるものではないのだから。楽しいは共有するものだけど、これも押し付けるものではない。言語もまともに整ってなかった時代でさえ、こういうことは分かっていた。好きだからこうして、楽しいからこうしろ、という“皆がそう思う”という意識でやってきたことは、たいてい何処かで顰蹙を買っている。小さな意見を優先しろということではない。そういう意見もあるんだ。なら、こういうのはどうだろうと、意見を新たに生まれさせることが重要だ。酒造りにも、こういうのはある。ただ度数を高くしろと作られたものは鬼でさえ飲まない出来に仕上がったのは数知れず。

 

 意見を出し、精査し、挑戦する。

 

 ときには失敗もあろう。そこで責任を擦り付け合わず、また別のやり方で挑戦することが大事だ。責任を負うことも大事だが、それは終わってからやるのではなく最初に決めておくべきものだ。リターンとリスクはあらかじめ計算しておくもの。リターンはハイに、リスクはローに。長期的に見るか、短期的に見るかで色々違うが結論は同じだ。

 

 一緒にいるなら楽しみたい。

 

 この意識があったから、外の世界だけでなく幻想郷でも人は生きている。そして、その意識があるからこそ、妖怪は人間に焦がれるのだ。

 

 自分も楽しみたいからまぜて、と。

 

 

 

 

 二人くっついて酒を飲み交わす。旦那はそこまで酒に強くない。そもそも酒より肴のほうが好きだ。だが、味はそこそこ分かるらしい。甘口の酒にはこの肴、辛口にはこの肴とこだわりもあるのだ。今日は辛口の酒。一応、樽であるがこれを旦那一人で飲み干すというなら、きっと丸々一日飲んだくれの生活の一週間でも足りない。

 

 

「ふぅー…」

 

 

 飲み始めてから半刻。たったそれだけなのに、旦那の顔はすでに赤くなりつつある。つぶしがいがないな、と頭の上から出たため息に笑ってしまう。

 

 

「うまいかい、夢蔵?」

 

「あぁ」

 

 

 最近の旦那は、肴より酒らしい。神社にいた頃は、宴会や私との飲みでも酒瓶の数より肴を平らげた皿の方が多かったのに。

 

 

「萃香、いいなぁ」

 

 

 意味も無い言葉だ。酔いがだいぶ回っていて、いつもの涼しげな笑みが子供のようなふんにゃりとしたもの。わたしより大きな手を私の手と重ね合わせたり擦り付けたりして遊んでいる。

 

 

「いいなぁ…」

 

 

 指の腹で手のひらを擽られる。上手く言えない甘さを感じた。その指を折らないように細心の注意をしながら握りこむ。やめろ、という意味ではない。戻って、という意味だ。

 

 

「夢蔵」

 

 

 こちらに傾いている旦那に声もかけた。

 

 

「んー…?」

 

 

 あどけない顔は可愛らしい。カリスマ性を持った、あの【博麗の武士】がこいつだとは、もう誰も分からないだろう。それほどまでに可愛らしいのだ。

 

 

「もう少しやるかい?」

 

「おう!」

 

 

 戻らない。そうしてしまったのは私だ。少々、寂しくもあるが独占できるのでこれでいい。

 

 

「すぅいーかー!」

 

 

 楽しそうだ。

 

 

「すいかぁ」

 

 

 なんとも楽しそうだ。

 

 

「す、い、かぁーっ!」

 

 

 戻ってなんてくれないんだろうな。

 

 

 今日の分の酒を飲んで機嫌が良くなった旦那に、なんとか笑いかけた。震えることもない、暴れることもない、妄想の所為で逃げ出したりもしないならいいんだ。

 

 酒はいいもの。旦那はいい人。そう、どちらもわたしにとっていいものなんだから。本当に、そうなんだから。握っていたはずの指は気づかぬうちに抜け出していて、わたしの手にはなにもなかった。呂律の回らなくなった舌でわたしの名を呼ぶ旦那に笑いかける。

 

 

「夢蔵」

 

 

 こんな権利なんかないんだけど。

 

 

「ねぇ、夢蔵」

 

 

 なんとか笑みを作って。

 

 

「戻っておくれ…」

 

 

 お願いをしたのだ。

 

 

 

 

 酒は良いもののはずだ。酒のおかげで夢蔵は笑っていられるし、萃香も笑っていられる。それが偽りのものだとしても平穏に過ごせるものならばよいのだろう。

 

 夢蔵はアルコール依存症になってしまっている。アルコールが切れると鬱状態や不安感に襲われ、それから逃れて自分を保つためにまた飲酒をする。暴力も盛んに。離脱症状の一つである幻覚に怯えている、そんなろくでなしとなってしまった。元々、酒が三度の飯より好きというのではなかったが、今では浴びるように酒を飲む。飲まないよう断酒すれば禁断症状を起こしてしまう。萃香の程度の能力で血中のアルコール濃度を下げてみても、その所為で離脱症状が起きてしまう。手の震え、動悸、イライラ感、不安感、そして重篤のものが起こる幻聴やせん妄。これらを起こしてしまう。永琳に治療をしてもらってはいるものの、一向に回復しない。どころか、悪化の一途を辿っている。

 アルコール依存症を発症すると、快楽を感じるのに重要な脳の領域に変化を生む。アルコールは間接的に、前脳に存在する神経組織の集団である側坐核のドーパミン濃度を増やすといわれている。側坐核は、簡単に言えば脳の【快楽中枢】だ。そこにドーパミン―中枢神経に存在する神経伝達物質で、快の感情、意欲、学習に関わる―の放出によって快の情動が生まれる。使用初期ではコレを求めて物質(アルコール依存症で言えばアルコール)の使用頻度が増す。依存性物質使用後の快の情動はずっとは続かずに、快の情動が立ち上がった後、少し遅れてそれを沈静する不快な情動が立ち上がって、情動は快・不快に偏ることなくバランスを維持しようとする働きがあるらしい。そして、快の情動は物質使用の繰り返しによって次第に減少し、それに代わり不快の情動が次第に増す変化が起こり、初めは快を得るために物質を使用していたのが不快を避けるために物質を使うという目的変化が起こると論ぜられている。この不快を取り除くために物質使用行動が強迫的になるという変化もあるのだ。ドーパミンが関与する脳内報酬系の機能が減弱し、不快の情動を除こうとする物質使用頻度が増す、ストレスホルモンと言われるコルチコトロピン放出因子を介した脳内ストレスシステムの働きの方が優勢になることが推察されている。

 

 簡潔に言えば、快に寄り過ぎないように不快を出してバランスとってたけど、いつしか不快の方が強くなっちゃった。不快が嫌だから快モット欲しいーとなっても、とった快分また不快にするよ。えー、やだー!!とストレス溜まる、そのストレスを失くしたいがため、より強い快を得て、また不快を繰り返すような感じである。

 

 快だけ得ていたい、そう誰もが思うだろう。だが、それは無理だし止めた方がいい。ラットでの実験でこの論説が生まれたが、彼らは快を得るために飲水も食事も取らず衰弱しても快を得続けたという。ろくに知力を持たない生物だからということではない。何かしら夢中になれば寝ることも食べることもしなくなる、それがずっと続くとどうなるかは分かるだろう。途中で止められればいいが、快楽には誰しも弱い。一度快楽を覚えれば誰しも溺れる。ドーパミンが過剰になると精神疾患を患うという説もあるのだ。ドーパミンは気持ちを緊張させたり興奮させたりする神経伝達物質。これの働きが強くなるから幻覚や妄想を起こすという説は小さな声ではない。実際にドーパミンの働きを活性化させる薬剤を使用し、それらを引き起こす例は多い。ストレスも一概に悪いとは言えない。ストレスという【不快なもの】があるからこそ、それを何とかしようと行動を起こせるのだ。コレがなければ何も進歩しない、下手をすれば何もかも破綻する。たとえば、《疲れ》というストレスを感じる。失くそうと休む。このストレスがなければずっと動けるだろうが、体は消耗品だ。いつか壊れる。それを阻止するためのストレスだ。過剰にあってもいけないが全くなくてもダメだ。

 

 夢蔵の話に戻ろう。彼はアルコール依存症だ。アルコールがないとどうしようも出来なくなっている。アルコール依存症に必要なのは断酒や節酒だが、夢蔵はそれらをしようとすれば発狂する。幻覚症状に怯え、上手くいかない現状に嘆き、わけもわからず暴力を振るっては、また酒に走る。依存症には周りの助けも必要だが、萃香は酒を飲ませてしまう。飲めば、異常行動は一時的にだが治まるのだ。やってはいけないことだが、可哀想という気持ちがあげてしまうのだろう。こういう場合、萃香もカウンセリングなどしたほうがいいのだが、それはもうやっていない。

 

 酒飲みの二人が可笑しく暮らしている現状。

 

 

 幸せでいよう、そう願ったというのに。

 

 

 

 

 

 

 意識が鈍い。それもそうだ、あまり得意でもない酒を飲んでいるのだから。酒を飲むのが、こんなに気分が悪くてこんなに心地良いのは何故なのだろう。愛した鬼を傍に置きながら酒をまた呷る。

 

 いつからか、酒に逃げるようになった。萃香とは上手くいっていたのだ。あの日まで。酔っ払って、手を出したあの日までは。

 

 いつものように手合わせをしていたのだ。その日は試しにと酒を一瓶飲み干してからの一勝負。いつもとは違う高揚感、ほてり、頭の絶妙な冴え。癖になりそうだった。酒気に溺れぬようにしている脳はまともではなく、視界もだいぶ揺れている。実際、視界だけでなく体も安定していなかった。まともでない状態での勝負は楽しかったのだ。萃香も楽しそうで満足。いつも以上に加減が出来ぬ互い。俺たちにとっては可愛らしいじゃれあいであったが、他の連中にとっては騒動以上の災害であったらしいのだけれども。その楽しいじゃれあい中、つい力が入りすぎた。猫が気まぐれにネズミをいたぶる様な、そんな軽い気持ちで力が入る。それに萃香も応戦した。それは、萃香の程度の能力の行使。

 萃香の程度の能力は【密度を操る程度の能力】。この能力で異変を起こしたことがあるのは分かっている。それの行使。何に使ったか。“俺”にだ。俺の《理性》の密度を下げて、《本能》の密度を高めた。俺とて、所詮は人。人とてチョットばかし頭がいい獣。理性が小さくなれば、どうしようもなく。本能が大きくなれば、どうしようもなく。共に全力を打ち放つ。すると、勝負ではなく合戦だ。俺は所詮人とて、並みの力ではない。もはや自慢ではなく忌むべきことになったが、幻想郷で俺を実力で倒せるものはいない。俺一人で幻想郷中の猛者を全て絶てるほどの実力。萃香は鬼だ。見た目は幼く愛らしくても、軽く撫でただけでも普通の人間は骨を物理的に折られるほど。そんな者達が、理性を失くし本能を暴きながら戯れる。勝ち手は俺だった。重体になったのは萃香だ。重傷より重体の方が容態が悪い。死にかけの状態だ。四肢は折れ、肉は抉れて内臓が毀れている、そのような状態。だが、そのような状態にしたというのに俺の理性は微塵も戻らなかった。ただ本能のままに貪った。鬼の象徴である二本の角を折ってそれを萃香の穴に突っ込んだり、飛び散った指を無邪気に拾ってはばら撒いてを繰り返していた。ここまででも異常だが、この後はもっといけない。本音を大いに曝してしまった。具体的には、“萃香が嫌いだ”ということ。詳しい内容は言えない。少しでも曝せば俺はもう何も出来なくなってしまうから。とにかく、俺はいけないこと、最もしてはいけないことをやらかしてしまったのだ。萃香と意図的に育んできた情が消えた。そうなるはずがそうはならず。俺は駆除されるべきであったのに、謹慎処分すらなく。

 

 そして、萃香との仲は続いた。

 

 正確には修復にかかった。

 

 

 萃香は手遅れになりかけつつも月の賢者の力は凄まじく、そして鬼の生命力も非凡なもので三月ほどかけて回復した。俺との仲は、といえば、良い方に向かった。あれだけ酷いことをしたのに、酒に誘うことをやめてくれなかった。罪悪感が生まれてしまう。俺は、どんな相手にも遠慮なく接する。つまり徹底的に差別していく生き方をしていた。そこに好悪の感情を含ませず、義務的に為す。ある程度仲良くなれば、それを維持する。越えようとしてくれば無くさない程度に蹴り落とす。難攻不落な壁を築き、その前に比較的安全なよう座布団を並べるような“遠くにいてくれ”という姿勢。家族は特別枠。他は種別も性差もなく別けていた。等しく好きで、同じように嫌いの感情をどんな相手にも持っていた。それを気取られたことはない。自分の評価を気にしたから、その考えを施行したのではない。そうすれば“皆良くなる”と信じぬいたからだ。でも、どれほど強固な壁でも崩れてしまえば意味は無い。壁を崩されれば為す術がなかったのだ。

 

 ちゃんといえば、おそるおそる触れ合いだした。

 

 子供のときのように純粋ではないし、自分の本当の汚いところを見られているのだし、俺は苦しくて仕方がなかった。障害が残ることはなかったが殺しかけたのだ。理性が残っていればそうはならなかった、と萃香の言葉に甘えることは出来ない。いつもの手合わせも、話すことも、一緒の空間にいることすら苦しかった。申し訳ないというのは勿論あった。反省を言葉だけでなく態度で示しても、萃香は気にするなと笑うだけ。より苦しむ自分がいる。それを見かねたのか、酒を勧めてきたのだ。酒で失敗したなら、今度は酒で成功しろと。何が成功なのか分らないが、苦しみから逃げ出したかった俺は酒を飲んだ。

 

 結果、酒がなくてはまともになれなくなった。酒があってもダメなのだが、ないとよりダメになったのだ。

 

 家族に見放され、友人であったものにも見捨てられ、今隣にいる萃香だけになってしまった。

 

 触れ合うことをしだした結果、全部壊れてしまった。萃香の所為でなく俺自身の所為で。楽しそうに笑っているのだって本当は嘘だ。飲んでるときは何もかも面白そうに見えるが、すぐに苦しくなる。吐き気といった酔いによるものではなく精神的に苦しんだ。心が暴れるのだ。許されたいと。誰にか、萃香に。しかし、本当に許されたいのは俺自身に対してなのだ。究極的な利己主義に吐き気がする。自己保身にひた走る。俺は自分のことをどうしたいのだ。隣で悲しむ者をどうしたいのだ。

 

 許してくれ許してくれと、苦しんで、暴れて。それをなんとかしようと、また酒に浸る。

 

 

 隣にある心地よさに吐き気がする。あんなに嫌いだったのに。どうして、どうして、いなくならないでと縋ってしまうんだ。

 

 あぁ、本当に嫌いで。

 

 本当に、……好きなんだよ。

 

 今まで気に入った人間は幾らかいた。どいつもこいつも好ましい奴らだった。そんな奴らもいなくなって年を数えるのも馬鹿らしくなってきた頃、旦那がいたんだ。わたしを倒すのに赤子の手を捻るが如く。好ましく思った。神社に転がり込んだのは当たり前だろう。鬼は人が好きだ。強い奴は尚更。手合わせをして、それが終わったら茶をしばいて、同じ釜の飯を一緒に食べてきた。共にいることが多くなり、楽しみが増えていたのだ。わたしほどの鬼が手合わせするということは、軽い戦争と言ってもいい。命は賭けないようにという繊細なことは面倒だし嫌い。だから、ギリギリで遊んでいた。何度も遊べば勝手が分る。互いの好き嫌いが伝わり共感し共有する。それが、より嬉しくなる。

 

 そう、どんなことにも付き合ってくれる旦那が、好きになった。

 

 遊びの勝手が分っても、男女のものは違う。伊達に生きてないし、それなりに経験もある。でも、ここまで明快に好きという情が湧くとは思いもしなかった。旦那が風呂に入った後にモヤモヤしたり、同じ石鹸のにおいをさせる自分の体に照れてしまったりと、なんとも乙女過ぎることになった。しかし、わたしに女らしいところはあまりない。酔っ払っていないと、ダメなのだから。素面で対するなど無理でしかない。酔っ払いでも、いやだからこそ好きを伝えるのは綺麗になる。

 

 だというのに、わたしは旦那をちゃんと愛せてない。

 

 酒に溺れてしまった旦那。皆から離して、わたしと二人っきりにした旦那はより溺れた。何も悪いことをしていないのに、謝罪をする様。それが、苦しかった。その様が見たくないから、またこうして酒を勧めてしまう。

 

 馬鹿。馬鹿だ、わたしは。いくらでも謝罪をやめさせる手段はあったのに、もっと上手く好き合えるのに、ずるくて楽な方に逃げてしまった。この一杯で止めさせればいい、でも止めさせられない。だって、怖いから。また、嫌われるのが怖いから。あの日は忘れない。永遠亭に突っ込まれたとき、何度も悪夢として見た。わたしを嫌いにならないで欲しい。他のやつが嫌いでもいい、でもわたしだけは好きで欲しいのだ。綺麗なものではない。乙女らしいものでもない。ひどい利己的なものだ。

 

 嫌われるのは慣れていた。わたしは鬼だから普通は忌まれるもの。節分の豆まきが残っていることが、鬼を忌んでる結論になる。豆まきはいい。むしろ大歓迎だ。これがあるから、わたしは人と触れ合える。でも、夢蔵には忌まれたくない。嫌われたくないし、好きでいて欲しい。好きでいてくれなきゃ嫌なのだ。

 

 好きでいる。難しいことだ。  嫌いになる。簡単なことだ。

 

 わたしは難題をずっとこなしている。旦那に難題をずっと応えていて欲しい。好きでいることは苦労である。でも、薄れることはない。変質はしてしまったけれど薄れることはなく深く生きている。旦那は難題を解いているのだろうか。また程度の力で本能を暴れさせれば答えが出るだろう。でも、怖い。自分の体がどうなろうと構わない。でも、また嫌いということが分ったら。

 

 生きていたくない。

 

 好きでいて欲しい。もっと好きになって欲しい。嫌いにならないで。好きでいて。嫌いになんてならないで。

 

 怖い。怖くて苦しい。

 

 

「ねぇ、夢蔵」

 

 

 苦しいから。

 

 

「すきだよぉ…」

 

 

 好きになってください、そう、愛する人に懇願した。

 

 耳を疑った。

 

 

「………」

 

 

 今なんと言ったんだ。萃香、なぁ、なんて言ったんだ、お前。

 

 

「すきなんだよぅっ…!!」

 

 

 泣いている。

 

 俺の。

 

 好きな奴が、泣いてしまっている。

 

 

 こんな俺を好きだと、言うのか。初めて、好きな奴から告白された。もう幾つ過ぎて共にいるか分らないが、こんな事言われたことはなかった。こんな、こんな。酔いが醒めるような事。いつも笑っていた。いつも戻ってくれと笑っていた。でも、本当は泣いているなんて、本当に好きだなんて、そんなこと思っているなんて知らない。俺に好意を向けているのは知っていた。それを知りつつ俺の深いところには近づかせなかった。そしてあれだけのことをしたのに、なんで好きなんだ。理解が、出来ない。

 

 

「あんたがねぇ…! っく、すきなんだよ…」

 

 

 尻込むように小さくなる声。でも、温度は熱いまま。

 

 俺が萃香を好きになるのは理解できる。もうどうにもならないから、どうしてもいい相手といたいと好きになれる。だが、お前はどうして…?

 

 

「あんたといるとうれしいんだ…。あんたと飲む酒は、ホント美味いんだ」

 

「………ぁ」

 

「いっしょにいてっ!! いっしょにもどろう…? 気分のいいふたりにさぁっ…!!」

 

 

 二人でいたい。二人で…? こんな俺といたいってのか?

 

 

「はぁはっ」

 

 

 酒臭い息で笑う。萃香の涙は止まっていない。

 

 

「萃香…」

 

 

 酒で満ちた杯を放る。お前の力は、今は要らないのだ。まともに力の入らない体を全力で動かし、萃香を抱きしめる。

 

 

「好きだ」

 

 

 酔いなどしない。そんなもの忘れた。

 

 

「好きだ」

 

 

 呂律は回っている。滑舌もいい。酒やけしていた喉は絶好調。

 

 

「ぁ…?」

 

 

 素面な萃香。はは、好きだ。

 

 

「好きだ、萃香」

 

 

 俺の中で、まだ生き残っていたチカラを全力で行使する。酒の力など、もう頼らない。長く使われず、酒の力に負けて小さくなっているチカラ。動け、巡れ、存分に博麗夢蔵(萃香の好きな奴)に成れ。描いていけ、萃香に好かれる自分を。現れろ、俺自身も好きになれる俺を。

 

 そして

 

 

「夢蔵……?」

 

 

 ちゃんとしろ。

 

 

「萃香、好きなんだってっ!!」

 

「夢蔵っ!!」

 

 

 ちゃんと、愛させてくれ。

 

 チカラが動いて、心地よくなる。新しく正常に動き出した、似非臭い恋情。本物であり続けて欲しい。高まる心拍数と体温。異常事態ではない。正常に稼動している証拠だ。でも、あぁ、気分が良すぎる。まるで夢心地だ。このまま眠ればいい夢が見れそうじゃないか。夢を見るのは楽しくて仕方がないな。

 

 

 

 

 

起きることを止めようかな

 

視界を白くする

 

視界を黒くする

どれぐらいのヒロイン数がいい

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