・注意事項
・オリ主と千聖さんは高校を卒業して大学生の設定です。
気づいたら私は記者会見の場にいた。近くには誰もいない。私だけがここにいる。
無数の光やシャッター音が否応でも目や耳を侵し続ける。
あぁ、来てしまったのか、この時間が。
たくさんの嘘をつく時間が。
『千聖ちゃん、今回のドラマの演技の出来どれくらいでしたか?』
『はい、自分なりに最高の演技が出来たと思います!』
ーー嘘。あんなの至らない点ばかりだったじゃない。
『千聖さん、今回の演技はどれほどだったでしょうか?』
『はい、個人的にはよかったんですけれど、まだまだ練習不足なところが多かったような感じですね』
ーー嘘。練習なんて毎日みっちりやったじゃない。
『千聖さん、今回の映画はーー』
『千聖さん、〇〇さんがこのように言ってーー』
『パスパレの次のライブについて質問なのですが』
『その件はーー』
『そんな事を言ってくださっていたんですね!誠にありがたいことです』
『ライブはーー』
嘘……嘘……嘘。
私はあの映画については、ただ正しく演技しただけ。特に何も思い入れはない。
私は知っていた。〇〇さんの言葉を関係者の方から既に聞いていたから。
私の志なんて貴方達は分かっているはずでしょ。いつも言っているのだから。
なんでこんな言葉を私は吐きつづけなければいけないのだろう。
こんな事をしなきゃならない理由とは何だろう?
「ーい」
誰よ、あんた。聞きたい事なんてもうないでしょ?
「ーー千聖」
何よ、しつこい。あんたの声なんてーーあれ?
この声は?
「千聖」
はっと目を覚ます。
いつ間に寝ていたのだろう。覚えていない。
取りあえず下を向くと机には私が持っていないカップが。中には半分くらいの紅茶がある。
「やっと起きた」
隣からさっき聞いた声が聞こえてくる。
振り向くと……彼がいた。
綺麗な艶のある髪に、ガーネットのような綺麗な赤い双眼、白に近い肌……いつ見ても男性とは思えない見た目だ。見た目の近さで言うとお人形の方が圧倒的に近い。そのため、道端で人に会うと会った人全員が彼を女性と見て声をかけている。
まぁ、私のような女優にとっては中々ありがたい事ではある。
「うなされていたけど、大丈夫か?」
「大丈夫。ちょっと悪い夢を見ていただけよ」
大丈夫じゃなかった。背中から大量の汗が出て服に張り付いている。気持ち悪い感触だ。
今すぐにでも着替えたい。けれど、あいにく今日は電車を使わないといけない喫茶店に来てしまっているから、それが出来ない。
「はぁ……ほんと最悪」
「なにが最悪なんだ?」
「貴方の顔がその辺の雑草よりも綺麗だという事実に驚いていただけよ」
「……寝起き早々から
「あら、怒ってる?」
「……怒ってねぇよ」
「青筋が出てるのだけれど」
「怒ってねぇって俺が言うんだから怒ってねぇんだ!」
ふん、とそっぽを向く。
ほんと、可愛らしい行動取ってくれるわね。そんな事やられると、余計からかいたくなるじゃない。
でも、ここらが潮時ね。だって拗ねて私の気まぐれに付き合ってくれなくなるもの。
「安心しなさい冗談よ、冗談。私の彼氏は私と釣り合う程、顔がいいわ」
「じゃあ、なぜ棒読みなのですか千聖さん」
彼はこちらに向き直し、私の棒読みにツッコミを入れる。
けれど、怒っている感じはしない。多分さっきの言葉(特に最後らへん)で褒められて機嫌がよくなったのだろう。本当にチョロい。
彼は少しでも褒められると、すぐに気分をよくする。一体、どういう心持ちで人生を過ごせば、そんな性格になれるのかしら。少なくとも聞く限り、そこまで良い感じで無かった筈なのだけれど……。
「っていうか、千聖。お前、勉強教えてくれるんじゃなかったのかよ」
あ、そういえばそうだったわね。
今日、彼に勉強を教えるって約束をしていたわ。すっかり忘れてた。
「そういえばそうね。じゃあ始めましょうか」
「よろしく頼むぜ千聖」
そう言って彼は勉強道具を出した。
「ぐぅ……分からん、この問題」
「全くね、貴方がここまで容量が悪いとは思わなかったわ」
彼は唸り声を上げるだけでなにも言ってこない。かわりに頭を抱えて、机に突っ伏す。
どうやら彼の頭は悲鳴を挙げているようだ。
「……数学なんて将来、足し算、引き算、掛け算、割り算しか絶対使わないだろうが。なんでやるんだよ」
「恨み言やるより手を動かしなさい、時は待ってくれないわ」
「えらいいきいきしてんな、お前」
「そう?」
「あぁ、いきいきしてる。流石はドSで知られる千聖様だ」
……あら、面白い事言うわね。そんな事言うなら……
「あら、誰かのスマホがこんな所に」
「お、おい返せ!」
彼は手を延ばして自身のスマホを取り返そうと身を乗り出す。でも残念ながら、私は彼の行動パターンはもう読めている。
そのため彼はスマホを取り返す事は出来なかった。
一方の私は彼のスマホを開いて、彼のやっているソシャゲを開く。
「へー……かなり貯めているじゃない」
「!」
「私一回、ガチャ回してみたかったのよね」
「千聖、それだけは……」
声に勢いがなくなる。おそらく、私がやろうとしている事を感づいたのだろう。
「あら、ピックアップ来ているじゃない。しかも一日限定の。これ回してみようかしら」
「それだけは、それだけは止めてくれ!それは俺が数ヶ月前から貯めたものなんだ。だからー」
彼の顔には必死さが滲み出ている。ふーむ……もう少しその顔を見ていたいという悪戯心があるにはあるけれど、流石に可愛そうだし……。ここらで手を打つとしましょう。
「しょうがないわね……はい」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
ふふふ……期待を裏切らないでくれるわね。
流石は私の後輩。
だから良しとしましょう。貴方が自分のスマホを受け取るときに言った小言については。
「ふぃー、疲れた〜」
夕日が指す頃に彼の勉強が終わった。本当に大変だった。
まさか、こんなに頭が悪いなんて思わなかったわ。大学のは良しとしても高校の基礎も出来ていなかったのには流石に驚いた。
貴方、本当に私より頭の良い大学に通っている人よね。普通、私が分からない問題が多いはずなのに、なんで貴方の方が多いのかしら。
本当に世の中不思議ね。
「あなたのようなこを後輩や友達に持った人は苦労するでしょうね。同情するわ」
「
「あら、ばれた」
「ばればれ過ぎるだろ」
それもそうね、私は彼のツッコミに自然と笑いが出てきた。
おかしいわね、彼はお笑い芸人でもないのに、なんでこんなに私を楽しくさせるのかしら。他の人が同じような事、いやそれ以上の事を言っても私は偽りの笑い(もちろん、本当の笑いもあった)だったのに。
やっぱり私がそれだけ彼との一時を楽しんでいるから……なのよね。
「……ねぇ」
「ん、なに?」
なら彼に言えば……
「貴方は」
「私を」
この思いを……
この嘘を受け止めてくれる?
「……」
「……」
沈黙が二人に立ち込める。
周りの人達の出入りはあまりない。そのため聞こえてくるのは少ない客が立てる音のみ。
この状況を続けたところで意味がない事は最早明白。
私は帰り支度を始める。持ってきた物が少ないため、すぐに終わった。
「さ、帰りましょうか。時間も時間よ」
「そうだな」
彼もいつの間にか机の上にある物を片付けていたらしく、いつでも退出できるようになっていた。
私達はすぐに会計を済ませ店から出る。
斜陽が地平線に沈もうとしている。
今日が終わる。明日には何の仕事があっただろう。
「なぁ、千聖」
彼は私の前まで歩くと、こちらを振り返り、
「俺とお前は違う人間だ。だから何を考えているのかも分からない。けれど………お前の小言を聞くぐらいなら俺にでもできる。だから遠慮なく言ってもいいぜ!」
ふんす、と胸を張って彼は親指を自身の手に指す。
あぁ……貴方って人は……。
「馬鹿ね」
「馬鹿じゃねぇよ!」
「じゃあ、なんて呼ぶのかしら?」
「天才の中の天才ハイドンも恐れた天「やっぱり馬鹿ね」だから馬鹿じゃねぇ」
そんな幼稚な会話をする私達二人。
ふと、頭上を見ると最早沈む寸前の太陽とこれから昇ろうとする月が寄り添っているように見えた。
これを書いて投稿したことに後悔はありません