血界×結界 のちょっと未来パラレル
※※※注意!※※※クロスオーバー違う作品の男性キャラ同士のCP(アラフォー番頭×20代利守)です 事後・事前描写
▼あらすじ:紐育大崩落に巻き込まれ3年間人形状態でライブラに保護されていた利守。紆余曲折を経て日本に帰国するも、大学を卒業したのちHLのライブラへと戻ってきたのだが……
▼お題は「わるものマニア」(http://www.w-mania.com/)より。
pixivより転載

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【柵越え腐向け】気まぐれ【ステ利】

 戯れや気まぐれであればよかった。そう思ったのはどちらか。

 

 ベッドのシーツは清潔だ。けれども、微かにスティーブンの香水の匂いがした。薄暗い寝室。ベッドの傍らにこの部屋の主人はいない。目線をやると、ベッドの縁に腰をかけたスティーブンがいた。スマートフォンを耳に添えている。甘い声で囁いていた。

「あぁ、うん。わかっているよステファニー。うん。明日また17時にいつものレストランで会おう。それじゃ」

 スマホの終了ボタンをタップする。それを見届けたのは、自身がスティーブンの首に腕を回して撓垂れ掛かったからだ。スティーブンからは特に拒絶されることもないので、そのまま項に首を埋める。そして囁いた。

「今度はどこの情報源ですか」

「今追っている新興宗教団体の信者の女性だね」

「今追っているところっていうと……あぁあそこか。毎度お疲れ様ですスティーブンさん」「全くだ。そろそろ女性を相手するのも苦労してくる年だというのに」

 撓垂れ掛かる自分の手を掴んで弄りながら、スティーブンは溜息を吐く。今の自分の位置からは見えないが、その顔に確実に年輪が刻まれているのを自身はよく知っている。はじめて逢ったときはたしか29才で、その時の自分は17才。今の自身が25才なのだから、それから12年分年を重ねるのはヒューマーとしては当たり前のことだった。それでもスーツの似合う伊達男ぶりは変わらないのだから隙のない男だとも思う。唯一、スティーブンの表の顔も裏の顔も知ってしまっている自分の前では、多少は気を緩めているようだったが。

 17才から20才までの間、自身はHLを構築する結界に、空間支配系能力が巻き込まれ意識が結界へと持って行かれた。その間自身の意識はHLと解け合い、脳はHLの情報の洪水に晒され続けた。結果として、HLの深層まで「見て」しまっているし――ライブラの裏で秘密裏にスパイや敵を狩るスティーブンのことも知ってしまった。それを、スティーブンも承知の上だった。

 紆余曲折を経てその結界から解放され日本に帰国し、大学を卒業後ライブラへと戻ってきた。結界から解放されたとはいえ刺激され拡大された空間支配能力と、自身の頭脳、それに僅かながらの結界術で自身はライブラに貢献している。

 尤も、誰も想定していなかった。事実上の副官であるスティーブンの肉体にも、自身が貢献していることを――自身はスティーブンの手からスマホを取り上げると、それを充電器に差し戻した。抗議の声を上げるスティーブンの顔を手で挟み、口付ける。そして囁いた。

「……さっきまで、僕のことをあんなに可愛がってくれた人が言う台詞ですか」

 擽り笑いながらの台詞。掛け布団から出て来た自身は、スティーブンのワイシャツ1枚だった。

 この関係を築きはじめたのは、ライブラに戻ってきて1ヶ月と経たない頃だったと思う。誰もいない職場、スティーブンの仕事を手伝っていた自身が、彼に口付けられた。そのときは驚いた。驚いて、拒絶すればよかったのだと思う。それがお互いのためだった。ただ、自身は見てしまった。スティーブンの、疲れ果てた目を。それを思うと、拒絶できず――そのままソファで体の関係に至ってしまった。しばらくソファに座るどころか見ることすらできなくなったのは自身の未熟さだろう。

 無理もない。スティーブンには恐らく限界が来ている。ライブラの「敵」の排除。それを陰ながら続けること。その苦悩を打ち明けることができるのは、すべてを知って、なおスティーブンを責めないし誰にも口外しない自身だったのだろう。正確には打ち明けてもらってはいない。ただ、自身を抱き締める。抱き締めて、そのまま抱く。それが自分たちの関係のすべてだ。

 言っておくが、自身は本来ノンケだ。女性が好きだ。大学時代に何人かの女性と浮き名を流したこともある。なのに、この男には抱かれてしまう。暗く氷のように、それでいて熱い情熱に絆されてしまう。スティーブンは顔を挟まれたまま苦笑した。

「俺はノンケなんだがなぁ……」

「僕もですよ」

「俺を誘うお前が悪い」

「誘った覚えなんて微塵もありません。やばい薬でもやったんですか。ライブラの番頭ともあろう方が幻覚を見ないでください」

「お前の物言いは公私問わずきついな……クール&ドライだ……はぁ……」

 スティーブンは自身の手を放すと、その手首を掴み、ベッドに押し倒す。額に、頬に、唇に口付けを落とすと、首筋に吸い付いた。やや息を上げる自身に、スティーブンは囁く。

「それでも、俺はお前を手放せない。悪いな」

 そして首に顔を埋めてくるスティーブン。手首は掴まれたままだったから、その頭を撫でてやることはできなかった。代わりに、頭に顎をすり寄せる。

「……僕もですよ、スティーブンさん」

 この関係にはデメリットしかない。スティーブンは弱味を晒す相手がいることが。自身は、彼の秘密を知っていることでいつ物理的に首を切られることになるかわからない状態なのが。何より、お互い優先すべきことがある。「ライブラの存続のため」、自分たちは動いている。

(いっそどちらかがライブラに仇為してくれれば、切り捨てられるのに)

 そんなことをどちらともなく考える。しかしそれは無為な考えだとも思う。ライブラのために敵を排除する人間。組織への忠誠心がなくばできないことだ。だから、無為だった。

 鎖骨に、胸に唇を落とすスティーブン。彼は、口を離して言った。

「俺にとって、1番幸せだったのは、お前が人形のように椅子に座り続けていた、あの3年間だったよ」

「……2番目は」

「お前が日本に帰国後、電話やLINEをやっていた頃かな」

「……直接再会してからは、不幸ですか」

「不幸ではないよ」

 一旦言葉を切って、彼は言った。

「幸せでもないけどな」

 そして、スティーブンは自身の腹に手を這わせた。

 

 戯れや気まぐれであればよかった。

 お互いだけが特別。それだけで運命的な響きはある。それでも、自分たちの関係は、運命と片付けるには、あまりにも――あまりにも、だった。

(宿命、だな。腐れ縁と言い換えた方が近いかも知れない)

 離れたいのに離れられない。一回りも年の違う、彼らは互いに執心してしまっていた。

 恋愛と呼ぶには、気まぐれというには、あまりに強すぎる執着がそこにあった。

 

 今夜も、自身の喘ぎ声が、スティーブンの寝室に響いた。

 

 

 

 



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