短めの短編です。
この世界には個性と呼ばれる特別な力がある。
その力は十人十色、まさしく個性的な物。
ならそれを持たない僕はきっと[誰でもない]ということになるのだろう。
僕は緑谷 出久、この超常の社会においては珍しい[無個性]の男子中学生だ。
「お前だけだぞ、まだ進路希望出してないのは」
先生は僕を見ずにそう言った。
「そりゃお前は今時珍しい無個性だけどな、勉強に関しちゃうちのクラス…どころか学年でも上位に入るじゃないか」
先生は僕を励ますような声音で言うが、その目は僕を見ていない。ただ仕事だから仕方なくやっているという感じだ。
「すいません…でも何処に行くべきか、まだ決めかねていて…」
嘘だ、本当はどこに行きたいかはもう決まっている。
ただ漠然と、どこにいっても変わらないだろう、今のまま誰も僕を見てくれはしないのだろうと考えて少し寂しくなって、誰かに僕のことを見てほしかっただけだ。
「はぁ…ま、明日までには考えとけよ」
まぁ、結果はこの通り僕のことなんて目もくれなかったが。
「はい、すいません」
僕は職員室から出ていこうとした。その時職員室のドアが開いて僕の前に幼なじみのかっちゃん…本名は爆豪 勝己…が入ってきた。
「うーす、受験の相談にきましたー」
そういって僕の横を素通りして行く。幼なじみといっても幼稚園からずっと一緒の学校というだけで、かっちゃんは僕のことなんて欠片も興味がない。幼稚園の頃に僕につけたデクというアダ名も忘れているのだろう。
「おお、勝己か!よく来たな、まあ座れほら!」
先生はそう言ってかっちゃんに椅子を差し出した。
「大袈裟っすよ」
「なにを言う、うちから雄英に受験しに行くやつなんてお前だけだぞ!しかも模試もA判定、[個性]だって優秀なんだ、うちから初の雄英合格、しかもヒーロー科に入るかもしれんのだぞ、全く大袈裟じゃない!」
「かもじゃなくて入るんすよ、しかもトップの成績でね」
かっちゃんはニヤリと笑ってそう言う。かっちゃんの[個性]は[爆破]といって掌からニトロのようなものを分泌して爆発させる強力なものだ。
「っかー!言うじゃないか勝己!有言実行してくれよ!期待してるからな!」
「もちろんっすよ」
僕の時とはえらい対応の違いだ。まぁ、無個性の根暗な生徒より優秀かつ強個性の人間を贔屓するのは当然のことだろうが。
「失礼します」
僕はこれ以上この光景を見ていられなくてか細い声でそう言って職員室を後にした。
「なんだよ畜生、僕の時は見もしなかったのに」
そう呟いてみても実際はもうなんとも思っちゃいない、ただいってみただけだ。こんなことはもう飽きるほど繰り返してきた。4才の頃に無個性だと診断されたときから。まず友達が皆僕のことを無視するようになった。その次は先生たちからの対応が雑になった。遂には僕のことを慰めてくれた母親さえもが僕を見なくなった。僕は誰からも見られることのない、ただいる…いや、ただそこにある物となった。何とかしようと思って奇抜な服装をしたり、奇行にはしったりしても、誰も僕を見なかった。僕はその時、この世界では[個性]は文字通り個性…つまりそれを持つ人間を、こういう人間だと示すものなのだと。だからそれを持たない僕は人間として見られないのだと。そう悟ってしまったのだ。僕は階段を上って屋上に出た。だから僕が居なくなってもきっと誰もなんとも思わない。三日もすれば忘れるだろう。僕は手すりに足をかける。誰も僕を見やしない、マスコミだって[無個性]の人間が一人いなくなったくらいじゃなんとも思わない。手すりを乗り越えて下を見る。この世界で異物なのは僕の方だ、個性のない人間なんて本来はいやしない。皆何らかの個性を持つものなんだ。だからそれを持たない僕はきっと人間じゃない。だからいなくなった方がいい。
「最期くらい誰かに見てほしかったな」
僕は飛び降りた。誰かの悲鳴が聞こえる。
「嗚呼、やっと見てもらえた」
それが心底嬉しかった。
緑谷 出久という少年は死んだ。しかし誰もなんとも思わなかった。悲鳴をあげた生徒もすぐに興味を失い、マスコミも全く食い付かなかった。彼の母親さえもすぐに彼のことを忘れ、彼の部屋の物をすべて見もせずに処分した。そこに混ざっていた遺書にはこう記されている。
『僕はうまれてくるべきじゃなかった。生きているべきじゃなかった。それでも誰かに見てほしかった。』
個性と[個性]がごっちゃだったらこんな感じかなーと。