──何やら紫苑さんの様子がおかしい。
周囲の観客が先程まで行われていた試合の感想戦に興じる中、月影栞は隣に座る白髪の男……百鬼紫苑にちらり、と視線をやる。
彼は何かを考え込むように時折唸っており、腕組をしたかと思いきやスマートフォン──彼が暁学園に所属した際に配布された物だ──の上で指を躍らせる……というには、遅々とした速度だったが。
流石に覗き込むような礼を欠いた真似をするつもりはないが、本当に最低限の連絡にしかスマホを使わない彼が珍しい事もあったものだと思う。
その他にも気になる事はある。
栞の事をじっと見てきたかと思えば「なんでもない」と視線を逸らし、再び思考の海に沈んだ。
あとは暁学園に所属していた有栖院凪と一輝と共に出かけ、外で一緒に食事をしてくるとも栞は聞いた。
尤も不思議な面子であるとは思わなかったし、紫苑は良くも悪くも自分と一緒に行動することが多い。同性の友人と一緒に外出するのは好ましい傾向だ。
そこに女の自分が割って入っていっては話しづらい話題もあるだろうし、何より野暮な事この上ないと同行は謹んで辞退した。
中でも一番と言えたのは試合数減少に伴い、本日中に二回戦と三回戦を実施することになるという報せが、七星剣舞祭運営委員会から届いた時だろうか。
栞が諸星と紫苑を『夢の世界』に招き《覚醒》と《魔人》に関する諸注意をしていた裏で、現実世界においてはステラ・ヴァーミリオンの遅刻によって先送りにされていたBブロック第四試合が行われていた。
当試合においてステラはあろうことか、自身の遅刻のペナルティとして1vs4の変則試合の実施を要求。紆余曲折ありながらも運営委員会及び対戦相手であった鶴屋美琴はこれを受諾。
また世界最多の総魔力量を誇るAランク騎士に対し、彼女を打倒する絶好の機会であるとして禄存学園の
その試合において重傷を負った多々良と凛奈は明日以降の試合継続が困難として棄権届けを提出。
只野はステラが振るう最強の剣《
ステラの勝ち上がりが決定した。
その諸々によって七星剣舞祭運営委員会は異例とも言える三回戦繰り上げを決定した。
これには現場に大層な混乱をもたらし、ましてや二回戦に出場する選手たちにとっては大事。中でも一輝や紫苑のような総魔力量が極めて少ない者にとっては、戦略の幅は否応なく狭まってしまう。
のだが……紫苑が見せた表情は戦略の幅が狭まるだけではない、と栞に直感させるだけの物があった。
事実、七星剣舞祭運営委員会のこの強行に要素としてステラが関わっていると聞いた時の彼はステラに恨みがましい、という視線を向けたのだから。
ただ戦術が狭まるというだけでは紫苑はこうはならない。なにせ彼にとって──栞としては不本意だが──逆境というのは常日頃から彼の側にある物。それも一輝の様に一日一回の大技なんて物を有さず、否、振るう全ての剣技が必殺の妖刀である紫苑にとっては一輝よりも受ける影響は少ない筈。
一体何故……? と思いはするが、その思考はアナウンスによって中断される。
『Cブロックの選手の皆様へご連絡します。これより十分間の休憩とリング清掃の後、Cブロック二回戦第一試合を開始します。Cブロックの選手は控室に集合してください。繰り返します──』
「あ、もうそんな時間ですか」
Cブロックと言えば栞が登録されているブロックだ。彼女は立ち上がり、紫苑に視線を向ける。
「行ってきます。紫苑さん」
「あぁ。……強いぞ、珠雫は」
彼女の対戦相手は《
紫苑が戦った際には粗方彼が想い描いた通りの勝利を収められたとはいえ、騙し討ちと奇襲を用いざるを得なかった強敵であり、他ならぬ彼から七星剣舞祭への出場権を譲渡された──即ち彼が戦った中でも随一の実力者であると認められた者。
断じて見くびっていい相手ではない。
その認識は栞もまた同様。頷き、
「承知しています」
愛する兄との会話すら放棄して、自分を打倒するためのウォーミングアップとシミュレーションに時間を費やしているだろう彼女に想いを馳せ栞は七星剣舞祭二回戦の舞台へと歩みを進めた。
「すまん、ここ座って良いか」
「……百鬼くん。勿論、構わないよ」
栞がいなくなったことで手持ち無沙汰になった紫苑は馴染みの面子である一輝達の近くに向かい、腰を下ろした。
その近くには一輝やステラ、有栖院、そして先程合流した破軍学園新聞部部長・日下部加賀美がいる。他ならぬ日下部こそ、ステラの大立ち回りによって七星剣舞祭を取り巻く一連の騒動が起こったという情報の提供者である。
彼女は自分達を裏切り、暁学園に所属した紫苑に対し何か言いたげな視線を向けはしたものの彼はこれを無視する。
紫苑と日下部の間にさほど交流はない。わざわざ何故紫苑が暁に所属したのか話す筋合いなどないからだ。
わずかに淀む空気を払拭するように、一輝は紫苑に話しかけた。
「……それにしても災難だったね、百鬼くん」
「全くだ。お前の嫁だろう。ちゃんとしつけておけよ」
「しつけるって! アタシは犬じゃないんだけど! というかアンタなんなの!? さっきはアタシに明らかに『コイツのせいで……』みたいな視線向けてきたし! アタシがアンタになにしたっての!?」
「しちゃったのよ。尤もステラちゃんはな~んにも悪くないんだけど。結果として、ね?」
何それ、と言わんばかりにステラは有栖院に視線を向ける。
ステラからすれば紫苑にした事と言えば、昨日のBブロックの事くらいしか心当たりがない。それでも彼は結局は自分が優勝すればいいと考えるだろうし、そも彼女からしてみれば暁学園がしでかしたことに対して落とし前をつけさせてやったこと。
身から出たならぬ、身内から出た錆でしかない。
加えて言えばステラの行動によって一番の不利益を被ってしまったのは一輝なのだ。彼から向けられた物であれば──彼は優しいから気にしなくていいと言ってくれたが──甘んじて受け入れるが、彼以外からなら、己に恥じ入るところなど一遍もないと開き直る覚悟である。
しかも有栖院が訳知り顔なのは一体どういうことなのだ、とステラは彼に視線を向ける。
「どういう事よ、アリス」
「今日ね、栞ちゃんの誕生日なのよ。それで、今日紫苑に『試合までの空き時間でプレゼント選びたいから、買いに行くのに付き合ってくれないか』って頼まれてたの。ワタシ。でもほら、一日二試合になって拘束時間も長くなっちゃったじゃない? だからプレゼントを選ぶのに使える時間、かなり減っちゃったのよねぇ」
紫苑の最優先目標は七星剣舞祭を勝ち上がり、自身の誓いを、そして月影親子の悲願を成就させることにある。
ここだけは決して違えてはならない。誕生日を祝おうと時間を使って、肝心の目標が失敗しましたなんて事態は目も当てられないからだ。
だが紫苑は異性に贈るプレゼントに精通しているわけではない。彼が物を贈った経験なんて、11年前に姉代わりであった瀧華薫に『なんでも言う事を聞く券』と称して紙切れくらいのものだ。
自身より一つ年上女性に対してあげるものとしては適切とは言い難い。が、一人で思い悩んでいても天啓が下りてくるわけがない。
だが今の紫苑にとっては早さと内容の両立をする必要があった。
故に彼は年頃の乙女の想いに精通し、尚且つ相談するハードルが極めて低い有栖院凪からの助言を受け、栞のプレゼントを選ぼうとしていたのだ。
本来であれば有栖院の助言があれば、十分すぎるほどの時間があった筈の紫苑に襲い掛かってきたアクシデント。入念に準備を重ねても尚、見通しが甘いとほざく運命に紫苑は中指を立てた。
「お前が破軍を滅茶苦茶にした連中に落とし前をつけさせるのはいい。それだけの事を栞達はやったんだから。ただ……自分の間の悪さにうんざりしているだけだ」
「……なんか百鬼先輩、さも自分は無関係ですみたいな顔してるのはどういう事なんですか。あの人だって暁なんでしょう?」
「実際無関係なんだよ。百鬼くんは月影さん達が破軍を襲った時には暁学園のメンバーじゃなかったんだ。むしろ最大の障害だって事前に排除されてた。その後で色々事情を聞いて、月影さんの味方をするって決めたそうだよ。だから破軍学園襲撃に関しては『彼らは好き放題やったんだから、復讐されるのは当然』ってスタンスみたい」
「うっ……」
後ろで一輝と日下部が話している通り、紫苑は暁学園が引き起こした『破軍学園襲撃事件』とは一切無関係だ。
ステラも最初はそんなわけがあるか、と疑いはしたものの、栞が紫苑に対し『一切の嘘を禁ずる』という《契約》を貸していた状態で得た情報であるというのが一輝の弁。彼らを信じるわけではないが、他ならぬ想い人が断言するのであればステラも信用できた。
そしてステラは自分の感情に身を任せた行動によって迷惑を被った人間が、少なくとも二人存在するという事実に罪悪感を覚えない人間ではない。
『なんで事前に誕生日くらい聞いておかなかったんだ』といった言い訳はいくらでも出てくるが、流石にそんなデリカシーの欠片もない行動はとれなかった。
「ご、ごめんなさい……シオン」
「気にするな。……有栖院には迷惑をかけるが」
「いいわよ、気にしなくて。むしろ紫苑が私を頼ってくれて、嬉しかったわ。確かに費やせる時間は短くなっちゃったけど……良い物を見つけられるように頑張りましょ?」
「あぁ」
なんとなく、ではあるが栞が喜びそうな物の傾向はわかっている。
あとはそれに自分が納得できるか。客観視した時、それが特に問題ないかを有栖院に判断してもらうだけだ。
未熟である事には変わりないが、それでも決して手を抜かるとはしない、と決意を固めた時だ。
『さて皆様大変長らくお待たせいたしました! これより七星剣舞祭Cブロック第二開戦第一試合、選手入場を行います!』
実況のアナウンスに会場から歓声が沸き上がる。
降り注ぐ歓声を一身に受け、最初に現れたのは黒鉄珠雫だ。
『赤ゲートから姿を見せたのは破軍学園一年・黒鉄珠雫選手です! 今大会随一の《魔力制御技術》を持つ《水》の魔法使い! 彼の名家、黒鉄家に生を受け、知らぬ者はいないだろう《大英雄》黒鉄龍馬氏と同じ異能を持って生まれた女傑! 此度も水の妖精が敵を深海に引きずり込むのか!』
しかしその歓声など珠雫にとってはどこ吹く風。
否、耳に入ってすらいなかった。その程度の集中力ではこれから自分の前に現れる敵を打倒するなど到底不可能だからだ。
対面から現れた藍色の和装に身を包んだ女とは酷く対称的である。
『続いて青ゲートから入場してきたのは、国立暁学園二年・月影栞選手だ! 第一開戦にて大会ベスト8の好成績を修めた《鋼鉄の荒熊》加賀恋司選手を、世界最強の剣士にして、世界最悪の犯罪者《比翼》のエーデルワイスの異能と剣技を再現してみせ。打倒して見せました。まさしく《全智の魔女》の名に相応しいでしょう。……解説の八乙女プロ。今回の試合はどういった展開になると思われますか?』
『そうですね……。まず前提として、両者共に今大会きっての技巧派騎士です。おまけに両者能力の汎用性が高く、技の幅が極めて広い魔術師です。個人的な意見にはなりますが、Aブロックにて黒鉄一輝選手が前大会準優勝者、城ケ崎白夜選手を大会レコードである
所定の位置に二人の魔女がつく。
二人の間に会話はない。抜身の刃のような瞳で栞を睨みつける珠雫に、苦笑するだけだった。
どうにもお喋りという気分ではないらしかった。
『それではこれより、第六十二回七星剣舞祭第二開戦Cブロック第一試合、黒鉄珠雫選手 対 月影栞選手の試合を開始します! LET'S GO AHEAD──!!』
「《
「《血風惨雨》!!」
試合開始の宣言がなされると同時、栞と珠雫は同時に伐刀絶技を発動させる。
《全智の魔女》は純白の魔導書を手繰り、純白の装いと一対の翼を想起させる剣を携え。
《深海の魔女》は魔術によって象った機関銃を生成。
珠雫が振るう伐刀絶技《血風惨雨》は本来360°全方位に向かって放つ水の制圧射撃。それを紫苑との戦いで用いたように一方向、即ち栞がいる場所目掛けて撃つ放つ。
が、栞はそれを意に介さない。
否、伐刀者であれば基本的に誰であっても行える魔力を固めた障壁によってこれを防ぐ。
《血風惨雨》はまともにくらえば人体を蜂の巣にできるだけの威力を持つ。がそれはあくまでも圧倒的な物量によって実現するものであって、弾丸ひとつひとつの威力はお世辞にも高いとは言えない。
名を持つ伐刀絶技でこそないものの、栞が相応のリソースを割いて作り出した白い泡の壁を貫くには至らなかった。
ならば、
「《
霊装である小太刀《宵時雨》を一次的に手放し、手で作るのは噴射口。掌の中で魔力を変換した水の弾を限界まで圧縮し、それが臨界点を迎えれば……唯一の出口である銃口へと向かい、発射される。
《血風惨雨》が制圧射撃に重きを置いた機関中であるとするならば、《穿水》は一点集中の対物ライフルによる狙撃。
その所属は音速を超え、ソニックブームを発生させながら広く、薄く構えた泡の表面を貫かんとし──雪の結晶を象った小さな盾によって再び防御される。
比喩抜きで雨霰と迫る水の機関銃と、貫徹を重視した単発狙撃。それぞれに最適な防御をしてみせた栞は、呪いを……否、《契約》を紡ぐ。
「《
「──!!」
月影栞の屋台骨。
《比翼》のエーデルワイスの能力である《契約》を用い、自らの権能に縛りをかけることによって自身の能力を強化する伐刀絶技《不穢たる矜持》。
自身が結んだ制約の絶対開示を課した栞に、珠雫の頬に自身の能力ではない雫がつう、と垂れる。
《不穢たる矜持》は使わせれば使わせるほどに自身が土俵際に追い込まれていく力だ。
何せ彼女は多彩さにおいて、過去現在未来全てを含めた上で最強の伐刀者である。
一人ひとつの異能が原則の伐刀者であるにも関わらず、彼女は理論上全ての伐刀者の能力を振るうことができるのだから。
そんな彼女が多少自身の能力に制限を施したところで、並の伐刀者などとは比較することすら烏滸がましい手札がある。
数も多ければ、質も最上。
栞はその余りある
──止めなければならない。
珠雫の脳裏に焦燥が走る。
「────!!!」
呪いを唱える暇すら惜しいと、珠雫は栞の頭上に氷の柱を生成。
重く、速いものをぶつける。
シンプル、故に威力も速度も随一の質量攻撃は……その氷柱が粉微塵に切り裂かれたことで無力化された。栞は魔力放出を応用し発生した突風によって氷の粒を吹き飛ばす。
(魔力を細く、薄く、けれど密度だけは高めて即席の刃とした……!)
やっている事は然程難しくない。伐刀絶技ですらないただの『魔力操作』の範疇に収まるものだ。
珠雫も彼女と似たような事をしろ、と言われたならきっと出来るだろう。
だが珠雫には、これほどの速さでこれほどの鋭さと切れ味を持った刃を練り上げることはできない。
「《不穢たる矜持》宣誓、『七星剣舞祭における乙との戦闘において、甲は《不穢たる矜持》による宣誓に虚偽内容を含むことは認められない』
《不穢たる矜持》宣誓、『七星剣舞祭における乙との戦闘において、甲は《不穢たる矜持》を除く《比翼》のエーデルワイスの異能、剣術を実行出来ない』
《不穢たる矜持》宣誓、『七星剣舞祭における乙との戦闘において、甲は《契約》《水》《夢》を除く全ての異能を発動出来ない』
《不穢たる矜持》宣誓、『七星剣舞祭における乙との戦闘において、甲は《水》を魔力に変換することは出来ない』
《不穢たる矜持》宣誓、『七星剣舞祭における乙との戦闘において、甲が《愚者の夢見る英雄譚》を用い、物語る英雄は《比翼》のエーデルワイスを含め2名に限定するものとする』」
珠雫の妨害を凌ぎながらと、栞は次々と自身に制約を課していく。
数多の制限によって栞の本来の長所である多彩さは失われ、対して手札はより強く、術者はより洗練されていった。
「──《不穢たる矜持》宣誓『七星剣舞祭における乙との戦闘において《不穢たる矜持》を用い、宣言した制約を破棄することは如何なる場合でも認められない』」
月影栞の純白の鎧──《比翼》のエーデルワイスの装いが解ける。
(結局、《不穢たる矜持》による強化は妨害できなかった……!)
攻撃力に秀でているとは決して言い難い《水》の能力であるとはいえ、それは凡百の水使いの話。《深海の魔女》黒鉄珠雫にとってはそれを補って余りある技術力を持っている。
筈であったが、月影栞はその技で暁学園の切り札とまで呼ばれるようになった女傑。
兄である《風の剣帝》黒鉄王馬や、かつて珠雫が敗れた剣客《黒鬼》百鬼紫苑とはまた方向性が異なる『最強』だ。
(切り替えなさい。確かに強化を妨害できなかったのは痛いけれど、それでも彼女の最大の武器である能力の幅の広さがなくなったことは事実よ)
彼女の最大の武器である、他の伐刀者の能力、霊装を再現し、行使する伐刀絶技《愚者の夢見る英雄譚》
結果として栞は自身の本来の能力である《夢》と《比翼》のエーデルワイス《契約》そして《水》以外の能力の使用を禁止した。
加えて《比翼》のエーデルワイスが用いる技全ての攻撃的使用の禁止した以上、彼女が攻撃に用いる能力は《夢》と《水》
その上でわざわざ珠雫の能力である《水》を自身の魔力に変換し、防御する技術の使用禁止を課した事から、栞は珠雫と同じく《水》の能力を主武装として珠雫を仕留める気でいると推察できる。
問題は彼女が《不穢たる矜持》を放棄して珠雫に襲いかかってきた場合だが……なんとご丁寧なことに、栞は《不穢たる矜持》によって交わした《契約》の破棄禁止すらも制約に組み込んだ。
ほぼ間違いなく能力、そして栞は著しく強化されているだろうが《水》の能力は自分の勝手知ったるところ。
当然暁学園最巧の魔法使いに油断などできるはずがないが、幾百の伏せられた手札に比べれば相手にしやすい。
さぁ、誰を真似る。何の英雄譚を語るつもりだ。
《血風惨雨》《穿水》《水牢弾》
珠雫が誇る魔術の嵐に飲み込まれながらも、なお健在であることが魔術を通して伝わってきている。
月影栞はあの百鬼紫苑に並ぶと評された女。この程度で終わってくれるなら、選抜戦のあの時自分は紫苑に勝利を収めている。
……誰であろうと勝ってみせる。
珠雫は意気を上げ、目の前の水の嵐を見据えた。その奥から呪いが響く。
「《愚者の夢見る英雄譚》──」
珠雫は実行していた全ての魔術を中断し、消失させた。
次いで発生する突風が彼女の軽い身体を殴りつけた。吹き飛びそうになる身体を叱咤し、辛うじて堪える。
珠雫は栞の魔術の起こりで気付いたのだ。
栞が使おうとしたのは氷結の魔術。それによって珠雫自身の水を凍らせ、即席の散弾として反撃をする腹づもりであった、と。
敵を見据える。
再び栞の姿は変化していた。
暁学園のそれとはまた異なる和装姿。おそらくは男性用の袴なのだろう。胸元は大きく開けられており、彼女の豊かな胸をサラシが覆っている。
握られているのは二振りの日本刀。華美な装飾が施されているわけでもなく、その姿は刀身の色こそ黒でないものの一輝の霊装である《隕鉄》を想起させる。
その栞の姿に、珠雫は、一輝は見覚えがあった。
当然だ。彼女のそのあり様は、第二次世界大戦の時分、ただの小国であったはずの日本を戦勝国にまで導いた──。
「──《大英雄》黒鉄龍馬」
護国の英雄の姿だったのだから。
閑話で紫苑の修行エピは必要ですか(本編中でこんな事やった、というのは触れる予定)
-
いる
-
いらない
-
はよ本編仕上げろ