この素晴らしい世界にApo組を!(一部のみ) 作:食卓の英雄
まだベルディア戦じゃないですよ〜
「なあ、お前知ってるか?最近、夜になればゴーストが出るらしいんだよな」
ベルディアの襲来から三日後の早朝、冒険者ギルドの酒場にて、厳つい戦士風の男が言った。
「いやいや、夜になったらアンデッドが出るのは当たり前だろ」
それを聞いた仲間と思われる盗賊風の男はそれを笑いながら否定する。しかし戦士風の男はそうじゃないと笑う男に言い返す。
「違う違う。出るのはこの街だって話だ」
「まさか。この街にいるんならもっと騒ぎになってるだろ」
「いや、夜は夜でもみんな寝静まった深夜に出るらしいんだよ。実際遅くまで仕事してる奴の殆どが見たってよ。そいつによると、なんでも、あの貧乏店主のウィズさんとアークプリーストの嬢ちゃんが祓って回ってるらしいぜ」
「ふーん。ま、ある程度でゴースト達も危険な場所だって分かるか」
ガハハと笑いながら酒を煽る二人。もう興味を失ったらしく、他の噂話や愚痴をつらつらと並べ立てていく。
そしてその近く、それを注意深く聞いている人物がいた。
その人物は二人にやや高圧的に声をかける。
「おい、今ウィズといったな」
「ん?ああ、言ったけどよ…。ああ、ウィズさんに何か用か?魔道具店の場所ならあの角をこう曲がってだな……」
ほろ酔い気分の男はウィズへの客だと思いすんなりと教える。
その人物は聞くやいなやギルドを飛び出しウィズ魔道具店へと駆けていった。
「あ…でもなんか今は店に居ないって……あー、行っちまったか」
◇◆◇◆◇◆◇
『俺の名はデューク。お前に会うために遥か遠い地からやって来た者だ……。何年もの間らお前の事を調べ続け、お前の事だけを考え続けた』
『俺は、ただひたすらに自らを鍛え続けた。それが何故だが分かるか?』
『わ、分かりません…』
『お前を襲うために決まっているだろう!』
『ひっ…『テレポート』!』
―――…
(あのような場で襲ったのは早まったな…人目の無い路地を選んだがテレポートを使ってまで逃げられるとは…)
(ベルディアに合わせてゴーストを使ったのは早計だったか…!嫌嫌アンデッドを使ったが浄化されるのなら意味は無いか…)
魔道具店への道を歩きながらその人物は考える。その人物はゴーストを使ったと言ったが、ネクロマンサーではない。そして勿論アンデッドでもない。むしろそれらに嫌悪感を抱いている。
名はデューク。魔王軍所属の堕天使である。
フードの中は中性的な顔立ちイケメンで、背には堕天使の象徴である黒い翼が生えている。
デュークはベルディアの派遣に同行してアクセルの街へと来ていた。
ベルディアは大きな光が舞い降りたと魔王城の預言者が言い出した為、その調査だったが、デュークは『ベルディアの部下にいない魔法職である事と、大きな光と言う事で神聖属性に精通している堕天使である自分も行くべきだ』といい、着いてきたのである。
暫く歩いているとウィズ魔道具店と描かれている看板が見えてくる。今の時間は閉まっているらしいがその方が都合がいい。
(ようやくだ…俺は必ずウィズを超え、魔王軍幹部へと成り上がるのだ…!)
「ウィズ!今度こそ俺と戦って貰うぞ!」
来ていたローブを脱ぎ捨て、勢いよくドアを開けて店へと押しいる。
「む、すまない。ウィズは暫くこの街から出ていくと言っていた。用件なら俺が伝えよう」
カウンターには一人の男がいるのみで、ウィズの影など見るべくもない。
「お前、何者だ」
圧を強めて言うと、カウンターを拭く手を止める。男はこちらを品定めするように眺め、淡々と応える。
「俺はウィズが居ない間の店番を任せられている者だ。そちらこそ、ウィズへの用件は何だ。魔王軍であることと関係するのか」
「っ!貴様!」
直ぐ様ナイフを抜き喉元へと突きつけ――
「…すまない。どうやら怒らせてしまったらしいな」
「な…!?」
信じられない光景が広がっていた。喉元まで突きつけたと思ったナイフは3本の指で摘まれ、そこで止められていた。そして――
(――動かせん!)
即座にナイフから手を放し、後ろへ下がる。
今の速度は低レベルの冒険者程度に見切られるものではない。ましてや指で摘む等余程の格差が無い限り出来るはずもない。
「フッ…そうか。仮にも幹部、信の置ける部下位はいるか…!」
「?……待て、何か勘違いをしている。俺はウィズの部下でも魔王軍でもない。今の俺はただの店番を任された。一日店長だ」
…は?
「ッ!そんな訳が、無いだろう!そこまでの実力を持ちながらただの店番だと!?馬鹿にしているのか!」
っもういい!元々俺は魔法が得意、ナイフの比ではない!
「『インフェ――ガッ!?」
「それは困る。ここには取り扱い注意の物が多い」
魔法を唱えようとした瞬間、目にも止まらぬ速さで掴まれ、外へ連れ出される。
店外へ飛び出し、空を跳ね、あっという間にアクセルの街を飛び越える。
向かった先は共同墓地。
地面に激突する前に何とか翼で衝撃を緩和する。反面、男は勢いよく着地するも何の痛痒も受けていないようで、その目は戦意すら読み取れない。
「ハアッ…!ハアッ…『インフェルノ』!」
起き上がり間際の奇襲。今度は事前に防がれることも無く、得意の獄炎は男の体を包み込む。
俺の得意とする上級魔法は炎系統で、それに限るならばあのウィズにも勝るという自負がある。全力を出したら、少なくとも幹部候補程度なら大ダメージは免れない。人間なら余程の高レベル冒険者が完全に対策をしていないと骨すら残らない……その筈だった。
轟々と燃え盛る炎の中には人影、しかしそのシルエットはいつまで経っても消えない。
シルエットが剣を振るった動作をすると、インフェルノはあっさり霧散し、そこには火傷一つない騎士がいた。
「……バ…カな!?貴様!何故生きている!?いや、それはいい!何故傷一つついていない!」
信じられなかった。防御行動すらなくまともに直撃した筈だ。流石の魔王もノーガードならダメージを受ける筈だ。いや、受けなければおかしい。宝島こと玄武やデストロイヤーでも無い限りありえない。何故、こんな人間が…!
俺の動揺から来た言葉を男は律儀に返す。
「どうやら、その魔法では俺の鎧を貫けなかったようだ」
鎧…?その胸元の空いている奇妙な鎧か?だがそのデザインではまともに防げまい。…まさか!
「その鎧…神器か!お前、神から送られた日本人か!」
「いや違うが」
にべもなく切り捨てられる。
「これは神に与えられた物でなく、自らの力で手に入れた物だ」
「巫山戯るな!やはり貴様、格下だと思って馬鹿にしているだろう!喰らえ『ラーヴァ・スワンプ』!」
「これは…!?」
男の足元を溶岩へと変える。本来ならこの時点で耐性の無い生物は悶苦しむが、やはりこの男には通じない。だが、少しでもそちらに注意を惹かせればそれでいい。
「『インフェルノ』!『クリムゾン・レーザー』!『エナジー・イグニッション』!『インフェルノ』!『インフェルノ!』『インフェルノ』!『インフェルノ』!『インフェルノ』オォォッッ!!!」
息をつく暇も無いほどの魔法の連続行使。自分でもここまでの威力を保ったまま連続で魔法を使ったのは初めてだ。
そんな絶好調の中、いわばゾーンに入った状態でまともに受けたら、いくらかなりの防御力を誇る男といえど無事では済まないだろう。
冬も間近だというのにこの場は熱気に包まれ、陽炎がゆらゆらと揺れる。直接触れた訳でもないのに木は発火し、地面は硝子状になる。
「ハアッ…!ハアッ…!……フ、フフ。フフハハハハハ!俺は壁を超えた!力が湧き上がる…!この力…ウィズすら敵ではない!ハハハハハハハハハハハ!」
実際に、先程からデュークの身には変化が起きていた。デュークは、堕天する前の位階は大天使だったが、今の体は権天使の物。
即ち、序列の昇格が行われたのだ。
「…ふう、それにしても何故コイツは俺が魔王軍だと分かったのだろうか?…まあ、どうせ死んだのだ。問題あるまい」
この付近の始末をどうつけようか…。そう考え、今だ燃え盛る炎に背を向けると、ゴウ、という音と共に突風が吹き荒れる。
「何だとッ!!?」
「――何故魔王軍と分かったか。胸元のエンブレム、それはウィズに魔王軍の証だと聞いている。それに加えて人外の気配がしてな。よって魔王軍と思ったのだ」
そうか、店に入る際にローブを脱ぎ捨てたからか…。いや、そんなことよりも…
「…有り得ん…何故、何故……!」
男は、尚も無傷のままであった。硬いなんて次元じゃない。いくら神器でも有り得ない!
神器のスペックはある程度は知っている。だが、あの攻撃に無傷なんてものは有り得ない。あの聖鎧アイギスならば魔法を防ぐのは分かる。だがアイギスは未だに所在不明。形状も一致しない!
「無傷な訳が…!無傷な……筈が…!」
「俺は戦うつもりは無い。…ウィズへの伝言ならば聞こう」
まただ…。コイツは戦意すら目に乗せない。まるで敵とすら見なさない様で…!そしてそんな無防備な相手にすら傷を加えられない。
俺の中の何かが、ピシリと音を立てヒビ割れる。
ズンズンと迫ってくる男の目は、多少の警戒こそあるものの敵意の欠片も無い。なのに、何故か足が竦む。
「大丈夫だ。ウィズを訪ねてきたのだろう?一般人に被害を出さない限りだが、俺はお前を攻撃する気は無い」
それは舐められているようにも取れ、しかし本心から言っているのが分かる。
「朝っぱらからウッセえぞコラァッ!!」
瞬きを一度しただけ。だというのに今までいなかった女がすぐ近くに現れる。男を見ると、顔を喜色に歪め、切っ先を向ける。
「ジークフリート。お前がここに連れてきたせいって事でいいんだよな?」
「あ、ああ。…だが、被害を避ける為にはこうするしか無いのでな」
「まあ、そうだな。…だがよ、現に俺とマスターに迷惑がかかってんだろ?」
そう言うと、申し訳なさそうな顔をし謝罪する男。
「ああ、それは本当にすまない。俺にできることなら何でもしよう」
その言葉に、待ってましたとばかりに飛びつく女。目は爛々とした戦意に満ち、莫大なオーラを隠しもしない。
傍目で見ている俺ですら分かるのだ。男が気が付かない筈も無く
「そらよ!」
赤い残光と共に振るわれた剣は男に防がれる。
そう、防がれた。その上で男の肉体からは血が垂れる。その傷は如何なる方法か一瞬で塞がれるが、それでも傷をつけた。防御した上でそれを貫いたのだ。
「ちっとは本気で体動かしとかねぇとなっ!!」
「そうか…。ならば俺も応えねばな!」
そして二人は俺のこと等眼中に無いかの様に戦い出す。
既にプライドなんてズタズタだった。俺の絶対の自信である魔法はそよ風のように受け流され、ただの剣戟で優に超えられる剣士。
そしてかなり離れていてもロクに見えない俺。これで、ただの試合。差があるなんてものじゃない。ただのネズミが人間に歯向かうようなものだ。いや、噛めば傷や病気を与えられる分、ネズミの方がマシか。
もう、戦う気すら起きない。駄目だ。折れてしまった。心の底で認めてしまった。俺は所詮、堕天使で魔王軍の幹部候補になったというだけで浮かれていた、井の中の蛙だったという事だ。
「、あ――『テレポート』」
テレポートを唱えたのは何故だろうか。もう、生きる気力すらないのに。魔王軍の幹部になんてなりたくない。あんなものに追われるくらいならば、惨めに暮らした方が幸せだ。
もう、帰ろう。ベルディアの補佐なんてやっていたら殺されてしまう。
瞬殺だ。文字通り、虫の様に潰れてひしゃげて千切れ、擦り潰され焼き尽くされ消し飛ばされ斬り捨てられ血霧になってしまう。
テレポートは成功した。だが、さっきも見た場所だ。
「ここは…魔道具店か」
逃げなければ。逃げなければ逃げなければ逃げなければ。
今ので分かっている。ここへ来るのに時間などかからない。店番をしているとも言っていた。ならばあの男は程々に切り上げるだろう。今すぐに詠唱を…。どこか、人目につかないところへ…!
「あの…大丈夫ですか?顔色が優れない様ですが…?」
…誰だ?
はい。小説の方を13巻まで読み進めている方は知っていると思いますがデュークです。
デュークが大天使とか幹部候補が大ダメージとかは完全に独自設定です。
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