――萃符「戸隠山投げ」
身の丈以上の岩石がレミリアを取り囲み、覆いつくす。
レミリアを中心にして萃めた岩石はレミリア目掛けて物凄い勢いでぶつかり合う。
「――――フッッ!!!」
レミリアは一息で周囲を取り囲んでいた岩石を吹き飛ばし、その勢いのまま巨大化した萃香に突撃する。
飛んでくる岩石を手に持っている『槍』、グングニルで払いながら萃香へと突撃する速度を緩めない。
「……………………ッ!」
レミリアは、吸血鬼のスピードを以て萃香の周囲を飛び回り、目にもとまらぬ速さで萃香の身体を切り刻む。
萃香は、痛みに顔を歪めながらも、じっと耐え、レミリアの動きを見極めようとする。
「……はぁっ、はあっ、………そこだね」
「…………………ッ!?」
「萃めて、殴るッ!!」
レミリアの姿を目視した瞬間。そのレミリアの周囲を能力を駆使して圧縮してレミリアの動きを止める。
そして、隙だらけとなったレミリアに巨大化した鬼の一撃が襲う。
圧縮した空間は熱を発し、萃香の能力によって限界までに圧縮された空間は到底到達不可能な域にまで圧縮され、空間を捻じ曲げる。
そこに巨大化した鬼の剛拳が繰り出され、衝撃と熱波が混ざり合い、超密度の爆発が炸裂。
破裂音とともに範囲の中にあった木々岩石の全てを巻き込み、爆炎が包んだ。
鬼の全力ともいえる威力、久しく出せた全力の一撃に多少満足しながら、萃香は荒くなった息を整え、レミリアが吹き飛ばされたであろう方向を眺める。
超高温によって炭と化した草木、岩石の残骸、そしてそれを覆いつくすばかりの煙。
煙が晴れたと同時に飛来してくる何かを見つける。
「……………………くッ!?」
超高速で飛来してくる何か。それは『槍』の形と共に膨大な魔力が込められている。
それは、レミリアが手に持っていた『グングニル』であった。
――神槍「スピア・ザ・グングニル」
萃香は高速で飛来してくるグングニルを見つけることが出来たが、同時に自身の腹部目掛けて投げられたグングニルを躱しきることは難しいであろうと判断する。
「……………………ッ!」
そして、萃香は瞬時に腹部を霧化させてグングニルを避ける。
「なッ!?いない!?」
「上だ」
「うがッ!!!」
かろうじて避けたグングニルに息をつく暇もなくグングニルが飛来してきた方向へと目を戻したが、煙が晴れて、大きく凹んだ地面にレミリアはいなかった。
そして、頭頂部から声がしたかと思えばすざましい衝撃が萃香に走り、巨大化した萃香の足が離れ、地に背を着く。
「……………………まずいッ!!」
仰向けに倒れた萃香の目の前には拳を振り上げながら急降下してくるレミリアの姿が見えた。
紅い瞳の残光が妖しく輝く
萃香は紅い瞳に見下ろされながら、来るであろうレミリアの一撃に両手を前にして防ごうとする。
しかし、幸か不幸か萃香の「ミッシングパワー」の効果が切れ、巨大化した萃香の身体が元の身体に縮む。
レミリアの振り下ろされた拳は巨大化した萃香の顔面を狙ったものであり、元の大きさに戻った萃香に対しては頭部を掠めることすらできなかった。
その一瞬を利用して萃香は体勢を整え直して距離を離す。
レミリアが振り下ろした地点は地面が大きく凹み、相対して周囲の地面は盛り上がる。
拳を振り下ろしたレミリアはゆっくりと俯いている顔を上げて、萃香を捉える。
紅い瞳が萃香を捉え、その瞬間、わき目も振らずに突撃する。
「………………ッ!!」
「まったく、無茶な戦い方をする!!」
突撃してくるレミリアに向けて岩石を放つが、レミリアは避けることなく岩石を受けたまま、そのスピードを緩めることなく萃香へと一直線に突撃する。
肩が抉れ、血が噴き出てもレミリアは気にしない。
吸血鬼の驚異的な再生能力をフルに活性化させて、瞬時に再生して獲物を刈る凶獣の如く滑空する。
ズシン、と萃香の目の前で大きく地面を踏みしめたレミリアはその鋭い爪を振るって萃香を襲う。
萃香は、先ほどと同様に自身の身体を霧化させて躱す。
しかし、そんな動きを予測していたのか、レミリアはもう片方の手に魔力を込め、萃香に放つ。
「がっ、あああああああああああああああああああ!!!!!!」
その魔力は、あらゆるものを焼き尽くすほどの熱を帯び、萃香を容赦なく焼き焦がす。
萃香はとっさの判断で空中の水分を萃めることで温度を減衰させる。
萃めた水分が一瞬の内に蒸発し、爆発が生じてレミリアと萃香を吹き飛ばす。
「……………ふっ……ふッ」
「ふぅっ、ふぅっ!!」
レミリアは空中で体勢を整えて足に地を着けて、乱れた息を整える。
萃香も同様に体勢を整えて荒く息を吐く。
「へ、へへへ、強いなあ。まさか、私がここまでやられるとは思わなかったよ」
「私もだ、ここまで骨が折れる相手も久しぶりだ」
レミリアと萃香。「鬼」の名を持つ両社の戦いは熾烈を極めた。
鬼の全力の一撃が、吸血鬼の空間をすら切り裂くほど一撃が飛び交う。
両者、共に消耗し、流石に強大な力を持つ者同士の2人にも疲労の色が見える。
萃香は満たされているような純朴な笑顔を浮かべ、対するレミリアも疲労の色こそ隠しきれてはいないが、愉しげな笑みを浮かべている。
「宴会まで、時間が足りないからな。惜しいが、これで決着をつけさせてもらうぞ」
「望むところさ。あんたとの死闘もいいが、あんたと飲み交わしてみたくなった。さぁ、仕上げだ!盛大に暴れてやるよ!」
――「スカーレットディスティニー」
――「百万鬼夜行」
レミリアと萃香、二人の空間が、両者の妖気がぶつかり合い、一際大きな戦闘音が響き渡った。
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「異変解決と、宴会を祝って乾杯!!!」
「「「乾杯!!」」」
今回も宴会の幹事を務めていた魔理沙の一声で宴会が始まった。
博麗神社に霊夢はもちろん、魔法の森の魔法使い二人、そして白玉楼の亡霊と半人半霊の従者。
幻想郷の賢者とその式2匹。紅魔館と皆一堂に会して今日もまた宴会に勤しんでいた。
その場には当然、レミリアの姿もあった。
ただ一つ、いつもと違うとすれば
「お~~い!!!レミリア!飲んでるか~??」
「……………ああ、飲んでるよ」
今、レミリアに肩を組んで陽気に笑って酒を呑んでいる一匹の『鬼』の姿。
今回の異変の首謀者ともいえる彼女『伊吹萃香』が宴会の席に参加していることだろう。
「私と同じ『鬼』の名を持つんだ。酒に弱いなんて醜態は晒さないだろうねぇ?」
「試してみるか?あいにくと、私も酒には強いんだ。先に酔いつぶれないようにな」
「ははは!!それでこそだよ!レミリア!それでこそ私を
レミリアと萃香の死闘の決着はレミリアに軍配が上がった。
とはいっても、両者全力を尽くして決着をつけようとしていたのだから、無事では済まなかったが、寸分の差でレミリアが勝利した。
その時の萃香の表情は負けたというのに清々しい表情そのものであった。
その後、萃香は博麗神社へふらりと霧となって飛んでいき、レミリアと戦って返す刀で霊夢達とも戦って同じように負けた。
霊夢達にうまく立ち回っていたが、レミリアとの戦闘が響いたのかすんなりと敗北を喫し、すぐさま人々を萃めさせていた異変が解決されたということだ。
そして現在、異変解決後の幻想郷のしきたりに則って、皆で異変解決を祝して宴会を行っている所である。
宴会の場で、萃香はレミリアに絡み、レミリアの肩に手を回し、一時もレミリアの傍から離れないくらいにはレミリアに執着しているのだ。
当然、突然現れた鬼がレミリアに親し気であるというのも何かと悶着を生むこともある
「……………………そこは私の席だ!!お兄様から離れろッ!!!」
吸血鬼の妹が激しいほどに嫉妬に狂い。
「……………………お坊ちゃまに近づく虫けらが………ッ!!!」
従者が殺気を放ちながら萃香へと威嚇をするようにしてナイフを懐から取り出していたり。
「………………………」
他にも博麗の巫女が不機嫌になっていたり、賢者がむくれていたりと、様々な反応をしているため、当のレミリアには落ち着かない雰囲気である。
「……………………フッ」
「「「………………ッ!!!!」」」
「…………………胃が痛い」
しかし、その異様に剣呑な雰囲気に拍車をかけるようにして、レミリアに寄り掛かっている萃香は不敵な笑みを浮かべて挑発をすることでより一層剣呑な雰囲気が強まり、またレミリアの胃をキリキリと痛む要因にもなるのだ。
その後、伊吹萃香は幻想郷に住み着くことになった。
萃香は博麗神社に住み着くことになり、宴会も適切な回数に落ち着いた。
萃香は頻繁に紅魔館に訪れる様になり、美鈴の組手相手やフランの遊び相手、はたまたレミリアと手合わせであったり酒を呑み交わしたりと伊吹萃香という存在は次第に幻想郷、そして紅魔館で認められていくことになる。
こうして、短くも壮絶で、そして緩やかに異変・三日置き百鬼夜行は終わりを迎えたのだ。
短いです