とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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生まれ持った性質は不治の病。

 非色が急行した現場は、既に荒らされていた。圧倒的な実力者が蹂躙したのだろう。倒れている全員は、袖やら裾を金属の矢で壁に縫い付けられている。

 それだけで誰が荒らしたのか分かってしまった。想像通りの奴がやったのなら、近くにいるはず……。

 

「あら、こんな小さな事件に興味が無くなったのではないんですの?」

 

 熱源感知機能を使う前に、背後から声を掛けられる。中1にしては大人びた声だった。

 振り返ると、そこに立っていたのは白井黒子だった。

 

「……白井さん。久しぶり……」

「二度と会わないと思っていましたが」

 

 うっ……と嗚咽が漏れそうになったのを強引に押し殺し、なんとか話しかけた。

 

「俺、実は……」

「何も言わなくて結構ですわ。私はあなたと何かお話するつもりはありませんの」

「あー……やっぱり怒ってます、よね……?」

「……言われなきゃわかりませんの?」

 

 まったくだった。さて、どう言えば良いのだろうか? 考え込んでいると、黒子の方から話し始めた。

 

「あなたがどこの誰が相手かも分からない相手に夢中になっている間、学園都市がどうなっていたかお分かりですの?」

「いや……」

「学生による犯罪行為……特に、武装集団達が調子に乗り始め、事件が増える一方でしたわ。……あなたがいなくなった、というだけで」

「え……」

 

 それは、非色にとっても予想外だった。いや、冷静に考えればあり得る話だ。むしろ、一方通行にかかりきりになっていた自身の迂闊さを習った。

 

「ご、ごめん……」

「ごめん? 何があったかは知りませんが、友達であった私に何一つ相談もせず、それどころか『友達やめよう』なんて最低の毒まで吐いて人を切り捨てた人が今更、何が『ごめん』ですって? 謝れば済むと思っているんです?」

「う、うぐっ……」

「で、その結果がこの治安ですの。あなたの無責任な行動がこれを引き起こしたんですわ。そんな男に何を言われたって……」

「……」

 

 とうとう、何も言わなくなってしまった。反論の手立ても何もかもがない。まさか一方通行のことまで言うわけにもいかないし、ましてや美琴の事なんてもってのほかだ。

 

「……あー、でも……白井さん」

「まだ何か?」

「……勝手な言い分かもしれない、けど……それでも俺は、白井さんと仲直りしたくて……」

「……はい?」

 

 ジロリと睨まれ、非色の背筋は伸びてしまった。やっぱり、今話しても火に油を注ぐだけかもしれない。正直、ここで黒子と出会ったのだってイレギュラーだった。

 

「……」

 

 いや、だとしても、だ。言わなければならないだろう。美琴が言っていたのだ。黒子が傷ついていたと。

 なら、少なくとも自分は黒子にとって、それなりに無くすには惜しい友達と思われていたのだろう。

 こうして相対したからには、もう傷つけたくない。そう思うと、非色は思い切って頭を下げた。

 

「ごめん、白井さ……」

「警備員だ! 動くな……と、ヒーローと風紀委員の子か」

「……」

「……私が通報した風紀委員ですの」

 

 思わぬ邪魔が入った。おもわず非色はため息をついてしまう。黒子も職務中だった事を思い出し、警備員に事情を説明しながら、非色の横をすれ違う。

 

「……キチンとお話しするのであれば、後ほどお話を伺いますわ」

「っ!」

 

 それだけ言うと、黒子は事情の説明に移ってしまう。仕方ないので、非色も一旦、その場を後にした。

 

 ×××

 

 その後、黒子から時間の指定が来た。夕方17時に一七七支部で、との事だ。

 それまで非色は一七七支部に戻り、改めてヒーローをやっている経緯を説明し、美琴と佐天という部外者と一緒にファミレスに戻った。

 

「本当に信じられない……なんとなく想像してたとはいえ……非色くんが、本当に……」

「そ、そう……?」

「うん……いや、まぁ確かに強そうには強そうだけど……」

 

 ジロジロと眺められ、非色は目を逸らす。

 

「で、黒子とはいつお話しするの?」

「17時」

「ふーん……じゃ、その時までに何言うか考えないとね」

「そうですね。……なんて謝るの?」

 

 それを言われて、非色は顎に手を当てる。どう謝れば良いか、なんて考えてなかった。

 

「うーん……なんて謝るかな……」

「普通に言いたい事言いなさいよ。伝えたい気持ちをぶちまけるのが一番よ?」

「そうだよ。特に謝罪なんて、自分が本当に思ってること伝えないと意味ないからね」

 

 確かに、と非色は頭の中で納得した。……が、問題はそこではなく、どう上手く真実を隠すか、という所だ。絶対に絶対能力者計画の事を話すわけにはいかない。それとこれとは話が別だ。

 それを理解した上でか、美琴が提案した。

 

「……ものすごい悪党と戦ってたことにすれば良いじゃない。具体的な相手は口にしなきゃ良いのよ」

「……」

 

 ものすごい悪党、という言葉を聞いて、非色は複雑そうな表情を浮かべる。実際、一方通行は悪党ではあった。だが、あのアホみたいな実験に参加したのは、結局彼も「唆された」だけだった。それだから許される、というわけではないが、根は悪い奴ではないのだろう。

 まぁ、そんな事は美琴には言えないが。なんであれ、妹達を1万人も殺された事実は消えないから。

 しかし、自分ならそんな一方通行の味方にもなれる。そんな事を思いながら、とりあえず非色は頷いた。

 

「そうだね。……まぁ、考えておくよ」

「何が『考えておくよ』よ。偉そうに」

「偉そうにって……御坂さんに言われたくな」

「あ?」

「いえ……偉かったですね……すみません」

 

 少なくとも年上ではあった。すぐに萎縮する非色と、その非色を小突く美琴を見ながら、佐天は小さく呟いた。

 

「……なんか、二人とも仲良しになりましたね?」

「「え、そ、そう?」」

「うわ、息もピッタリ……何かあったんですか?」

「いやいや、何もないって」

「それ。別に仲良くなってないから。……むしろ、こいつの生意気さが毎日、腹立たしいわよ」

「もしかして、前に私の家でクッキー焼いて渡したのって非色くんですか?」

「え?」

「いや、違っ……あ、そ、そうよ! あんたにもお礼にクッキー買ってあるのよ。ごめんなさい、今日、急に会いに行くことになったから忘れてたわ」

 

 そんなお礼なんていいのに……と言う前に、聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

「え、手作りのクッキー作ったんですか?」

「え、あ、いや……」

「そうなんだよ、非色くん。御坂さん、誰に渡したんだろうねー?」

「良いなぁ……俺も女の子の手作りクッキーとか食べてみたかった」

「え、そこ?」

 

 微妙に恋愛感情というものがまだ育っていない非色の呟きに、佐天は反射的に反応してしまった。

 

「本当にあんた……まぁ良いけど」

「俺にも渡す予定だったってことは……上条さんに差し上げたんですか?」

「ちょっ、あんたいきなり……」

「え……上条さんって……上条当麻さん?」

「しかも知り合いだった!」

 

 唐突に蹴られたコーナーキックを、意外な選手からヘディングで決められたような感覚だった。

 

「え、佐天さんって……あ、あいつと知り合い、なの……?」

「そうですよ? 非色くんを探してもらってまして……」

「え、俺?」

「言わなかったけど、結構みんな心配してたんだからね。御坂さんの事も、様子がおかしいって白井さんが言ってたし……でも、音信不通になった非色くんの方が大事だったんだから」

「あー……ご、ごめんね?」

「ごめんじゃないから、ホント」

 

 ボロクソに怒られ、非色は観念したように肩を下ろす。そんな様子を見て、佐天はクスッと笑みを溢した。

 

「? 何?」

「いや……なんか、こうして改めて見るとヒーロー感ゼロだなって」

「……どういう意味?」

「情けないって意味」

 

 よくもまぁ当事者を前にそんなこと言えるものだ。そろそろ泣いてもおかしくない頃だろう。

 

「ていうか、非色くんって本気で怒ったことあるの?」

「え? あ、あー……無いかも」

 

 本気で怒ったのは、最初に一方通行と出会った時だけだが、あの時の記憶がさっぱり抜け落ちていた。頭が真っ白になるほどだったからだろうか? 

 隣に座っている美琴はそのシーンもしっかり見ていた為「あれ?」とも思ったが、自分が怒ったシーンなど思い返したくもないだろうと思い、黙っておくことにした。

 そんな時だ。レジの方から大きな悲鳴が聞こえた。

 

「きゃああああ!」

「うるせぇ、騒ぐな! 金を出しやがれ!」

 

 強盗のようだ。手にはピストルを持っている。美琴と佐天は慌てて背もたれに身を隠した。

 

「ちょっ……強盗? ファミレスに?」

「あり得ない話ではないわ。能力者がいるこの街に限ってはね」

「ど、どうしましょう……」

「天井、見てみなさい」

 

 言われて佐天が上を見ると、非色がいつのまにかマスクとスーツを着て、天井を這って移動していた。

 

「……ええ、いつのまに……」

「ほんと、便利よね。変身アイテム」

 

 そのまま非色はカサカサと天井を進み、レジの上に移動すると強盗をさっくりと蹴って撃退する。

 その様子を見た佐天が「やっぱりヒーローなんだなぁ」と改めて実感させられている中、美琴の中に一つの懸念を芽生えさせた。

 

 ×××

 

 さて、夕方。美琴と佐天と別れ、黒子とメールで待ち合わせた場所に向かっていた。

 そんな時だった。ふと視界を横切ったのは、一台のトラックだった。しかも、窓から見えたのは口を縛られた女の子の姿だ。

 

「……まったく、この街は……!」

 

 黒子との待ち合わせに遅れるわけにはいかない。何せ、向こうは頭に来ている相手であるこちらに合わせてくれているのだから。

 だからと言って、誘拐されている子を見捨てる事はできない。遅れる、とだけ連絡をしようとした時、後ろから肩に手を置かれた。

 

「待ちなさい。……どうせそうなると思ったわ」

「えっ……み、御坂さん……?」

 

 美琴が後ろに立っていた。帽子を目深に被り、服装は半袖短パンの私服姿だった。

 

「なんでここが……」

「砂鉄」

 

 足下を指差す美琴に釣られて下を見ると、足元に薄くなった砂鉄が道を作っていた。

 

「って、そんな場合じゃないんだけど。かまって欲しいならまた今度……」

「殺すわよ。そのマスクとスーツ、私に貸しなさい」

「え……?」

「今晩は、私がヒーローになってあげるから。……だから、あんたは黒子のとこに行きなさい」

「え、でも……」

「少しは自分の事も考えなさい。黒子、自分にも他人にも厳しい人だから、どんな理由があっても遅刻は許してくれないわよ」

 

 何より、と美琴はさらに畳み掛ける。

 

「例え仕方ないことでも、自分の事より他人が優先されるのは気に食わないと思うわ」

「……そ、そうですか?」

「そうなの。良いから、早くスーツとマスク取って、黒子の所に急ぎなさい。……言っておくけど、次に黒子を泣かせたらタダじゃ置かないわよ」

「わ、分かりました……」

 

 渋々、非色はスーツを格納し、マスクを外し、水鉄砲も手渡した。

 使い方を説明すると、美琴は早速、装備する。マスクの機能をフルで使い、熱源感知で車を見据える。

 

「あ、新機能で、目標にピン刺すとマスクが勝手に動いて、自動で対象を追ってくれますよ。それから……」

「自分で追うからいいわ。良いからあんたは早く行きなさい」

「すみません、ありがとうございます」

「気にしないで。あんたには、本当にお世話になったから」

「……今日だけですからね。その変身セットは俺のですからね」

「いいから行けっつーの!」

 

 そんなわけで、早く黒子の元へ走った。

 待ち合わせした場所は、黒子に拾われた土手沿い。最後に黒子に飛ばされたのはそこだったから。

 移動を済ませると、黒子はまだ来ていなかった。

 

「……ふぅ、しかし……結局、なんて話せば良いのかな……少し、練習してみようかしら」

 

 さて、なんて言うか、だ。まぁそこは自分の正直な気持ちを伝えようと思っている。

 コホン、と咳払いして、目の前に仮想黒子を作る。

 

「シラキさん……あ、やべっ。噛んだ」

 

 そこを噛んではまずい、と思い直し、改めて練習し直した。

 

「白井さん、この前は本当に申し訳ないことを言いました。巻き込みたくない、という想いが表に出過ぎて、酷いことを言ったと思います。自分から絶交を切り出しておいて勝手な話ですが、またお友達に……」

 

 ……なんか微妙な気がする。何処か、嘘が混じっているような、そんな感覚だ。

 

「……白井さん、先日は大変失礼致しました。勝手な話ですが、やっぱり俺は白井さんとまた友達に……」

 

 やはり、何か違う。何処に嘘が混ざっているのだろうか? 真剣に顎に手を当てながら、最近の事を考え込む。

 そもそも、他人とこういう真面目な話をする事自体が初体験だ。もしかしたら、それ故に自分の正直な気持ちが分からなくなる程度には混乱しているのかもしれない。

 

「……うーん、何が変なんだろ……」

 

 引っ掛かるのは「友達」という部分。前々から……というより、テレスティーナの一件あたりから、黒子に対する見方や考え方が変わって来ている自覚はあった。

 にこりと微笑まれただけで心臓が爆発しそうになったり、メイド服を着ていた姿が他の常盤台生とは全く違って見えたり。

 

「……なんだろ、これ……」

 

 木山から性教育を受けた時と、似て異なる動悸に襲われている。聞いた話だと、ああいった行為は好きな人としかしないらしい。その時に感じた動悸と黒子を見た時の動悸が似て異なるのは、それはまるで……。

 

「俺、白井さんの事が好きなのかなぁ……」

「え?」

「いや、え? ってなるのも分かるけど……でも、俺もまだ分からないんだよ。初恋とかよく……え?」

 

 急に背後から声が聞こえる。振り返ると、たった今、テレポートして来た黒子が、目を丸くして立っていた。

 その表情は、徐々に赤く染まっていく。勿論、非色もだ。

 

「あ、いや……違っ」

「え……あ、え……? あなたが、私を……え?」

 

 あ、やばい。と非色は大量に冷や汗を掻く。何とか訂正しないと「気持ち悪いですわ!」「ふざけないで下さいまし!」「今の自分と私の関係わかっておりますの?」「無神経の極みですわ!」「二度と私と関わらないで下さいますの⁉︎」とボロカスにされる未来がよく見える。

 頭が中途半端に回ったまま、とりあえず言い訳を募った。

 

「ち、違うんです! い、今のは愛の告白的な感じではなくて……! い、いえ……白井さんのことは好きですがっ、そ、そういう意味ではなく……そ、そもそも俺は好きとかそういうのがっ、分からなくて……! あ、でも白井さんの笑顔より素敵な笑顔は見た事なくて……って、俺は何言って……!」

「お願いですから黙りなさい」

「っ……」

 

 嫌われた、と思ってしまったが、黒子が顔を真っ赤にしたまま俯いていたので、多分、嫌われてはいないのだろう。

 何を考えているのか分からないが、黒子は喋らない。俯いて自分の顔の前に片手をかざしたまま、フリーズしている。目も頭もグルグルと回ってしまっていた。

 が、まるで「な○でも鑑定団」の金額のように急にピタリと目が真ん中で止まると、ジロリと自分の方を睨みつける。

 

「あ、ああああなた!」

「え……な、なんですか……?」

「ま、まず聞きますが……私と仲直りしたい、という事でよろしいんですの?」

「そ、それは……その、はい。白井さんとまた、仲良くさせてもらいたい、です……」

 

 正直、黒子と会えない間に「寂しい」と思うようなことはなかった。そんなことを思う余裕もなかったから。

 しかし、やはり久々に黒子と顔を合わせた昼間の感情には、気まずさ以外に嬉しさも含まれていたと思う。

 

「……今回の件、何が悪かったか分かった上で、ですの?」

「う、うん……その、どうしても白井さんに話せない事情だったとはいえ……『友達やめよう』は無いな、と……」

 

 どうしても話せない事情、については黒子も美琴に聞いた。いや、実験の内容ではなく「彼には彼の背負う物があるから、どんな事でも強引に問いただすのはやめなさい」という事だ。

 完全には納得できないが、自身がなるべく風紀委員の仕事に美琴や佐天を巻き込むべきではないと考えているのと同じだと思えば理解できる。

 さて、ここからが本題だ。

 

「そ、それでぇ……その……わ、私の事が……?」

「あ、あー……えっと、好き……あ、いやでも俺、恋愛的な好きとか、よくわからなくて……」

「ならば、わかりやすくして差し上げますわ」

 

 そう言うと、顔を真っ赤にしたまま一気に問い詰めた。

 

「じ……女性の中では、私が一番好きだと?」

「え? え、えーっと……は、はい!」

 

 人をランキングするのは好きではないが、美琴や佐天、初春などへの感情とは少し違う自覚はあった。

 

「ほ、本当に……?」

「ほ、本当です! 姉ちゃんと同じくらい好きです!」

「……」

 

 一気に、一気に熱が下がったのを、非色は敏感に察した。それと共に、黒子の顔の赤さがさっきまでと全く違う意味の赤さになっている事に気が付いた。

 やらかした? なんて思った時には遅かった。黒子は自身の肩に手を置き、頭にき過ぎて逆に冷静になったような口調で言った。

 

「出直して来なさいな」

「え」

 

 直後、川の上にテレポートさせ、どっぼーんと沈んでいる間に黒子は寮に引き返した。

 

 


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