「なるほど……テロリスト、ね」
「はい。ですから、非い……ヒーローさんは」
「逃げないよ」
大体の事情を聞いたので、非色は首をコキコキと鳴らした。しかし、黒子としては複雑だった。何故なら……。
「じゃ、私も協力して良いわよね?」
「お、お姉さま……」
こうなるからだ。やはり、なるべくなら一般人に首を突っ込んで欲しくなかった。
美琴としては、面倒ごとに首を突っ込みたいわけではなく、自分のクローンが万が一にでも巻き込まれる事があるなら、見過ごすわけにはいかない。
「まぁ、お話は分かりましたわ。では、参りましょうか」
「場所は?」
「まだ判明しておりませんが……」
『白井さん、聞こえますか?』
黒子がつけている通信機から、初春の声がする。
『監視カメラから、次にターゲットが向かったポイントを割り出しました!』
「何処ですの?」
『地下街です!』
「了解しましたわ。お姉様、二丁水銃さん。地下だそうです」
「「了解」」
三人でのんびりと歩いて地下に向かった。
「あ、その前に待って。白井さん、ビルの屋上まで連れてって」
「? なんでです?」
「スーツを格納したい。ヒーローのままだと目立つでしょ?」
「分かりましたわ」
「いやいや、そんな真似しなくても良いわ。合図したら瞬時に着替えなさい」
「え?」
「はい、今!」
直後、美琴を中心に大きなフラッシュが発生した。その場にいた全員が目を隠す中、第六感によって何が起こるのか分かっていた非色は、ボタンを押して瞬時に学生服に戻る。
「な、なるほど……」
「流石ですわ、お姉さま」
「さ、行くわよ」
三人で地下への階段に向かった。とは言え、あまりのんびりはしていられない状態だが。
「で、まずは地下にいる生徒の避難誘導で良いんですか?」
「いえ、それは既に風紀委員が行っていますのでご安心を」
「じゃあ、俺もそれ手伝いますよ。俺なら最大で10人くらい運べますから」
「……良いですの? 呉々も無理はなさらないように」
「しませんよ」
信用ならなかった。だって、無茶ばかりする人だから。過去にどれだけのことをやらかしているのか、自覚があるのか問いただしたい所だ。
とはいえ、まぁ一緒に生徒を避難させるのであれば、問題ないだろう。
「でも、不思議な能力者だったわね。あの……土の魔人? みたいなの出して」
「そうですわね。外部からの侵入者に能力者がいるとは思いませんでしたが」
「非色くんがこなかったら、黒子も危なかったかもね?」
「いやいや、そんな事ないですよ。あいつの握力、見た目ほど大したことなかったですし」
「……それはあなたの耐久力がおかしいだけですの」
まぁ、その通りだった。非色の麦野、一方通行、否菜と戦って来た非色の身体は、もはや新幹線に跳ねられても無事でいられるだろう。
そんな話をしながら、非色はふと思い出したように聞いた。
「……でも、テロリストがなんで地下街なんですかね?」
「そんな事、私に申されても……」
「いやいや、考えましょうよ。そうすれば、敵の狙いが分かりやすくなるから」
「それは私達の仕事ではありませんの。今回の件には、警備員も出動して連携を図っています。私達、風紀委員がすべき事は、一般生徒の無事を確保する事です。警備員の方々が作戦を考えている間、私達はなるべく多くの生徒を外に出すべきです」
徐々に二人の間に流れる空気が険悪になっていく。美琴の頬に冷や汗が流れる。
とりあえず、歳上として落ち着かせようと口を挟もうとした時だ。先に非色が声を発してしまった。
「……随分と警備員を信用してるんですね」
「どういう意味ですの?」
「いえ、別に。じゃ、俺は別行動しますね」
「え、ちょっ……な、なんでよ?」
「なんでそうなりますの⁉︎」
二人して声を掛けて来るが、非色は真顔のまま答えた。
「いや、だってなんか考え方が違うみたいですし。俺は、警備員の会議なんてチンタラ待ってないで、テロの標的を自分で考えて動いた方が良いと思います。俺の方が頭良いし」
「だからって……ていうか、どうしてそんなに警備員を信用できないわけ?」
「そうですの。あの方達、ボランティアで街の治安を維持しようとして下さる方々ですのよ?」
「いや、だってあいつらのトップは結局、学園都市でしょ」
それを聞くと、黒子は眉間にシワを寄せたが、美琴はピンと来たように目を丸くする。学園都市外部から来た能力者。学園都市のイカれた連中が興味を持たないはずがない。
自分達の街の能力者とどちらが強いか、能力の根幹は何か、それらを把握するために、わざと泳がせる可能性も低くない。それこそ「作戦会議」という名目を持って。
「そんなわけで、俺は別行動を取ります」
「い、意味が分かりませんの! キチンと説明しなさいな!」
「黒子、落ち着いて。とりあえず、私達は救助に向かうわ」
「お姉様まで……!」
学園都市の黒い部分を、何も知らない子には知らせるべきではない。それがどう転ぶか分かったものではないから。
しかし、黒子としては、それが何だか気に食わなかった。二人の間で、何か伝わり合っているのが、とても腹立たしい。
「な、何なんですの⁉︎ 二人してその感じ!」
「いや、何なんですって……」
「黒子は知らなくて良いことよ」
「わ、私だけ仲間外れですの⁉︎ お願いですから、大事なことなら教えて下さいな!!」
「うーん……まぁ、大事だけど、仲間外れってことで良いですよ」
「聞き分けなさい」
「うー! わーたーくーしーもー!」
こういう時、割と子供っぽくなるあたり、やはり黒子も中学一年生だ。非色が黒子を「妹」と言い切る所以でもあったりなかったり。
「てか、それより早く行きましょうよ。避難させないと」
「そうね。黒子、こんな所で喚いている暇は無いわよ」
「うう……お姉さまばかり非色さんと秘密を共有して……」
「誤解を招く言い方はやめなさい……。……どちらかと言うと、私はあいつとそういう関係に……ゴニョゴニョ……」
何故か急に自滅し始める先輩を放っておいて、非色はさっさと動くことにした。
「じゃ、俺は俺で動きますね」
「ま、待ちなさいな! せめて私と一緒に動いて下さい!」
「何でですか?」
「そ、それは……!」
頬を赤らめたまま、黒子はその場で俯く。その黒子に、非色は何も分かっていない様子で言った。
「じゃ、とにかく行きますね」
それだけ言うと、非色はジャンプしてその場から立ち去ってしまった。
その背中を眺めながら、黒子は小さくため息を漏らしてしまう。
「……はぁ」
「黒子。彼の言うことは決して間違いじゃないのよ。でも、私と共有してる秘密はあんたが思うようなロマンチックなものじゃないの」
実際、美琴と非色の間だけで共有している事は多い。妹達、学園都市の黒い部分、超人がもう一人いることなど……少し前まで、非色が超人であるという事も、美琴しか知らなかった。
「それに、非色くんは賢いんだし、彼のことを信じましょう。あなたの言った事だって、決して間違っていないんだから、お互いに成すべきことをしましょう?」
「お姉様……」
優しく頭を撫でながら言われ、黒子は涙目で美琴に飛びついた。
「お姉様ー! 私、やっぱりお姉様に一生、ついて行きますわ!」
「そんなこと言うと、非色くんが嫉妬するわよ?」
「あのバカ男に嫉妬なんてまともな情緒、あるとは思えませんわ」
中々、酷い言われようだった。まぁ、たまには愚痴に付き合うことにして、とりあえず二人で地下街に入った。
×××
「はぁ……白井さんと地下街で遊びたかったなぁ……」
勿論、遊びではなく避難勧告だが。なんであれ、人命が掛かっている以上はキチンと仕事はしなければならない。
「左手は……うん。何とか動くね」
本調子ではないので、やはり今日は終わったら木山の所へ行かなければダメそうだ。特に、美偉には義手であることはバレたくないし、最悪21時までに帰れない事も視野に入れないと……。
「……」
そこで考えるのをやめた。また今晩、怒られる時のことなんて考えたくもない。
さて、敵はどう来るか? そもそも何故、学園都市に容易に侵入できる奴が、監視カメラに地下へ入られる所をあっさり見られたのか。科学の街で無くとも、監視カメラのことくらい知っているであろうに。
その答えは単純だ。わざと見られたからだ。奴の能力を完璧に把握したわけではないが、ゴーレムを召喚した辺り「ゴーレムを召喚する能力」なのか「大地をある程度、操作する能力」辺りだろう。
どちらにせよ、地下では不利だ。
「……テロリスト、と言うが……それはおそらく学園都市側から、捕獲する為に付けられた悪党の烙印だ」
単機でテロを行うバカはいない。と言うより、テロのつもりであれば、あの場でもっと暴れてもおかしくない。
つまり、何か目的がある。そう判断するのがベストだ。学園都市に、あのゴスロリ女が仕留めたい、或いは誘拐したいと考えている誰かがいるはずだ。
「まぁ……インデックスさんだろうな」
非色の知る限り、外部から来ていそうな人物は彼女だけだ。何故かいつも身に纏っているシスター服、インデックスという偽名にしか聞こえない名前、全てが外部の人間っぽい。
「けど、それなら地下に行った理由が無くなる」
ここから先は戦術を考える時間だ。仮に、外部の人間同士で他人を辿れる何かしらがあるとして、インデックスが地下にいるとゴスロリ女が知っていたとする。
だとしたら、まずは表で騒ぎを起こし、監視カメラに映り、その上で地下に行くシーンを見せ、風紀委員を地下に集合させつつ、一般生徒を地上に避難させる。
その後、自身の能力を使い、地下をシャットアウトし、地上には治安維持できる戦闘能力の低い生徒達を集め、その中にいるインデックスを叩く……というのが敵のシナリオだろう。
まぁ、全部「多分」とか「おそらく」とか「仮に」とか可能性だけで辿った考えなので、穴だらけではあるのだが。
「よし、とりあえず、俺は地上に残ろう」
そんなわけで、避難されている生徒達を上から眺めた。