乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった2周目に転生してしまった…   作:蒼樹物書

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【6】

 「略奪愛略奪愛略奪愛」

 「や、やめてくれ……」

 「奪うのが雄の本能です。戦い勝利し奪う。それが雄。奪いましょう攫いましょう」

 「お、俺は……」

 

 後一歩。

 

 「カタリナ様は、まだ婚約のお返事をされていません。つまりまだ迷われておられます」

 

 その言葉は毒を垂らすように。

 清く正しく美しく、常識的な彼を唆す。

 

 「『今』ならば、出来る限り傍にいたいだなんて諦観ではなく……手に入るのですよ?」

 「カタリナを……!」

 

 唆す。道理を重んじ、親友の婚約者を寝取ろうだなんて頭にもなかった彼。

 それでも、自身の幸せを共感してくれた彼女に惹かれていった彼。

 

 「諦める必要なんてありません。『今』は悪魔が微笑む時代なのです」

 「俺が、カタリナを手にする……!!」

 

 お兄様程の殿方が、何を遠慮することがあるのか。魔性の魅力を持つお兄様が、心から欲する方を望むことに何の罪があるというのか。

 老若男女、誰もがお兄様に心惹かれた。

 そんなお兄様なのに、望むことが憚られる。そんな『前』と違う『今』。

 常識や義理なんてものに縛られる必要はない。『今』、そんなものはないのだから。

 

 「カタリナ様を、お兄様のものにしてしまいましょう?」

 

 今は、悪魔が微笑む時代。

 全力で唆す。

 

 私の、たった一つの願いの為に。

 

 

 

 呪われた子と、忌み嫌われた私。

 お兄様や両親は心から愛してくださったが、だからこそ。

 そう揶揄されることが同情の仮面を被った家族への中傷となり、とても辛かった。

 だから私は、社交が義務とされる宰相の家に産まれながらも表に出ることへ積極的になれなかったのだ。

 

 私が忌子だと気味が悪いと言われることには、傷ついても耐えることができた。

 

 ただ、守ってくれる家族が傷つくことには耐えられなかったのだ。

 人前に出れば、自身の白髪が老人のようだ。赤い瞳は血のように気味が悪いと囁かれる。

 そんな子が産まれてしまった我が家は呪われている。不幸だ。可哀そうに。

 

 誰もが望んでいなかった不幸。

 

 ……生まれついてしまった、身体的特徴から加えられる偏見と攻撃。

 彼らは生物的本能に依ってそんな排除をしている。自分達と違う。違うモノは危険だから、遠ざけなければいけない。

 差別が起こる理由。それは生き物として、自然に湧き上がる感情だ。

 

 自然を科学で解き明かし、それを御して文明を発展させる。科学が自然を凌駕して、進化を進める。

 そういった理論や意識は『前』にはなかった。だから、幼い私はその自然という名の理不尽に従う他なかった。

 

 私は引き籠りがちになり、その心を癒すのは本だけになっていった。

 ――本の世界は自由だ。理不尽に縛られない世界。

 その中でなら、私は何者にもなれる。王女様に恋する平民の女の子にも。異世界から転生した遥か極東の女の子にも。

 

 孤独で、独りよがりな楽しみだったかもしれないけれど。自身と、家族を守る為に必要だった。

 他人と会えば、また忌み嫌われる。排除される。

 哀れみが愛する家族を傷つけてしまう。

 

 けれど、『今』は。

 

 『今』……それを自覚した時、何時ものように図書室で本を読んでいた。

 お気に入りのエメラルド王女とソフィア。何度も読み返していた、彼女との出会いの切欠となったその本を手にしていた。

 

 「――まるで絹のように綺麗な髪ね」

 

 言葉が、その本の台詞が口から漏れる。エメラルド王女とソフィア……お忍びで街に出かけた王女が、美しい少女に目を奪われることで始まるロマンス小説。

 

 その言葉ぴったりに、私の忌み嫌われた白髪を褒めてくださったあの方。

 小説のソフィアは私と違い、黒髪黒瞳の少女。同じソフィアなのに、と自嘲していたのに。

 

 カタリナ様は綺麗だと。

 白黒の色ではなく、ただ綺麗だと褒めてくださった。

 絹のような白い髪も。ルビーみたいに輝く赤い瞳も。とても、綺麗だと。

 

 そうして、私に初めて友達ができた。

 カタリナ・クラエス様。

 貴族の間では下賤とされるロマンス小説、それに夢中だった彼女。私にはそれしかなかった世界に、彼女は偏見も遠慮もなかった。

 王家と繋がり、庭園弄りが趣味という公爵令嬢。まさに雲の上の人だというのに。

 

 ……同好の存在が、こんにも嬉しいものだなんて。

 

 知らなかった世界が目の前に広がっていく。差別と偏見に押し込められていた世界が、こじ開けられた。

 だから私は……私も、彼女に惹かれた。彼女ともっと強く繋がりたい。

 カタリナ様となら、どんな世界にも跳んでいけると思えたから。ロマンス小説のような夢物語の世界にでも。想像もしない遥か未来の異世界にでも。

 

 残念ながら同性の私が、カタリナ様と添い遂げることはできない。家族になることはできない。

 

 しかし、兄がいた。

 ニコル・アスカルト。

 幼い頃から誰にでも好かれる美貌。宰相家の後継ぎとして、文句なしの秀才。

 

 彼にとって私は唯一の汚点だった。人とは違う容姿の私……妹が、あんなだなんて。

 違う。彼は、お兄様は両親と同じく私を愛してくれていた。勝手に同情してくる周囲に、最初は反論してくれていた。

 

 『俺は幸せなのに』

 

 けれど、いくら言っても分かってもらえない。そんな姿が辛くて、私は引き籠るようになり。兄も悔しさの中、もういいと反論することを諦めていった。

 誰にも理解されない幸福。家族が誇らしく、愛おしいという幸福。

 家族の中だけの幸福に、私と同じように引き籠っていた。けれど。

 

 素晴らしい家族がいて、本当に幸せ者ですわね。

 

 カタリナ様は、そんな私達の幸せを認めてくださった。

 自身の幸せを認めてくれた彼女に惹かれながらも、兄は親友の婚約者を寝取ることはできないと身を引いていた。

 積極的に言い寄ることなんてできない。ただ、出来る限り傍にいたいと願っていた。

 

 愛するカタリナ様と、愛するお兄様。

 『前』では叶うことのなかったはずの。

 私の、たった一つの願い。

 

 

 

 「間に挟まりてぇー……」

 

 

 

 ――はっ。

 宰相家令嬢としてありえない言葉が漏れてしまった。

 なんだろう、『前』を自覚して以降どうも言動に異変を感じる。内面の価値観にも変化がある。

 知っているはずのない言葉遣いや知識が、どこからか心の中に現れる。まるで時代も土地も違う人の意識が、頭の中に流れ込んだようだ。

 

 こんな言葉遣い『前』もしていなかったのに。

 しかしお兄様とカタリナ様の間にある自分、それにとてつもなく心惹かれる。アガる。萌える。

 

 気づけばお兄様に囁き、唆す日々が始まって早三か月。

 ひたすら略奪愛の素晴らしさを説き、腹黒王子から魔性の魅力を持つ殿方が公爵令嬢を奪う本を勧め続けた。

 『前』の記憶は私にも、お兄様にもあった。その記憶があり、カタリナ様を手に入れることに積極的になれないお兄様を洗脳……いや、説得し続けた。

 

 最初は『前』の記憶がある。その事実に混乱し状況を確かめるのに時間をかけたが、その分状況を理解している。

 まさかマリアが、クラエス家にメイドとして入り込んでいるとは思わなかった。だからこそ、その異常に『今』が二周目なのだと分かった。キース様も前と違い、クラエス家の養子になっていないようだ。

 

 それに何故かジオルド様は、カタリナ様と婚約を成立させていない。

 

 『前』、既に婚約していた二人にお兄様は遠慮して、その想いを露わにすることはなかった。ジオルド様とお兄様は、幼い頃からの親友だったから。

 カタリナ様を愛していると、欲しいと伝えることはなかった。

 

 しかし、『今』。

 遠慮すべき事実は存在しない。お兄様は詰め切れない親友に譲る必要なんてない。三か月ひたすら洗脳し続けたお兄様は、ようやくその気になった。

 私を間に挟め。

 お兄様がカタリナ様と結婚し、私を義妹にしろ。あくしろよ。

 ……おっと知らない人の意識が。

 

 その願いが私、ソフィア・アスカルトの背を押す。

 お兄様と、カタリナ様の間に在る私。そんな幸せに向かって、駆け出させる。

 

 

 吠える犬設置完了。

 

 今日はジオルド様とアラン様主催のお茶会だ。

 つまり私とカタリナ様の出会いの日。

 

 あの日、呪われた子と貴族令嬢たちに囲われ虐められていた私を救って下さったカタリナ様。『前』、吠える犬に追いかけられて偶然その場に居合わせていたと話しておられたが。

 確実を期す為に、鎖に繋がれていたはずの犬を放しておく。ちょっと元気で人懐っこい子で、間違っても噛むことはないので安全だ。

 

 あの時背にしていた木があそこだったから、お茶会会場との間を計算して……。

 犬の鳴き声が聞こえる。しばらくして止んだことから、恐らく彼女は例の木の上。

 タイミングを見極めながら誘導した、私を囲み虐める令嬢達を煽っておく。

 

 「違っ……私そんなつもりじゃ……っ!」

 

 背には例の木。へいへい、呪われた子だぞ私? せっかくの王子様主催のお茶会を台無しにする女ぞ?

 一方的に嬲られるだけに見える私に、口々に罵詈雑言を投げつけてくる令嬢達。

 涙目も演出していると、ザッ! と彼女が背後に降り立った。きたー!!

 

 「――そこをどいて下さいますかッ!!」

 

 予定通り吠える犬に追い込まれた木の上から、スーパーヒーロー着地するカタリナ様。あれ膝に悪いんだ。

 その威圧に、蜘蛛の子散らしたように去っていくいじめっ子達。とぅんく。

 知らない人に思考を引きずられながらも、『前』と同じく私とカタリナ様の出会いイベント消化。

 そして名も告げず去っていくカタリナ様……ああ、やはり素敵です……。

 

 必ずお義姉様になっていただく。その為にも次のステップだ。

 

 

 (はあぁぁぁぁぁぁぁ……)

 

 声に出さないようにため息をつく。あちこち挨拶に回るだけでくったくただ。

 

 ジオルドとアラン主催のお茶会。

 招待された私は、お茶会に参加したことすらないのに王宮で催されたそれにいきなり放り込まれた。

 恋愛脳に支配された両親は、荒波に揉まれた末の出逢いにロマンスを感じてしまうらしい。

 

 お目付けとしてマリアを共にさせてくれたが、王家が持て成すお茶会。そこで供されるお茶やお菓子はどれも絶品だ。

 参加者は皆、主催の二人へ挨拶することに必死でほとんど手がつけられていない。一緒に来ているメアリも、侯爵家令嬢として応対に忙しそうだ。

 こんなに美味しいのに……タッパーがあったら詰めて持って帰りたい。

 

 「カタリナ様。まさか余っているお菓子を持ち帰ろうとなどと、思っていませんよね?」

 「すごいわ! よくわかったわね!」

 

 マリアはいつも、完璧に私のことを分かってくれる。まるで前世から一緒だったかのように。

 

 「クラエス家の品位を疑われます。奥様にばれたらまたお菓子禁止にされてしまいますよ」

 「そ、そんな……マリアのお菓子も禁止だなんて……!!」

 「――まぁ、その? パンケーキまでなら食事なのでお菓子ではないですし」

 「やったぁ! マリア大好き!!」

 

 ぎゅう、とマリアを抱きしめる。彼女の焼いたパンケーキは最高だ。お菓子が禁止されても、それだけで生きていける。

 つまりお母様に禁止されても問題なし。

 何故か上の空になってしまったマリアを尻目に、目の前のお茶とお菓子を胃に流し込んでいく。

 マリアの作ってくれる素朴なお菓子も大好きだけれど、珍しいお菓子もたくさんある。こんな機会なんて滅多にないもの!

 

 「……少し、失礼しますわ」

 

 お腹がちゃぽちゃぽ……。でも大丈夫! お母様に鍛えられた貴族令嬢としての立ち振る舞いで、優雅にお手洗いにいけるようになったのよ!!

 限界を迎える前に花摘みへ、まだぼんやりしているマリアを置いて早足に会場を後にして。出逢ってしまった。犬に。

 

 前世から犬に追われる宿命にある。

 

 チワワだろうが土佐犬だろうが全て、敵意剥き出しで追われる。犬猿……野猿と讃えられた私の宿命だろうか。

 

 「待って待って勘弁して!?」

 

 吠えながら追ってくる犬から逃げ、目についた木に登る。数少ない私のスキル、木登りで危機から逃れる。

 ……やっと行ったわね。吠える犬が離れて。ようやくお手洗いにいけると安堵していると。

 

 なんか人が集まっているんですけどー!?

 

 私がいる木の下。何故か人が集まってしまっている。これでは、こっそり木から降りるなんて出来ない。

 誰かを囲み言い合っているようだが、無理限界。この歳でおもらしするより、木登りする公爵令嬢の方がいくらかマシのはずだ。

 

 一息に飛び降り、着地。

 そんな私に貴族の子供達の注目が集まるが、それに弁明する余裕はない。漏れる。早く通してトイレに行かせてトイレにー!

 

 余裕のなさから睨むようになり「退いて」の声にも、ちょっと怒りが籠っていたように思われたのかもしれない。 

 囲まれていたらしい少女は固まっていたが、その他の子供達は怯えながら走り去ってしまった。

 

 そうして。

 一人残った少女。

 綺麗だった。真っ白な髪に赤い瞳、透けるような肌。なんて……。

 

 「うっ」

 

 我慢が限界だった。とてつもなく綺麗な彼女はともかく色々限界だった。

 控え目に私を呼び止めようとする彼女に断り急ぐ。決壊する前に。

 

 「……間に合って良かった」

 

 なんとか間に合ったが、急いでいたからマリアともはぐれてしまった……王宮に招待されるような、高位の貴族ばかりのお茶会。多くの人が集う社交の場。

 ――前世、田舎育ちだったから人が多いというだけで混乱する。何より貴族としての立ち振る舞いにも慣れていない。

 不安に、心が乱れてしまう……早く、早くマリアと合流しないと。

 

 「あのっ」

 

 人混みの中、声をかけられる。視線の先には、先ほどの少女。美しいという言葉を、形にしたかのようだ。

 まるで絹のように綺麗な……。

 

 「妹がお世話になったそうですね。兄のニコル・アスカルトと申します」

 

 その隣に現れたのは。

 なんだこの絶世の美少年は。ジオルドも凄い美形だが、それとは方向性の違う美しさ。

 今の私と同じくらいの歳に見えるが……何というか妙な色気がある。花開くような微笑も、恐ろしい程に魅力的だ。

 万人を魅了するような……。

 

 「妹のソフィア・アスカルトです。先ほどは助けていただきありがとうございました」

 「な、何のことかわかりませんがどういたしまして……?」

 

 困惑しつつも、名乗り返す。

 どうもソフィアを虐めていた令嬢達を、突然登場した私が追い払ってくれたと思っているらしい。ただトイレに行きたかっただけなのに。

 お礼の必要なんてありません、と伝えるが是非また改めてクラエス家に伺いたいと言われてしまう。

 

 「そ、そんな……」

 「お受け頂けませんか?」

 

 ――はうぁっ!?

 頭がくらくらする。ニコルの眉が下がり、悲しげな表情で乞われる。これほどの美少年に懇願されるだなんて、耐え切れない。

 結局押し切られるように、願い出を受け入れてしまった。

 

 ニコル・アスカルトとソフィア・アスカルト。

 その二人が、FORTUNE LOVERの登場人物だと気づいたのはだいぶ後のことだった。




ソフィアで走るカタリナ攻略RTAはぁじまぁるよー。
兄を結婚させることが目標となりますが一周目ルートの場合発動できないスキル、魔性の笑みが今回の二周目では洗脳により使用できるようになります。
使用さえ解禁されれば即出会いイベントをこなし、兄とカタリナを接触させる口実を作ります。
あとは二人きりにしてスキル使用すれば落ちます。たぶんソフィア編の最速です。

そんなこんなで準備完了して襲い掛かる魔性兄妹。
『あ』の人も二周目なので、ちょっと成分濃くなっております。

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