乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった2周目に転生してしまった… 作:蒼樹物書
――記憶が、蘇った。
◇
『鳥がいるぞぉ!』
『どけよ!』
僕を突き飛ばす、義兄弟達。
分家とはいえ公爵の血筋を持つ、傲慢な子供。甘やかされ、自分達は特別なのだと思ってしまった彼ら。そんな彼らは、無邪気に暴力を振るう。
野鳥の巣に、石が投げられていた。鳴き声をあげる雛鳥。身を挺して親鳥がそれを守ろうとしている。
やめて。
僕は、それを止めたかっただけだったのに。
ご当主様と娼婦の間に産まれ、三歳の時この家に引き取られた僕。
そんな僕は奥様や義兄達からすれば、さぞかし目障りだったのだろう。
僕は、孤独だった。家族の中にあって、誰も家族がいなかった。
だから一心に餌を与え続ける親鳥、それに甘えて口を開く雛鳥達。
当たり前の、家族の在り方に目が離せなかった。独りぼっちの僕は、時折その巣を見上げて。
うらやましいと、ただ眺めていた。
……なのに。
その巣に、義兄弟達が石を投げつける。
法や道理を知らない、幼い子供は残酷だ。それも、一方的に暴力を加えられる相手ならば猶更。
『今』ならばそういうことも理解できる。そんなことをしてはいけないよ、と大人として子供を諭すことができる。
『前』は、それが出来なかった。ただ、野鳥の家族を守りたくて。
土の魔法を使い、暴走させてしまった。
幼い子供が発現するはずのない、強力な魔法。地を砕き、岩を炸裂させる土の魔法。
頬に、生暖かいモノ。それが、義兄の血だと気づいたのはだいぶ後のことだった。
『恐ろしい……』
『お前は部屋から出るな!』
ただ、彼らを止めたかっただけ。僕の憧れだった家族を、守りたかっただけなのに。
娼婦の息子に産まれ、貧しく飢え死ぬだけだったはずの僕が生き永らえたのはご当主様に拾っていただいたからだ。
お優しいご当主様に感謝しろと言われ続け、幼い僕でもそれくらいは理解できた。
そんなご当主様の、後継ぎになられる義兄達を傷つけたこと。それは、罪だと。
だから一人、部屋に半ば軟禁されることも。ばけもの扱いされることも。
諦めるしかなかった。
だが、八歳の時。
僕は魔法の才能を認められ、本家に養子として招かれることになる。
そこで出逢ったのが、義姉に当たるカタリナ・クラエス様だった。彼女が王子様と婚約し、クラエス家の跡取りがいなくなるということで養子となった僕。
噂通り、我儘な公爵令嬢ならば……僕は、歓迎されないだろう。
分家でもそうだった。自分達の利益を奪う、他所の子供。
貴族社会にあっては当然だろう。
だから僕はいつものように一人で、静かに息を潜めて生きよう。誰かと関わらなければ、誰かを不幸にすることなんてない。
――僕は、恐ろしいばけものだから。
諦めて、いたのに。
『キース! 今日はとってもいい天気だから庭を案内するわ!』
『キース、私達は義姉弟になったのだから私のことは義姉さんって呼んでいいのよ』
『死なないでキース―!!』
僕が本家へ養子に来た翌日。
クラエス本家の庭を、案内してくれた。釣りもできる小川。その上で見る景色が最高だという木。
木登りを教えててくれるという義姉さんが落っこちて、僕を下敷きにしたりもしたが。
義姉さん。
そんな日々は、紛れもなく僕が憧れていた家族との生活だった。
僕が養子として来たことで、お義父様……ルイジ・クラエス様の隠し子疑惑が発生してしまい、ひと悶着あったそうだが。
義理の両親はそれから、義姉さんと同じように愛情を以って接してくれる。むしろ色々不安な義姉さんを頼むと、お義母様からお願いされるほどだ。
畑を耕し、剣の稽古に励む公爵家令嬢。
そんな規格外の義姉さんだが、何時も僕に愛情をくれた。何時も、一緒にいてくれた。
……なのに。
また、僕は罪を重ねた。
土の魔法に興味があり、僕の魔法が見たいという義姉さん。お義父様から、きちんと先生から学ぶまで魔法を使うことは禁じられていた。
けれど。
いつも愛情をくれる義姉さんに、何か恩を返したかった。幼くも女の子にいい所を見せたいというのは、男の子の本能だった。だから、僕は間違えた。
魔力を込め、巨大化させた土人形。義姉さんに乞われるまま、歩かせる。
落ち着いてさえいれば、その頃でもこの程度の制御は簡単だった。
なのに。
突然、土人形へ駆け寄ってしまう義姉さん。僕の制止も間に合わず。
義姉さんを、傷つけてしまった。また、僕は罪を。
……僕は、お義父様にありのまま全て伝えた。全て、僕が悪いのだと。
どんな罰でも受けます。
家族を傷つけた。それも養子の、貰い子の僕が。
やっぱり、僕は一人じゃないといけないんだ。僕なんかが、家族を望んではいけなかったのだ。
ばけものは恐れられ、誰かを傷つけないよう……一人でいないと、いけないのだ。
暗い闇に埋められた自室に、籠る。誰にも開けられないように鍵を手に握り、扉を施錠して。
今思えば、なんと浅はかなと笑ってしまうけれども。だからこそ、純粋な願いだった。
もう、誰も傷つけたくなかった。一人でいれば、それは叶う。
義姉さんが、部屋の前に立つ。扉越しに、僕に心配の声をかけてくれる。
心が暖かくなる。優しい義姉さんの顔が見たい。でも。
『僕はもう、義姉さんの傍にはいられないんです』
反論するように、激しい音で扉が叩かれ鍵のかかったドアノブが捩じられる。
この扉を開いてはいけない。開けて、義姉さんの顔を見てしまったら。僕はまた、家族を望んでしまって。
また、傷つける。
『キースッ! ドアの近くにいるようだったら離れてね――ッ!!』
ぶぉん。何か、巨大で重いモノを振りかぶる音。
――闇が、開く。
まるで、主に道を作るように闇が開いて。その先に、義姉さんがいた。
ドアを破壊したらしいハルバードを投げ捨て、地に伏せ額を擦り付けるように謝罪してくる義姉さん。
なんで。なんで、義姉さんが謝るの?
悪いのは僕なのに。恐ろしいばけもので、義兄達を傷つけ今度は義姉さんも傷つけた。
強力なくせに魔力をコントロールできない僕は、一人でいなければならない。
『魔力がコントロールできないなら、これから出来るように頑張ればいいじゃない!』
一緒に、魔力の訓練をしていきましょう。
そんな風に、簡単に言ってくれる。
……義姉さんは、僕と一緒にいてくれるの?
それが、当然だと。
一緒にいるのが当たり前の、家族。
僕の手を握り、一人ぼっちになってはいけないと言ってくれる義姉さん。
産みの母と別れ拾われた父にも見放されて。
もう一度拾われたここで、ようやく僕は家族と出逢えた。
義姉さん。これからも、一緒にいてね。
◇
「鳥がいるぞぉ!」
「どけよ!」
僕を突き飛ばす、義兄弟達。尻餅をつく僕。
この展開を知っている。これは、にかいめだから。
『前』の記憶が蘇った僕は……。
「な、なんだ!?」
「土人形……!?」
土の魔法を使い、投石から野鳥の巣を守る。
『前』……既に本家で家庭教師から勉強し、魔法学園でも学んだ僕は魔法を完全に制御していた。以前のようにのっぺらぼうの土人形ではなく、甲冑姿のゴーレム騎士。
自分たちの数倍も大きい、土の巨人を操る僕。
「おやめ下さい、義兄さん。高貴な男児が、このような恥ずべき行為は」
十五歳だった『前』からすれば、目の前の義兄さん達は子供だ。あの時のように感情のままに傷つけてしまうなんて、ありはしない。
「す、すげー! かっけぇー!!」
「キース、これお前が操ってんのかよ!?」
窘める僕に、義兄さん達は目を輝かせる。
大きく、強大な力。僕が操る土人形……その巨大さが、どこかの琴線に触れたらしい。
それから。
これまで拾われた子として、何もかも受け入れるように親の言うことを聞いていた僕だったが。
『今』の僕は両親に、事情を理路整然と説明した。
何故か尊敬してくれるようになった義兄達が、味方してくれたこともあり。
――『前』とはだいぶ違う家庭環境になってしまった。
実の父、分家当主であるお父様は。性に奔放な嫌いはあったが、わざわざ僕を拾ってくれたことからそれほど悪い人でもなかった。
『前』の暴走で、僕を恐れてしまっただけだったようだ。
義兄達も、親に倣い僕を邪険にしていたが……あの一件以降、認められたらしく遊びに誘ってくれるようになった。
お義母様も急に拾ってこられた僕に、実の息子達が立場を追いやられるかもしれないという危機感から僕を遠ざけていただけらしい。
仲良く子供同士遊んでいる内、お義母様もそんな警戒を解いて同じ息子として認めて下さった。
義姉さんと出逢う前、僕にとって居場所のなかった分家。
『今』は、家族になれてしまった。
「……どうしよう」
兄達がいびきを立てながら眠っている子供部屋。そこで、八歳の僕は頭を抱えていた。
どういうことだろう。
確かに魔法学園で過ごした日々が頭に刻まれている。『前』の記憶が確かにある。
時間が巻き戻っている?
『今』僕は本来なら、兄達を傷つけ孤独になり……ジオルド王子が義姉さんと婚約したことで、クラエス本家の養子になっている頃のはず。
しかしそうはならなかった。『前』と違う。
僕と家族の仲が良好にあること。
そして、ジオルド王子は義姉さんとの婚約を成立させていない。後マリアとかいう妙に聞き覚えのある名前の少女が、メイドとして働き始めたらしい。何やってんのあの子。
どうなってるの。
分家として末端にあるとはいえ、本家の情報は耳に入る。そこから得た情報だが何もかも滅茶苦茶だ。
「どうすれば」
家族の仲は良好。最近は出来た子だとお義母様も認めて下さって、義兄さん達の面倒をお願いされるほどだ。家庭内が居心地良くなって、お父様も火遊びをしなくなった。
おそらく本家の養子にくれと言われても、簡単には手放さないくらいには良好になってしまった。
そもそも義姉さんが婚約を成立させていない。つまり、本家の跡取りを必要とすることはない。
申し出の相手が王族だから、時間の問題だとは思うけれど……少なくとも、すぐ僕が本家に呼び寄せられることはない。
つまり。
僕は義姉さんの弟になることが、できない。義姉さんと一緒にいることができない。
……『今』の家庭環境は、夢にまで見た幸せだ。『前』のあの頃、手にしたはずのない幸せ。
けれども、このままでは義姉さんが義姉さんでなくなる。
僕は彼女にとって分家の、ただの親戚。義姉さんと呼ぶことすらできない。
「そんな……」
幸せな家族を手にしながらも、僕はここにいない義姉が欲しいと思ってしまう。一人でいるべきだなんて、考えていたはずなのに。
強欲になってしまった。両親と義兄達に囲まれて幸せなはずなのに。
だから僕は必死に考え、その為に必要なことをしていった。
分家の、それも末っ子の僕が本家の一人娘に近づく方法はない。
あるとすれば。
魔法を発現した者、貴族平民の区別すらなく入学することになるそこでしかあり得ない。
『今』僕と義姉さんは会ったこともない親戚。他人と言ってもいい間柄だ。
他人なのだ。
だから『前』とは違う、共に在れる方法がある。
もう、義姉さんと呼ぶことは叶わない。けれど。
――カタリナ様。
一人の女性として、彼女をそう呼ぶことができる。
一人の男性として、彼女に近づくことができる。
また、家族になれる。今度は、夫と妻として。
『前』、僕は義姉さんに女性には優しくすべし、決して相手を傷つけるような軟派をしてはいけないと教えられてきた。
義姉さんより扱いが難しい女の子なんていなかったけれども、おかげで義姉さん以外の女性にはあまり耐性がなかった。義姉さんの面倒を見ながら、他の女性にかまけている暇なんてなかったから。
でも『今』は。
分家の末端にありながら社交界に、できる限り顔を出す。あわよくば、義姉さんと逢えるかもしれないという下心と。
……女性の扱いについて、耐性をつける必要があった。
今回、義姉さんは初対面の女性だ。いくら『前』長い時間を一緒に過ごしたとはいえ、どう話しかければいいのかすら分からない。
結局義姉さんと出逢うことはできなかったけれども、ずいぶんと経験を重ねることができた。
エスコートを自然にこなせる様になり、女性の目を引く立ち居振る舞いやお洒落……とにかく男性として磨いていく。自信をつける。
途中、幾人もの貴族令嬢達に言い寄られたが……勘違いさせてしまい、ごめん。僕は、彼女の為にしていることだから。
他人同士となってしまった『今』、彼女だけを軟派する為に。
そうして、七年の月日が経った。
魔法学園入学の日。
『前』とはずいぶん違う十五歳になった僕。
「義姉さん……」
僕と同じく、大人になった彼女を遠巻きに見る。その姿を見るのは、七年ぶりだ。
心が張り裂けそうになる。今すぐ駆け寄って、抱きしめたい。
友人達やメイドに囲まれ、無邪気に笑う彼女。そこに僕はいないけれども。
だからこそ『今』ならば、弟扱いで進めなかった位置にまで踏み込むことが出来る。
義姉さん。いや、カタリナ様。
また、家族になろう。
キースで走るカタリナ攻略RTAはぁじまぁるよー。
二周目の場合、義弟にならない選択肢が解放されます。
本家に入った場合イベ消化即押し倒すのが最速なのですが、今回は分家ルートでの最速。
家庭環境は驚きのビフォーアフターしているので、魅力値稼ぎに幼少期を費やせます。分家イベもifとして面白いのですが、RTAなんで全スキップです。
あとは学園に入ったら魅力値の暴力で殴ります。野猿は死ぬ。
お待たせしました。
時期的に分家での魔法暴走もうちょっと前な気がしますが、捻じ込みました。
本当に待たせてごめんよう、キース……しかし義弟という安地を捨てた彼は一気に強キャラです。
原作ゲームの軟派と一周目の純愛が両方備わり最強に思える。