全てを失った僕が守るもの   作:かとやん

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未来を知る者と未来を観る者

暗かったはずの空はいつの間にか白みだし、鳥のさえずりが耳を打っていた。

 

「や、やっとついた…」

 

僕は目の前の建物――――サー・ナイトアイの事務所を見上げながら、擦れた瞳をこすり上げる。

公共の移動手段が使えなかった僕は、久方ぶりに個性を使用せず、徒歩での移動を試みたのだが、

 

「思った以上に、疲れが……まだ戦闘での疲労が抜けていないのか?」

 

想像以上に疲労した肉体に僕は苦笑する。

思えば弔との死闘のあと、軽い睡眠? のようなものを取っただけだった。

 

でも、ここで止まるわけにはいかない。

 

僕は覚悟と共に第一歩を踏み出し————事務所の入り口の扉に頭から倒れた。

 

……これだよ。

 

僕は何か懐かしいものを感じながら、襲い来る睡魔に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……ここは」

 

「ようやく起きましたか」

 

ズレた意識が戻ってくると、何処から懐かしい声が聞こえてきた。

声のした方を向けば、テーブルを挟んだ向こう側にビジネスマンのような恰好をした男性が一人。

 

白のシングルスーツに赤いネクタイを締め、鋭い目つきを隠すようにメガネをかけたその人は、油断なく僕を見ていた。

 

「あぁ、ナイトアイっ」

 

変わらない、自分の記憶のままの姿に、僕は目頭が熱くなり堪らずに手で押さえた。

 

「……」

 

そんな僕を無言で見つめてくるナイトアイに、僕は涙を堪えて声をかける。

 

「ナイトアイ。貴方に相談とお願いがあってきました」

 

そう言って僕は右手を差し出す。

何度も皮膚を縫い合わせたボロボロの歪な手を前に、ナイトアイの眼光を更に鋭くなる。

 

「……何の真似だ」

 

「僕の未来を、見てください」

 

「断る。それから私は忙しい。目が覚めたのなら早々にお引き取り――」

 

「オールマイトの、世界の未来がかかっているんです」

 

拒絶の言葉に被せるように綴れば、ナイトアイの目が僅かに見開かれる。

持ち上げかけた腰をソファに再度落ち着けたナイトアイは、深く息を吐く。

 

「ふぅ。……いいだろう。3分。3分だけ貴様の話を聞いてやる」

 

「ありがとうございます」

 

僕は姿勢を正し、ナイトアイの目を見つめる。

一切揺るがない瞳を前に、僕は結論を述べる。

 

「お願いがあります。今から数年後、日本という国が、ヒーロー社会が崩壊するのを一緒に止めてください」

 

「……」

 

「順を追って説明します。きっかけは今から1年半後、平和の象徴であるオールマイトの引退から始まります」

 

「ッ……」

 

林間合宿でのかっちゃんの誘拐を引き金とした神野事件。

ハイエンド脳無の出現と異能解放軍の解体と超常解放戦線の設立。

そこから始まった解放戦線とヒーローとの苛烈な戦争。

 

僕の知る限りの全てを彼に話した。

 

僕が話し終えた時、ナイトアイは変わらず僕を見つめていたが、その瞳には確かな動揺の色が映っている。

 

「今の話の根拠は? なぜそれほど事細かに未来の話ができる。君の個性か?」

 

「いえ、僕の個性はOFAです」

 

今度こそ、彼の瞳は驚愕に見開かれた。

 

「どこで、それを知ったッ」

 

「……僕は、未来から来ました」

 

「何?」

 

「緑谷出久。いえ、無個性の中学生といえば伝わりますか」

 

「……君は誰だ」

 

ナイトアイの問いに、僕は直ぐに返せない。

一体僕が何なのか、誰なのか。今はまだわからない

だから、

 

「緑谷出久、だったもの。彼の抜け殻。どれが正しいのか、僕にはわかりません」

 

僕の応えに、ナイトアイは数秒ほどして脱力するように肩の力を抜き、俯く。

 

「…………なぜだ」

 

「?」

 

絞り出すような呟きに、僕は首を傾げるがナイトアイは睨むように僕を見つめる。

 

「なぜ私を頼った。君の話が本当なら、それこそオールマイトに話すべきではないのか」

 

ナイトアイの問いはある種当然の疑問。しかしそれに、僕はさも当然のように答えた。

 

「僕は、あなたが誰よりも未来を変えたいと願っていることを知っていますから」

 

「」

 

未来を知るものと未来を見る者。違いはあれど、共に未来を変えたいと足搔く者同士だから。

 

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