ちょっと……いや、かなりアレな死に方をした俺は、図らずもそれに大受けした悪魔に誘われて転生することになる。
最初は疑っていたものの、三つも好きな特典をつけると言われてしまえばその気にもなる。
そして俺は自分なりに名案だと思う特典を三つもらい、無事に転生することになったのだが……。
転生した場所は、よりにもよってあの米花町だった!
おまけに受難はまだまだ続き……。

と、そんなお話。

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メインで書いてる話の息抜きに、ふと思いついて書いた。今は満足している。


悪魔にノせられてホイホイ転生したら米花町だったんだが

「バカだねぇ〜。いやぁホント、実にバカだねぇ」

 

 死んだ俺の目の前に現れた男……女?

 どっちかはわからんが、ともかくそんな感じの得体の知れない存在が爆笑しながらそういった。

 

 なんだこいつ、と思う間もなく、そいつは笑いながら続ける。

 

「だってさぁ、これ、ぶふっ。会社をクビになった腹いせに首切りした元上司の車にジェット推進機を取り付けて、吹っ飛んでいく元上司見たさにカメラ回して近場で待機してたら、暴走しながら離陸した車の直撃を受けてリアルに首を切られて死亡、って。これをバカって言わずしてなんて言うのさ! 最高だよね! おまけに映像がしっかり残ってたおかげで全世界にさらし者! 最高に笑わせてもらったよ!」

「恥ずかしいからやめてくれませんかねぇ!!」

 

 俺にだって羞恥心はあるんですよ!!

 

 そりゃ、さすがにアホなことしてるなとは思ってたけど!

 仕方ないじゃん!

 

 何もしてないのに社内の不祥事を全部押し付けられてクビになって、心底人生に絶望してたんだから!

 

「はー、もうほんと、ホント君最高だよ。君みたいな人僕大好き」

「喜んでくれたなら何よりだよ……」

 

 俺は今すぐ成仏したいけどな!!

 

「まあ待ちなよ。確かに君は最高にバカなことをしてくれたし、消えたくなる気持ちもわからなくはないけどね、ちょっと待ってよ。今年のダーウィン賞間違いなしな君に、いい知らせがあるんだ」

「今ドン底にいる俺にはどんな話も朗報だと思うんですがそれは」

「まあまあ、そう言わずにね」

 

 俺をなだめるそいつは、そこでおほんと一つ咳払いをする。

 

「まず自己紹介! 僕は君たちが言うところの悪魔ってやつさ。人間に悪いことして遊ぶ悪魔君だよ」

「要するにグランドクソ野郎ってことか」

「あはははは、だいたいそんな感じかな! でも今回は別に遊びに来たわけじゃないよ。今回はね、最高な最期を見せてくれたお礼をしに来たんだ」

「最低の最期だったけどなぁ!」

「まあまあそう言わずに。要はいいもの見せてくれたお礼がしたいんだよ。その内容はともかく、気持ちは君たち人間でもわかるだろう?」

「それは、まあ」

 

 比べるのもなんだが、素晴らしいエンターテイメントを見た気分なんだろう。その相手におひねりを投げるような。そんな感覚ってところか。

 

「そういうこと。てわけで、お礼をさせてほしいわけだよ」

「悪魔のお礼とか全然嬉しくないんだけど……」

「おやおや? そんなこと言っていいのかな? 僕たちは面白いことには全力なんだよ? だから本当に楽しませてくれた人には協力を惜しまないわけだよ。いい機会だと思うんだけどな〜?」

「前置きはいいから、中身はよ。今のままじゃ怖くて話も聞けない」

「あ、それもそうだね。こりゃうっかり」

 

 てへぺろ、なんて効果音が聞こえた。

 

 なんぞそれ。無駄に凝ってやがる。なるほど楽しいことには全力ってか。

 

「はい、それじゃ本題。僕たちを心底楽しませてくれた君へのお礼、それは特典つきの転生です!」

「……マ?」

「マ! いやいやそんな疑り深い目で見ないでよ。本気だよ? 僕は本気で君を特典つけて転生させてあげようと思ってるんだ」

「オッスよろしくお願いしまーす!」

「うーんこの熱い手のひら返し。ふふ、でもそういうの嫌いじゃないよ」

 

 当たり前だよなぁ!?

 生まれ変われる上に特典までもらえるなら、誰だってそーする。俺だってそーする。

 

「だよね! というわけで、転生させてあげるわけだけど……特典ってのはね、君の好きな内容で三つつけることができるよ」

「大盤振る舞いすぎひん?」

「それだけ楽しかったんだよ。正直、歴代でも一、二を争う死に方だったからねぇ」

「……すげえ複雑な気持ちだけど、やっぱなしって言われるのも嫌だから頷いとく」

「賢明だね! というわけで、どうする?どんな特典がほしい?」

「じゃ、まずその特典を倍に……」

「あ、ごめん。さすがに特典を増やす系はナシでお願い。それやられると際限なくなっちゃうからね」

「チッ。……じゃあ、とりあえず今の記憶とかを引き継ぐやつ……」

「あ、それはデフォルトだから気にしなくていいよ。じゃないと転生してもらう意味もないしね」

「そうなん? じゃあ、えーと……」

 

 そう言われると、どうしたもんか。

 あれもほしいこれもほしいとは思うが、そうなってくると三つは少ないよなぁ……あ、そうだ。

 

「次の人生も平和な現代日本がいいんだけど」

「ん? それは最初からそのつもりだったから、特典にカウントしないでおくよ。君だって、何も知らないところでゼロからのスタートはしんどいだろうし。どうしてもって言うなら異世界とかもあるけど……」

「いや、デフォならそれでいいや。日本人のままがいい」

「だろうね。というわけで、安心して()()()日本に生まれ直すといいよ」

 

 悪魔のくせに親切だな。

 

 まあでも、それなら……んー……ほしいもの……。

 そこからしばらく考え続けたけど、なかなかいい案が出てこない。悪魔はしばらく静かに待ってたけど、やがてしびれを切らしたのか声をかけてきた。

 

「まだかな? こっちも準備があるし、一つでも決まってるなら教えてほしいんだけどな」

「あー、じゃあとりあえず、俺の頭をよくしてくれ」

「ぷっ、そうだね、それはたぶん必要だね。うん、オッケー叶えてあげる。範囲はどうする? 単に記憶力がよくなるだけならどんなことも忘れないようにできるし、逆に思考力だけを強化するのもありだね。戦いにおけるそれに絞ることもできるし、逆にまんべんなく平均的に上がるのも可能だけど」

「全部上げてくれ」

「それをやると、一つ一つの能力の上がり幅は小さくなるけど構わないかい?」

「ああ、それでいい」

 

 どうせ一つだけよくなっても使いこなせないだろうし。

 

「オッケー了解だよ。それじゃ次行ってみようか。何がいい?」

「子供のときからすごい人たちに色々教えてもらえる環境がほしいな」

「おっ、なるほど考えたね。普通生まれるところは選べないけど、その条件なら子供のときからいい経験ができる上に、ある程度いい家庭環境も期待できるもんね」

「だろ? なかなか名案だと思うんだ」

「そうだね、素晴らしいよ。さすが、僕が見込んだだけのことはある。……よし、と。それで、最後の一つはどうするんだい?」

「うーん、それがなかなか決まらなくってなぁ」

 

 腕を組んで、上を向く。そうしてもいいアイデアは出てこないわけだけどさ。

 

「なあ、なんかいいアイデアとかないか?」

「ええ……そこで僕に聞くのかい? いいけど、僕は悪魔だよ? 僕のオススメを使ってどうかなっても僕は笑うだけだよ?」

「せやな」

 

 ぐう正ですわ。

 くそう、自分で考えるしかないか……。

 

 うーん。

 

 うーん……。

 

「……ダメだ、選べん!」

 

 仰向けに倒れこむ。

 案がないわけじゃないんだ。ただ、どの案も魅力的すぎてな……。

 

「うーん……君としては、生まれ変わったらこうしたい、ああしたい、とかそういう願望はないのかい? 将来の夢、今の人生で諦めた夢、とかそういうのでもいいよ。その辺の望みを叶えるならどうしたいか、を軸にして考えてみればいいんじゃないのかな?」

「俺のしたいことか……」

 

 むくりと身体を起こして、もう一度腕を組む。

 

 俺のしたいかこと。それは……うん、あれだな。

 

「……女の子たちにチヤホヤされたい」

「悩んだ末にものすごく普通なのが出てきたね。それなら月並みだけど、イケメンになりたいとかでいいんじゃないかな? 今のままだと、君は今の人生とさほど変わらない顔面偏差値になるよ」

「それは嫌だな。よし、それならイケメンに……」

 

 ブサイクとは言わないまでも、目立ってイケメンでもなかったからやはりカッコよくなりたい。あわよくば、女の子をたくさん集めてハーレムを……。

 

 と、思ったところでふと思った。

 

 イケメンになったところで、所詮男は男だ。親しくもない女の子に触ったら即逮捕されかねない。それは嫌だ。

 女の子同士ならいきなり触りに行ってもある程度許されるだろうが……生理が怖い。うちの姉ちゃん、かなり重くて毎月死にそうな顔してたもんな。

 

 となると……。

 

「イケメンになる、でいいかい?」

「いや、待ってくれ。俺はイケメンにはならない」

「へえ? じゃあどうするんだい?」

「ああ。俺は……男の娘になる!」

 

 どん!!

 

 キメ顔で言い放った俺に、悪魔は一瞬黙り込んだ。

 けれどすぐに派手に笑い出すと、その場で転がりかねないレベルで爆笑する。

 

 なぜだ。

 

「いや〜さすがだよね君。その発想はなかった。何をどうしたらそこにたどり着くのかさっぱりだよ……さすが面白い死に方をしただけのことはあるね!」

「それは褒めてないよな!」

 

 さすがにわかるぞ!?

 

「いやいや、褒めてるよ? 常人には思いつかない面白い答えじゃないか、僕たちの大好物だ」

 

 嬉しくないなぁ!

 

「で? 本当にいいのかい? かわいい男の娘になるというのが三つ目の特典で」

「……それは、まあ、そうだな。男の娘なら見た目が女だから、女をいきなり触ってもただの男よりは気にされないだろ。そして身体は男だから普通に女の子とおセッセできる!」

(そこで自分が掘られる側になるんじゃないかって危険性に思い至らない辺り、さすがあの死に方をしただけのことはあるなぁ。バカなんだなぁ、やっぱり)

「なんか言ったか?」

「んーん、何にも。……じゃ、確認するよ? 君が望む転生特典は、全般的な頭脳の強化、様々な技術や知識を幼少期から学べる生まれ、そして性別:男の娘。この三つでいいかい?」

「ああ、それで行ってくれ」

 

 悪魔の確認に、俺は大きく頷く。

 それに対して、悪魔も頷いた。

 

「よしよし、それじゃあこれで行くよ。……そうそう、最後の最後でまたたくさん笑わせてくれた報酬もつけてあげよう。あると嬉しい、健康ってステータスをね」

「マ? そんなんもらってええんか?」

「いいよいいよ。言ったでしょ、最後にまた笑わせてくれた報酬って。僕たち悪魔は面白いことには目がないのさ」

 

 そう言うと、悪魔はぱちりとウィンクをした……ような気がした。

 

 するとその直後俺の意識はぐるりと暗転して……次の瞬間、俺はとある裕福な家庭の子供になっていた。

 

 それはいい。

 

 それはいいんだが。

 

「なん……だと……!?」

 

 ある日、何気なく見つけた新聞の見出しを見て、俺は固まった。

 そう、そこに書かれていた『米花ショッピングモールで爆弾騒ぎ』という見出しを見て、俺は固まったのだ。

 

「あ……あの悪魔ァ……! どこが平和な日本に生まれ直すといい、だ……!」

 

 よりにもよって日本のヨハネスブルグに転生させるとか、何様だちくしょう!!

 こんなところで平和に寿命を全うできるわけないだろふざけやがって!!

 

 だが幼い俺の嘆きと絶望は、始まりに過ぎなかった。

 どうやらギフテッドらしいと思われた俺は、小学校ではなく特別な教育機関に預けられることになったのだが……。

 

「ようこそ、将来の幹部候補くん。私はここのオーナーでね……うむ、ピスコと呼んでくれたまえ」

 

 黒の組織ィ!!

 黒の組織の幹部じゃないかこんちくしょうめ!!

 

 そう、俺が預けられた施設は、国際的犯罪組織、通称黒の組織と呼ばれる組織の教育機関だったのだ。

 そんなところの教育機関がまっとうであるはずがなく、俺は六歳になったその日から普通の小学生は絶対に教わらないようなことを叩き込まれる日々を送ることになる。

 

「今日は皆さんのために特別講師をお呼びしました。変装術の達人、ベルモットです」

 

 たとえば、ある日大女優が慰問に来てくれるっていうから楽しみにしてたら、やってきたのが()()シャロン・ヴィンヤードだったり。

 

「今日は皆さんのために特別講師をお呼びしました。狙撃の達人、コルンです」

 

 たとえば、ある日みんなでサバイバルゲームをやるっていうから嫌な予感を募らせてたら、やってきたカタコト系スナイパーに容赦なくハチの巣にされたり(この時はさすがにエアガンだったが)。

 

「今日は皆さんのために特別講師をお呼びしました。格闘術の達人、アイリッシュです」

 

 たとえば、ある日戦闘訓練があるって言うからボイコットしようとしてたら、ガチムチ級のおっさんにいきなり捕まってしごきまくられたり。

 

「今日は皆さんのために特別講師をお呼びしました。殺しと拷問の達人、ジンです」

 

 最後のほうはもうなんていうか、機関のほうも隠す気ゼロキログラムだったよね!!

 

 他にも、ありとあらゆるヤバい技術を叩き込まれた。コンピューターに関する知識もそうだし、薬学なんかも最低限は。

 あとは、年齢が二桁にもなってないのに車(MTATどっちも)やヘリ、小型飛行機の操縦もやらされたし、銃なんかはもう拳銃からサブマシンガンからアサルトライフルからスナイパーライフルから、何から何までやらされてマジもうふざけんなとしか言いようがない。

 

 それは確かに、俺が望んだ「子供の頃から色んな技術を学べる」環境ではあったが、違うんだ。俺が学びたかったのは楽器とかスポーツとかそっち方面であって、決して犯罪方面の技術を学びたかったわけではないんだ!!

 

 これでとっとと落第生扱いで適当なところで放り出してくれたらよかったんだが、落ちこぼれたらそれはそれで露骨に食べ物や嗜好品が減るから、下手に手を抜けなかったんだよな……。

 

 おまけに悪魔からもらった転生特典である頭脳強化の影響か、俺はやたらめったら物覚えがよく、肉体に準ずる各種技術もばっちり幹部たちについていけてしまったため、八歳になるころにはもう完全に組織の誰からも逃してくれない状況が出来上がっていた。

 ベルモットに至っては、彼女が持つ自由自在な変声術すらものにしてしまったせいか、めちゃくちゃ気に入られてしまったし、なんなら彼女の任務で娘役として随行する機会がかなり多くてこれもう草不可避だよ。フェアリーとか呼ばれるんだけど、なんでやねん。

 

 まあ、そのおかげで多少俺が組織に対して秘密主義をひけらかしても大目に見てもらえるようになったのは、不幸中の幸いかもしれんが……そんな幸いを嬉しいと思えるようになってしまえるくらいには、俺も組織に染まっていた。

 

 にもかかわらず、俺の心が折れることはなかった。十歳にして初めて殺しの任務を与えられたときも、実際に殺しをしたときも、特に目立った問題は現れなかった。

 俺ってこんなにも人間やめてたのかと思ったが、しかしよくよく考えると、たぶんこれも悪魔の特典のせいだろう。

 

 あれだ。最後におまけでつけられた健康。こいつが影響してるんだと思う。

 

 この健康とかいう特典、ぱっと見では病気にならなかったり、毒が効かなかったり、軽い怪我ならすぐに治ったりと、文字通りな効果だったから、単にありがたく思っていたんだが。

 

 これ、どうも肉体的な健康だけじゃなくて精神的な健康すらも保つみたいなんだよな。しんどいとは思うし、ストレスには間違いなくなるんだが、決定的なことには絶対にならないみたいで。

 おかげで犯罪に対する忌避感はあれど拒否反応は出なかったし、普通に人間の頭をパンパン(申し訳程度の自主規制)できた。何にも嬉しくない!

 

 いや、だからって折れたいわけじゃないけど、それはそれこれはこれって言うか! だって好き好んで犯罪をしたいわけじゃないし!

 

 けど、初任務からして特に気負うことなく平然と殺しをやってのけた(ように傍からは見えたらしい)ことで、ますます組織の中での俺の株が上がったものだから、本当にもう勘弁してほしい。

 比較的穏健派のベルモットはまだしも、何が悲しくてあのジンに気に入られなきゃならんのだ。

 

 アイリッシュのおっさんなんか、顔合わせるたびに何かしら格闘技の技を仕掛けてくるんだぞ! しかもガチなやつ! こちとらいたいけな男の娘やぞ!?

 キャンティに至っては「スタバでお茶しない?」みたいなノリで狙撃任務に誘ってくるし! おまけになんか妙に難易度の高いやつ! やったけど!

 

 ごく稀に顔を合わせる機会があるシェリーだけが俺の癒しだが、彼女は彼女で気を抜くとバイオでケミカルな話題をぶち込んでくるので、そこは普通に怖い。お互い忙しいから滅多に会えないしなぁ!

 

 ……とまあ、そんなわけだ。ここまで来たら、もはや確信しかない。

 

 あの悪魔のやつは、最初からこれが目当てで、わざわざ大量の特典までつけて俺をコナンの世界に送り込んだに違いない!

 でもって、この状況で四苦八苦七転八倒右往左往している俺を、演劇かテレビ番組を見ているような気楽さで見ては爆笑しているんだろう。

 

 ああもう、あーもう趣味悪い! さすが悪魔って名乗るだけのことはあるよ!

 

 もちろん、字面だけ見れば俺の願いは完全に叶っている。だからこそ、悪魔の思惑を見抜けなかった俺にだって多少の責任はあるだろうけど!

 でも、だからってこんなのってないよ! あんまりだよ!!

 

 そう、思ってたんだけどなぁ。

 

「――今日からお前の名前はカルーアだ」

 

 機械越しに届く大幹部……ラムの声に、俺は目の焦点をずらしながらもこくりと頷く。

 

 ああ……拝啓、前世の両親様。お元気でしょうか? 俺は並行世界の日本で元気に殺しと情報窃盗、および違法技術の実用化などに手を染めております。

 大変な仕事ですが、給料はその分非常によく、プライベートへの不必要な干渉もなく比較的自由でアットホームな雰囲気の職場で、手前味噌ですがそれなりに活躍していると思っています。

 さてこのたび、コナンワールドに生まれて十二年が経ちましたが、遂に俺、晴れて組織の幹部になりました……ってか。

 

 だが、給料がいいのはマジだ。悪の犯罪組織に給料もクソもないだろとは思うが、そこらへんは案外ちゃんとしているのだ。というか、そうでもしないと離反するやつが大量に出てくるからでもあるんだろうが。

 それがどこから出ているかはともかく、そんな感じで金が振り込まれ続ける俺個人の資産は、幹部に就任した十二歳の時点で既に億を超えていた。ばっかじゃねぇの。

 

 けどまあ、その、なんていうか、あれだよね。

 毎月毎月通帳に記載されていく、桁がおかしい給料の振り込みを見ているとさすがに感覚がマヒしてくるっていうか……こう……揺れるものがあるというか。

 

 しかも、仮にプライベートで犯罪を犯したとしても、全力で組織が隠ぺいしてくれる。さすがに霞が関にタンクローリーをぶち込んだら見捨てられるだろうが、個人のささやかな欲望を満たす程度の犯罪は、それ専用の部署の連中がきれいさっぱり隠してくれるのだ。そういう福利厚生は無駄に充実していて、泣くかと思ったね。

 

 だが……なぁ。いつでも何してもいいよ! なんて言われたら、普通の人間はやってみたくなっちゃうと思わないか。何がとは言わないが。

 

 だから。

 

 ああ、俺はもう普通の道には戻れないんだなぁ……と、そんな風に思いながらも足抜けする度胸もなくて、結局俺はそのまま働き続け、気づいたら有能な幹部としてのし上がっていた。

 

 いやな、任務となると男の娘の見た目は本当に便利なんだ。だってほとんどの人間が初見で油断してくれるんだぞ。特に、俺の姿はラムの助言もあって一部の幹部にしか知られていない。余計に効果は抜群だよ。

 見た目小さい女の子でも腕力とかはなぜか男の年相応くらいあったし、身体能力も体格以外で劣っていることもさほどなかったんだよな。この辺りも、悪魔の何か裏があるんじゃないかとも思ってしまうが、今のところ何もない。

 

 そんな能力のおかげで、俺は潜入捜査官や裏切り者専門の始末屋みたいなポジションに収まったり、男女問わないハニトラ役を仰せつかったりと、なんだかんだで忙しい日々を送ることになっていた。

 それはほとんどの場合殺伐とした日々でもあったが、そんな生活も慣れてしまえば前世の社畜生活とあまり代わり映えがなかった。

 

 ただそこは犯罪組織なので、ストレスの発散であったり息抜きの娯楽にはかなり自由にやらせてもらえたのはよかったんだか悪かったんだか。

 

 具体的に言えば女遊びなわけだが、こっちでもどう見ても少女でしかない今の身体はなかなかに使い勝手がよかった。初対面時の好感度がマイナスから始まらないってすごいよね。

 そのくせ健康の特典が何かしてるのか、どんだけ行為しても枯れないんだから地味にヤバい。

 

 ……とまあそんな感じで、適度に暴れながらもせっせと働いていたある日のこと。

 

「今度、新しく幹部に昇進した三人を紹介しよう。右から順に、スコッチ、バーボン、ライだ」

 

 ジンたち幹部に迎え入れられている三人の男を、キュラソーと一緒に別室のカメラで見ていた俺は、そこで我に返った。

 

 あの三人、確か公安とFBIの潜入捜査官だったよな、と。

 彼らが現れたということは、物語が……名探偵コナンの物語が始まるのもさほど遠くはないのだろう、と。

 

 そう思ったところで気づいたんですがね? あの物語、何年も連載が続いていて色んな季節を重ねていたものの、作中での経過時間は一年以内と明確に設定されていたじゃないですか。サザエさんみたいなものって。

 ということは?

 

 ……うん。

 

 この組織、もうあと五年と経たずに壊滅しますねぇ!!

 

 くそう!! ふざけんなよほんと、マジでいい加減にしろよ!!

 やっと悪の道に浸かり始めて、もう今回はこんな人生でもいいかなって諦めかけてたのに!!

 そんなときに、「その先は行き止まりですよ、突き進んだら社会的死確定ですよ」なんて言うかのごとき所業!!

 

 鬼! 悪魔!! 魔王!!

 あのグランドクソ野郎、次に会う機会があったら絶対ボッコボコにしてやる!! お礼の品はダムダム弾とクラスター爆弾だコラァ!!

 

 ……と、ひとしきりブチ切れたはいいが、そんなことより考えなきゃいけないことが山ほどある。

 

 まず、コナンの物語が動き出したとしたら、何もせず放っておいたらまず間違いなく組織は壊滅するだろう。俺が死んだとき、まだコナンは終わってなかったからどういう終わり方をするかはわからないが。あの方を捕まえて組織の核は崩壊して、しかし組織の残党はその後も活動し続けている、みたいな終わり方もあり得るだろう。

 

 じゃあ俺はそれに対してどうすべきだ?

 

 今の俺は、既に大量の罪を重ねている。証拠はまったく残ってないから、黙っていればバレないとは思うけど……協力するからにはある程度自分から言っていかないとダメだよな?

 

 そうなると、俺は潜入捜査官たちをそれとなく助けつつ、彼らに情報を渡して状況を誘導するように動くのがいいだろうか。彼らの前では、一般的な倫理観は与えられなかった少女を演じる方向で行けば、本来は正義の側である彼らには通用する……んじゃないかな。

 

 ただ、いきなり保護を求めたらダメだろう。そんなことしたら、裏切り者絶対殺すマンのジンニキが乗り込んでくること間違いなしだ。

 原作でも、シェリーに対する執着やあっさり古参幹部のピスコを処分したやり方からして、あの人と戦うのだけは避けたい。俺、色々できるけど器用貧乏だから勝ち目ないしな。

 

 ただ……この期に及んで自分勝手なことを心配して非常にアレなんだが、それはそれとして収監されたくはないよね。死刑になるのは普通に嫌だけど、かといって三十年とか……なんならうっかり無期懲役とか食らおうものならですよ。そんなの、なんのために生きてるのかわからないじゃん(執行猶予はありえないレベルの罪状がある)。

 まあ、幼少期から組織の幹部になるべく徹底した教育を施されていたことを考えれば、情状酌量の余地はあるかもしれない。落とし所としてはそこか。

 

 ただ、俺が組織で稼いだ資産はどうなるんだろう。逮捕されたらやっぱ没収されるの? それか凍結? 組織の給料は念入りに洗浄されたものだから、大丈夫だとは思うけど……でも絶対安心とは言えないよな。

 

 いや、だって今や俺の総資産、二十億くらいあるんだぜ!? 日本の現金だけでも億越えだぞ! それを手放したくないと思うのは、人間として自然な心理じゃないか!? クズなことを言ってる自覚はあるけど!

 

 あと、現状囲ってるハーレムも解体したくない。途中から開き直ってあっちこっちで手を出してるんだけど、JCとか場合によってはJSもいるし、こっちはこっちで犯罪なんだよな……。組織の関係者ばかりとはいえ、これこそ警察に言うわけにはいかないよなぁ……。

 

 ……いや待てよ、ワンチャンAPTX4869で幼児化してしまえば、警察から逃れられるのでは? ラムの言う通りに普段から変装してる俺の素顔は本当に限られた人間しか知らないし、これなら……あ。

 

 ダメだ。悪魔からアホみたいな効果の健康もらってるから、薬の副作用で幼児化は多分起きないわ。死ぬかどうかもあやしい。

 

 くそう!! ほんとあの悪魔ほんとふざけんなよマジで!! やることなすこと、俺のやりたいことを絶妙に邪魔してきやがる!!

 

 くそ、いっそのこと組織と一緒に心中するか!? 原作の流れは大まかだが覚えてるし、主人公であるコナン=工藤新一を早いとこ始末しちまえば将来安泰……。

 

 ……いや待てよ、あいつ殺しても後ろに上位互換が控えてるな。工藤優作。前作主人公かよってくらい、新一を上回る頭脳モンスターだ。おまけにICPOとかにもツテがあるとか言ってよな、確か。あいつを敵に回すのは色々と厄介だ。

 

 あと、新一を殺すとそれに連動して服部平次も敵に回しそうだ。あいつ、新一に出会う前からライバル視してたくらいだし、実際作中でも登場した理由が「最近工藤新一を見なくなったかと思ったら、彼と同じような推理をする毛利小五郎が現れたので不審に思った」からだもんな。新一をどういう風に処分したとしても、勝手に捜査に乗り出しそう。

 そして服部平次の父親は、大阪府警で頭を張る男。首を突っ込んできたからって返り討ちにすると、自動的に府警と完全に敵対関係になる。元々敵対してるけど、本腰を入れられるのは間違いないだろう。

 

 もちろん組織の力を上げれば、いずれは勝てるだろう。だがそれは、恐らくベトナム戦争もびっくりな泥沼の戦いになる気がする。芋づる式に敵がどんどん出てきて、絶対面倒なことになるやつ。

 

 そしてそれは、あの方の方針なら真っ向から反する行為だ。組織のボスたるあの方は、超ド級の慎重居士。ベルモットに「石橋を叩きすぎて壊しちゃう」人だと評されるレベルで慎重なのだ。

 もちろんやるとなったら徹底的にやる人でもあるが、それはそれとして目立つ行為はNGなんだよな。手を出して面倒なことになる相手に積極的に手を出すのは、歓迎されないに違いない。そもそもあの方の目的は、犯罪組織そのものや儲かることとかじゃなくて例の薬の完成だしな。

 

 そして、俺もそれはしたくない。ちょっと撃ち合いをするくるいならなんとでもなるだろうが、終わりが見えないのは嫌だ。しんどい。

 確かに俺はわりとクズだし、かと言って一般人を殺して精神が擦り切れることもないが、かといってまったく良心が痛まないわけでもない。決壊しないだけで、ストレスはたまる。

 だから耐えられるだけでやりたいかと言われれば、そう積極的にやりたいわけでもない、というのが本音なのだ。大体、俺は楽して儲けて女の子とイチャイチャしたいだけなんだし。

 

 というわけで、できれば組織と添い遂げるのはちょっと遠慮したいところだ。その最大の理由が終わりの見えない戦いが嫌っていうのは、我ながら器が小さいとは思うが……原作に沿わせれば一年以内で終わるというのは、やはり魅力的だよ。

 

 それなら、逆に考えてみよう。組織の壊滅後、いっそその後継組織を作るのはどうだろう。ショッカーに対するゲルショッカーみたいな感じで。そうすればあるいは……。

 ……いやでも、前世より賢くなったとはいえ、世界規模の犯罪組織を動かせるほどの能力は俺にはない。そこは弁えている。俺はどこまでも鉄砲玉がお似合いで、せいぜいが現場指揮官くらいが関の山なのだ。

 

 何より、この道こそ一番の泥沼だ。原作が終わったあとの、流れがまったく読めない状況で非合法組織の舵取りとか、そんなめんどくさいことやりたくない! 俺はそんな上昇志向もやる気もないよ! そういう話は意識高いやつに任せておけばいい!

 

 くそ、詰んだ!

 

 どうすればいいんだ俺は!

 何をどうしたらいいんだ!!

 

 誰か!!

 

 誰か俺に名案をください!!

 

 

 

 

続かない




一応このあとの展開としては、まずスコッチを秘密裏に助けて足掛かりにしつつ、公安に「自分は幼少期から組織に洗脳されていたんだよ!」ムーブをチラ見せしながら物語開始を待ち。
コナンがスタートしたら、素性を隠して準レギュラーの顔してコナンたちに関わっていく感じになるかなと思います。

最終的にどうなるかは三つ考えていて、

1.諦めて組織壊滅に協力するが、どれだけ資産を没収されてもいいようにひたすら蓄財に励む。原作沿いで一番無難。
2.潔く組織と運命を共にすることにして、死ぬまでド派手に太く短く生きる。このルートは確実にR18。
3.組織壊滅までは協力して、その後はバックレてルパン一味に混ぜてもらう。そのままアクション活劇に移行。

のどれかかなー、とかなんとか。
まあ、思いついてちょっと筆が乗っただけなので、この先を書くかつもりは今のところないんですけど、主人公の置かれている境遇はそれなりに面白いんじゃないかなとも思うんで、柱の女が一区切りついたら手を付けてみてもいいかもしれないですね(やるとは言ってない


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