「なるほど……単純故に厄介ね。貴女、うちのメイドにならない?」
リリーの宣言した2枚目のスペルカード、開花『四色のフリージア』と私の奇術『エターナルミーク』の激突は、現状私の方に優位性があると言える。
レミリアお嬢様の懐刀として、また自身を含む紅魔館全体の沽券や安寧の維持に関わる者として、苦戦や敗北は絶対ではないものの、限りなく避けるべきではある。
周囲が最適な環境ということで超絶強化されている上、うちの門番妖精メイドにも劣らない弾幕ごっこの技術を持つにせよ、あくまでも相手は妖精。尚更だろう。
「弾幕ごっこ中に私をスカウト? 本当に厄介って思ってるー?」
「妖精という種族のくくりで判断するなら、間違いなく。そうでなかったとしても、このスペルは相応に強いと考えているわ」
「ふーん。自分で言うのもなんだけど、春以外は力が出ないわ。冬なんか、もうもってのほか!」
だがしかし、いくら平均して弱い種族扱いをされがちな妖精とはいえ、目の前のリリーは明確に違う。そのような真似をしようものなら、苦戦はもとより敗北すら視野に入る程度には強い。
この2枚目のスペルを身を持って体験すれば、恐らくそう考える者も少なくはないだろう。吸血鬼異変以前までよくしていた、血で血を洗うような戦闘行為ともなれば、また話は別である。
「ただし、春真っ盛りなら……力漲りますよー! 開花!」
「っ、来る!」
そして、スペルの発動宣言からおよそ1分が経つと、先程まで私やリリーを囲うように飛翔しながら、粒状の弾幕とレーザーを不規則な軌道でばら蒔いていた白・黄色・紅・オレンジの大玉弾が、文字通り『開花』すると同時に回転し始めて、四方に花びら型の弾幕を散らせる。
ほぼ同時、開花した大玉弾からばら蒔かれる粒状弾とレーザーの速度が増し、密度に至ってはパッと見倍となる。
軌道に関しても緩急入り交じり、互いに干渉せず透過したかと思いきや、時折ぶつかって跳弾するなどして急に変化する影響で、回避する難易度は当然の如く増した。甲高い音がするため、気づきやすくはあるが。
当然、避けるだけでも難しくなっている訳で、攻撃しながらの場合は言わずもがなより一層難易度が上がる。現状、私のスペルであるエターナルミークの弾幕は、ひらりひらりとリリーに避けられ続けている。
(春真っ盛りの時期限定のリリーは、まさしく真冬のチルノにも比肩するわね。まあ、総合的な面では後者に軍配が上がるけれど)
これならば、最強化状態のリリーがうちの門番妖精メイドを相手にした場合、1枚目はともかくとして2枚目であるこのスペルを出されると、優勢の場合は自身の勝利をより確実なものにすることが出来る。
逆に不利だった場合は、その状況を打破する事が出来る逆転の一手となるだろう。1度体勢が崩れた時に再び持ち直す、妖精の中では優秀な門番メイドも実力が伯仲か上回るリリーが相手では、非常に難しい行為だもの。
無論、私とて油断していれば分からない。弾幕ごっこのルールの都合上、技術さえあれば妖精がお嬢様に勝利を勝ち取ることも可能なのだから。
「もうっ、全然当たらない! あなたって、本当に人間なの? 霊夢といい魔理沙といい、最近の人間は超人だらけ!」
「あの2人と同じように、私もれっきとした人間よ。特別な能力持ちではあるけれど」
「分かってます!」
紅と白の花弁が私を向けば、射線上から身体を退ける。と同時に、そこを狙って残りの花弁からレーザーが照射され、隙を埋めるかの如く粒状弾や花びら型の弾が殺到してくる。
で、それらを紙一重で避け続けていれば、時折避けたレーザーや粒状弾同士で跳弾して再びこちらに迫ってくるから、1度避けても油断は出来ない。運が悪ければ、同じレーザーや粒状弾に3度4度と襲われることもあるもの。
(お嬢様もフランお嬢様も、何よりリーシェお嬢様だって、きっとリリーを気に入ってはくれるわ)
しかし、スペルカードルールが流布されてから1年経っていないと記憶しているのだけど、妖精の身でよくもまあここまでものに出来たものだ。物覚えが、うちの優秀な妖精メイドと同程度には優れているということ。
妖精は、例え適切でない環境に置かれ、弱体化した影響で物覚えが悪くなったり、記憶や技術力が失われたりはしない。極限の苦痛を長期間与えれば話は別でしょうけど、そんなものは妖精以外にも当てはまるから当てにならないし。
それに、リリー自身他の妖精の例に漏れず元気で明るい。うちの妖精メイドにならずとも、時折お手伝いをお願いしてみるくらいならいいかもしれないわね。
私が話を振った時、スカウトのタイミングにこそ不満を漏らせど、メイドの仕事そのものにはほんの僅かであれ、興味を示すような仕草を見せていたから。
まあ、私の一存で決めてもお嬢様方はお叱りにならないとは思うけれど、だからと言ってそうしていいとはならない。霊夢や魔理沙でも私たちでも、とにかく異変が解決したらリーシェお嬢様に相談してみよう。
「最後のスペル、息つく暇も与えない……『スプリングタイフーン』!!」
そして、危なげなく2つ目のスペルを時間切れで攻略してすぐ、リリーは息もつかせないと即座に
彼女を中心に、まさしく春の台風の名に恥じない量の桜色ないし白色の花弁弾や大玉弾が吹き荒れ、直線曲線問わずにレーザーが追撃として私を狙ってくるから、ルールを考えれば全く近づけない。故に、これは耐久型のスペルだと判断出来る。
幸いにも、弾の速度自体はそこまで速くなく、四色のフリージアのような特殊な仕掛けがあったり軌道ではないけれども、それだけで油断しても良くなるなんてことはない。
もし、リリーが油断しても大丈夫な相手だったら、私は既に今頃霊夢や魔理沙と一緒に元凶と対峙していたと断言しよう。
「スプリングタイフーン……春の台風とは、言い得て妙ね!」
「ふふっ、さっきより余裕がなくなってきてるように見えますよー!」
「否定は出来ないわね。ただ、それ即ち勝てないという訳ではない。このまま耐えきって貴女に勝ち、この異変の元凶を退治しなければならないのだから」
「なるほど! この場に春が集まり過ぎているのは、私も正直思ってる! ずっと続くべきではない!」
開花『四色のフリージア』が、今までに得た知識・技術・経験に裏打ちされた技のスペルならば、こちらは純粋な弾幕の物量で圧倒して押し切る力のスペル。
ただし、弾幕ごっこのルールに抵触している訳ではないというか、2つ目のスペルと比べた場合にこうだと言ってるだけで、決して美しさの欠片もない力押しなスペルではない。節々からそう実感した。
恐らく、このスペルは元々自身を襲う妖怪や力のある人間といった脅威から身を守り、逃げるために編み出された魔法ないし術技。これを、正式な弾幕ごっこに使えるところまで落とし込むには、私どころかお嬢様方でも相応に時間が必要となる。
「けど、それはそれで今はとっても楽しいの! 出来るだけ長く、この気分を味わっていたいわー!」
「くっ、更に激しくなった! 春そのものを相手取ってるかのようね」
しかし、リリーは弾幕ごっこに落とし込み、私相手にここまで対抗出来る領域まで至っている。春真っ盛りで強化されていることを鑑みても、うちの門番妖精メイドがこのスペルに対抗出来るかと問われれば、正直無理なのではないかとすら思う。
春以外の季節であれば、美鈴の代わりとして鍛え上げている門番妖精メイドが勝利を得られるはずだけど、スペルカードルールに乗っ取るならばそれでも良くて辛勝かしらね。
なお、何でもありな戦闘であれば心配要らず。美鈴仕込みの格闘術に私仕込みのナイフ戦闘術、リーシェお嬢様の魔道具を使えば下級妖怪すら仕留められる程の、妖精随一の実力者だから。
ただ、それでもチルノだけはどうにもならない気がするけれど。
「どう!? 咲夜も何やかんやで楽しくなってこない?」
「ええ! これが異変解決の途中でなければ、なお良かったわね!」
頭のすぐ上をレーザーが通り過ぎ、胴体に襲い来る大玉弾を左に回避したとほぼ同時に、粒状弾の壁が迫ってくる。
無論、それもわざと落ちることで避けるのだけど、そうすれば今度は四方八方からレーザーやら何やらが殺到してくるので、飛行を再開してグレイズ。
で、それからは似たような流れの繰り返し。勿論、趣向を凝らして軌道や速度を操作してきたり、花弁のレーザーまで追加してきたりと変化はあるけれどね。
(大分時間は経ったはず。恐らくは……)
これが耐久スペルでなければこちらもスペル宣言をし、春の台風を掻い潜って勝利を掴み取りする算段が取れたのだけど、まあ色々考えていても仕方ない。
これよりも遥かに理不尽なお嬢様方のそれに比べれば、まだ全然乗り切れる嵐ではあるのだから。
「むぅぅ~! 春真っ盛りでも勝てませんでしたぁ……」
「十分強かったわよ。異変が解決したら、もう1度やりましょうね」
「……はいっ! 次は負けませんよー!」
そこから恐らくは数回、こんな流れで春の台風に逆らい続けて四方からのレーザーを避けた刹那、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った。
つまるところ、この弾幕ごっこは私の勝利ということで幕を閉じたのである。
幻想郷の住人に完全なオリキャラを追加するとしたら、どの程度なら許容範囲でしょうか?
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1人
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2人
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3人
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追加しない方が望ましい