ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー) 作:生死郎
サプリを入れたことで明言されていなかったキャラクターの設定や、ちょっと曖昧だったキャラクターの構成にも
「すまん。聞いてくれ」
低く、静かな声。だが彼の声はやけによくギルドの中に響き渡った。
「頼みがある」
唐突にぶっきらぼうな声が冒険者ギルドに響いた。決して大きな声ではなかったものの、ギルドの喧騒がその声によって打ち消されてしまった。
ギルドには酒場も備えられており、冒険者がテーブルで酒を飲んでいたり、料理を食べていたり、次の冒険の相談、今回の冒険の反省などによる喧騒。そうした中に現れた依頼人。
ゴブリンスレイヤーと呼ばれるゴブリン退治を続ける変な冒険者。
ズカズカと歩いて来て、しかし、受付には向かわない。
驚き、胡乱げに見る冒険者たち。
偏執的にゴブリンばかり退治する奇人変人の類。長らく
僅かに訪れた静寂が囁きによって破られた中、ゴブリンスレイヤーは淡々と続けた。
「ゴブリンの群れが来る。街外れの牧場にだ。恐らく今夜。相手の数はわからん。斥候の足跡の多さから見て上位種のロードがいるはずだ。……一〇〇匹はくだらんだろう」
冗談ではない、それが大半の冒険者たちの総意であっただろう。
一〇〇匹のゴブリンと戦えと言われて、即答でやると言う者はいない。駆け出しの頃に受けたゴブリン退治。
失敗して死ぬ者も多い。再起不能になり廃業した者も多い。運か、実力か、兎に角生き延びてきた者たちが今ここにいる。
彼らはゴブリンの忌々しさを知っているのだ。そんなのが一〇〇匹。それも統率された大群。冒険者が好き好んで挑むような相手ではない。
ゴブリンなど恐れるに能わずと虚勢を張る新人でさえ、顔色を悪くする。
「時間がない。洞窟の中ならば兎も角、野戦となると俺一人では手が足りん」
ゴブリンスレイヤーは周囲をぐるりと見渡してから、頭を下げた。
「手伝って欲しい。頼む」
ゴブリンスレイヤーは頭を下げたまま、微動だにしない。
ギルドの冒険者たちは、どうする、どうするって、と仲間内で顔を見合わせる。
ギルドにいる冒険者達はざわつきだす。それはそうだろう。ゴブリンは弱い。だが数が集まったならば侮っていい相手ではない。それでいて何匹殺そうが所詮は「ゴブリン」なのだ。
誉れにはならない。命の危険はある。報酬は安い。そんな敵を一〇〇、それも統率された群れを相手取るなどごめんだろう。
だから報酬を要求する槍使いの態度は至極当然であるし、それに同調する周りの冒険者も正しい。対価は出さないが命懸けで戦え、と言う無茶が道理を押しのけることはない。
流水剣が自分の仲間たち魔女と森人の斥候に目を向けた
「俺はやるつもりだが、二人はどうする?」
流水剣は同じ席に着く、魔女と森人の斥候に訊ねる。
「一緒に来てくれると、嬉しい」
魔女と森人の斥候が顔を見合わせる。──言うと思った。
流水剣が行くなと言って止まる男ではないことは、彼女たちは知っている。人を喰う鬼を、人を害する怪物を、許しはしない。怪物に誰かが傷つかないで欲しい、そう思って剣を振るい続ける流水剣に、小鬼退治をするなというのは猛禽を檻に閉じ込めるようなものではないのか。
胸元から長煙管を抜いて、魔女が肢体をしならせながら流水剣の目を覗き込む。
「この後……どこか……連れていって、ね」
「わかった」
魔女のお願いに、即答する流水剣。
「……ふふ」
くるりと回して煙草をつめ、指先で着火し、咥える。甘ったるい煙がギルドの中に満ちていく。
「報酬はちゃんと要求しろよ。あと、私に対しても報酬を忘れるな?」
「わかった」
森人の斥候にも、即答する流水剣。
流水剣が席を立ってゴブリンスレイヤーに近づく。
槍使いが槍の石突きで床を叩いた。
「お前の命なんぞいるか。……この野郎、後で一杯奢れ」
流水剣が一党と相談している間に槍使いの中で折り合いが付いたのあろう。ゴブリンスレイヤーにお礼を言われて、ばつが悪そうに頬を掻いている。
「俺も、俺達も請けおう。……報酬は彼女と相談してくれ」
流水剣が森人の斥候を指しながら言う。金銭が絡む交渉では頭目の流水剣よりも強い権限を森人の斥候──
「わかった。……ありがとう」
「いいよ、君と俺との仲だ」
槍使い、流水剣と続いて
「私達も助太刀します! 流水剣さん、ゴブリンスレイヤーさん」
そう言って彼らに近づいたのは貴族令嬢。彼女とともにその一党も控えている。彼女たちもやる気のようである。
「……ありがとう」
「助かる。よろしく頼む」
ダメ! そこで優しく笑わないで──! などという貴族令嬢の心の中の駄目だしは、流水剣に聞こえるはずもない。
森人の女魔術師、女僧侶、女野伏も頬が赤くなっている。自分と同じように感じたようだと貴族令嬢は思った。
頼む、流水剣にそう言われて貴族令嬢たちは目を輝かせた。流水剣に頼られたということに、胸が高鳴りその闘志も昂った。山城でゴブリンたちによって危うく落命しかけた。その後も先達の助けを得ながら小鬼退治してきた。今回こそは一党の力でゴブリンたちを倒し、山城での雪辱を濯ごうと彼女らは考えていた。
若く美しい娘たちが頬を紅潮させている様子を見て、周囲の冒険者たちはこそこそと話し合う。やっぱり彼女らは流水剣の
受付嬢が紙の束を抱えて飛び込んできた。焦っていたのだろういつも隙なく整えている髪や制服が少し乱れている。
「ぎ、ギルドから! 依頼がありますっ!」
書類を掲げながら、三つ編みを揺らして受付嬢は大きく、元気よく言った。
それが彼女の成果。上長である冒険者ギルド支部長の承認印を押した正式な依頼書だ。
ゴブリン一匹につき、金貨一枚の懸賞金を出すという依頼だ。懸賞金は冒険者ギルドから出される。破格な懸賞金の金額だが
「……ちっ、しゃあねえな」
重戦士が席を蹴って立ち上がった。驚いたように彼の一党がその姿を見上げる。意外そうに見る一党の視線に、むっつりとした顔で針金のように固く、短く刈り込んでいる髪を掻く。
「まぁ、報酬が出るなら、な。小鬼殺して金貨一枚が目当てだ。いい稼ぎじゃないか」
女騎士の麗しい容貌が格好を崩して、悪戯っぽく微笑む。
「素直じゃない奴め。お前の郷里に出たゴブリンを退治したのが、アイツだからと言えばいいだろう」
恩義に報いたくとも、ゴブリンスレイヤーへ協力を申し出るタイミングを見失っていたことを女騎士に見抜かれてたようで、気恥ずかしくなる。
「あー、うっせうっせ! お前らも請けるかどうかはっきりしろ!」
鬱陶しそうに重戦士が言う。女騎士たちが軽口を言う。そうして重戦士の
次々に加わっていく彼らを見て、一人、また一人と加わっていった。
その日初めて、多くの冒険者たちが、ゴブリン退治というありふれた依頼に殺到した。
◇◆◇
ゴブリンロードの号令によりゴブリンの群れがぎゃいぎゃいと喚く声とともに伝わり、大群は前進を開始する。
前方にいるゴブリンたちは盾を掲げている。
ゴブリンたちが肉盾と呼んでいる──、板に捕らえられた女たちを括りつけた盾だ。
衣服を剥がれ度重なる凌辱を受けた虜囚たちは一〇人ほど。時折うめき声をあげ、痙攣をする者もいれば、衰弱が酷くぴくりともしない者もいる。
しかしゴブリンたちは虜囚の生死など考慮しない。ゴブリンたちの目的は、この盾を掲げることで冒険者の攻撃を躊躇わせることだった。
人質を取れば冒険者たちは攻めることを躊躇することを、ゴブリンロードは経験で学んでいる。冒険者とはマヌケな輩だ。孕み袋だろうが、同胞のゴブリンだろうが盾にされても人質ごと殺して敵を引き裂けばいい。それをわからない暗愚どもめと、ゴブリンロードはゲタゲタと嗤った。
牧場を襲い、家畜を奪って腹を満たし、女を攫って犯し、孕ませ、数を増やす。そうして牧場を橋頭堡にして街を襲い、冒険者を、人間たちを殺して、さらに数を増やす。大勢の群れを率いて人界に侵攻して放埓の限りを尽くす。
夢のような考えだが、ゴブリンロードにとっては現実的な計画であった。
◇◆◇
「盾持ちが現れた。ゴブリンスレイヤーの予測通りだな。まったく小鬼というのは不愉快な奴だ」
ゴブリンたちを観察していた森人の斥候がそう言って毒づく。同時に後方にいる冒険者たちへ指示を出す。
魔女が《
「GORRRR!!」
警戒したゴブリンロードは慌てて兵隊を叱咤し迎撃を命じるが、弓兵たちも意識が朦朧としていて短弓の狙いもままならない。
そこの間隙を見逃さない
「まったく、悪趣味ったらないわ……」
嫌悪感を滲ませた顔で軽口を叩きながら、
全体的に見れば彼女たちによって倒れた数は大したことはない。しかし、それでも確実に戦力が削がれている。
「呪文遣いは減らしたわ!」
「人質はみんな回収したぞ!」
「よし、行くぞみんな!」
冒険者たちの報告を聞いて流水剣が呼びかける。この場でもっとも等級の高い彼が自然と音頭を取るようになっていた。
日輪刀を抜刀して勢いよく躍り出た流水剣は、前傾した姿勢でそのまま身を一回転させた。ゴブリンの短弓から放たれた矢が、一瞬前まで彼の頭部のあった空間を貫いた。流水剣が放った視線の先に、武器を月光に反射させつつ殺到してくるゴブリンたちの姿が映った。
「ヒャッハー! 稼ぎ時だ。金貨が向こうからやってくるぞ!」
「これでツケをチャラにできる!」
混乱するゴブリンの群れに冒険者たちが接敵する。ここまでくれば味方を巻き込みかねない呪文や弓矢は使えなくなった。
肉体と刃物と鈍器をぶつけあう闘争が展開されたのである。金属と非金属が激突し、飛散する血の臭気が漂う。
流水剣は死の旋風となり一振りで何匹ものゴブリンが斬り裂かれて絶命する。武器が流水剣に届く前に彼の刀が首を刎ね、振りかざされた武器は水を切るかのように彼に避けられる。
貴族令嬢は左右を流水剣と
「ったく、ここまで数が多いと嫌になっちまうぜ!」
「数で押すのがあいつらの強みだ。ゴブリンスレイヤーが辟易するのも仕方ない」
流水剣が
「あなた……《
杖を手にした魔女が、その肉感的な胸を息に弾ませ、立て続けに呪文を行使する。圧倒的に強い個である流水剣を魔女と森人の斥候が助け敵を全てねじ伏せるという、掛け算ではなく足し算によるシンプルな強さを持つ一党だった。
一〇〇を超えるゴブリンだが、冒険者たちとぶつかるゴブリンの戦列は、崩壊こそしなかったが、緩慢に、だが確実に後退していった。
「少し、面倒になった」
ゴブリンの戦列が後退し始めたとき、森人の斥候が流水剣のもとに来た。
索敵していた彼女からの報告には、流水剣の傍で聞いていた魔女や槍使いなど
ゴブリンスレイヤーの予想より数が多かったゴブリンが上位種たちに率いられており、四つに群れが分裂して冒険者たちを囲うように移動していた。彼女の推量も交えつつ大まかだがゴブリンたちの位置も予測していた。
「包囲殲滅ってやつか。まさか小鬼どもにそんな知恵があるとはな」
重戦士が憮然として、報告した森人の斥候を見ていた。
「どうする? 癪だが撤退して体勢を立て直す?」
四方をゴブリンに囲まれる想像をした
貴族令嬢や森人の女魔術師たちもかつての山城の記憶が蘇り、背筋に氷が伝わって落ちるような気がした。
「いや、撤退はしない。俺達はゴブリンどもより圧倒的に有利な体勢にある」
流水剣が首を横に振り、
「今からそれを説明しよう」
魔女や闇人の彼女は流水剣と出会ったことでスキル的には、原作とは異なった成長をしているとこもありますが、そこは別の卓の世界だからということで……。原作の闇人の彼女がこちらみたいに斥候神官とは限らないですから。
今回、貴族令嬢がサプリで導入された武技・