ゴブリンスレイヤー異聞:鬼滅の剣士(デーモンスレイヤー)   作:生死郎

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映画を観て鬼滅の刃熱が加熱してきました。やっぱり鬼滅の刃はいいですね。


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 伯爵領にある伯爵家の別邸。その一室には尋常ならざる気配を放つ者がいた。

 怖気を震うような凍てつく冷気。憎悪や欲望ではなく、生命を麦の穂としか思わぬがゆえの、傲慢さが現れている冷たい双眸。

 

 蒼白い肌をしたその男は、ぬらぬらと赤く濡れた口を開いて、

 

「伯爵が死んだか。小賢しくも罠を見破る鼠どもがいたようだな」

 

 まるで遠方の出来事を把握しているかのような口ぶりだった。

 

 その男は、蒼白い肌、闇に燃える瞳を持ち、赤黒い生物の皮のような外套を纏う夜会服の年若い男であった。

 

「ふふふ。赤石を手に入れる邪魔をされては困る。さっそく私の領土に踏み込んだネズミどもを駆除しなければ」

 

 この者こそ夜の一族。吸血鬼(ヴァンパイア)と呼ばれる怪異。只人(ヒューム)の土地を侵略し、自らの領土にした侵略者(インベーダー)

 

 そして本来この屋敷の主であった青年貴族──伯爵の息子──は吸血鬼の鬼気に当てられて惨めなほどに畏縮していた。

 

「お前の父親は死んだ。故にお前はこれより一層、私のために尽くすのだ」

「父上が……」

「貴様、まずはこの領内を完全封鎖したまえ。その上で賊どもを私兵で捕らえさせた上で問答無用で始末しろ」

 

 吸血鬼は青年貴族へ冷厳と命じる。その酷薄な命令の内容に青年貴族は震えあがる。

 

「ま、待ってください! そんな滅茶苦茶な指示を出せば、私の立場が! それに形式上はまだ父が当主なのです。そんなこと」

「お前は」

 

 青年貴族の言葉は冷ややかな言葉で遮られた。

 

「もしも使えなくなった道具や武器を、お前ならばどうするのかね?」

 

 青年貴族はのぞきこんだ虚無の淵の深さが、彼の魂を底まで冷たくした。

 

「ひっ……」

「やれ、命令だ」

「……はい」

 

 青年貴族は命令を受け、項垂れた。この恐るべき恐怖の王(キング・オブ・ホラー)の恐るべき所業を目撃して以来、反逆の意志も失せていた。反抗した領内の神官たちが動く屍となり、吸血鬼の(しもべ)となって聖域を穢す助けをしている。そのような惨状を目撃して、反逆の意志を持てる者は少数であっただろう。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 流水剣と森人(エルフ)の斥候は魔女と合流して、伯爵領で宿をとって休んでいた。夜間では関所を通ることができないため、領内に留まることになった。

 

 流水剣たちの話題は、領内のどこに吸血鬼がいるのかということになる。傀儡とする領主が亡くなったからと言って、この土地が吸血鬼の支配から逃れられたわけではない。そして、流水剣が鬼を見逃すことはない。それは彼の仲間たちもわかっていることであり、彼女たちも反対するつもりはなかった。

 

 鬼を斬ることは鬼狩りとしての使命感と鬼を許せないという怒り故。冒険者らしくないことに付き合ってくれる仲間たちへ流水剣は感謝していた。

 どこからともなく長煙管を取り出した魔女が、とろりとした瞳で流水剣を見る。

 

不死者(ノスフェラトゥ)……陰で人を……動かす、なら……貴族の……もと……?」

「領主には既に成人した嫡男がいたな。当主が亡くなったのだから彼はこの領地の主になるのか」

「そうなれば、吸血鬼が次に動かすのはその嫡男、ということになるね」

 

 三人が意見を交わしていると街がにわかに騒がしくなった。そっと様子を伺うといくつも松明が夜闇に浮かんでいる。

 

 流水剣は鋭敏になった聴覚と嗅覚で、森人(エルフ)の斥候は神がかった視力で武装して殺気立った兵士たちがいることに気づいた。

 

 魔女は肉感的な肢体をしゃなりとしならせて席を立った。

 

「どうも……とんでもないことに……なったよう……ね」

 

 魔女の言葉は過不足ない表現だ、と、流水剣は思った。魔女が白蝋の肩をすくめるのと同時並行して首をふってみせたので、仲間が奇妙なところで器用なことを流水剣は発見した。もっとも、意識的にやったのではあるまい。

 

「……敵の動きが速いな」

 

 感嘆混じりに舌打ちをひとつすると森人(エルフ)の斥候は手早く装備を付けはじめる。

 

「俗世間の権力を利用してくる鬼はこれだから厄介だ」

 

 流水剣が日輪刀の目釘を改めて、出鮫柄(だしざめづか)を握り締めながら呟く。武家や代官、あるいは商家などに寄生する鬼を斬るときはいつもとは異なる労力が強いられていた。

 

 宿の女将に尋ねればこの貴族領の領主代行によって領主殺しの賊を探すため私兵を動かしているらしい。そのことから流水剣たちの正体を掴んではいないようであると、彼は判断した。

 

「呪文は……必要?」

「いいや、残しておいてくれ」

 

 水の呼吸を鍛え水柱になった流水剣にとって武装した只人(ヒューム)の一〇〇や一〇〇〇などものの数ではない。全員峰打ちで気絶させて制圧するつもりだった。

 

「事情を訊きだす役も必要だろう。私もいくよ」

「頼む」

 

 森人(エルフ)の斥候の提案に流水剣は迷うことなく頷いた。

 

 

 私兵部隊は不安と困惑が混ざりながら命令を遂行していた。唐突な領主の死。そしてその知らせと同時に発された領主代行についた青年貴族の命令。まだ正式には領主へ着任したわけではないが、代行としての権限を振りかざし、青年貴族は私兵部隊を動かしていた。

 

 私兵たちも違和感があったが、どうせ暫くすれば青年貴族が領主に就くのだろうし、今命令を拒否して後日、それを理由に解雇されるくらいならばと私兵たちは従う者ばかりだった。

 

 四〇〇を超える私兵たちが次々と倒れる。松明の灯りが届かない闇から吹き抜ける風が私兵たちの意識を奪う。

 混乱が広がり、部隊長もそれを沈め統制することができなかった。

 

「だ、誰だ! ……ひっ!?」

 

 松明の光に襲撃者の姿が映った。私兵たちはその姿に驚愕して、抜き身の剣を持つ手を強張らせた。

 

 闇の中から現れたのは馬の頭を持つ男と鹿の頭を持つ女だった。

 

「誰……か。馬と名乗っておこう」

「……鹿だ」

 

 淡々とした男の声音が馬男から、恥ずかしそうな女の声が鹿女から届いた。面貌を隠すための被り物なのだろう。しかし生々しい馬と鹿の頭と男の堂々たる体躯、女のしなやかで瑞々しい肢体。その奇妙な組み合わせが夜闇に存在するだけで部隊長は生物として根源的な恐怖を抱かせた。

 

 気が付けば部下たちはみんな倒れ伏していた。四八二人という私兵たちが部隊長を残してあっという間に全滅してしまった。

 

「鬼に利用されていることも知らないなら暫く眠ってもらう」

「だが、その前にお前たちを動かした者がどこにいるかをまず話してもらおう。……大丈夫、優しく訊くだけだから」

 

 私兵の部隊長は鹿女に瞬く間に意識を刈り取られて、マタギが捕らえた獲物を縛り上げるように拘束され、物陰へ連れ込まれた。




流水剣の日輪刀
刃渡りは優美な反りを持ち、刀身の皮金と刃の皮金は波紋も見えないほどに青色に溶け合う。刃元に鬼殺隊の信念と言える『惡鬼滅殺』の四文字を刻まれている。
柄は柄巻きをせずに鮫皮だけを着せた出鮫柄(だしざめづか)。鈍色の重い木瓜型の鍔を持つ。鞘は黒塗りとなっている。
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