四宮総司は変えたい   作:もう何も辛くない

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早坂愛は単純

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスマスプレゼントって、何をあげたら正解なのかしら?」

 

 こうして総司がかぐやに呼び出されたのは何度目か、両手どころかいよいよ数字の桁が四つくらい行くんじゃないかとすら思えてくる。

 

「心が籠もってたら何でもいいんじゃないですか?」

 

 しかし、総司よりももっと大変なのは、かぐやの質問に答える早坂だ。

 総司への呼び出し回数は相当なものだが、仕事の関係で話し合いに参加できない事もそれなりにある。だが早坂は違う。本当に、早坂がかぐやの相談に乗った回数は千を超えているのではなかろうか。

 

「はぁ…、全く早坂は。今はそんな低いレベルの話をしてるんじゃないの」

 

「低いレベル…」

 

 相談を持ち掛けてきた相手に言葉の刃を突き立てられ、傷つけられても毎回親身になってかぐやに寄り添うその姿はメイドのお手本といっていいだろう。

 かぐやが吐いた一言を反芻しながらハイライトを失う早坂の瞳を見ながら、総司は改めて早坂への尊敬を抱いた。多分、総司が同じ立場ならかぐやを引っ叩いている。

 

「これを貰ったらついテンションが上がって、ついついキッスをしてしまうような─────そんなプレゼントを私は求めてるのよ。…キッス未経験の早坂にはこの話は早かったかしら」

 

「…」

 

 早坂が総司を見る。まるで、何かの許可を求めているかのように。

 総司は首を横に振った。

 

 心情的には早坂に味方をしてやりたい所だが、早坂が求めている行動を実際にしてしまえば、早坂に待っているのは破滅である。

 一時の激情に流されてしていい事ではない。総司は心を鬼にして、早坂の要望を振り払った。

 

「でも一応貴女にも聞いておこうかしら。早坂はどんなプレゼントが欲しいの?」

 

「ノイズキャンセリングヘッドホン。もしくは耳栓ですかね」

 

「…早坂の趣味は特殊だから参考にならないわね」

 

 言外に、かぐやの声をノイズと言われている事に当の本人は気付かない。

 

(ヘッドホンか…)

 

 そして、ここまで一言も発さず会話に参加していなかった総司は、早坂が口にしたヘッドホンという一言を頭の中で繰り返した。

 

「ちなみに総司は─────」

 

「自分で考えろ。俺はこの件に手を貸さんぞ」

 

「…なら、どうしてここに来たのかしら?」

 

「お・ま・え・が、ひたすらメッセージを投下してくるからだろうが!?」

 

 元々、総司はこの話し合いに参加する気はなかった。かぐやと白銀の関係について、これ以上介入するつもりはなかったからだ。

 それが何故、この場に総司が来ているのか。それは、先程の総司の台詞の通りだ。

 

 初め、早坂を通しての呼び出しを総司は断った。それからというもの、総司のスマホに一分毎に送り付けられるかぐやからのメッセージ。総数、およそ三十件。

 総司は耐えられなかった。

 

「男心をくすぐるようなプレゼントが欲しい…。男に聞けば手っ取り早いと思ったのに…」

 

「なら丁度いい奴がいるだろ。気軽に相談が出来て、もしかしたら今頃、お前と同じ悩みを持ってるかもしれない奴が」

 

「そんな都合のいい男が居てたまるもの─────」

 

 ハッ、と目を見開いたかぐやは、何かを思案するように口元に手を当てる。

 

 どうやら、総司が言った()()()()()が誰なのか、思い当たったらしい。

 

(さて、かぐやはもう大丈夫として…)

 

 これなら、もう総司と早坂の手は必要ないだろう。

 その代わり、一人巻き込まれる事となったが─────まあその人も今頃かぐやと同じように悩んでいるだろうし、結果オーライという事で、と誰にも届かない言い訳を心の中でしながら、総司は早坂の方へ歩み寄った。

 

「早坂。お前、今日の仕事は全部他の人にやってもらえ。引継ぎは俺がしとくから」

 

「え?ど、どうしたんですか急に」

 

 かぐやの方はかぐやに全部任せるとして、総司も総司で悩んでいる事があった。それは、かぐやには相談しづらい悩みだった。

 何しろ総司は、かぐやからの()()()()()()()()()()()を突っぱねたのだから。

 

「出掛けるぞ」

 

「へ?」

 

「プレゼント。俺も買わないといけないから、手伝ってくれ」

 

「─────」

 

 この時、総司は早坂の目が死んだ事に気付かなかった。

 かぐやの総司を見る瞳が虚無に染まった事にも気付かなかった。

 

 二人の心情など知らぬまま、総司はかぐやの部屋を出る。

 

「…かぐや様。私は喜べばいいんでしょうか。それとも、怒ればいいんでしょうか」

 

「…さぁ?とりあえず、貴女には同情するわ」

 

 さて、出掛ける準備をするか─────なんて考えている総司には、この二人の間で行われた会話など知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマスイブ。夜になれば街はジングルベルとイルミネーションで彩られ、恋する者達はロマンティックな時間に沈み込んでいくのだろう。

 

 だが、現在の時刻は午後の二時。まだそんなロマンティックな雰囲気になるには早い時間帯。

 とはいえ、早くも街は恋人、或いは乗りに乗った友人と思われる集まりで賑わっていた。

 

 さて、そんな賑わう街並みの中を、総司は早坂と並んで歩いていた。傍から見れば、大抵の人は恋人同士かと視線を向けるだろう。

 

「でさ。今日の藤原家のパーティーでプレゼント交換があって。それとは別に、千花にちょっと何か贈ろうと思っててさ」

 

「へー、そぉなんですか」

 

「だけど、お前とかぐや以外にプレゼントなんてあげた事ないし。異性の友人に贈るプレゼントはどんなのが良いか、意見が欲しいんだ」

 

「へー、そぉなんですか」

 

 今の会話で分かるだろうが、総司はクリスマスイブである今日、予定がある。その予定とは、藤原家にて行われるクリスマスパーティーに参加するのだ。

 千花から直接誘いを受けた訳ではないのだが、総司と違って誘われていたかぐやからその話を聞き、自分も参加出来ないかと千花に尋ねて貰い、了承を得て総司もパーティーに参加する事となった。

 

 つい最近、告白されて振った相手の家で行われるパーティーに参加するなんて、第三者から見れば正気を疑う行為だろう。

 総司も内心気まずさを覚えているし、何より自分でもどうなんだと思っている。

 

 ただ、それを振り切ってでも、総司には千花に伝えたい事がある。

 

「どーして私なんですかね?他に相談できる女子の友人は─────居ないんでしたね、総司様には。忘れてました」

 

「…お前、さっきから何で怒ってるの?」

 

「これっっっっっっっっっっっっっぽっちも怒ってませんけどっ!?」

 

「怒ってんじゃん。絶対怒ってんじゃん」

 

 しかしプレゼントを渡すといっても、総司は異性へ贈り物をするなんて、かぐやと早坂くらいにしか経験がない。

 一応、四宮家の客人に何かしらの品物を贈った事はあるが、総司の中でそれはカウントされていない。

 あれと、かぐやや早坂へのプレゼントを同列に扱うなど、総司にはあり得ない事だから。

 

 話が脱線したが、要するに総司は、異性へのプレゼントは()()にしか贈った事がないのだ。異性の()()なんて、千花や圭以外に出来た試しがない。

 伊井野とは少し話すようになったが、まだ友人といえる程親しくはない。つまり、総司は異性の友人が二人しか─────

 

(やめよう。ただでさえ同性の友人だって少ないのに、悲しくなる。それよりも今は─────)

 

 精神が傷つく前に思考を切り、総司は横目で隣を歩く早坂を見る。

 

 理由はさっぱり分からない。だが、どうやら早坂は怒っているらしい。

 女心は複雑だとよく聞くが、早坂の心は複雑すぎやしないだろうか。ただ、異性へ贈るプレゼントの相談をした()()だというのに。

 

 相談くらい乗ってくれたって良いじゃないか、器が小さい女め。と、殴りたいこの鈍感系主人公(四宮総司)は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…やばい)

 

 なお、一方の早坂だが、実のところ総司が思っている程怒ってはいなかった。

 

 いや、怒ってはいるのだが。何しろ想い人が他の女に贈るプレゼントについて悩んでいて、ましてやその相談をよりにもよって自分にしてくるのだから。

 

 しかし、しかしだ。

 今日はクリスマスイブ。街中はまだ昼間故にイルミネーションこそ光っていないものの、それでもロマンティックを感じさせる飾り物に彩られている。

 

 そんな中を想い人と、二人並んで歩いている。

 

(これって、デートっぽい…っ!)

 

 こんなの、第三者から見ればデートでしかないだろう。

 相手がこれっぽっちもそんな意識をしていないのが少し気に食わないが。

 この場に来ている理由もかなり気に食わないが、それを打ち消すに足る充足を今、早坂は感じていた。

 

 だが、心を満たすその気持ちに浸っている訳にもいかない。

 気に食わないが─────本当に気に食わないが、()()として()()の悩みの解消に協力するのは義務だ。

 

 それに、総司の中で何かが変わろうとしているのを、かぐやと同じく早坂もまた、感じている。

 その変化の予兆を、これもかぐやと同じく早坂も、嬉しく感じている。

 だから、早坂はこの場にいる。

 

 二人はショッピングモールの中へと入り、エスカレーターで目的のフロアへと向かう。

 そこにはたくさんの雑貨がずらりと並んでおり、恐らく総司と同じ目的と思われる人達が多くいた。

 

「さて、と…。どれにすればいいんだか…」

 

「かぐや様にも言いましたけど、心が籠もっていれば何でもいいと思いますよ。特に、あのお二人には」

 

「そう、なのか…?」

 

 あまりピンと来ていない様子の総司に、早坂は小さく溜息を零す。

 

 変わろうとしているのは確かなのだが、まずはその鈍さを変えて欲しいところだ。

 

「えぇ。かぐや様や…私へのプレゼントを選ぶ時くらいに気軽に考えればいいと思います」

 

 総司は毎年、クリスマスにはかぐやと早坂にプレゼントを買ってくる。

 そのプレゼントが嬉しくない訳じゃない。むしろ逆だ。しかし、自分のプレゼントを総司が選ぶ時、今のように真剣に思案しているのかと問われれば─────恐らく、していない。

 

 それが少し複雑で、早坂は自分で言っていて悲しくなった。

 

「気軽にって。まるで早坂のプレゼントを俺が適当に選んでるみたいに言うな」

 

「適当に選んでる、なんて思ってはいません。ですが、今みたいに真剣に考えて選んでるのかは、疑わしく思っています」

 

「真剣に選んでるに決まってるだろ。ただ、お前とかぐやはずっと一緒にいるんだから、何を欲しがってるかなんて自然と知れるし、分かるんだよ」

 

「─────」

 

 早坂自身にそんなつもりはなかったが、どうも言葉が刺々しくなってしまった。しまった、と思い、訂正しようとする前に、総司は商品棚から猫の貯金箱を手に取りながら言った。

 

 その思わぬ返答に、早坂の呼吸が一瞬止まる。

 

「かぐやは勿論だけど、お前とも何年同じ家で過ごしてると思ってんだ。…言っとくけど、お前が思ってる以上に俺は、お前の事を知ってると思うぞ?」

 

 あぁ─────。

 

 その言葉の中に、早坂が望むような、色のついた意味なんてないと分かっているのに。好きな人に、自分の事は分かっているなんて、そんな自信過剰ともとれる単純な言葉を言われるだけで、こんなにも嬉しくなるなんて。

 

「おい。何で後ろを向く?」

 

「すみません。ちょっとそっぽを向きたくなってしまって」

 

「…まあいいけど、何か良いのがあったら教えてくれ」

 

 想い人が選んでいるのは自分へのではなく、恋敵へのプレゼントなのに。

 

(私って、こんな単純だったんだ)

 

 ちょっと想い人に良い事を言われるだけでこんなに嬉しくなって、さっきまで抱いていた怒りなんて、どこかに行ってしまって。

 まるで、浮気DV男に振り回される駄目女じゃないか。

 

 だけど、嬉しいと感じてしまう心は止められない。

 

(どうして…。私は、早坂なんだろう)

 

 だから、思う。

 

(私も、藤原さんや会長の妹さんみたいに…。この人の()()になれてたら─────)

 

 総司の()()ではなく、()()になれていたら─────

 

(少しは女の子として、意識されてたのかな?)

 

 今頃、自分はどうなっていたのだろうか。

 

 今みたいに、真剣な顔をしながら、自分へ贈るプレゼントについて悩んでくれていたのだろうか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かったよ、早坂。お陰で良いのが買えた」

 

「お役に立てたのならば良かったです」

 

 総司と早坂が選んだプレゼントを買い終えて、デパートの外に出た時には辺りは暗くなり始めていた。

 ここへ来る途中では光っていなかったイルミネーションも、今は点灯しており、クリスマスの街並みを美しく彩っている。

 

 これから総司は、パーティーに参加するため、買ったプレゼントを持って藤原家へと向かう。

 一方の早坂は、総司と別れて屋敷へと帰る。今日の仕事は総司の口添えによってなくなり、半休を貰ったに等しい状態なのだが、早坂はパーティーには参加できない。

 

 千花は早坂の立場を知っているが、白銀兄妹と千花の妹、萌葉は何も知らない。

 友人としてパーティーに誘った、という体で連れていこうかとも総司は考えたのだが、結局は止めておいた方が良いという結論に至った。

 

「それでは、私はこれで」

 

「あぁ。そんじゃ、これ」

 

 それぞれ、この後の目的地は別々だ。早坂の方にはもっと一緒に居たかった、という名残惜しい気持ちがあったりもするのだが、総司に約束がある以上、邪魔をする訳にもいかない。

 一度お辞儀をしてから踵を返そうとして、総司が先程買ったプレゼントが入った紙袋から何かを取り出し、差し出してきた為に早坂は歩こうとした足を止める。

 

「…これは?」

 

「プレゼント。中身はノイズキャンセリングヘッドホンだ」

 

 紙で包装されたそれは、総司から早坂へのプレゼント。

 そして、こういう時プレゼントを贈る側は中身を公表するのを避けて、「中身は家に帰ってから確かめて」とか言うのだろうが─────総司は例外だった。

 

「…何でヘッドホンなんですか?」

 

「早坂が使ってるヘッドホン、買ってから結構経ってるだろ。安心しろ、そのヘッドホンは最新式で結構する奴だ」

 

「…そう、ですか」

 

「んじゃ、俺はもう行くわ。早坂は気を付けて帰るんだぞ」

 

「…はい。総司様も、お気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 総司の背中が離れていくのを、早坂はその場で立ち尽くしたまま見つめていた。

 やがて、総司の姿が見えなくなってから、早坂は総司がくれたプレゼントに視線を落として─────

 

「…ふふっ」

 

 小さく笑みを零した。

 

 プレゼントを貰ったのは初めてではない。先程も言ったが、クリスマスは毎年、それに誕生日にだってプレゼントは貰っている。

 

 だから、これは毎年同じなのだ。

 

「♪~」

 

 総司にプレゼントを貰ってからは必ず、舞い上がる程に嬉しくなる。

 

 そしてこれまた、早坂は毎年同じ事を思うのだ。

 

 早坂愛(自分)は、何て単純な女なのだろう、と。

 

 先程と同じように、しかし今度は笑みを浮かべながら、再び早坂は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




藤原のターンが続いていますが、ここで早坂を割り込ませました。
圭ちゃんのターンはまだ先になりそうです。
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