<Infinite Dendrogram>~クソゲーハンター、クソゲーに挑まんとす~ 作:折本装置
□【修羅王】サンラク
「じゃあ、【エンネア・タンク】も壊れたのか」
「はい、あの女との戦闘で」
征都にある茶屋で、俺とレイはお茶を飲みながら話していた。
実に<Infinite Dendrogram>においては三日ぶりということになる。
リアルでは話していたのだけれども。
といっても昨日レイは『事情聴取があって』とデンドロにログインしていたし、俺は俺で他のゲームを一日中遊んでいたからあまり話す時間はなかったりする。
「……サンラク君のこちらでの顔、見るのは久しぶりな気がします」
「言われてみれば確かに」
俺の今の恰好は【蛇眼鳥面】を外し、露店で買った中華服を着こんだ状態だ。
ファンタジー世界のゲームとは思えない格好である。
格ゲーならいるかもしれない。
「レイも普段とは違うね」
「は、はい。鎧も壊れましたし……」
レイの衣装も黄河で購入したものらしい。
白を基調としたチャイナドレスで、桃色の花弁があしらわれている。
下品ではない程度に露出もあって、控えめに言って、心臓に悪い。
「その、よく似合ってるよ」
「んにゅっ。は、はい。ありがとうございます」
顔を真っ赤にして固まるレイを見て、俺もなんだか恥ずかしくなってきた。
俺はごまかすように、角煮まんにかぶりついた。
◇
《世界ノ終ワリ》を爆心地で食らった俺はデスペナルティになった。
【救命のブローチ】があろうとなかろうと関係ない。
余熱で死ぬのだから、意味はない。
得点武具と<エンブリオ>以外の装備はすべて収納していたから、金銭的損害はほとんどない。
ドロップアイテムも、確認してみたら大したことのないアイテムばっかりだったしな。
「それにしても、だ」
俺は茶屋の中から外を見渡す。
「どうかしましたか?」
「自分たちの住んでる都市でテロが起きたっていうのにのんきなもんだよなあ」
俺がデスペナルティになったあと、征都では復旧作業が行われたらしい。
がれきの撤去、負傷者の治療、実行犯の特定と指名手配などやることはいくらでもあった。
レイも、直に矛を交えた身として証言をしたらしい。
ペンシルゴンや京ティメット、
まあテロに加担した以上、当然の対応と言えるが。
<監獄>に送られる以上、少なくともデンドロでは奴らに会うことは二度とない。
ほっとしたような、少しだけ、さみしいような。
「まさかテロが起きて三日で祭りを再開するとは……」
「経済活動を止めるのが致命的だから、ということだと思います」
「商魂たくましすぎるでしょ」
ここに限らず、ティアンはたくましい人間が多い気がする。
単なるNPCだから、というよりは慣れているから、な気もしてしまう。
モンスターの襲撃も珍しくはない。
「そういえばキヨヒメはまだ出てこないのか?」
「ええ、修復に時間がかかってるみたいで」
《蛇神の果て》の反動で大破したキヨヒメは紋章から出てこない。
あるいは、直ってもなお、あえて出てきていないのかもしれないと思った。
それくらいの気遣いをしてもおかしくない。
<Infinite Dendrogram>のAIには、それくらいの優秀さを期待しても罰は当たるまい。
「じゃあ、今日は二人だけか」
「え、あ、はい」
「改めて、デートしようぜ、レイ」
「は、はい、喜んで!」
顔を赤らめておろおろするレイ。
ゲームでもリアルでもさほど変わらぬ反応が、いとおしくて。
彼女と交際を始めてからずいぶんと時がたった。
その間、彼女のことを知るのと同じくらい。
自分に関してたくさんの気づきがあって。
一人で過ごすのが当たり前だったのに、いつの間にか二人でいることを自然と感じるようになったこと。
恰好をつけるのが、自分以外の相手になるとより一層気合が入ること。
鏡など見なくてもわかる。
俺は今、心から笑顔を浮かべている。
君のおかげで。
■<監獄>リスポーン地点
ログインしてすぐに、ペンシルゴンはそこが見知らぬ場所であると気づいた。
これまでに立ち寄ったどのセーブポイントとも違う、<監獄>であると。
「指名手配になり、セーブポイントが使えなくなった<マスター>が送られる場所があるとは聞いていたけれど……」
実のところ、ペンシルゴンも<監獄>についてはほとんど知らない。
そもそも指名手配犯しか入れない場所ゆえ、情報を持っている<マスター>がほとんどいないのだ。
加えて、セーブポイントが使用できなくなるレベルの犯罪行為を犯すようなタイプのプレイヤーで積極的に情報を共有するプレイヤーはほとんどいない。
【疫病王】や“天道無視”が最たるものだが、人との交流を楽しめるならそもそも<監獄>に落ちないのである。
例外は、<アンダーグラウンド・サンクチュアリ>の元メンバーくらいのもので、彼らが時折登校する動画でしか<監獄>の情報は得られなかったわけだが……。
「ああ、やっぱり<監獄>かあ」
ため息が混じった、なおかつ聞き覚えのある声が、彼女の背後から聞こえてきた。
狐耳をはやし、和装に身を包み、黒刀を右手に持った少女。
「京極ちゃんもデスペナ空け?」
「ああ、ペンシルゴンもいたのか。一応言っておくけど僕の名前は京」
「ああそういうのいいから」
ペンシルゴンは京極の抗議を受け流しつつ、状況を整理する。
彼女にとって、使える手駒が一人でもいるというのは、大きな差異である。
一人でできることなど限られているが、大勢の人間が目的や意思を一つにすればその可能性は無限大である。
もし彼女の悪友二人がこの思考を知ればおぞましさに顔をしかめて鼻をつまむだろうが、ペンシルゴンは心の底からそう思っていた。
彼女の場合、人間の集団心理を悪用する気しかないためそういうリアクションも当然である。
「にしてもペンシルゴン、アレだね」
「アレ?」
「うまく言えないけどスッキリした顔してる。黄河ではなにか悩んでる風だったから」
「ああ、そういう……」
ペンシルゴンは「京極ちゃんにまで気づかれるとはね」と内心で自嘲した。
そしてこうも思う。
なるほど、正確な分析だと。
「まずは、〈監獄〉を掌握しようかな」
「いいんじゃない、荒事になったら呼んでほしーーあ」
「ん?」
京極が先に気づき、一拍遅れてペンシルゴンも気づく。
彼女達
防御も回避も間に合わず、踏み潰されてデスペナルティになった。
ペンシルゴンが「カップルで表を歩いてはならない」という暗黙のルールを理解するのはまた別の話。
To be next episode
はい、これにて五章完結です。
ありがとうございました。
最終章についてはまたしばらく時間を空けさせていただきますが、今年中には更新できるかなと思っております。
最後に、読者の皆様の反応があって書くことができております。
いつもありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。