シノンの狩りについていったキリトがシノンにお願いする話。
「すぅー……ふっ……」
シノンの愛銃、ヘカートⅡから放たれた弾丸は吸い込まれるように敵性MOBに着弾し、二秒ほどのHPバー減少のための猶予を経てポリゴンのかけらが舞い散った。
シノンの提案で、狙撃中の護衛を引き受けたはいいものの、一撃で急所を射抜くシノンの腕前とヘカートⅡの圧倒的な攻撃力のおかげで、仕留め損ねて窮地に陥るなんてこともなく。
「暇だ……」
俺は光剣の柄をくるくると回し、無聊を慰めていた。
「何、キリト。じゃああの群れの中に飛び込んで見る? 援護くらいはしてあげるわよ?」
やや温度の低くなった半目を肩越しに投げてくるシノン。普段ならそれも悪くないな、と思うのだが。
「ま、さしもの黒の剣士さまもあの中に突っ込んだら、移動阻害で袋叩きだけどね」
「ぐぬぬ」
そんな事情もありつつ、おとなしく護衛役に徹しているというわけだ。
「すぅ……」
伏射姿勢で愛銃を構えるシノンの姿は、余計な力が一切入っていない、素人目に見ても理想的な射撃姿勢だった。アインクラッド時代のキリトならともかく、見た目にも華奢なこのキリトではヘカートⅡを構えることすら出来ない。今シノンがやっているようにバイポッドを立てて、伏射しようにも射撃の反動で吹き飛んでしまう。
一匹、また一匹と蜘蛛型エネミーをポリゴンの欠片にしていくシノン。事前に周囲にブービートラップを仕掛けていることもあり、護衛として本当にすることがない。
「くぁ……」
不意に眠気が襲ってきた。
「また夜ふかししてたの?」
シノンがスコープに目をつけたまま責めるようなトーンで声を出す。
「ん、いや、そういうわけじゃ……」
とはいえ暇なので眠くなってしまいました、と素直に言うのも後がこわい。
「ちょっと、な」
「……ま、寝ててもいいわよ。危なくなったら置いて逃げるから」
「それは勘弁してくれ……」
シノンはそれだけ言うとまた射撃に戻ってしまった。
が、ここはお言葉に甘えて一眠りすることにしよう。
と、思ったのだが。
(うるさい……)
当然ながらシノンは狩りを続行中で、不規則なリズムで轟音が鳴り響いている。
それに身を隠した岩場は風こそ吹かないものの、寝心地が良いとは言えない。
(天気はいつもどおり、最悪だし)
それでも一度寝ようと決めたら、もう寝ずにはいられない。
(せめて枕があれば……)
そう思い、何か使えそうなものがないかストレージを開いて見るものの、戦利品を運ぶ手伝いもするために余計なものは一切入っていなかった。
一人であーでもないこーでもないと唸っていると、ふと目に入るものがあった。
「ふっ」
閃光、轟音、振動。
「おぉ……」
「……何よ」
「いや、お構いなく」
もう一度、閃光、轟音、振動。惚れ惚れするほどの射撃姿勢で、見事に反動を殺しきっているシノン。反動を殺すというのは、筋肉で抑え込むのもそうだが、身体の各所で振動を吸収するのがコツだ。
「ふっ」
「……おおおぉ……」
振動を吸収した結果、見事に、揺れるのだ。シノンのおしりが。
「……だから、何よ」
「あの、シノンさん」
俺が求めていた、最高の安眠を保証する枕が、そこにあった。
俺は折り目正しく正座をして。
「ちょっとおしり使わせていただいてもよろしいでしょうか」
「………………は?」
まず言っている意味がわからないというぽかんとした表情。次に何を言いたいのか理解して顔を赤らめ。最後にこれが冗談でもなんでもないということを察しての最大級の警戒。
「キリト、自分が何を言ったのかわかってるの?」
「あぁ」
「キメ顔しないでよ……」
「俺は本気だ、シノン」
「ぅ……」
もちろんシノンの言いたいことも解る。だが、男には譲れないときがある。数秒そのまま見つめ合っていると、シノンが先に折れた。
「わ、わかったわよ……その、アスナには内緒、だからね……」
「もちろんだ」
「もう……や、やさしくしなさいよね……は、はじめて、なんだから……」
「あぁ」
真っ赤に染まった顔を両腕で隠してしまったシノン。そうか、一人っ子だと尻枕とかしないのか。
「じゃあ、失礼してっと」
一言断ってから、ふるふると魅力的にふるえていたお尻に頭を乗せる。
「えっ? ちょ、ちょっと、何してるのよ」
「ん? 何って、尻枕」
「はぁ!?」
「昔はよくスグ、じゃない、リーファにやってもらってたんだけど、よく眠れるんだよな、これ」
「…………」
ふにふにと後頭部で潰れるシノンのお尻。うむ、最高の反発具合だ。
「じゃあ、おやすみ、シノン……」
「……ええ、おやすみ、キリト。次に目覚めるのはグロッケンのプレイヤーホームね!」
「ちょ! ま!」
「待たない!」
跳ね起きたシノンがサブアームのグロックを抜き打ちに、フルオートで発砲してくるのを光剣で捌いて逃げ出した。
「待ちなさい! キリトー!」
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