「夕海子は弥勒と彼の子孫と言うことね。」
「「......は?」」
部室に召喚されて数ヶ月。
新たな仲間、弥勒蓮華の一言に反応を示したのは同じ時代の仲間であり好敵手である赤嶺友奈と桐生静だった。
「何を驚いているのよ?友奈、しずさん。」
「いやいやいや!ロック!彼ってなんやねん!?」
「レンちって恋人いたの!?」
2人の驚きにも笑みを絶やさずに、弥勒蓮華は髪をかき上げる。その笑みを勝者の笑みか、それとも別の何かか...
「フっ...恋人ではないわ。彼は弥勒のモノ、弥勒は弥勒のモノよ!」
「よーするに自分の男だってことだろ?タマにはわかる!」
「もう!タマっち先輩は恋愛経験すらないでしょ...私もだけど...」
「後輩が彼氏持ちだと...ガハっ!!」
「お、お姉ちゃーん!!」
「風せんぱーい!!」
「何やってんのよ風...」
倒れたのは女子力最強を自称する勇者だったが、傷は浅いだろうと介抱を妹と後輩友奈、完成型にぼっしーに任せたのは、半分が人並に恋愛話に興味があったからだろう。
「蓮華さんって彼氏持ちなんですね!どんな風に付き合ったんですか?」
「そんな大層なものではないわ、ただ私のモノになりなさいと言っただけよ。」
「「だ、大胆!」」
「...大胆なのかしら?」
「あたしはわかる。須美、これ突っ込まない方が良い奴だぞ、絶対。」
雪花の質問に答える蓮華と、解答に興奮する2人のお嬢様、困惑する小学生コンビなど、状況はマッハでカオスに突っ込んでいた。
「あれは、1年前の夏だったわ...」
「急に語りだしたわね......」
ツッコミを入れた千景など意に介さずに、弥勒蓮華は話を進めた。
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「♪~~♪~~」
「...何の歌かしら?」
食料品の買い出しに出ていた蓮華が、その音に気付いたのは偶然だった。
時刻は夕方、夏も終わりに差し掛かった8月終盤、海水浴に来る人も少なくなった浜辺の端に、その歌の歌い手はいた。
蓮華は歌の邪魔をしないよう、静かに近づく。
そして、目を閉じて歌を聴いていた。
しばらくすると歌が止まる。
蓮華が目を開けると、申し訳なさそうな視線を向けてくる少年が、そこにはいた。
「...うるさかったか?」
「いいえ、綺麗だったわ。誇りなさい、弥勒が見ず知らずの人間の歌を褒めることなんて、初めてよ。」
蓮華の言葉に、少年はそうか...とだけ返して、楽器を片付け始める。
「あら、もう終わり?珍しい歌と楽器ね?」
「...沖縄の唄らしい...三線という楽器だ。」
「沖縄、なるほどね。三線も沖縄のモノということね?」
「ああ。」
「また歌うなら弥勒を呼びなさい!貴方の唄、気に入ったわ!」
「...たまに此処にいる。」
「そう、ならまた明日!」
少年が反応して振り向くと機嫌よく走り去っていく蓮華の後ろ姿だけが、そこにはあった。
それから、蓮華はほぼ毎日夕方に、その浜に足を運んだ。
少年と初めて会った次の日は、少年はおらず。
蓮華は笑顔で後日少年に、お願いをする。
それから、少年は蓮華が約束と口にした時は必ず来るようになった。
2人はいろいろな話をした。
三線を作ったのが、彼の曽祖父であること。
祖父と父が、見よう見まねで三線を直していたこと。
少年も同じように壊れた時に直せるように勉強していること。
唄の歌詞と意味。
1年を共にした2人は、いつしか共に歌い合う仲になる。
だが、別れは突然訪れた。
「突然だけど、高知を出ることになったわ。」
「そうか...」
「数年は此処に来れないかもしれないわ。」
「...そうか。」
「だけど、貴方は弥勒のモノだから此処で待っていなさい...」
「......は?」
「拒否権はないわ。貴方は弥勒のモノ、弥勒は弥勒のモノよ!」
「おい、まて...」
「よろしく!またね!■■■!」
少年が振り向くと、初めて会った時と同じように走り去っていく蓮華の後ろ姿だけがそこにあった...
いろいろと諦めた少年は、大きめの溜息を吐くと、再び演奏を始める。
その音色は、どこか寂しそうだった...
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「と、いうわけよ...」
「沖縄の人間...」
「...もしやご先祖様、歌とは鎹歌のことでしょうか?」
蓮華の話を聞いた棗は胸を押さえて、何かを噛み締めるように呟き。
夕海子は覚えがあった事柄を口にする。
「かすがい?」
「掛け金、もしくは材木を繋げるときに使う特殊な釘のことですね...」
球子が口にした疑問に芽吹が答えると、今度は蓮華が首を傾げた。
「鎹歌?は弥勒は覚えがないわ?」
「あら、そうなんですの?」
「というか、なぜ鎹なんだ?芽吹の話だと、建設関連の言葉のようだが?」
「それはですね、過去と現在を繋ぐ歌。ゆえに鎹歌なのですわ!作ったのはご先祖様と聞いたのですが...ちなみに、弥勒家の名前はその歌からいただくこともあるらしいですわ。勿論!私も!」
夕海子の言葉よりも、蓮華の話に皆が興味津々で議論を交わす。
そんな中、蓮華は静かに少年へと思いを馳せた。
今も歌を歌って待っているであろう少年を...
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桐生静 神世紀72年 15歳 死去
「ごめんね、レンち...」
「謝らなければいけないのは、弥勒の方よ友奈。貴女に全部押し付けてしまった。後悔はないけれど、弥勒の選択は、きっと正しくは無かったわ。」
「...私はレンちが相棒で良かった。レンちは...弥勒蓮華は私の、赤嶺友奈の誇りだよ...」
「友奈...ありがとう。」
赤嶺友奈と弥勒蓮華は、家の位が大きく離れた後も交流を持ち続けた。
そして、四国全土での起こったテロ事件の真実は赤嶺家のみに継承され、弥勒蓮華は自分の行動を子孫に何一つ伝えることなく生涯を終えた...
彼女が故郷に帰った日、とある歌が浜辺にて歌われた。
(書く)力が足りない!