その相談は、有咲が沙綾の事が好きというもので――
一度消した作品ですが、再掲載させて頂きました。
その日の蔵練が終わった後、返る間際にいつも相談とかしてこない有咲が私に「相談があるんだけどさ」って言ってきた事が、今思えばすべての始まりで、終わりを告げる出来事だったのだと思う。
何だろうと思いながら、みんなが帰ってから二人っきりになったはいいけど、凄く気まずそうな表情の有咲。私は、有咲が言うまで笑顔を浮かべて待った。だって難しい表情を浮かべて待っていたら、有咲言い辛くなるだけだと思ったから。
「そのさ……私……その……沙綾の事が……みたいなんだ」
「?」
有咲が絞り出すような声で言ってきたはいいけど、肝心の所が聴こえなかった。沙綾の事がどうしたのだろうと首を傾げる私をみて、顔を真っ赤にしながら
「沙綾の事……好きみたいなんだ」
「え!?」
突然の告白に私は思考が停止した。いや、有咲?それって所謂、ライクじゃなくてラブなやつ?いやいや、有咲に限ってそんな事あるわけが――でも、女の同士の恋愛もあるし――と、思考が混乱している私だったけれど、一つだけ確かな想いがあった。
有咲の事を応援したい――
もし、本当に、有咲が沙綾の事が
「そ、そっか。ありがとな香澄。……ってか、気味悪いとは思わないんだな。その……同性の事を好きになった私の事……」
意外そうというか、不安そうな眼差しで見てくる有咲に私は首を左右に振って
「好きになるって感情に、性別は関係ないと思うんだ!私だって、有咲の事、好きだし!」
「ばっ!お前の“好き”は友達としてだろ!!」
と、私に抱き着かれながら悪態をつく有咲だけど、どこかホッとしている雰囲気だったのは気のせいじゃない。その後、どうやって沙綾に想いを伝えるか話し合ったけれど、答えが出なくて、最初は告白抜きで二人っきりで話して、親睦を深めるのがいいと思うと私が提案した。
「だよな……いきなり『好きです』とか言ったら、沙綾に迷惑だよな」
「というか……それだと沙綾、『友達として』と勘違いしそうだよ?」
「いや、香澄じゃないんだ……いや、確かにそうか」
腕を組んでウンウン唸る有咲。本当、沙綾の事好きなんだなって思った瞬間、私の胸のあたりがチクリと痛んだ。左手を胸に当てるけれど、痛みはすでに消え去っていて、なんだったのだろうと不思議に思ったけれど、今は有咲の為に色々と考えなきゃ。
その日は、有咲から沙綾のどこが好きになったのかを聞いて、どうやって告白するかを考えるだけで話し合いは終わった。その有咲が沙綾の好きな所を話してもらっている際、私の胸の中でなんだかモヤモヤしたものが生まれていたのだけど、その正体がなんなのか分からなかった。
――今思えば、その時。そのモヤモヤの正体に気付いていれば、私は苦しまないですんだんだ――
有咲からの相談後、流石にいきなり二人っきりで昼食取らせるのも、沙綾に何かあるって思われてしまうから、徐々に私達が二人の話しに入らないようにしてみたり、帰りに二人っきりで帰ってもらったりして、親睦を深めていってもらった。
でも、有咲と沙綾が二人っきりで帰る姿を見て、また私の胸がチクリと痛んで、モヤモヤが生まれていた。その時も、痛みとモヤモヤの正体は分からなかった。
今度の休みの日。沙綾と有咲が二人っきりでショッピングモールに買い物に行く事になった。デートと言えばデートなのかなぁ?有咲が沙綾に服について相談したいって言ったのが上手くいって、二人で行くことになった。その日はおたえもりみりんも用事があるって言っていたので、私も本当は用事がなかったけど、用事あるって言って二人っきりになるように気をつかった。
沙綾は残念がっていたけど、有咲は沙綾に見えないように私に手を合わせて「すまねぇ香澄」ってやっていたから、笑いそうになったけど、なんとか平静を保ったつもり。
で、当日の私は家で個人練習していたのだけど、やっぱり心の中に生まれたモヤモヤが消えてくれなくて、練習に集中できなかった。こんなの初めての経験だから、いったいこのモヤモヤが何なのか分からなくて、苦しくて、切ない?切ないのかな?ギターを立てかけて、ベッドに倒れこんで考えても答えは出ない。
その日の夜に、有咲から電話かかってきて、上手くいったという報告を受けた私は素直に喜んだ。有咲の想いが沙綾に届けばいいなと、その時は思っていた。
その後も、二人は一緒に色々な所に出掛けて、学校にいる時も、練習の時も一緒にいることが増えてきて、私が有咲に話しかけようとすると、必ず沙綾がいた。
傍から見てまるで恋人みたいだねって冗談で言ったら、沙綾が顔赤くして慌てて否定したのには驚いた。有咲はそれを見て、後で私に「やっぱり、私じゃ沙綾も嫌だよなぁ」と愚痴っていたけど、そうじゃない。
あの慌てっぷりは、沙綾も有咲の事が好きだって事だと思う。じゃなければ、あそこまで慌てる事は無いよね。というか、耳まで真っ赤にしてまで否定しなくてもいいんじゃないかなぁ。
落ち込む有咲を励ましている時も、またチクリと胸が痛んだ。最近、有咲と話しているだけでも胸が痛む時がある。これは病気なのかなと思ったけれど、食欲はあるし、体調も安定しているし……なんなんだろう?
そして次の日。練習中に有咲と沙綾が話していたのだけど、どこかお互いぎこちない様子。りみりんと私はそれを見て首を傾げる。どうしたんだろう。昨日まで普通に話していたのに、今日はお互いが意識しすぎているような……ん?意識しすぎてる?……なら二人っきりにしてあげればいいかな?そんな考えで
「ちょっときゅうけーい!!りみりん、おたえ、ちょっと来てもらっていい?さっきの所で合わせたいところあって――」
と、無理やり二人だけにして、私達は離れる。蔵から出て、りみりんとおたえが、沙綾と有咲の事を話し始めて
「あの二人……付き合ってるのかな?おたえちゃんどう思う?」
「どうだろう。あの様子だとまだじゃない……かな?」
あ、二人とも気付いていたんだ?と、私が言うと頷く二人。どうやらこの間、用事あると言ったのは、二人とも嘘だったとの事。沙綾が有咲の事好きなのを知っていて、相談も受けていたそう。ん?って事は……
「「「両想い?」」」
と、なればこの間の沙綾の反応も納得できる。もう二人ともサッサと付き合ってしまえばいいのにと思った瞬間、また胸がチクリと痛んだ。最近本当多いなあと思いながら、二人と相談する。
有咲もあと一歩踏み出す事ができてないし、沙綾もどこか躊躇っているところあるみたいだし……。どうすればいいかな?と、考えつつそろそろ戻らないと不審がられるという事で、蔵に戻る私達。
「あ、お帰り。長かったね」
「あ、うん。ちょっとギターの弾き方とベースとの掛け合いについて話し合ってたんだー」
沙綾の問いに笑顔を浮かべて誤魔化す私。上手く誤魔化せているかは不安だったけれど、どうやら何とか誤魔化せたようだ。有咲の方を見れば、ちょっとソワソワしているし、なんか二人の間に何かあったのかなと思いながら、練習を再開する。
練習中の二人はさっきまでのぎこちない様子はなくなっていて、なんだか二人の仲が深まったようにも見える。間違いなく私達がいない間に何かあったんだと思う。それについては後で有咲は話してくれるはず。そう思いながら練習に集中する。
練習が終わったけど……結局、有咲は今日あった事を話してはくれなかった。気になるなぁと思っていたら、有咲から電話がかかってきた。もしもし!?
『ば、バ香澄!声でけぇって!!』
あ、ごめん。それでどうしたの、有咲?
『あー……そのなんだ……今日私と沙綾、ぎこちなかっただろ?その件でさ……謝ろうと思ってさ』
別にいいのに――と言いながらも、私は嬉しかった。有咲がきちんと周りを見ていてくれている事が。それで、それでどうなったの?
『お前らが出てった後にさ……その……さ、沙綾から告られた』
「ええええええええええええ!!!!!!!!!!」
まさかの展開に私は驚きを隠せなかった。有咲から五月蠅いと怒られ、妹の明日香からも怒られた。だってこんな展開誰が想像できるの!?というか、告白されたって、沙綾から!?どういう事!?
『いや……それがさ、この間のお前の発言で沙綾が自分の気持ちに気付いたらしくてさ……それで私も告白してさ……付き合う事になった』
そっか。良かったね有咲!!何もしてあげられなかったけど、想い伝わってよかったね。そう伝えた時に、ズキリと胸に痛みが走る。声には出さなかったけれど、かなり鋭い痛みだったけど、それも一瞬だけだったので、気のせいだと思い込みながら有咲の話しを聞く。
今度、二人でまた出かける予定を立てたそうで、嬉しそうに話す有咲に私は相槌を打つ。本当に幸せそうな有咲。その話を聞いているこっちも幸せな気分になる。
有咲と沙綾がお互いの想いを伝えた日から、私は練習日以外に有咲の家に行く事が無くなった。だって、有咲と沙綾も二人の時間大切にしたいはずだからと、私なりに気をつかっての事。有咲は「気にすんじゃねねぇよ」って言ってくれたけど、私が沙綾の立場ならやっぱり他の子と仲良くしてたら、不満というかちょっと嫌な感情を抱いてしまいそうだから。
有咲の家に行こうかと思って、やめておこうと決めた時。必ず胸に痛みが走った。その痛みが回数を重ねるごとにだんだん大きくなったから、一度病院に行って診てもらったけど、異常は見つからなかった。
そして、有咲と沙綾が付き合い始めてから半年経ったある日。私がその痛みの正体を知る出来事がやってきた。
その日も練習があって、終わって有咲の家を後にしてから、忘れ物をしたことに気付いた私は、有咲の家に戻って、蔵の方へ足を向けた。有咲と沙綾がいるってのは分かっていたんだけど、本当に偶然に偶然が重なって、私が入ろうと扉を少し開けた時に見えてしまった。有咲と沙綾の口と口が重なり合っているところが――
それを見た私は静かに有咲の家を出て、自宅に戻った。というか、気付いたら自宅にいた――という表現が正しいかもしれない。ドラマとか漫画の中では何度も見てきたシーンだったけど、
ああ――そうか。私――
崩れ落ちるように私は床に座り込んで両手で目を覆う。
今頃気付いたってもう遅い。だって、私の想いはもう伝えちゃいけない想いだから。有咲が幸せになってほしいって本当に思っている。……けど、けど、どうして私は気付くのが遅かったんだろう。止まらない涙を何度も拭いながら、私は後悔の念に苛まれる。
泣いて泣いて泣いて、やっと泣き止んだ時にスマホの着信ランプがついているのに気付いた。右手で涙をもう拭って画面を見れば着信と通話アプリのトークが届いていた。その数がかなりの量になっていて驚いた。
でも、相手を見て私は通話アプリを開くのを躊躇った。だって、相手が有咲だったんだもの。今の状態できちんと返事が返せるか分からなかった。自分の本当の気持ちに気付いて、その気持ちを伝えちゃいけない事実。私はどうすればいいんだろう……。そう考えてしまうとアプリを起動させることができなかった。
きっと、有咲からは忘れ物してるって連絡だけなのだろうけど、今は……ごめん。そう思いスマホの電源を落とす。明日は、明日はいつもの私に戻るから、今日だけはもう少しだけ泣かせて――
次の日。私はいつも通りを演じるように心掛けて学校に行った。学校に行って有咲に会った時に怒られた。「何度も連絡してるのになんで出ねぇんだ!」って。私はいつも通りの口調で寝てたから気付かなかった、と言って有咲に謝った。有咲は仕方ないやつだなと言いながら、私に先日有咲の家に置いていってしまった物を渡してきてくれた。
「今度は忘れるなよ!」
「うん!ごめんね有咲!好きだよ!」
「ばっ、バ香澄!ひっつくんじゃねぇー!!!!」
といつも通り有咲とじゃれ合う。大丈夫。いつも通りできてる。自分の本当の気持ちに気付いたけど、有咲達には隠してける。そう思いながら日々を過ごしていこう。そう決めた。あの想いは私だけの秘密。そうしないといけない。
それからの私は、今まで通りの私でいられるように振舞って日々を過ごした。自室で泣く日もあったけど、それを乗り越えて高校を卒業して、大学生になった。大学生になってもポピパの皆とはバンド活動をして、色々なフェスにも出させてもらえるようになった。
でも、卒業まで一年となった日に、私は皆に今後の事を考えようと提案した。それは皆が個々にやりたい事がある事を知っていたから。ポピパを大学卒業しても続けるのか、それとも個々の目指す道を行くのか。一年かけてじっくり考えようと提案した。
皆もそれに賛成してくれて、一年間じっくりと話し合った。時には厳しい言葉が飛び交ったけど、最後は皆、それぞれの道を行こうと決断を下した。ポピパが無くなるってわけじゃないけど、今までみたいにすぐ集まって練習してライブするって事は出来なくなるだけの話し。
ありがたい事に、ポピパの全員が個々に音楽業界からお誘いの声がかかった、私とりみりん、おたえの三人はソロアーティストやバックバンドメンバーとして活動していく事が決まった。
ただ、沙綾は実家に戻ってパン屋を継ぐからと、有咲も流星堂のお婆ちゃんが心配だから戻るって言って、その誘いを断った。きっと、将来的には二人で一緒に住むんだろうなぁと二人の様子を見て私は思った。
それから数年後。ソロアーティストとしてランキング上位に入るようになった私は、今日も新曲の収録だった。それが終わって、収録スタジオを出た私は久々に地元に戻ってみようと、そのままの足で向かう事にした。電車に揺られて数十分もかからないうちに地元の駅についた。
これだけ近い距離なのに、ここ二年近くは全国飛び回ってライブをしているせいか、なかなか実家に戻る事も無かった。それに、ここに戻ってきてしまうと思いだしてしまうから。
でも、もう何年も前の事だから、私も割り切れていた。私のあの恋はもう終わった事。過去の事。それを悔やんでも仕方ないし、今は前を向いて応援してくれている皆に応えたい気持ちが強い。
そういえば、この間。りみりんが元メガデスのギタリストと収録したんだよってトークに写真載せてたなぁ。おたえはおたえで、ギタリストとして色々なアーティストさんのライブに参加してて、そのアーティストさんと一緒に写った写真を載せてくれた。
有咲と沙綾も会話に参加してはいるけど、実際に会ったのは三年前ぐらいになるかな?それだけ、プロになった私達三人との距離ができてしまった。時々ポピパで集まってバンドをやろうって言ったのに、できなくなったのは、社会人になるって事なのかなって最近思ってみたりしていた。
踏切に差し掛かり、大勢の人が行き交う中に混じり、私も線路を横断する。その際、見覚えのある顔が横切った気がして、踏切を横断し終えてから振り返る。その際、ちょうど遮断機が下りてきて、戻る事が出来なくなってしまった。向こうも気付いたのか、振り返ろうとした時、電車が来てしまい、姿が見えなくなってしまった。
見間違いじゃない。あれは有咲だ。髪を下して、雰囲気が少し柔らかい感じになっていたけど、あれは有咲だ。そう思いながら電車が通り過ぎるのを待つ。そして通り過ぎた後、向こう側には有咲らしき人物はいなかった。
そっか。人違いか。そう思いながら私は回れ右をして、目的地である自宅へと向かう。空を見上げれば、清々しいまでに青い空が広がっていた。私はあの恋心を忘れない。で前に進もう。それが私にできる唯一の事だから。だから、さようなら。大好きだった人。この恋はこの日をもって忘れよう。そうすれば今度は友人として会える日が来るから――