ワンナイト聖杯戦争 第三夜  対決、三人のセイバー!   作:どっこちゃん

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13 持たざる者の刃、其は「認知の力」なり

 

 少年は変声期の予兆さえ伺わせぬ鈴鳴るような声色で己が確信を、揚々と語り始めた。

 

「伝説によるなら、キミの宝具はアイギスによって一度は止められなければならないという概念が定められている」

 

 

『パラスとアテナは幼き日を過ごした盟友であり、鍛錬中の事故によってパラスがアテナを殺しそうになり、神がアイギスの盾でパラスの剣を阻み、逆にアテナの剣が彼女を斬った』

 

 

 確かに、それがパラスの背負うバックボーンであり、神話だ。いうなれば神話的な既成事実とでもいうべきか。

 

「それを逆手に取るかたちで『アイギスと言う神器以外には絶対に止められない』と言うルールを内包しているのが君の宝具だ。はっきり言ってずるいよ。だってアイギスを使用できるのは基本的に神々だけなんだから。英霊と魔術師の競い合いである「聖杯戦争」においては無敵のロジックだと言っていい。ま、「宝具」なんてのは多かれ少なかれ「ずるい」ルールを押し付けるモノなんだろうけどさ」

 

 ――ただし、そういう「概念」の戦闘であるからこそ、付け入る隙もある。

 

 少年はそう付け加えた。甘いボーイソプラノの声色が、裏返るように湿り気を帯びる。

 

「例えこじつけでも、「アイギス」を用意することが出来れば、キミの剣は止まらざるを得ない」

 

「――で、出来るはずがない。そんな……ニセモノのアイギスで……」

 

 パラスはままならぬ身体で血だまりに伏せながらも声を絞り出した。なぜならそんな理屈が通るはずがないからだ。

 

 しかし、少年はそれを待ってましたと言わんばかりに論破しにかかる。

 

「ところがそうでもないんだよ。『サーヴァントは真名を隠さなければならない』。僕はね、これを真理だと思ったよ。キミの真名と宝具を哲理を知れたおかげで、僕にはキミに対抗する手段を容易できたんだ!」

 

 少年はもはやパラスが一瞬で命を奪えるだけの間合いにまで踏み込んでいる。サーヴァントであるウォレスは少々気ぜわしくその挙動見ているが、マスターである少年は取り合わず、ただ針のようにパラスを凝視する。 

 

「もちろん。ニセモノとはいえ、宝具を防ぐにはそれがまぎれもなくアイギスでなければならない。キミの真名を知ってからの僅かな時間でそれを用意しなければならない。しかも僕は魔術なんて使えないと来ている」

 

 少年はパラスに、凶刃の塊ともいうべき相手に肉薄する。彼に恐怖心は無い。なぜなら彼はこの場で彼女の心を折るつもりでいるからだ。

 

「だからね、僕は「認知の力」を使うことにした。分るかい? パラス・アテナ。英霊だか神様だか知らないが、人間を舐めるなよ? ただの人間にでも、アイギスを用意することぐらい出来るんだ」

 

「――??」

 

 少年はスマートフォンを取り出した。パラスもそれが現代の情報を映し出す器具だとは理解している。

 

「僕はネット上でこういうアクセサリーや彫刻のアーティストをやってるんだ。歳とかホントの名前とかは隠したままね。国内よりも海外の方が人気かな。うん、SNSだよ。わかる? キミの攻略にアイギスが必要だと解ってから、僕はあらかじめ出来上がっていたアクセサリーなんかに「アイギス」の名を付けて発表したんだよ」

 

 少年の語る内容は今のパラスには不明瞭な点も多かった。しかし言いたいことの趣旨は理解できる。――否、理解できてしまっている。

 

「結果、全世界20万人の人間がこれを見た。そしてこの作品の名を『アイギスの(なにがし)』と認知したんだよ。今このアクセサリーは、それだけの人間の「認知」を得て間違いなく「アイギス」という名を獲得したんだ。――これが「認知」の力だよ。キミたち英霊や魔術師がやり取りする「概念の戦闘」と言うのは「名前」が重要になってくる」

 

 認知。そう認知だ。数多くの人間の認識が束ねられた時、その対象となる人は、文物は、概念は、初めて『真の名』を持つことになるのだ。

 

「ならば、この『認知』の力によって物品に必用な「銘」を与えることが出来るはず。――それが僕の勝算だったわけさ。当然、上手くいくかはわからなかった。科学みたいに再現性が担保になる世界じゃないからね。大事なのはボクの中の確信だった。――そしてその確信は正しかった。僕はもぎ取った! 僕の勝利もまた、揺らがない!」

 

 少年はそのまま己の勝利を宣言する。自分は勝利できるのではない。すでに勝利しているのだと、まるで謳わんばかりに。

 

「さっき僕の手で君に突き立てたペーパーナイフにも「銘」が付けられている! 『認知』によって確定したその名は「アテナの剣」だ」

 

「――ッ!」

 

「SNSではなかなかに人気だよ。こういうのはシンプルなものがいいみたいだ。――わかるよね? 仮初とは言え「アテナ」の名を冠した刃を君は受けてしまった。すなわち、キミは伝説の中で受けた傷を再現しようとしている」

 

 パラスはようやく合点が言っていた。なぜ自分の凱甲がこんなおもちゃのようなもので切り裂かれてしまったのか。そもそも、なぜ自分がこうして地に伏しているのか。

 

「キミと言う概念をアテナから切除し、切り離した冷徹な刃をキミはもう一度受けてしまったんだ。もはや君は立ち上がれない! 疾く消滅するがいいパラス・アテナよ! 斬り捨てられたアテナの半身よ!」

 

 言葉は重く心身を縛った。戯れ言とは言えなかった。確かに彼女の必殺の宝具は防がれ、胸の傷は塞ぐことが出来ない。

 

 パラスは力が急速に消え失せていくのがわかった。

 

「……大層な言いようね。そこなセイバーの、マスター」

 

 もはや、反撃どころか、ここから立ち上がる法すら思い当たらぬ――そう。パラス・アテナが諦観しようとしたとき、背後から揚々と響く声が聞こえた。

 

「始めまして。我が名はバルバラ・ネス・ストローク。衝撃のネス・バルバラと見知り置きなさい!」

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