ワンナイト聖杯戦争 第三夜  対決、三人のセイバー!   作:どっこちゃん

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2 第一戦 セイバー対セイバー

 人気のない真夜の路上に、影がある。

 

 影の数は大小四つ。

 

 二組の二人組が、対照的に向かい合うようにして夜の路傍に静かに佇んでいる。

 

 もしも余人の眼が有れば、彼らの存在はまるで幽鬼か、或いは何処か別の次元から移しだされた投影であるかのように映ったことだろう。

 

 それほどに彼らの存在は、この次元、この現世において尋常ならざる魔魅の気配を幻燈の光のように帯びているのだった。

 

「やぁやぁ、これはこれは。――ふむ、さしずめ、白亜のセイバーとでもお呼びすればよろしいかな?」

 

 唐突に一人が声を上げた。

 

「異なことだ。互いにこうしてセイバーとして対峙するとはな。いや小生、粗雑な儀式と聞いて肝を冷やしたもので」

 

「血の臭いがする……」

 

 朗々と言葉を弄しはじめた偉丈夫に対峙する女――一見して単なる少女とさえ見受けられる女性(にょしょう)が、低い声を発した。

 

 対する偉丈夫は一瞬だけ整ったヒゲ面を歪めたが――すぐに「フハッ!」と声にならぬ笑いを張りあげた。

 

「召喚を受けてから、ここに来るまでの間に……何をした? 銀箔(ぎんぱく)のセイバー」

 

 サーヴァント達、――そう、今宵この一夜限りの聖杯戦争に呼ばれた英霊たちは、既に互いが同じセイバーのクラスであるということを承知している。

 

 銀箔の、と呼ばれたセイバーは笑みを堪えたまま、対する少女に言葉を送る。

 

「ふむ。……なんと言うかな。つまりは、腹に据えかねるのだよ。貴賤(きせん)を弁えぬ者というのは」

 

「なに?」

 

 銀箔のセイバーは手振り交えて大仰に、演説のひとつでも打つかのように続ける。

 

「貴賤を守るが騎士の務め、と言っている。貴賤・秩序・序列。人が群れて生きていくからには必要なことだ。が、何故かこの時代に在っては、この当たり前の(ロワ)が守られてはおらぬというではないか。――まっこと、腹に据えかねる」

 

 笑顔の裏に煮えたぎる刃のような本音を秘めながら、偉丈夫はそう結んだ。

 

「質問の答えになっていない」

 

 少女の応答に、男は「フハッ!」と笑いを返す。

 

「んっん~ッ! 故に、この時代に招かれてから、しばしそのあたりを散策してみたのだよ。そして、この時代の賤民(せんみん)と、いくらか問答をしてみたのだ。結果、我ら英霊がこれを守るには値せぬと判断した。――自らの貴賤をすら自覚しておらぬ。己が何者なのかを知らず、人の間に、差はないと欺瞞を口にする。ありえぬ話だとは思わぬかな? 神に連なる英霊殿。貴殿こそ、まさしく貴種であろうに」

 

 白亜のセイバーと呼ばれた少女は、全身を握りしめるようにしてそれを聞いていた。

 

 眉目秀麗と呼ぶにふさわしい、いっそ中性的ともいえる幼げな眉根(まゆね)が怒りに歪む。 

 

「応える気が無いのなら……」

 

「んっん~。気ぜわしいお嬢さんだ。殺してなどいないとも。――我がマスターの嘆願あってな」

 

 少々驚いて、少女は対峙するサーヴァントの背後にそびえる、マスターと思わしき男を見据える。

 

「然り! 殺すなどとはもっての外だぞ(はく)よ!」

 

 巨漢であった。

 

 自らが伯と呼んだ銀箔のセイバーに比してもなお、比較にならぬほどの巨躯を誇る男であった。

 

 逆立つような紅い髪。同じく燃え盛る様なヒゲに覆われた厳つい容貌はそのまま現代によみがえったヴァイキングの首領だと言われても納得のいくものである。

 

「なぜなら!! 奴隷(スレール)とは、最も効率の良い資本だからである! ただ所有するだけで金を生み出すもの、それが資本なり! この世はまさに大資本時代! なのに、表の世界ではなぜか人間を商おうとしない。なぜだ!? ()()()()()()()()()!!」

 

 巨漢のマスターは咆えるようにして告げた。

 

 何の罪もない民草を、己の奴隷として鎖につないだのだと。

 

「奴隷、だと!? ――人を、その鎖で繋ぐというのか、魔術師!」

 

「いかにも!! それがこの(われ)の生業であるからして! 名乗っておらなかったな? 我は縛鎖の魔術師、アルジェント・リーグル! またの名を『人飼いのリーグル』成り!!」

 

 全身に金銀のきらびやかな鎖をまとった、威圧的な男である。

 

 前述の通り、魔術師と言うよりはヴァイキングか野党の親玉と言った方が似合いの男だ。

 

 その巨漢、魔術師リーグルは、鬼のような顔に満面の笑みを浮かべつつ、ズズイ、と前に出る。

 

「なんだ? なにか癇に障ったかね? 乙女よ。おお、美貌の君よ。そなたにこそ極上の鎖が似つかわしい。()()()を差し上げようかな?」

 

 言っておいて、自分のセリフに改めて大ウケしたかのように、魔術師は笑顔をいからせた。

 

 まるで酒席に興ずる鬼のごとき様相だ。

 

「んっ、ん~ッ! 貴種たる乙女を前に、無礼にもほどがあるな――それも必然か、ここは、戦場」

 

 銀箔のセイバーは、いよいよとばかりに自らが履く剣に手を掛ける。

 

 抜刀は、問答の終わりを意味する。

 

 そも、彼らは戦うためにこの場に集っているのだ。この悪辣な会話劇に白亜の乙女が付き合わねばならぬ故は無い。

 

「どうしたね? 白亜のセイバー、まさか始める前から……」

 

 銀箔のセイバーが叩こうとした軽薄な口上が、潰された。

 

 マスターも、サーヴァントも、言葉を失い閉口する。

 

 ただ、眼前の華奢な少女の視線――その眼光に射すくめられたからである。

 

 渦巻く魔力が迸る。

 

 まるで、空を舞う猛禽に睨まれたネズミが死を覚悟するかのように、男たちはその威容に呑まれていた。

 

「少し―黙るがいい」

 

 今、彼らが相対するのは少女などではなかった。

 

 それは憤怒の化身であった。

 

 人には及びもつかない領域に存在する、憤怒の神の末端。あるいは、神、そのものであるかのようにさえ。

 

「私の耳に、それ以上貴様らの戯れ言を入れるな――――黙れ。黙れッ。――頼むから、黙れェッッ!!!」

 

 爆ぜる。まるで彼女の怒りの感情が魔力の波動となったかのようだった。

 

 それは突風のようだった。この小さな少女を中核として、深紅の魔力が迸っているのだ。

 

 驚くべきは、彼女の纏う乙女の証明のごとき白亜の装束までもが、内側から引き裂かれるようにして、爆ぜてしまっている点である。

 

 その怒りは、物理的な威力をも持ち合わせているのだ。

 

 静かな、まるで万力で押しつぶされようとしているような圧力が、周囲の空間に満ちていく。

 

 膨大な魔力が周囲を満たし、渦巻いていく。さらには何かを焼き焦がすような臭いまでが漂う。

 

 ――おそらくは、この少女が持つ何らかのスキルによるものであろうか。

 

 なんにしても規格外。それだけで格が違うということが察せられたことだろう。

 

 それを見るすべての者が、等しく言葉を失った。

 

 この少女、このサーヴァントは、あまりにも次元が違う、と。

 

 己の装束をズタボロにしてしまった白亜のセイバーは、それを気にしたように少しだけ深く、息を吐いた。

 

 自分自信を、なんとかして鎮めようとするかのように。

 

「……良いだろう。こちらとしても好都合だ。キサマラのごとき外道が相手なら、この剣を振るうにいささかの躊躇も必要ない!」

 

 白い肌も露わなまま、少女は剣と、盾を構える。

 

 共に、少女が持つには大きすぎると思われる武具だが、セイバーはこれを軽々と保持し、身体の一部の如く神経を通わせている。

 

「覚悟するがいい、外道ども!」

 

「――伯よ」

 

「案ずるなマスター。思いの外じゃじゃ馬のようだが、()()は何も変わらんさ」

 

 銀箔のセイバーも、再び笑みを浮かべて白亜のセイバーと対峙する。

 

 相手は明らかに格上。体格や技巧ではなく、存在のレベルが違いすぎるのがわかったはずだが、それでもなおこの偉丈夫は引くことを考えない。

 

 彼もまた英霊。確かな勝算を携えて、この死地へ歩み出る。

 

 もはや、一触即発であった。

 

 機は満ちた。あとは互いに互いの剣を持って己が威を示すだけ。

 

 そのはずだった。

 

 

 

 しかし、そこで「ぱしゃーり」と、なんとも場の空気にそぐわぬ音がする。

 

「ふんふんふぅん♪ ――ああ? どうぞ。気にせずお続けになって。セイバーも気にしないでよろしくてよ?」

 

 それまで、まったく言葉を発することなく、白亜のセイバーの背後に控えていた、背の高い女だった。

 

 言うまでもなく白亜のセイバーのマスターであろう。

 

 しかし、その行動に、誰もが疑問符を浮かべざるを得ない。

 

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