ワンナイト聖杯戦争 第三夜 対決、三人のセイバー! 作:どっこちゃん
「んきゃあああああぁぁぁぁぁ!!! 良いわよセイバーッ!。思わぬハプニング!
女は美しかった。
数ある英霊の中にあって抜きん出た美貌を誇るセイバーの傍らに立ってもなお、損なわれることの無い容姿を持っていた。
――が、それもこのように猿のような奇声を張りあげるのでは台無しであったが。
奇声を上げつつ、女は写真を撮り続ける。しかも、手にするのは魔術師にあるまじき最新鋭のデジカメなのである。
「あの、マスター……」
「はふん? 何かしら? あっ! いい感じよ! でももうちょっと! 心もち左を向いて! 貴女の貴女による貴女の美が際立つわ!!」
困ったような顔をしつつ、指示には従ってポーズを取りながら、
「せっかく
「ああ、そうね! そのままでもワイルドでいいのだけど、直しましょう直しましょう」
すると、ぼろきれのようになってしまっていたセイバーの装束が、パッと微細な破片になって舞い上がった。
その破片はそれぞれが蝶の形となって飛び回り、再びセイバーの身体にはらはらと貼り付いていく。
そこには、先ほどとは意匠の異なるドレスに身をまとったセイバーの姿があった。
「おぎゃああああああ!! 良いわぁぁぁ! そんな貴女も実によろしくてよぉぉ!!」
「ありがとうマスター。でも、これはあまりにも……」
新しい装束は、まるで一種のウェディングドレスのようにも見えるほどの華美なものだった。
たしかに美しいが、どう考えても戦闘の邪魔になるだろう。
「じゃあ次ね!!」
さらにふんすふんすとシャッターを切りつつ、女は再び破片を舞い上がらせる。――この蝶のような形状の破片は、その一つ一つが彼女が操る使い魔なのだ。
「ローマ風も良いけど地味なのよねェ。もっと派手にロココ調! いっそヴェルサイユ――まだ動きにくい? なら一押しのジャパニーズニンジャ……ハッ! いいえメイドよ! そうだわ、ジャパニーズメイド! あれなら動きやすくて可愛いわ! もはや独特の文化! アレは良いものよ!!」
「いえその……先ほどと同じものでいいですので……」
どうやら先だっても同じやり取りがあったようで、セイバーはゲンナリした様子でマスターの
「――――
そこで、怒号が轟いた。
いざ尋常な勝負を、と身構えていた
彼も、よもやこのような形で放置されるとは思わなかったことであろう。
銀箔のセイバーもまた表情を失くして憮然としている。
「あぁら? まだ居らしたの? てっきり、
「マスター、私は怒ってなどいません。少々憤っただけです」
「あぁら、ごめんなさい。――ふふん。さぁ、今ならまだ逃亡を許しますよ? 我がサーヴァントは寛容。わたくしもそれに倣い、アナタ方の降伏を受け入れる用意がありますわ!」
女はセイバーに謝りつつ、事のついでのように男達に言いつけて見せる。
まるで女主人が下男にそうするかのように。
「いえマスター、逃がすのはダメです。無辜の人々が囚われていると」
「なんの話?」
どうやら、この女は先ほどのやり取りの間もセイバーを見惚れることに終始していたらしい。
子供のように首をかしげている彼女の肢体に、その時金銀の鎖が蛇のように巻き付いた。
「――ッ!」
その無数の鎖はセイバーの身体にも及び、さらには周囲の空間をも蜘蛛の巣の如く埋め尽くしてしまった。
夜に煌めく金銀の鎖は、傍目には美しく映ったかもしれない。しかし、それは悪辣なる奴隷商人の魔手に他ならないのだ。
「マスター、大丈夫ですか!?」
「あらら……無粋ね?」
金の鎖は女たちの五体を締め上げ、銀の鎖はそのか細い四肢を、あらぬ方へと引き絞る。
「
「――
※ Messer(メッサー) 「メスを振るう者」の意
しかしその鎖の結界を、少女の身体から舞い上がった蝶のような破片が寸断してしまった。
先ほどのセイバーの装束と同様、この女の纏う衣装もまた、微細な使い魔の集合体だったのだ。
「――ぬぅ!!」
先手を取ったと呵呵大笑していたリーグルは、再び煮え湯を飲まされたように顔を歪める。
自らが編み上げた魔力の鎖が、生半可の魔術では切断できぬことを彼自身が良く理解しているが故だ。
力量の差を見せつけられた。――この女、見た目にそぐわぬ手練れ!
「女ではありません。――
そして女の装束であった全ての使い魔が分離し、虚空へと舞い上がる。
燐光を纏う蝶の群れが、きらびやかな蜘蛛の巣を切り刻みながら、夜の虚空を埋め尽くす。
「〝衝撃のネス・バルバラ〟と見知り置きなさい! ――もっとも今宵、その命を拾って帰れればの話ですが!!」
「マスター!」
「いいのよセイバー。魔術師には魔術師で十分。前哨戦は望むところだわ。――それとも、
「いえ、そうではありません!」
キメ顔のバルバラに、しかしセイバーは狼狽えたような声を上げる。
それもある意味で当然であろう。
なぜならこの時、バルバラの纏っていた装束は、そのすべてがこの可変する蝶のような使い魔となって飛び立ってしまっていたのである。
そのすべてが、である。
つまり、彼女は一糸纏わぬ裸体を衆目にさらすこととなってしまったのだ。
「私の衣装などどうでもいいですから! 自分の身体を隠して! はしたない!」
「心・配・無・用!! それを予期出来ぬ
言って、バルバラはセイバーに向き直り、自らの艶めかしい肢体を、一切隠すこともなくさらけ出して見せる。
確かに――確かに彼女は全裸ではなかった。
ただ、その要所。つまり乳頭と股間に、小さな蝶の形の使い魔が張り付いているのだ。
「我が魔術に! ひいては
「えぇ……??」
大喝して見せたバルバラに、セイバーは返す言葉を持たないらしく、目を白黒させている。
さきほどの、空間を圧するほどの威を見せたサーヴァントと同一人物とは思えない姿だ。
「――
その両者のやり取りを断つかのように、閃光が奔った。