ワンナイト聖杯戦争 第三夜 対決、三人のセイバー! 作:どっこちゃん
『――なるほど、まるで切っ先で線を引くような戦い方ね』
バルバラは自らのサーヴァントが劣勢に陥る様を、しかし他人事のように眺めながら考察を続けていた。
決して怒られたからスネている訳ではない。自らのサーヴァントが「任せろ」と言ったからである。
全幅の信頼を置くからこそ、その言葉が覆る事は無いと彼女は確信している。
「有言実行」は英霊の際たる在り方。そうでなければ英霊ではない。英霊でないならサーヴァントではない。
サーヴァントでないなら、自らに
故に、バルバラはその可能性を切り捨てる。――無意味だからだ。
万事はこの調子である。思考も分析も、自らが
やりたいことをやりたいときに、やりたいようにやらねば意味がない。と、バルバラは心の底から思っている。
バルバラはゆえに一人、考察する。
――この場合、まず特筆すべきはあの「ケーニヒスマルク伯」の絶技。
単純な戦闘力において遥かに上であるはずの我がセイバーに対して、その剣の
その突きの鋭さも絶技ではあるが、真に特筆すべきは、セイバーの振るう一撃を完全に予見しているからこその、その挙動。
完全に
機。つまりはタイミング。
セイバーのあらゆる挙動、その起点となるタイミングを完全に掌握しているが故の芸当なのである。
「そう。まるで「線を引く」ように」
バルバラは確信を深めるようにして重ねて呟く。
戦闘に限らず、人の行動様式は主に二つに分かれる、とバルバラは考える。
それ即ち、「線」と「色」。
つまりは、未来と言う白紙に「線を引く」か「色を乗せる」か、の二通りということだ。
ケーニヒスマルク伯は典型的な前者。
真っ白な紙面に丁寧に線を引くようにして己の行動を決定する。
そこに何が有り、今が何時で、相手は何者で、自分の得手はなんなのか。
それ等を「線」として書き込み、精密な図面を引くようにして組み上げていく。
「線」は、引けば引くほど結果を予測しやすくなり、また失敗しても何が悪かったのかを確認・修正することも容易。
実に堅実な行動と結果が約束される。
反面――「線」とは同時に
白紙に線を引けば、それは「区切り」となって、自らの自由度を殺すことにもつながる。
線を引けば引くほど、白紙の紙面は細かく切り分けられ、選択肢は失われていく。
余白がないほどに精密な図面にはも、はや自由に何かを書きこむともできない。
それは、敵だけではなく自らに課す不自由の枷ともいえる。
あの男、ケーニヒスマルクは、まさしくその在り方を体現した英霊なのだろう。
自らに課した枷を糧にして、人ならざる領域まで己の技を、そして己の貴種たるべき誇りまでをも練り上げ、磨き上げたのだ。
なるほど、貴種と呼ぶにこれほどふさわしい存在もないのかもしれない。
――――しかし!! とバルバラは双眸を見開く。
それだけが人間の思考ではない。それだけが貴種の有り方とは限らない。
「取ったぞ、乙女よ!」
いよいよ、詰めの一撃が見舞われる。
見えないダメージと見えない鎖によって五体の自由を奪われた白亜のセイバーへ向けて、セイバー・ケーニヒスマルクの剣が繰り出される。
先ほどまでは防御の上からダメージを「浸透」させるための
しかし、この一撃は違う。
急所への狙い済ました一撃だ。
乙女の左手は自慢の盾を保持することも叶わず、だらりと垂れさがってしまっている。
執拗に打ち込まれた不可視のダメージが、彼女の左手を蝕んでいるのだ。
もはや防御は適わない。そこへ、満を持して放たれる必殺の一撃。
「
目標のはるか後方を射抜くなどと言うものではない。至近距離まで詰め寄っての必殺の一撃だ。
全身全霊の魔力が集中した切っ先は、閃光どころか眩い極光を帯びて乙女の心臓を狙う。
心臓はサーヴァントにとっても急所。
「が――――ぁぁぁぁぁあああああッッ!!!」
対するセイバーは、咆える。
獅子のごとき咆哮であった。盾は上がらずとも、身体は動かずとも、その総身に満ちる魔力は未だ健在!
深紅の魔力を全身から放出し、身体を縛っている見えない鎖をほどきにかかる。――しかし、
「無駄だぞ乙女よ! 我が鎖は夢幻のごとし!
ほとばしる魔力は鎖をすり抜けてしまう。この
しかし、セイバーは魔力の放出を止めない。
ついにはセイバーの纏っていた装束が、再び内側から弾け跳び、花吹雪よろしく虚空に舞い上がる。
その一片が、地を滑るツバメの如く肉薄してくるケーニヒスマルクの視界を、一瞬だけ塞いだ。
『――無駄だ!!』
しかし伯の前進は止まらない。今の彼は射放たれた一筋の矢なのだ。
いまさらその視界を遮ったところで、動くことすら叶わぬ標的を見失う道理もない。
『悪足掻きだったな、乙女よ――いざ、去らば!!』
そして、ついに彼の剣は、その針のごとき刀身で標的を射抜くに至った。
しかし、その刀身が貫いたのは乙女の心臓ではない。
「……捉えた、ぞ」
知の底から忍び寄る鳴動のような声が響く。
白亜のセイバーは保持することもままならぬ盾を捨て、その左手で伯の剣を受け止めていたのだ。
左掌を貫通したコリシュマルドの刃は、それだけでは止まらずに彼女の左肩口にまで突き立っている。
しかし、狙ったはずの心臓にはかすってもいない。
トドメとして放った必殺の一撃が止められた。
「――な……に!?」
さしもの伯もこれには瞠目せざるを得ない。
「この剣の欠点は、急所に当てない限り
自らの双眸をも深紅に染めて、もはや白亜と呼ぶことさえ
『そう。――それよ!』
バルバラは、不可視のまま踊り出すように一歩を踏み出す。
――これぞ、「色」。
それは「
未来と言う白紙に、「線」ではなく、いきなり「色」を乗せていく行動様式だ!
線を引くのとは違い、「世界」を区切ることをしない。
ただ、思うがままに、感じるがままに、白紙の上に踏み出し己の「色」を乗せていく。
それは己と言う絵筆をもって、白紙の未来を染め上げるに等しい行為だ。
その本質は、自由。
ルールよりも感性で世界を規定すること。
白紙の未来へ踏み出す、その瞬間にすべてを賭ける生き方。
「――どちらが貴種たるにふさわしいのか。言葉ではなく、行動で示しなさい。セイバー、あなたと言う