夜があける前、荷物をまとめた黒雷は貸し与えられていた部屋を出る
「黙って出ていくのは寂しいんじゃないかい?黒雷」
「お前は待ってると思ったよ輝哉」
黒い髪の子供に支えられた輝哉が現れる
「帰るのかい?」
「お前と一緒にな」
「は?」
珍しくポカンとする輝哉をよそに黒雷はどこからか車輪のついたお手製の椅子
車椅子をもってくる
「昨日、竹林から竹を拝借して車輪を作ってな!お手製の車椅子だ!よっしゃ!行くぞ輝哉!」
「え?」
そう言うと黒雷はヒョイッと輝哉を車椅子に座らせると
「輝利哉、あまねに伝えといてくれ、旦那はもう少し借りとくってな!」
「やれやれ、あまねにすまないと伝えといておくれ」
「かしこまりました」
「雷の呼吸」シィィィィ
「ふふ、あまり身体に負担のかからないように頼むよ、家から出るのは何時ぶりだろうか」
ドンっと雷のような音と共に二人は消える
「まったく、お体に触れてはことだと言うのに」
柱の影か白い髪の女性が困った顔で笑いながら出てくる
「輝利哉、貴方は友人をしっかりと選ぶのですよ?」
「はい、母上。しかし父上は黒雷殿と一緒だととても楽しそうですね私達の見たことのない笑顔を浮かべています。」
「えぇ、本当に・・・・・・・私ですらあんな笑顔中々見せて貰えないのに黒雷様も困った方です。」
「私にもあの様な友人ができるでしょうか」
「あんなのが友人になると苦労しますよ。本当に」
鳴柱屋敷
「ふぅ〜、本当に蝶屋敷の隣なんだな」
「ふふ、今は見ることはできないけど立派なままかい?」
「・・・・・・・あぁ、気合い入れすぎだ馬鹿」
黒雷の目の前に広がるのは普通の武家屋敷の3倍の敷地と立派な広い平屋とそれに隣接する道場、そしてでかい倉とそれらを建てても余りある敷地
「君の周りはいつもにぎやかだからね、ついつい気合いを入れて建てたもののここ数年寂しいものだったよ」
黒雷は車椅子を押しながら屋敷の門を潜る
「たく、家に寄りつくかもわからねぇのに無駄にデカいもん作りやがって、そんな暇あったら隊士の懐温めとけよ」
「まったくだね、これは僕の一生に一度の我儘で建てただけだよ、気にする必要はない」
「重いんだよ。たく、ありがとうな」
「うん」
敷地を見て回る頃には太陽は真上に昇っていた
「腹減ったなぁ、それにしても随分と綺麗だよな」
「そうだね」
二人が屋敷の前を歩いていると米の炊ける匂いがしてくる
「黒雷、屋敷に入ろう」
「お前が隠に用意でもさせてたのか?」
「さて」
黒雷が屋敷の扉を開けると
「「おかえりなさい」」
割烹着姿の二人の美女が座ってニコニコしながら待っていた
ジリジリ
「あら?どうしたの黒雷君」
「ふふふ、何で逃げようとしてるんですか?黒雷さん」
「やれやれ、黒雷・・・・・何があったとしてもまず、真っ先に二人に言うべきことがあるんじゃないかい?」
「輝哉?」
「君は僕の・・・・・・そして彼女達の元へと戻った。なら最初の言葉は一つしかないだろ?」
「「黒雷君(さん)・・・・・おかえりなさい」」
黒雷は一瞬の間を置くと
「あぁ・・・・・・・・ただいま!」
「「「ふふっ」」」
「それじゃあ!ご飯にしましょう!」
「私は盛り付けてきますね?」
「お願い、しのぶ。」
「お館様も食べて行かれますか?」
「ご馳走になろうかな」
黒雷と輝哉は屋敷へ上がると一つの部屋につくと
しのぶの手によりどんどん食事が運び込まれる
「さぁ、いっぱい食べてね。黒雷君」
「どうぞ、お館様、黒雷さん。お館様には消化に良いものを中心によそいますね」
しのぶは持ってきたお櫃から米をよそう
「あ、あぁ」
「ありがとう、しのぶ」
「いただきます」
黒雷はゆっくりと料理に箸をつける
「・・・・・・・」
「・・・・・・うん、美味しい」
「・・・・・・・・」
「・・・・・どうしたんだい?黒雷」
輝哉は何も言わずに徐々に激しくなっていく食事音を出す黒雷に声を掛ける
「・・・・・・」
「せっかくの料理なんだ感想を言うべきじゃないかい?黒雷?」
「うるせぇ・・・・・・・ただ、懐かしくて何もでてこなかっただけだよ」グスッ
「懐かしいか・・・・・・それはとても素晴らしい感想じゃないか」
「あぁ」
輝哉は黒雷の食事音を聞きながら楽しそうに微笑み
胡蝶姉妹は微笑んだまま眺めている
食事を終えお茶を飲んでいると
「それじゃあ僕は子供達の様子でも見に行くとしようか」
「あぁ、今連れていく」
黒雷が立ち上がろうとすると輝哉は手で制する
「黒雷は二人とゆっくり話すんだ。ここからは隠の子達に手伝って貰うとするよ」
「それならまずは、しのぶとね黒雷君。お館様、私がお手伝いします」
「いいのかい?カナエ」
「はい、しのぶと決めていたんです。黒雷君が帰ってきたら順番に1人づつ話しましょうって」
「そうかい・・・・・なら行こうか」
「はい」
そして広い屋敷にしのぶと黒雷だけが残される
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
沈黙する空気
ニコニコとした笑顔を貼り付けるしのぶ
気まずそうにする黒雷
「あぁ、そのなんだ。ただいましのぶ」
「はい、おかえりなさい黒雷さん」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「なぁ」
「はい?」
無言の笑顔の圧に押され黒雷の額に冷や汗が浮かび上がる
「その」
「なんですか?」ニコニコ
「怒ってるか?」
「あらあら〜、何でそう思われるんですか?」ニコニコ
「お前の本気の笑顔はそんな張り付けたような笑顔じゃなかったと思うからな」
「あらあら〜、既に結婚してると伺っていましたので昔の女の笑顔なんて忘れたものとばかり」ニコニコ
グサリと黒雷の胸を言葉が切り裂く
ソレはまさに蟷螂の鎌の如き切れ味
「・・・・・・・」
「あらら〜?どうしました?急に黙っちゃて」
「あの・・・・・・すいませんでした」
「何に対してですか?」
「いろいろです」
「はぁ」
しのぶは深くため息をつくと
「黒雷さん、適当に謝れば許してもらえると思ってませんか?何に対して怒っているのか考えずただ謝られても不快なだけですよ?」
「うぐっ」
さらにしのぶの猛攻はつづくアリに噛まれたが如く痛い言葉が如き言葉が黒雷に刺さる
しのぶは立ち上がりゆっくりと黒雷の後ろから優しく抱きつくと耳もとで囁く
「黒雷さん、もしかして私を怒らせて楽しんでます?もしかして女の子に強く当たられたい変態さんですか?」
「ちがう!・・・・・・(くそっ!暫く会わねぇうちにめっちゃデカくなってやがる!)」
「でも心臓の鼓動と脈拍の拍子が少し上がってますよ?」
「・・・・・・・」ギリッ
「あらら〜、まただんまりですか?どうしました〜?昔あんなに小さいって馬鹿にしていた胸を押し付けられて嬉しくなっちゃいましたか?・・・・・・・・黒雷さん」
一瞬声のトーンが下がる
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・本当に謝罪するつもりありますか?」
黒雷の口は動かない、まるで蜘蛛の巣に絡まった蝶の如く口を動かそうとするが口は意に反して動かない
「もしも〜し、聞こえてますか?」ツンツン
再度甘い声になり黒雷の身体をツンツンとつつく
「・・・・・・くっ!(あざとい!まじで、あざとい!何があった!?)」
「もしも〜し、あっ!ツンツンされるのが嬉しいんですか?」
「はぁ・・・・・・・すぐに帰って来なくて悪かった」
「・・・・・・・それだけですか?」
「すまん、それ以外はわからん」
「半分正解なので答えを教えますね」
そう言うしのぶは後ろから優しく黒雷の頭を胸に抱く
「黒雷さん、千鳥に遺言残しましたよね?」
「あぁ」
「私達がどれだけあれで悲しんだと思いました?」
「さぁ」
「まるで諦めるかのように!死んでしまうように」
「死んでまでお前達を縛るつもりはなくてな」
「なんですかそれ、諦めないでください!貴方が必ず戻ると言ってくれれば私もねぇさんも何時までも待ちます。鬼に殺されるかヨボヨボのお婆ちゃんになるまでまちます。だから、怒ってるんです、私達を残して雷のような速度で置いて行こうとしたから」
「すまん」
「帰ってきたらなんですか?今度はお館様の屋敷で男達だけで宴会開いたりお館様一家との宴会で帰らない?・・・・・私達がどれだけ心を痛めてたと思うんですか!私達は貴方にとって後回しでもいい存在何だと思うのが何よりも辛い!」
「・・・・・連絡してなくて、記憶を失ってる間にいろいろあってお前達のところに帰りずらかった。すまん」
「私、変わっちゃいましたよ。昔の私は桑島黒雷が死んだ時に一緒に死んじゃいました。継子達もカナヲを残してみんな死んじゃいました、アオイとカナヲしか残りませんでした。怒りと憎悪だけが心に残って、でも黒雷さんがいた時のように笑顔でいようとしてたんですよ、貴方が可愛いって言った笑顔でいようとしたんだすよ。なのに張り付けた笑みだなんて誰のせいですか!変わるなかで貴方との唯一残せる繋がりは笑顔だけだったんですよ!それなのに貴方は」
「・・・・・すまん」
「すいません、こんなこと言うつもりはなかったんですが、嫌ですよね昔から癇癪を起こす癖は抜けてないのに結婚してても貴方と離れたくない、けれど心は怒りと憎悪に焼かれ、帰ってきた貴方に嫌味を言う、そんな面倒くさいくて嫌な女。」
「そんなことはない、お前の怒る姿も笑顔も全て好きだった。今のお前もどうしようもなく愛おしく思ってる」
「本当ですか?」
「本当だ」
「なら、証明してください」
「証明?」
「男女の証明は一つしかありませんよ」
そう言うとしのぶはふわりと離れ
黒雷の膝の上に座る
「これ以上は野暮です。黒雷さん」
「あぁ、わかった」
そして黒雷の手が繭を優しくほどいていく
日はすっかり暮れてしまい生まれたままの姿で部屋で抱き合う二人
「これで証明できたか?」
「はい」
頬を染め潤んだ瞳で黒雷を見上げるしのぶ
「黒雷さん、実は今日は当たり易い日なんです」
「・・・・・・・は?」
黒雷の表情はピキッと固まるとサーっと血の気が引く
「ふふふ、これで簡単に死ねなくなりましたね?」
「えっと」
「もし、当たったら、まさか赤ん坊を置いてお館様の家で宴会したり気まずいから帰れないなんて口が裂けても言いませんよね?私の愛した方はそんな男のクズなはずありませんもの・・・・・・ね?」
「は、はい」
「あ、それに未亡人になんてしませんよね?夫を亡くしたらもう身体を売るしか・・・・ヨヨヨ〜」
「おい、からかってるだろ」
「いいえ?今日は当たり易い日ですし、着床しやすくする成分のある薬ものんでますよ?」
「・・・・・・・」
「これで、私が貴方の避雷針ですよ?数ヶ月するまで結果は分かりませんけど楽しみですね」
「・・・・・・・・」
しのぶの子供ができるかもしれないという甘い毒は黒雷の生存本能をじわりじわりと侵しくいく、そして男としての心も同時に蝕まれる
「姉さんにも禰豆子ちゃんにも渡しませんよ。」
そう言い黒雷の羽織で身体を包み立ち上がる姿は月に照らされて妖しくその姿を黒雷の瞳に映していた
「それと、私以外にあんまりちょっかい出してる食べちゃいますよ」
そう言い黒雷の耳を囓る
「・・・・・・」
そして耳もとで囁く
「蟲は出産のためにメスがオスを食べるそうですから、その時はどんな毒で味付けされたいか考えて置いてくださいね」
「・・・・・・・」
クスクス笑いながら出ていくしのぶを何とも言えぬ顔で黒雷は眺めていた