夕焼けに染まる君。三日月の光に照らされる僕。
互いに初めての感情で、まだちゃんとは理解ってないけど。
あの日から、「私は君の笑顔に」、「僕は君の笑顔に」、
特別な感情を抱き始めていたんだ。
名前を付けるには、まだ不安定で、曖昧で。けど、離したくない感情。
そんな感情を抱いた二人の物語。


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夕焼けと三日月

 貴方はどんな天気が好きですか?

 きらびやか、けれど優しく、温かい晴れの日。静かな音、激しい音、様々な音色の雨の日。

 肌をひゅっと通りすがる、風の吹く日。太陽がお休みをとって、隠れて心がちょっと暗くなりそうな曇の日。

 ある人は『自分の色を忘れてしまったから、白いんだよ』と言った、同じ形は存在しない雪の日。

 

 僕の好きな天気は……。

 

 

 

 

 

 今日も気怠い学校を意思を奮い立たせて乗り切った。

 別に授業が解らないとか、友達が居ないとか、そういう理由じゃない。ただ……何処か物足りないと感じてしまうのだ。

 

「三日月」

 

「…ん、ひまり」

 

「どうしたの?またそんなむくれた顔して」

 

「何でこんなにも学校が気怠いのか、何で日常に物足りなさを感じるのかなって考えてた」

 

「また唐突に変な事考えてるね」

誰も居ない教室、机にうつ伏せになる僕の前に、前の席から椅子を取って座る少女。

 彼女の名前は上原ひまり、コンビニスイーツ、恋愛大好きな女の子。幼馴染五人でバンドを結成していて、しかもそのバンドのリーダーをしている。

 

「仕方ないでしょ、そう……思ったんだから……」

窓際に位置する僕の席はこの時間、遮るものが何一つ無いせいか西日が眩しいくらいに差し込む。

 

「なんだかな〜。そんなじゃ人生楽しくないよ」

冗談混じりにニマニマとした表情をしてくる。

 

「同じ年数生きてるのに、ひまりに言われるのはムカつく……」

その妙にイラッと来ながらも、頬をぷって押してみたら面白うだなと心の隅に思いながら。

 

「ちょっと、何もそこまで言わなくても良いじゃん」

ほら、頬を膨らませて息を溜め込んでる。このまま押したらぷひゅ〜って音を出しながら空気の抜ける風船みたい。

 

「ふっ、ふふふ……」

 

「今度は何で急に笑うの?」

 

「いや、ひまりの顔が何か『小さい子が頑張って膨らませたけど、数秒後にはしぼんでしまう風船』に見えてさ」

 

「何で私の顔見てそんな事を考えられるの」

ていっ、と何ともまぁベタな効果音を付けながら僕の頭にチョップを喰らわせてきた。

 

「痛い…」

 

「三日月が悪い」

ガタッ、椅子を引いて立ち上がり掛けていた鞄を持ち立ち上がる。

 

「帰りに何かお菓子買ってくれないと許さない・・・」

 

「はいはい……、じゃあコンビニでも寄りますか……」

ひまりの後を追うようにして、重たい身体を上げて、鞄を肩に掛けて教室を後にした。

 

 

 

 

 

「そう云えば、今日はバンド練無いのか?」

先程から僕とこうして雑談を交わしているが、普段ならとうに練習に向かっている時間。

 

「今日は練習お休みの日だよ。ちなみに、バイトもありません」

両手にピースサインを作って、僕に勝ち誇った表情を見せてくる。

 

「いっつも頑張ってる私だから〜、ちょっと良いのが食べたいな〜」

調子に乗っている、浮かれているのは一目瞭然だが、コンビニ行く予定を立ててしまったのは僕の方で、これは財布から少しお金が消えるかな。

 

「何か希望はあるの?」

 

「うんとね、赤いカップのアイス!」

 

「高い…しかもアイス?もう秋も終盤で、もうすぐ冬なのに?」

 

「ちっちっち、理解ってないな〜。コンビニスイーツ通な私を舐めないで頂きたい!」

うわ、何この茶番劇。付き合うの、これ付き合うの確定ルートなの?

 

「三日月は普段コンビニ寄らないだろうか教えるけど、秋の方がスイーツの種類は豊富なの……」

付き合う系のルートですね、了解です。

 

「普段は見ないような限定品がね、何時もの何倍も出てくるの……」

 

「うん、それで」

 

「でも、それらを幾らバイトをしているからって、中々全種類はコンプ出来ないの……」

 

「だからこういう時に奢って貰って食べると?」

 

「そうだね」

 

「……えい」

今まで真面目に話を聞いていたけれど、最後に確認を取った時にあっさりと答えるのがしゃくに触ったので、ついひまりの額にデコピンを繰り出してしまった。反省?何で僕が?

 

「痛い〜、ちょっと!何でデコピンするの!」

 

「ごめん、何かイラッと来て」

 

「何でよ〜!」

そう言って俺の鞄を持っていない方の手を掴んで、上下左右にブンブンと振られながらコンビニ向かった。途中で勢い余ったのか、肩の関節が取れるかと思う程振られた。

 

 

 

 

 

「わ〜い!買って貰っちゃった」

 

 コンビニに入ると、真っ先にアイスのコーナに行き商品を取ったと思ったら、『これも買ってよ〜』とお菓子売り場に移動して何か新発売のポテトチップスを手に持って居た。

 アイスだけのはずが、追加のポテトチップスも買う羽目になったのが今日は我慢しておくことにした。

 

「では早速実食」

 

「ここで食べるのかよ」

家で食べるのかと思ったら、『折角だから公園で食べようよ』と手を引かれて公園の中の屋根付きの休憩所みたいな所でアイスを開け始めた。

 

「ふわぁ〜、アイス、アイス」

 

 アイス一つでそんなに嬉しいものなのか?僕としては、アイスとかそう云う食べられる物より、文房具とかの方が嬉しいと思うのだが?何でか?実用的で、その場で楽しんで消えるものじゃ無くて、長く実用的だから。

 

「三日月…」

 

「何だ……っ!」

名前を呼ばれて隣でアイスを頬張るひまりの方に、顔を向けたのだが……。

 

「美味しい……?」

 

「まぁ…値段の割には…」

俺に食べかけのアイスを食べさせて来たのだ。アイスを買った時にはスプーンは一個だけしか入れてもらわなかった。ひまりがアイスを食べてて……、それを今僕が食べ……。

 

「あの……ひまり……」

ゆっくりと顔を、多分鏡で見れば茹でだこの様に真っ赤になった顔をしていると思うが、その顔をもう一度向けると……。

 

「な、何……」

ひまりの方も顔を真っ赤にして、此方をチラチラ見ることしか出来ていなかった。

 

「い、今のって……お前のた…食べ…」

 

「そ、その……うん……」

理解っていてやったのか?何か意図があってやっていたのか、聞こうとしても……恥ずかしさが先立って聞くことが出来ない。

 

 公園を赤く染め上げる夕日が徐々に沈み始めてきたのか、器具や木々の影が小さくなっていく。秋も終わり口、冬になり始める頃合いで、少しずつ日の入りも早くなってきている。少し日が経っただけなのに、もう冬の気配が迫っていると、日をまして感じる

 風が吹き始めて、アイスを食べていた身体が冷えてくる。けど今は、恥ずかしさで熱を持った顔を冷ますのに丁度いい。

 

「あ、あの三日月」

 

「は、はい」

突然ひまりが不思議と出来上がってしまっていた沈黙を破り、

 

「一つ聞いても良い?」

 

「ど、どうぞ…」

何を聞きたいのか尋ねてきた。

 

「そ、そのさ……。三日月はどうやったら、どうやったら自分の日常が満ち足りてるって感じるの?」

 

「な、何で急にそんな事……」

質問された内容が突拍子もなさすぎて、回答に困った。だけど、ひまりが聞いてきたんだから答えるべきなんだろう。

 

「多分だけど、『自分が此処に居る』って実感が欲しいんだと思う……」

 

「どういう事?」

首を傾げて、再び尋ねてくるひまり。

 

「何て言ったら良いのかな……。自分で言っておいて、本当はよく理解ってないけど……」

 

「それはどうなの…?」

 

「そう渋い顔するなよ……。そうだな、しいて言うなら『自己承認欲求』かな?」

 

「誰かに見てもらいたいの?」

 

「いや、目立ちたいとかじゃなくて……」

またも不思議な物を見るような目を向けるひまり。小さく溜め息を吐いて、一度身体の中の空気を入れ替える。

 

「何ていうか……『誰かにとって必要な人』っていうか……。『大事な人』っていうか……」

改めて自分で言っていても、本当に訳が理解らない。こういう事じゃ無いはずなのに、言葉が見つからない。

 

「結局は誰かに『必要』とされていたいんだと思う……」

頭の中でぐるぐると言葉が迷子になって、迷路を駆けるように巡っていたのに、ふいに出てきたのはこの言葉だった。

 誰かに『必要』とされていたい、言葉にしてみれば簡単だ。だって、『必要』とされていたいんだから。その『必要』の内容が何であれ、『必要』されているんだから……。

 

「ただ我儘を言って良いなら……安心したいだけなのかもな……。『此処に居て良いよ』って確かなものが……」

沈みかけた夕日を眺めながら、か細い声で呟いた。

 

「って、こんな話ししてたらアイスが不味くなるだろ?てか、時間も遅いし帰……」

 

「あ……、そ、そうだね……」

時計と夕日の沈み具合、それに風も吹き始めて強くなりそうだったから帰宅を提案をしてみたら……。

 

「お前、よくもまぁ…人がちょっとしんみりしながら話をしている時アイス完食出来るな!夕飯有るだろうが!」

ひまりは話はちゃんと聞いていたようで、暗い顔をしていながらも……アイスのカップは離さず食べ続けていた……。

 

「ゆ、夕飯少し減らすもん!」

本当に食い意地張りおるな、絶対体重計乗って後悔するだろうに……。その時は放っておくか。

 

「それじゃあ、帰るか……」

 

「うん……」

 

 夕焼けが僅かながらに顔を残しながら、辺りはもう夜に近づき始めていた。バンド練で遅くなるとは聞くが、仮にもひまりやその幼馴染軍団は女子高生なわけで危ないとは思う……。何もないと言うが、ちょっとだけ心配な所もある……。

 

「バイト帰りとか、危なくないか?」

何も話さずに帰るのもどことなく気まずかったので、そんな話題を振ってみる。

 

「え?何急に?」

振った話題が唐突すぎたのか、ひまりは驚いた表情を見せる。

 

「いや、ただ今歩いててふと思ってさ……」

 

「う〜ん、そんなに遅い時間まで入らないし。帰りも巴と一緒に帰ることが多いから」

 

「巴か、言っちゃ悪いが確かに防犯には成るかもな」

冗談混じりに笑っていると、

 

「それ明日巴に言っちゃうよ」

 

「まじで勘弁してください」

さりげなく脅迫のネタにされてしまった。巴の場合、怒ると怖いんだよ……。

 

「あははは、三日月は巴に頭上がらないもんね」

簡単に笑っているけど、巴に怒られるのって母親に怒られてるみたいで精神的に来るものがあるんだよ。

 

「でも、意外だな」

 

「何がだ」

突然笑うのを止めて、またいつもの屈託の無い笑顔をして、

 

 

「三日月が私の事心配してくれるだなんて」

 

 

「心配して悪いかよ。学校じゃお前ほど面白いやつが居ないから、お前が居ないと余計に日常が気怠くなるから、そんな自分勝手な理由で心配しているだけだ」

ふいに笑いかけてくるので、思わず本音が出てきてしまった。

 

「……そ、そっか。ふ、ふ〜ん、私が居ないと嫌なんだ」

間を置いて、今日二度目で一番の真っ赤な顔を見せながら此方を見てくる。

 

「…………、まぁ一応」

どうせ答えないときっと何かイジってくると考えて、また本音が出てしまった。

 

「何時からそう思ってくれてたの……」

 

「答える必要あるか……」

 

「うん……」

立ち止まって制服の裾を掴みながら、僅かに上目遣いと呼ばれる体制をとっていた。

 

「はぁ……、一年の頃……。一年の時からだ……」

 

「一年生の時?」

 

「そうだよ……。一年の頃、お前が先生に頼まれて提出物運んでただろ。背よりも高くなるか、ならないか位の量を」

 

「あった。先生が係の私に頼んできて、でももう一人の係の子が休みで」

 

「職員室に向かう途中まではバランスよく運んでたのに、ひまりが何かに躓いて盛大に提出物ばら撒いてさ」

 

「うぅ……、だって重いし、持ちにくいし、大変だったんだもん……」

 

「知ってるよ、それでも偶々僕が通り掛かってさ」

 

「三日月が一緒に拾ってくれて、一緒に職員室まで持って行ってくれたんだっけ」

 

「そうそう、あの時にちょっとだけ話したけど」

 

「同じクラスのはずなのに、お互い全く話したこと無くて」

 

「運び終わった後に、また少し話し始めるようになって」

 

「それでバンドの話もしたんだよね」

 

「ひまりがバンドのリーダーをしてるって聞いて、『嘘だろ』って僕が返したんだっけ」

今でも憶えてる、この後に帰ってきた言葉は……。

 

「『ねぇ、それ酷くない!私ちゃんと皆のスケジュール組んだり、ライブハウスに連絡とったりしてるんだからね!』」

やっぱり同じだ……。一年も前の事なのに、変わってない……。

 

「…………変わらないな」

 

「ん?」

 

「何でも無い。その答えの後に僕も珍しく反論してさ」

 

「それで私がライブに誘ったんだよね」

教室で何時買ったか忘れてしまった文庫本を一人で読んでいる時、机にバンッ!と大きな音と一枚の【Ticket】と書かれた紙が置かれていた。

 

「そうそう、最初は『何コレ?』って言って」

 

「私が『そんなに疑うならライブ見に来てよ』って言ったんだっけ」

 

「正直見る気無かったけど、ひまりが『来て!』って五月蝿いから」

 

「ちょっと!でも、ライブで三日月笑顔だったくせに」

口元に手を当てて、ぷぷぷっと笑うひまり。

 でも本当にひまりの言うとおりだった。初めてライブという物を体験してみたが、大きなホールで客席で声を出して盛り上がるような物じゃないけれど……。

 

「あの時だったかな、多分あの瞬間が今までの中で一番色づいてたと思う」

小さなライブハウスの中で、ガールズバンドだから女の人が多い中一人で隅に立って演奏を聞いていた。バンドの自己紹介から巻き上がる白熱した空気、演奏が始まるとそこに居る全員が一体となって演奏を楽しむ温度。

 何かも初めてで、体験したこと無くて、ただただ呆然と聞き入っていた。聞き入るだけじゃなく、演奏にも見入っていた。ひまりは何の楽器を演るのかと期待している自分が居て、ベースを弾いている姿が本当に眩しく見えて。

 

「ひまりがあのバンドで楽しそうに演奏しているのを見て、凄く良いと思った……」

 

「実は最初のライブの日ね……。私三日月の事見えてた……」

僕の感想を聞いて、気恥ずかしいのか顔を見てこないひまりは俯きながらそう答えた。

 

「最初は興味本位で『どこに居るのかな〜?』位で、ちょっぴりゲーム感覚で探してたんだけど……」

妙に言葉が辿々しく、途切れ途切れ話してくる。

 

「その演奏が始まる直前に、ほんともう始まるって瞬間に見つけてさ。でもその時はまだ、何時もと同じ表情で……。ちょっとモヤっとしてね……。だから、あの日の演奏……何時もより気合入れて弾いてたの……」

 

「演奏を初めてもう一度三日月の方を見たら……、凄く楽しそうで……。初めてみた、三日月のあんなに笑った顔。三日月って、あんな風に笑うんだって思ってたの」

裾を掴む力が強くなっていくのを感じて振り返るも、未だにひまりは俯いたままだった。

 

 だけど、

「その笑顔が私は凄く嬉しくて……、好きだったの……」

ひまりは最後の言葉を口にする時に、顔を上げて僕の顔を見つめてきた。

 

「三日月が助けてくれたあの日から、三日月に話しかけたあの日から、ずっとずっと気になってた。だからライブに誘ってみたの。三日月はいっつも気怠そうにしているから、ライブなら他の表情が見れるかなって」

質問をさせてくれる時間も与えずに、ひまりは続けざまに思いを僕にぶつける。

 

「あの日、ライブを見に来てくれた時の笑顔に私は恋をしたの。漫画とか小説での知識しか無いけど、三日月の笑顔が頭の隅に残ってて。三日月と話すようになってからも、ドキドキするようになってたの……。

今日だってそう、練習は無いって言ってたけど……皆に頼んで今日は休みにしてもらったの……」

 

 制服の裾から手を離したひまりは僕の前を少しだけ走っていく、もう沈みかけの夕日と出始めた月を背に。

 そして振り返り、もう一度僕の方を見つめて問いかける。

 

「ねぇ、三日月。今日は何の日か憶えてる?」

 

 スマホを取り出して日付を確認する僕。だけどその日付を見ても何かの祝日という訳では無く、至って平日だった。

 

「今日はね……」

 

 ひまりは前に行った思えば、今度は鞄をその場に置き走ってきたのだ。少し傾斜のある坂の上に立っていたので、そこから下ると成るとそれなりの速度をつけて走ってくるのだが……、

 

「三日月が初めてライブに来てくれた一年前の今日で、私が三日月の笑顔に恋をした日なの!」

助走をつけて、僕に近づいた瞬間に僅かに地を蹴り上げて……、

 

「三日月、ううん……。日暮三日月(ひぐれみかづき)君、私は君の事が好きです。私と付き合ってください!」

告白と当時に抱きついてきたのだ。飛んできたひまりを倒れさせないように、何とかして支える僕。

 

 だけど、今の告白に僕の頭はまだついて行けてなかった……。

 

「あ、あのさひまり……。今のは告白って……解釈して良いんだよね……。れ、恋愛、す、好きって意味での……」

 

「うん……、私は三日月が好き……。三日月の無愛想だけど、側にいて支えてくれる、そんな三日月が好き……」

ひまりの手が首から巻き付いて、背中で繋がる。

 

 ひまりのその告白を聞いて、正直まだ理解もままならないのだが……。でも、僕の回答は決まっていた……。

 

「僕も一年前の今日、曖昧でそれがそうなのか解らないけど、心の隅でくすぶる感情があった……。だけど、今のでようやく解った……。僕はひまりに恋していたんだって……。

ひまり……、いや、上原ひまりさん。僕も君の事が好きです。だから、僕と付き合って下さい」

 

「っ!……はい」

 

「ひ、ひまり、もしかして泣いてるの!」

返事をすると、肩の辺りにじんわりとした暖かさが広がってくる。丁度その位置にはひまりが抱きついて、顔がその場所に来ている。

 

「泣いてない……。でも嬉しくて、その何か……」

 

「ちょっと待ってろ、今ハンカチ貸すから」

ポケットに手を動かして、ハンカチを取り出す。一度離れたひまりにハンカチを手渡して、涙を拭ってもらう。

 

「ねぇ三日月……」

 

「何だ、ひまり……」

泣いたせいで少し目元が赤いひまりは、優しく微笑みながら僕の名前を呼ぶ。

 

「私の事好きだったんだ……」

 

「うなっ!」

 

「だって私の告白のあと、三日月も告白してくれたでしょ」

その笑みには何処か悪戯な小悪魔を感じさせて、だけど怒る気持ちは出てこなかった。

 

「そうだよ……、お前の事が好きだったんだよ……。ただ言い出せなかったけど……」

 

「練習見に来て、感想はズケズケと言ってくるくせに〜」

 

「誰だ、俺に『率直な感想が聞きたい』って言ったのは!」

 

「痛い、ゲンコツぐりぐりは痛い〜」

先程のまでの僕の気持ちを弄ぶように言うので、ちょっとだけ粛清してみた。

 

「でも、三日月が私を”好き”って思っててくれて嬉しい…」

 

「そ、それは僕もだ……」

 

こうして改めて向かい合うと、また妙な空気が生まれる。その空気に耐えきれなくて、

 

「ほ、ほら、帰るぞ!家まで送ってやるから」

また素直に成れなくなってしまう。

 

「は〜い、でも今日はっ!」

歩き始めた僕の手をさっと取り、指を絡めてつなぐ【恋人繋ぎ】をしてきた。

 

「今日はこれで一緒に帰ろ♪」

 

「まぁ……そうだな……」

 

 人生で初めて誰かに告白されて、人生で初めて誰かに告白をした。

 今もまだ胸のドキドキは止まらない、鼓動は早まる一方で……。

 ただ、今は何時も感じていた【気怠さ】や【物足りなさ】は感じていない。逆に【温かさ】に【幸せ】に溢れている。

 

「三日月…、好き…」

 

「僕もひまりの事…好き…」

 夕焼けと夜の始まりが合わさる帰り道、先程の告白の余韻に浸りながら、何度同じ言葉を言い合ったのか解らない中で帰路に着いた。




他の連載が有る中で、どうにも気分が乗らないので、
頭をスッキリさせようと気分一新の意味も込めて書いてみました。
短編に纏める難しさ、改めて【恋】の表現に悩まされた作品でした。
当初の目的から外れているような……。
またこの作品は作者の気分転換の一部なので、続きは未定です。【多分書きます】

連載の方も時間は掛かっても、頑張って書いていきます。
今回もご閲覧していただきありがとうございました。
感想などお待ちしています。

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