もしもお嬢様を1mmも理解してないゲーマーがセシリアに憑依したら 作:まみま
気絶したラウラさんが保健室に運び込まれて数時間、ベッドの傍の椅子に掛けて待っていると、扉を開けて織斑先生がいらっしゃいましたわ。
「いたのか、オルコット」
「ええ、一応ペアですから……起きるまでは待っていようかと思いまして」
気分はゲーセンの開店を待つときみたいな感じですわね。織斑先生は隣に置いてあった椅子に座り、足を組んでため息を吐かれましたわ。……まあ、色々と後処理に追われていたのでしょうね、かわいそうに……
「一夏さん、無傷でよかったですわね」
「……私は身内でからかわれることが嫌いだぞ。オルコット」
「からかったつもりなんて毛頭ありませんわ。身内が事件に巻き込まれた方がいるなら、心配するのが道理というものでしょう?」
「……ハァ。日頃の行いが悪い……」
「日頃の行いが良いゲーマーなんてキレ散らかす長○力のようなもの。つまりは存在したら大したもんですわ」
「○州力はキレ散らかしていただろうが」
と、小粋な会話を楽しんでいるとラウラさんが目を覚ましたようですわね。うっすらと目を開け、赤と黄色のオッドアイが覗きますわ。眼帯つけてると思ったらオッドアイだったんですのね、カッコいいですわわたくしも欲しい。
「教官……ご主人様……」
「織斑先生と呼べ」
「セシリアと呼びなさい」
お前も苦労してるんだなぁ……って目でこっちを見てくる織斑先生。やめて、やめてくださいませ。この学園一の苦労人に労わられるほどわたくしはやばくはありませんわよ。あっ、でもやばいかもしれませんわ。鈴さんはちょくちょく100先挑んでくるし目の前のマゾロリはしょっちゅう踏んでもらいたがるし……
「私は……なにが……」
「全身にかかった無理な負荷のせいで、筋肉疲労とひどい打撲だそうですわ。しばらく無理はするな、と保健医の先生がおっしゃっていました」
「そうか……ご主……」
「セシリア!」
「……セシリア」
やめて織斑先生! そんな哀れなものを見る目でわたくしを見ないで! 変態みたいに見られるのは嫌ですが可哀想に思われることはもっと堪えますの! ちょっとリアル小足暴れ出そうなくらいにはきついですわ今!
「それで……何が起きたのですか……?」
「……一応、重要案件である上に機密事項なのだがな」
「わたくし、聞かない方がよろしいでしょうか?」
「いや、オルコットも聞いて構わない。お前は当事者だし、更識が卒業すれば恐らくはお前が生徒会長をやることになる。今のうちからこういうゴタゴタには慣れておけ」
生徒会長なんてやりたくもないんですけれどもね……ただまあ、今は断れる雰囲気ではなさそうですわね。わたくしは相手の暴れと空気の読める善良な格ゲーマーでしてよ。
「
「……モンド・グロッソの
「操縦者の肉体に多大な負担を課すので、IS条約で国家・組織・企業とあらゆる団体で研究・開発・使用を禁じられているはずですわね」
「その通り、それがお前のISに搭載されていた……巧妙に隠されてはいたがな、機体の蓄積ダメージ、そして操縦者の感情の昂りによって反応するようにプログラムが組まれていた。今は学園からドイツ軍へ問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査も入ることだろう」
シーツを握りしめるラウラさん。自らの意識があのような怪物に支配されたのがよほど悔しかったのでしょうね。ガーベ○・テトラにまで開花しても未だプライドを失ってはいなかったようですわ。
「……感情の昂り……確かに私はあのとき、ちょっと気持ち良くなってました……観衆の視線に晒される中でパイルバンカーを喰らって……ちょっと、ほんのちょっとだけ気持ち良くなってしまって……きっとそのせいで……」
部屋に微妙な空気が流れますわ。……前言撤回いたしますわ。こいつもうプライドもクソもないクソマゾロリですわね。織斑先生も珍しくドン引きしたような表情を浮かべていますわ。そして多分わたくしも。
「いや! 本当にほんのちょっとですよ! 決して私はMなんかじゃありません! そもそもご主人様以外からの苦痛など……!」
「……ラウラ・ボーデヴィッヒ、貴様は何者だ?」
「……え?」
「聞き方を変えよう……貴様は自分を何者だと思う?」
シーツを握りしめたまま俯き、思考するラウラさん。そして10秒ほどの時間が経ち、ラウラさんは1620万色の眩い笑顔を浮かべてこう言いましたわ。
「私は豚です。ご主人様からのご褒美がなければ生きられない豚なのです!」
織斑先生がちょっと後退りましたわ。嘘でしょ、このドMは世界最強すら押す変態性を持ってますの? あーほらやばいもん、織斑先生がゲロ見るみたいな目で見てるもん。クソラグ投げキャラ使いと当たった時のわたくしみたいな顔してるもん。
「……だ、そうだ。オルコットよ、こいつの面倒はお前が……」
「嫌ッ! 絶対に嫌ですわよ! もう少しわたくしに優しくしようというまごころはないのですか!? もっと礼儀正しく職権を振りかざしてくださいます!?」
「ええいうるさい! 流石に私もこれは無理だ! ただでさえ胃に穴が開きそうなんだぞ!? ほら見ろこの顔! 目の前で罵倒されてちょっと気持ち良さそうな顔してるだろう!」
「だから嫌なんですわよ! 嫌ですわよ! わたくしは3年間をドMのお守りで棒に振りたくありませんわよ! 振るのはサーベルだけで十分ですわ! こんな越えちゃいけないラインの上で反復横飛びしてるようなロリに付き纏われるのは真平ごめんですわ!」
「ご主人様……教官……」
「セシリア!」
「織斑先生!」
リアルD格事件に発展しそうな言い争いでしたが、ようやく治まりましたわね。絶対嫌ですわよわたくしこいつの面倒見るのだけは。生徒会長でもなんでもやりますからそれだけはどうかご容赦を……
「とりあえず私は後処理があるから戻る! 仲良くやれよ!」
「あっ! ずるいですわよ織斑先生コラ! 頼むからわたくしをこのロリと同じ空間に置いてくのは!」
ピシャン、と保健室の扉を閉めて出て行ってしまう織斑先生。えぇ……嘘でしょ……わたくしこれからこいつの面倒みなきゃいけませんの……?
「ご主人様、そう気を落とすな」
「あなたねぇ!」
「ねぇ、セシリアお嬢様〜?」
ヒェッ、この声は……振り返ってみると、そこには暗黒の微笑みを携えたシャルロットさんがいらっしゃいましたわ。
「織斑先生が急いだ様子で出ていくからなんだろうと思って入ってきたんだけどさ……ご主人様ってなにかな? 僕以外にも学園の子に手出してメイドさんにするのかなぁ?」
「ちっ、違いますわ! これは彼女が勝手に……!」
「その通りだ! 私は彼女の僕として忠誠を誓った! 彼女に足で踏みにじられたその日から! 私の心はご主人様のもとにあるのだ!」
「へえ、そんなプレイをしてたんだね?」
「違いますわ〜!!!」
攻めてると強いけど押されれば弱いのは一夏さんだけでは無かったようで……知りたくなかった己の弱さを思い知った一時でしたわ……
結局この後、キレ散らかしたシャルロットさんにアリーナに連行され時間の許す限り模擬戦をやらされましたわ……36:5で勝ってはいましたが、あの暗黒の微笑みで距離を詰められるのはマジで怖かったですわ……トラウマになりそう……
「今日は皆さんに転校生を紹介します……紹介というかなんというか……もう紹介は済んでるんですけど……とりあえずどうぞ!」
「はいっ!」
それはシャルロットさんの声。IS学園にいる間は国や家から帰還を命令されようが、生徒の自由意志で残ることができる。という制度に目をつけた彼女は、卒業までの時間を女の子として過ごすことにしたようですわ。
ズボンではなくスカートを履いたシャルロットさんは、それはもう可愛らしく見えましたわ。わたくしにトラウマを植え付けたあの人とは別人かしら? 別人よね?
「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします!」
眩い笑みでぺこりと礼をする彼女。やだ……わたくしだけがあの笑みの奥に闇が見えてしまう……怖いよぉ……ロ○ブリンガーの担ぎより怖いよぉ……
「ええと、デュノアくんはくんではなくてさんでした。ということです。……はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立てる作業が始まります……」
ああ、山田先生の顔に元気がないと思ったらそういうことでしたのね。お疲れ様って感じですわ。
そして……廊下を走ってくる足音がしますわね。やだもう嫌な予感しかしない……対面に○蛇がいたときみたいな気分ですわ……
「ご主人様! 復活したぞ! 今日から授業に出てもいいそうだ!」
「だからご主人様はやめてって何度言ったらわかりますの!?」
「完治祝いに踏んでくれ! いつものように!」
「わたくしがいつあなたを踏みましたか!? ……ヒェッ?」
「ねえ、セシリアお嬢様、結局僕はまだ納得いく説明が聞けてないんだよねぇ?」
嫌な一年に……なりそうですわ……