もしもお嬢様を1mmも理解してないゲーマーがセシリアに憑依したら 作:まみま
「ア"ァ"クソッ! クソわよ! お排泄物ですわよッ! 投げキャラ使いの家の蛇口から灰皿の水が出てくるようにできませんかしら!」
試合が決定してから数日というもの、わたくしは寮の自室で格ゲーに勤しんでいましたわ。わたくしは代表候補生の中でも最も国家代表に近いとされる存在、向こうの一夏さんはズブの素人。本気で戦うとは言いましたが、この一週間休むことである程度のハンデを与えようと思い至ったわけですわ。
べ、別に本国から離れたからってハメを外しているわけじゃありませんのよ? そもそも格ゲーとは読み合い! わたくしはこれで戦闘勘を養っているわけですわ!
「読みもクソもねえブッパしてんじゃねえですわよ! アケコンで頭かち割って血でレッドカーペット敷いてやりますわ!」
「せ、セシリアさん? そんな口悪いキャラだっけ?」
「戦闘に煽りは不可欠! ISでの戦いでも罵倒の語彙に優れた方が精神的に優位に立つというのは周知の事実ですわ! でもコンプライアンスに沿って煽らないとただのクズ野郎なので注意が必要ですわね!」
「煽ってる時点でただのクズ野郎なのでは?」
「……ぐぅの音も出ませんわね! 夜道に気をつけなさい! 月の夜だけではありませんことよ!」
オギャァッ! しかしこいつIQが低い! サボテンの方がマシな思考回路してらっしゃいますわよ! 帰れ! 砂漠に帰れ! ぁぁぁぁもうやってれませんわ! 別ゲーですわ!!
「支援機を頼むじゃねえですわこのモジ汎が! 汎用が道作らずに強襲が仕事できると思ってますの!? 強襲機は勝手に相手支援を墜としてくる便利なファンネルじゃありませんことよ!? オギャッ! オギャァッ! てめぇ汎用に絡まれてる強襲が近くにいるのに無視して支援寝かすとか脳味噌にカマドウマでも沸いてらっしゃいますの!? お前のガチャからスーパーガ○ダムしか出ない呪いをかけますわよ!? がんばろうじゃねえよお前もがんばんですわよ!」
「別ゲーでもこの調子……」
同室の方にドン引かれていますが知ったこっちゃありませんわ。捨てた者だけが得ることができるものもありますのよ。人間性を捨てて勝利を掴み、コンプラを捨てて煽り力を身につけるのと同じですわ。
しかしことチーム戦に於いて自らの責任まで捨てる人間は勝ちを掴むことは出来ませんわ。みんなのおかげだ! を連呼しているようではいつまでもオールドタイプ止まり、惨敗の試合でも自らが全ての責任を背負えるようになって初めて成長が始まるんですのよ。
「そう、この試合はわたくしが全て悪い……わたくしが汎用を全員切り捨てて支援に辿り着いていれば負けませんでしたわ……そう、汎用による前線など必要ない……一重にわたくしが悪い……本当か? 本当にわたくし悪いか? アレは本当にわたくしが悪い……?」
「自分を騙し切れてないよセシリアさん」
「ま、まあつまりどんなことがあっても心の中で
「用事?」
「一夏さんにわたくしの戦闘データを渡してくるんですわよ」
「へえ、随分と優しいんだねえ」
「ある意味ではハンデであり、ある意味ではわたくしの戦略ですわよ」
そう、これはわたくしの切り札と煽りをフルに活かすための戦略。というのも、煽りをするのは仲の良い相手のみという鉄則があるからですわ。だからわたくしは今から試合までに彼と仲を深めることで、試合ではボロックソに煽ることが許されるわけですわ。これはつまり自分の苦手キャラの下方修正要望を出すのと同じこと。試合が始まる前から戦いは始まっているというわけですわね。
と、いうことでやってきましたわ剣道場。と、いうのも、一夏さんが試合に備えて剣道で練習をしているという噂はこの学園でも広まっているからですわ。そしてどうやら剣道場の周りのギャラリーを見ると、噂はビンゴだったようですわ。
しかし、観戦中に腕を組まず仁王立ちもしないとは品のないことですわ。ベガ立ちはギャラリーの義務という言葉をご存知でいらっしゃらないのかしら?
ギャラリーをかき分けて道場内へ進んでいくと、噂通りに一夏さんと黒髪ポニーテールの女子……確か篠ノ之箒さんが竹刀で打ち合いをしていらしました。
「感心なことですわね。ISに乗っての練習ができない状況でも鍛錬を忘れないとは、素晴らしい心得ですわ」
「オルコットさん!? どうしてここに?」
「これを渡しにきましたの。わたくしの戦闘データですわ」
一夏さんに手渡すと、ありがとうと言って受け取ってくれましたわ。お礼が言えるのは良いことですわね。きっとゲームで負けた後も対ありちゃんと言えるタイプですわ。しかし親切なオーク、命乞いをする女騎士、犯さない山賊、清廉潔白なゲーマー、というようにそんな純粋なゲーマーでも気づいたら薄汚れているものですわ。わたくしとて昔はGGWPを欠かさず、決して煽りなどしない時期もありましたがそれは遠い昔のお話。気づけば今のように煽りのために広辞苑を読み込む立派な格ゲーお嬢様になっておりましたわ。
「敵に塩を送って、よほど余裕なようだな」
何が気にくわないのか、竹刀を握ったまま凄んでくる篠ノ之さん。この子格ゲー向いてないタイプですわね。元々低そうな沸点が格ゲー始まるともっとすり減って、気づいたらモニターにヘッドバットでもかましてそうな雰囲気ですわ。
「余裕というわけではありませんわ。わたくしはISに慣れている、彼は慣れていない。ならばわたくしが彼のデータを一つも知らない状態で、彼はわたくしのデータを持っている。それくらいに条件を揃えるのは当然のことですわ。それにね……」
「それに?」
「そうしておかずに言い訳をされたら、勝利の快感も質が下がってしまいますから。それでは、ご機嫌よう」
わたくしが嫌いなものは1に敗北、2に投げキャラ、3が負かした敵の言い訳、4と5が投げキャラですもの。
そうして時が流れ、試合の時がやってきましたわ。ISの試合ような大きなアリーナには観客が満載。ベガ立ちをしていらっしゃらないのは不服ですが、中途半端な覚悟でベガ立ちをされるよりかはマシですわね。
定刻のアナウンスがあり、わたくしのIS、ブルー・ティアーズを展開してピットから大空へ飛び出しましたわ。このブルー・ティアーズはISの中でも最新の区分である第三世代機であり、機体名と同じ
しばらくヒラヒラと飛んで待っていると、ようやく一夏さんが出てきましたわ。相手を待たせるとはなかなかの策士、宮本武蔵と同じ戦法ですわね。しかし数多の対戦をくぐってきたわたくしには、遅刻なんて全く問題になりません。このわたくしをキレさせたくば起き攻めの得意な投げキャラ使いを連れてくることですわね。やっぱやめてください。
「レディとの待ち合わせに遅刻だなんて、なってない方ですわね?」
「ISが届くのがギリギリでな、悪かったよ」
『試合開始、5秒前……』
「あら、トークの間もくれないなんて、無粋ですわね」
『4……』
「剣で語り合えってことさ」
『3……』
「わたくしの得物はレーザーガンですがね」
『2……』
「ああ、データを見たから知ってるよ」
『1……』
「それはありがとうございます。そして……」
『試合開始!』
「申し訳ありませんわね!」
試合開始の瞬間、わたくしは全速力を以って一夏さんへ肉薄しますわ。最新鋭の機体が誇る殺人的な加速力。目を剥いた一夏さんに最初の挨拶の一撃として、近距離ブレード『インターセプター』を突き立てますわ。
「なっ! 武器はレーザーガンなんじゃ……!?」
「敵の言葉とデータを信じるなんて小学生でもしないことですわ! 戦いの中で一番大切なのは相手の人間性を疑い、自らの人間性もその次元まで堕とすことですわッ! 戦いというものを教えて差し上げましょう!」
インターセプターをレーザーガンに着剣し、銃剣のようにしてラッシュを仕掛けますわ。誰からも射撃型だと思われていたわたくしに、ギャラリーからの驚きと称賛がミルフィーユのように重なっていきますが、格ゲー好きな人間が近距離戦できないなんてあり得ない話ですわ。そんなのじゃ格ゲーネタを書いておいてフォ○オナーくらいしか格ゲーらしい格ゲーをやってないこの小説の執筆者と同じようなもんですわ。ちなみに持ちキャラは守○鬼とセ○チュリオンですわ。お前投げキャラ散々叩いといて持ちキャラがほとんど投げキャラじゃねえか。
え? 騙し討ち? わたくし、3番目に言い訳が嫌いですけれど1番目に好きなのは相手の面食らって悔しそうにしてる顔ですの。
「見たところそちらのISは近距離戦主体のようですわね! さあ、練習していた剣道の腕を見せる時ではなくて? 早く反撃しないと地面大好きにしてやりますわよ?」
「思ってた五兆倍は性格が悪い!」
「あなたのように性格が良いままでは勝てる訳がありませんもの! まずは性格を悪くしなさい性格を!」
「クソ!!!!」
助言を受けてすぐに悪態……彼、お嬢様の才能ありますわね。しかし実力の差は歴然ですわね、手に持ったブレード一本で必死にガードしてはいますが、ガードから漏れた攻撃が徐々に彼のエネルギーを奪っていきますわ。このままでは勝敗が決するのは時間の問題ですわね。まるで大○vs○護鬼ですわ。弱格早すぎて見えても反応はできねえんですわクソわよ。
「ほらほらほらほらほらほらぁ! このままでは完封ですわよ? せめて口だけでも煽り返して見せたらいかがです?」
「畜生ッ!! 流石にあんたほど人間性を捨てられない!」
そして最後の一撃が彼のエネルギーを削り切ろうというその時、彼のISが眩い光に包まれましたわ。
Whats? 覚醒? 覚醒ですの? こっちの覚醒ゲージは何処に? 相手が覚醒吐いたらこっちも覚醒吐かないと無理ですわよこれは? エ○バのガ○ダムにバト○ぺのガ○ダムぶつけるようなもんですわよ? 全1vs初心者でも無理ですわよそれは?
と、光が晴れるとそこには装甲の形が変わった一夏さんのISがありましたわ。
「こ、これは……」
「
初期状態のISはしばらく操縦することで
しかし気になるのは彼のブレードが青い光を纏っている点……わたくしの記憶が正しければ、あれは織斑先生が世界大会で使っていた雪片と同じ光……あれは一撃でも当たれば相手のシールドを貫通して一撃でエネルギーを削り取るようなクソ壊れ武装。修正! 修正はまだですの!? 運営への修正要望はどこから出せますの!?
「ちょっ! それはっ! あまりにもお排泄物ですわよ!? 流石に雪片はぶっ壊れすぎではございませんこと!?」
「これがあれば! 勝てる! 一撃当てれば勝ちなんだ!」
「当てれば勝ちっていうのは当てられない奴のセリフですわよ!」
しかしそこからは一夏さんの動きも良くなったのと、わたくしの動揺もあって防戦一方でしたわ。今のところ一撃も食らってはいませんが、当たれば負けというプレッシャーで動きが鈍っていくのを感じますわ。なにこれ投げキャラよりクソでは!?
こうなれば! こちらが当たるよりも先に! 相手に最後の一撃を喰らわせるほかありませんわ!
「くたばれェェェェ!!」
「口悪ッ!!?」
お互いの刃はクロスカウンターのような形となり、互いの装甲に触れる───
『試合終了! 勝者、セシリア・オルコット!』
「……はい?」
寸前に試合終了のコールが響きましたわ。