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しずと一緒に阿知賀女子に入学することにした。
偏差値200の名門校を蹴ってまで他校に入学することに、周りはあまりいい顔をしなかったけど私の決意は揺るがなかった。
晩成に行くことに不満があったわけじゃない。賢いし、麻雀強いし、名門だし。でも、何かが足りなかった。
まぁ、長々と語るのはキャラじゃないからぶっちゃけると、しずがいなかったこと。
最初のうちは学校が違っても毎日遊べると思ってた。けれど、会う機会はどんどん減り……しまいには疎遠になってた。そして、私は思い知った。
――しずの存在は私にとって、私が思っている以上に大きかったってことを。
よく恋愛漫画なんかで、会わない時間が二人の想いを盛り上げる……なんて言うけれど、今ならなんとなく分かる気がする。
憧「って! しずと私は恋人とかじゃないし!!」//////
てなわけで、素直に認めるのは少し癪だけど、私はしずとの高校生活を超楽しみにしているのだ。
でも、入学式から少し経った頃、私はとある疑惑を抱く――
☆☆☆
今日から本格的に授業が始まった。
まぁ、偏差値300の私からすれば阿知賀の授業なんて楽勝なんだけど。
憧「っと、それよりも」
授業なんかよりも大切なこと。
それは、高校生活初のお弁当タイム!!
しずと二人でお弁当……
屋上?食堂?中庭?ここはスタンダードに教室??
も、もしかして、食べさせ合いっことかできるかも……//////
間接キス! 間接キスしちゃう!?
間接キスと言えば、小学生のときにしずのリコーダーを舐め回したことがある。
甘かった。
憧「えーっと、肝心のしずはどこかな」
教室をぐるりと見渡す。
すると、しずはお弁当を持って教室を出ようとしていた。
憧「し~ずっ! どこ行くの?」
穏乃「? どこって、いつも通りトイレだけど?」
なんだ、トイレか。
ん? でも……
憧「どうしてお弁当持ってるの?」
穏乃「……あ」
しずは小さく声を発すると、急に冷や汗を垂らして慌て出す。
そして、オーバーに手と頭を振り弁明をし始める。
穏乃「ち、違うんだよ! これは誤解なんだよ!! ぼっち飯してる所をクラスメイトに見られて『うわ~高鴨さんって友達いないんだマジワロスwww』って言われたことがトラウマになって、それ以来トイレの個室で一人羞恥と孤独にガクガク震えながらお弁当を食べているっていうわけじゃないんだ!!」
憧「しず、落ち着いて……」
穏乃「信じてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
憧「いや別に疑ってないから!」
しず……セリフ長いよ。堺雅人でもそんなに喋らないよ。
憧「だから、疑ってないし……」
穏乃「ほんと?」
そう言って涙目で私を見上げる。
……うむ。可愛い。
憧「ほら、向こうで一緒にお弁当食べようよ」
穏乃「一緒に……食べてくれるの?」
憧「うん。当たり前じゃん」
しずはぱぁぁぁと顔を明るくした。
ていうか、もしかしてしずってぼっちなの?
☆☆☆
教室で机をひっつけて、しずと一緒にお弁当を食べる。
穏乃「もぐもぐもぐ」
憧「……」
穏乃「もぐもぐもぐ」
憧「……」
会話がない!!
絶望的に会話がない!!!
私は気まずくてたまらないのに、しずは全くそんな感じはなくて美味しそうにお弁当を食べている。
憧「しず……?」
穏乃「なにさ」
憧「ええと……」
私は偏差値400の頭をフル回転させて話題を探す。
あ、そうだ!
憧「そういえば、しずのライン聞いてなかったよねー。ID教えてよ」
穏乃「らいん……?」
しずは心底不思議そうな顔をする。
もしかして……
憧「ライン知らないの?」
穏乃「知らないな」
憧「周りの子もみんなやってるでしょ?」
穏乃「みんな……やってる……」
そう呟いたかと思うと、わざとらしく喋り出した。
穏乃「あ、あー、知ってる知ってる。ラインね。ライン。ド忘れしてたわー」
憧「……本当に?」
穏乃「あれでしょ? あの……リーチ棒を……間違えて、食べちゃった時に……その……」
リーチ棒関係ないし!!
つか、皆やってるっていうヒントからどうしてリーチ棒食べるとかいう発想が!?
まぁ、ここは助けてあげようか……
憧「そうそう! リーチ棒食べた時には誰かに連絡しなきゃじゃん?」
穏乃「そうだよ! それで、えーと……」
憧「チャットトークができたり、タイムラインつぶやきができたり、無料通話ができたり……」
穏乃「今まさにそう言おうと思ってた」
憧「……はぁ」
自然とため息が出た。
憧「で、ライン登録してるの?」
穏乃「してる方にだいぶ近いんだけど、どっちかって言うとギリギリ僅差でしてないかな……?」
要はしてないらしい。
なんでここまで頑なに認めないんだろう?
憧「はぁ。登録してあげるから、ケータイ貸してみ?」
穏乃「うん」
しずのケータイを受け取る。
アプリをダウンロードし、簡単な設定を済ます。
憧「あとはここに自分の個人情報入れてね」
穏乃「ありがとう!」
目を輝かせケータイを受け取ると、慣れない手つきでディスプレイをタッチする。
穏乃「うぉぉぉぉぉぉ!!」
憧「もう。急に大声出さないでよ……」
穏乃「憧の名前出てる! もう登録しといてくれたんだ!」
憧「いや。名前が出るのは当たりま――」
そう言って私はしずのケータイを覗きこむ。
『友だち(1人)』
新子 憧
憧「しず、友だち、私の名前しかないけど……」
穏乃「まだ誰も登録してないんだし当たり前じゃんか」
憧「……しず」
私、どうしたらいいんだろう。
このアプリは本体内蔵の電話帳と連動し、そこに登録されている人を自動で『友だち』として登録するシステムになっている。
つまり、アプリを取得した時点で、本体の電話帳に登録されていて、かつ、ラインをやっている人は『友だち』の欄に自動で表示されるのだ。
だから私の名前も登録なんてしなくても表示された。
すなわち、この状況から言えること。それは、シズの電話帳にはラインをやるような同年代のアドレスは一切登録されていないということになる。
もしかして、しずは正真正銘のぼっちなんじゃ……
そんなことを考えていると――
穏乃「ねぇ、ところで憧の名前の隣に書いてある『しずは私の嫁!』っていうの何?」
憧「――!!」
穏乃「それに、このタイムライン?ってやつ、私の写真ばっかり貼られてるけど……なんだろうこれ……『しずストーキング日誌』……?」
憧「ちょっと待って! ちょっと待とうか!!」
これはマズい!!
しずのぼっち疑惑を考えていたら失念していた。
私は中学時代から、しずに会えないそのフラストレーションをラインの友達にぶつけていた。
初めのうちは、しずをストーキングして、写真を撮って、その写真を使って性的にスッキリすることで満足できていた。
けれど、末期の私はラインを使って阿太峯中学の連中に嫁自慢を常日頃から行っていたのだ。
特に見られてはマズいのが『しずストーキング日誌』。
どうしよう? とにかく時間が必要……バックアップを取り、ラインから証拠を隠滅するための。
憧「しず! このアプリはね、取得したその日に使っちゃダメなの!!」
穏乃「え……どうして?」
憧「ほら! カレーって一晩寝かせると美味しくなるじゃない? アレと一緒!!」
穏乃「お、おう……憧が言うならそうするよ」
しずは素直に頷いてくれた。
流石は偏差値500の私! 言い訳も天才的ぃ!
☆☆☆
昨日は家に帰って直ちに様々な証拠を隠ぺいした。
そして今は体育の授業。
私はしずの方を盗み見る。
体操服姿。しずの汗とかその他もろもろがしみ込んだ体操服……今度盗もうかな。
まぁそれはおいといて、こんなに可愛い子がどうしてぼっちなんかになるんだろう。
穏乃「ひー、ふー、みー……」
ん? どうやらしずは何かを数えているらしい。
憧「何数えてるの?」
穏乃「!? 数えてないよ! 主席者の数なんて数えてないよ!? 別に奇数か偶数かなんて微塵も気にならないなーー!! もし奇数だったら準備体操先生と組まなきゃとか考えてないしぃ! むしろ気にならなさすぎてちょっと怖いレベル! 例えると、宮永姉妹が疎遠になった理由くらい気にならないなーー!!!」
憧「それめっちゃ気になるやつじゃん!」
宮永姉妹の過去は咲-Saki-シリーズ最大の謎だからね。
憧「あんた、組む人いないの?」
穏乃「いるよ!」
憧「誰よ? どこにいるの?」
穏乃「きょ……今日は、天気が悪くて……来れないみたいなんだ……」
憧「晴れてるけど」
穏乃「た、太陽が苦手……」
どこの吸血鬼!?
憧「はぁ。じゃあ今日は私と組も?」
穏乃「あ、ありがと」
憧「それと……」
穏乃「……?」
憧「……明日からも、毎日組んであげるわよ」
しずはその言葉を聞くと、はにかみながら黙って頷いた。
その仕草は思わずお持ち帰りしたくなるほど可愛らしかった。
☆☆☆
深夜、ベッドの中でここ数日の出来事を思い出す。偏差値600の記憶力にかかれば鮮明に思い出せる。
まず、しずは恐らくぼっち飯の常習犯。
次に、ラインをやっている友達はいない。
さらに、体育でも恐らくいつも先生と組んでいる。
そして、なぜかそれらを本人は一向に認めない。
どうして?
ワカンネー スベテガワカンネー シランケド‼
ケータイの着信音だ。
こんな時間に電話だなんて珍しい。
ディスプレイを見ると、しずからの着信だ。
憧「……はい。もしもし」
穏乃「あ、新子さんのお宅ですか!? あの、憧さんのクラスメイトの高鴨穏乃と申します! ところで――」
憧「私よ……」
穏乃「あ、そうか」
しず、完全に家電話にかけるテンションだったよね。
穏乃「ケータイで電話するなんて初めてだったから……」ハハハ
憧「しず……」
またいたたまれない気持ちになってしまった。
穏乃「ところでさ……」
憧「何よ?」
穏乃「明日って、もしかして暇?」
しずは遠慮がちに弱々しく聞いてくる。
明日は休日だが、法事がある。神社の娘が法事に欠席なんてできるはずもなく、非常に忙しい。
憧「いや~明日は忙し――」
穏乃「もし良かったら一緒にデートしない?」
憧「行きます!」
穏乃「え? 今忙しいって言いかけてなかった? 無理なら別に――」
憧「全然! 法事とかどうでもいいし! 法事なんて学校や会社を休む言い訳にしかならない意味のない行事よ!」
穏乃「お、おう。それじゃあ、いつもの場所で――」
憧「はーい。遅れずに来なさいよ!」
電話を切る。
憧「ヒヤッホォォォウ! 最高だぜぇぇぇぇ!! しずたそとデート! しずたそとデート!!」
テンションがアゲアゲモードになってしまう。
入学以来なんとなく距離を感じていたし、しずの方から誘ってくれて嬉しいな。
☆☆☆
いつもの場所(東大寺の大仏の下)に向かう。
待ち合わせの時間よりだいぶん早く着いてしまったにも関わらず、しずは先に来ていた。
しずの周りには鹿が群がっている。
私は少し遠くの物陰からその姿を見守る。
穏乃「お~マイケル元気だな~」
そう言って鹿せんべいを渡す。
そうすると今度は違う鹿がしずに近付く。
穏乃「シャオパイは今日も可愛いなぁ」
鹿せんべいを渡す。
もしかして鹿に名前付けてる?
ってか、判別できるの!?
穏乃「マウラーニョは今日来てないのか?」
なぜここまで多国籍な名前にこだわるのだろう……
そんなことを考えていると、一匹の鹿がしずに近付いて行った。
穏乃「あ、マルフォイ!」
マルフォイ「ふぃぃ」
え!? あの鹿の名前マルフォイって言うの?
うわ~。なんか小悪党っぽい……
穏乃「マルフォイ、今日は久しぶりに友達と遊ぶんだ」
マルフォイ「ふぃぃぃ?」
穏乃「そうそう。前言ってた憧。うん」
マルフォイ「ふぃふぃ」
穏乃「はは。ありがとう」
会話、できている、だと!?
穏乃「でも、一つ凄く心配なことがあるんだ」
マルフォイ「……ふぃ?」
穏乃「ほら、私って友達いないじゃん?」
そう言ってしずは少し顔を陰らせる。
穏乃「今はなんとか隠し通せてるけど、憧にバレそうなんだよね」
マルフォイ「……」
いやいや。もう九割バレてるよ。
穏乃「憧は私がぼっちだって知ったら、私のこときっと嫌いになるよね……」
マルフォイ「ふぃぃぃふぃ?」
穏乃「そんなことない! 憧のことは信じてるよ!」
マルフォイ「……」
しずがぼっちを隠していた理由、そういうことだったんだ。
私はしずがぼっちだったとしても嫌いになることなんて絶対に、絶対にないのに……!
穏乃「昔の私は活発で友達もたくさんいたんだ。でも、中学以降はこの様さ」
マルフォイ「ふぃ」
穏乃「いや、理由は分かってる。憧がいないことだよ。小学生の時は憧がいつも隣にいてくれた。それは私に勇気を与えたんだと思う。憧がいるから積極的になれた」
マルフォイ「……」
穏乃「憧の存在は私にとって、私が思っている以上に大きかったんだ」
しずがそんなことを考えていたなんて。
でも、私だって同じだよ。しずは私の一番だから。
穏乃「本音を言うと、ずっと傍にいてほしい」
穏乃「でも、そんなのは憧に迷惑をかけちゃう。憧には私以外にもたくさん友達もいる。だから、いつも傍にいてくれなんて、絶対言えないよ……」
マルフォイ「……ふぃ」
しず。
それは違う。違うんだよ。
私はしずが思ってるよりもしずが大好きなんだ!
だから、しずが私に隠し事とか、遠慮とかしてると思うと……とても辛い。
もっと素直に私を求めて欲しい。頼って欲しい。
もう、隠れてなんていられない……!!
憧「しず!!」
穏乃「……憧?」
しずが驚いて振り返る。
私は物陰から出て、しずの方へと駆け寄る。
憧「しずの馬鹿ぁ!」
穏乃「えぇ!?」
自然と大声が出てしまった。
憧「しずは私のしず好きを舐めてるの!?」
穏乃「え……えぇ!?」
偏差値700の頭脳で考えたってろくな言葉は思いつかない。
今はただ、感じるままにしずへの想いを声にする。
憧「私はねぇ、しずと一緒にいたくて偏差値800の進学校蹴って、しずでスッキリして、しずのリコーダー舐め回して、しずでスッキリして、友達にしずのこと嫁宣言して、しずでスッキリして、ストーキング日誌付けて、しずでスッキリして、しずのこと盗撮して、しずでスッキリして、しずの体操服も盗んで、またスッキリして……」
憧「そんで今日だってしずとのデートだって言うから、超楽しみで……お母さんに土下座100回して法事抜け出して来たんだらぁ!!」
穏乃「憧……」
しず、しず、しず。
私はあんたのことが誰より好き。それは胸を張って言える。
だから……
憧「私に遠慮なんてしないでよ……! 隠し事もしないでよ……! ずっと傍にいてって、言ってよ……」
穏乃「……」
穏乃「憧が私のこと、そんなに思ってくれて嬉しいよ……」
しずは頬を赤く染め、よわよわしい口調で言う。
穏乃「それで、私も……憧とずっと……その……」
しずは下を向く。少し震えているようにも見える。
でも、私はしずの言葉をじっと待った。
穏乃「あ、えと……憧、私と、その……」
マルフォイ「ふぃぃ……!」グイグイ
二の足を踏むしずを、マルフォイが後ろから少し押した。
穏乃「マルフォイ……そうだね」
しずはそう呟くと、真っすぐに私の目を見つめ返してきた。
もう震えはおさまり、目線も座っている。
穏乃「憧」
憧「ん?」
穏乃「私、憧がいないとダメみたいなんだ。だから……」
穏乃「ずっと私と一緒にいてくれ!!」
しずの言葉が頭の中で反響する。
しずが私を求めてくれる。それがただ嬉しくて……そんな気持ちを噛みしめながら、しずに返事をする。
憧「しょーがないわね。ずっと一緒にいてあげるわ」
私もしずがいないと犯罪行為に走りがちになっちゃうし。
もう二度と、絶対に離れてなんてやらないんだからっ!
カン!