グレーな情報屋が無個性の中学生を助けただけ。

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無個性の少年を助けた。

8月も終わり、9月上旬。もう秋が近づいてこようとしているのに日本の残暑はまだまだ続いていた。まだ日が昇るのが早いこの時期。カンカン照りの太陽に睨みつけられながら家までの道で嫌な蒸し暑さと、人の多さと仕事終わりという疲れた身体に限界を感じ、タクシーで帰るか歩いて帰るか交差点の赤信号が青くなるまでの約1分間、暑さにやられた頭で1人自問自答を繰り返していた。

 

そこまで無駄遣いをするほうでもないが、最近のプライベートなり接待なり仕事なりでタクシー代無駄に使っちゃってるからなあ。今日は死にそうだけど、本当に倒れるってレベルじゃないし、歩いて10分だし、うーーーん…

と、唸っていると隣で大きいリュックを背負った学生服の小柄な少年がフラッと倒れ込み反射的に腕を出して少年の身体を支えた。

 

「おいっ大丈夫か?」

 

俺が少年に声をかけたタイミングで点滅していた交差点の赤信号が青に変わる。ピヨピヨと、信号が青になりましたと告げる鳥の音が妙に響く。ここら辺は会社も学校も多く、今の時間帯は通勤通学ラッシュだ。不幸なことに俺と倒れている少年はたまたま道の真ん中で立ち止まってしまっている。不思議そうな人、心配そうな人、舌打ちをして行く人が通過して俺たちを避けて歩いていく。居合わせたタイミングが悪いのかヒーローもいなければ国民性なのか声をかけてくる人もいない。きっと俺が助けると思っているのだろう。…いや、助けないわけにいかないけれども。

 

とりあえず少年を移動させなければならない。俺はそこまで筋力も体力もあるわけではないので、持ち上げて歩いたら限界がきっとくる。彼は男である。そして俺は特に変な趣味もなければゲイでもない。これはそう、少年のため。俺は今から人助けをする。そう覚悟を決めタクシーに乗った。

 

 

ぶっちゃけ俺の仕事はとてもグレーな仕事だ。綺麗な仕事とは言えない。だからと言って俺自体めちゃくちゃ悪いことをする人間でもない。…はず。そこで、だ。この俺の狭くはない自室のベッドで寝かせている少年を病院に連れて行き、俺の身分を晒すのは結構面倒なことなのだ。正直な話、仕事が仕事なので面倒な人間関係は避けたい。まあ成り行きと半ばタクシー乗りたい欲と家帰りたい欲に負けて家に連れてきてしまったのだが。

 

「これからどうすっかなあ」

 

ボソッと自分の行動を半分後悔して、過ぎてしまったものは仕方ないと自分で納得させた。とりあえず仕事終わりで大分疲れていたのでシャワーを浴びてリビングのソファで横になりテレビをつけると朝のニュース番組が流れ始める。内容を聞こうとして目を閉じるとそのまま俺の意識は途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…の、……ませ…」

 

どれくらい眠っていただろうか。朧げな意識の中高い声で何かを訴えかけられている。まだむりい、ねむいい。

 

「あの!お兄さん!」

 

その聞き覚えのない声と仕事終わりの一件が脳裏によぎり、ソファの意外な寝心地の悪さで一気に夢から現実へと戻される。

むくりと身体を起こし、ぱっちりした目の少年は戸惑った顔を俺に向けている。

 

「あ、あの…ありがとうございました!」

 

「…ん?」

 

「いっいえ、その、僕、多分倒れて?連れてきてくれたんです、よね?」

 

寝起きで頭がぼんやりしながら煙草に火をつけて一気に吸い込み、吐き出す。すると、少年が思い立ったように立ち上がり身体を90度に折り曲げはっきりとした声で感謝の言葉を口にしだす。ぼんやりしていた頭を無理やり覚醒させて少年の言葉を理解する。

 

「…あっそうそう、交差点で隣で倒れちゃって、なんか荷物勝手に見るのも申し訳ないし、近くの病院もやってなかったしさ。それでうちに連れてきちゃった感じなんだよね」

 

「本当に、あ、ありがとうございます!」

 

「多分熱中症か脱水だろ?仕方ねーよ、まだ残暑やべーし。寧ろ学校とか親とかヘーキ?連絡した?」

 

「あっはい。連絡しました。知らない人って言うとお母さん心配するだろうから、友達の…家の近くで脱水起こしたから休ませてもらってるって。そしたら学校にはお母さんから連絡してくれるって」

 

友達の家って…お母さん絶対怪しいと思ってるだろ。俺がこの子のママさんだったら絶対怪しむわ。こんな見ず知らずの人に助けてもらってたら俺だったら勝ちこむわ。起訴するわ。…ヒイィ起訴はやめてえ!

 

「ならよかった。なんか飲む?喉渇いただろ。あっていうか昼間だし腹減ってない?」

 

「いえ、そんな…悪いですよ!」

 

「いーよいーよ。俺仕事夜からだし…あっこんな知らん人間から出されたもの身体に入れんの怖いか」

 

「えっ…!?!?いやいやいや!!そんなこと思ってないです!」

 

「そうなの?じゃあ気にすることねーじゃん。俺一人暮らしだし。突然の来客でってまあ半無理やりだけど…こう見えてもなんかちょっとうれしーのよ。帰りたかったら全然帰ってくれてもいいしさ」

 

最後の言葉は断りにくくさせる言い方だと思った。寧ろこんないい子そうな学生くんと関わるとか俺には神秘的体験すぎて現代っ子たちの話とかを聞いてみたいというただの超好奇心でもあり、俺のわがままだ。家に誰かが来るという出来事は俺にとって家に人を入れることが少ないため結構刺激的なイベントとして成り立つ。面倒な人間関係は避けたいとか言ってた俺だがこの子はきっと無益ではない、と思ったのはなんとなく勘だ。

 

ガラスのコップに冷やしておいた烏龍茶と氷を入れてガラステーブルにあらかじめ用意していた少年の目の前コースターの上に乗せる。自分用に用意したアイスコーヒーを持ち換気扇をつけて少年が座っているソファの隣に腰掛ける。

ふと少年の方を向くと、悲しいような落ち込んでるような表情をしていたので少しギョッとしながら話しかけた。

 

「えっ…と変なものは入ってない」

 

「あ、いや!そういうことでなく!なんかすごい…申し訳なく思っちゃって」

 

「申し訳ない?」

 

「だって倒れたのは僕の体調管理の問題で…家に上がらせてもらってこんなにおもてなしまで…」

 

「ん〜…ま、なんつーの、国民性?ニホンジンだし?」

 

「それ、答えになってなくないですか…?」

 

「気にすんなってことだよ」

 

少年は烏龍茶をゆっくり飲みながら沈黙をきまづそうにしている。俺はあ、そうだと一言漏らすとこちらを振り向き次に俺がなにをいうかを待っていた。

 

「挨拶まだだったなと思って。俺は百目鬼 瞳(どうめき ひとみ)お前は?」

 

「みっ緑谷出久、です。折寺中学校2年生です」

 

「出久君ね。中学生かあ、わっかいなあ。好きなものとかあるの?」

 

「好きなもの…カツ丼…とヒーロー、です」

 

「へえ、ヒーローか。君も将来はヒーローに?」

 

ヒーローになりたいと、少年は言った。目の前にいる俺は口を開くのに少し戸惑った。きっと心優しき少年は俺の仕事を知ったら酷く俺を嫌うだろう。敵味方関係なく、交渉さえ成立してしまえば俺は仕事をするのだ。彼からしてみればほとんど世で言われるヴィランとの交渉事が多い仕事はヴィラン側の人間として捉えるだろう。

 

「でも僕…無個性なんです」

 

「無個性、…ふーん。相当レアだな」

 

「ば、馬鹿にしないんですか?」

 

「しねーよ。なんで馬鹿にするんだよ」

 

「でも、ヒーローになりたいくせに無個性とかって…」

 

「別によくね?前例が無いだけで武器持って戦えばいけんじゃん?」

 

俺の適当さをよく伺える一言だったと思う。だが少年にとって俺の言葉は非常に喜ばしい発言だったらしく目を輝かせこちらに笑顔を向けている。

 

「そうですよね?!前例が無いだけで、身体を鍛えて、身体能力も身につければ、僕もヒーローに、なれますよね!?」

 

「お、おう。俺はそう思うけど…馬鹿にされてきたのか?」

 

まあ今やほぼ9割の人間が個性持ちで当たり前になってきている世の中だ。学校じゃそれこそ社会の縮図として顕著に出てくるのかもしれない。この子の自信のなさはもしかしたらいじめにでもあってるのでは無いかと考えさせられてしまう。

 

「いじめというか…その、かっちゃ…じゃない。幼馴染が無個性のナードって…僕の名前出るに久しいって書くんですけど、デクとも読めるから木偶の坊のデクだって…」

 

ナードとはオタクの蔑称だったと頭の片隅から昔どこかで見た知識を引っ張ってくる。それからも少年はその幼馴染に言われてきたこと、されきたことをゆっくりと話した。

聞いた限りじゃほぼいじめに近い。今のご時世はPTAがうるさいやら自殺者が増えるやらでいじめに対して強めの厳罰があるとどこかで聞いたことがあるようなないような。でもそれも一個人、ましてや幼馴染から言われているだけだったのだとしたら、いじめというよりはただ嫌われていて暴言を吐かれているだけ、とも受け取れるのだろうか。

 

「個性だけが人の強みじゃないっしょ。頭いい奴、運動神経いいやつ、人間性できてるやつとか、それだって立派な個性だしそいつの能力なんだぜ?ヒーローってなったら運動能力にあってる個性が欲しいって思うだろうし、幼馴染が個性に恵まれたからって、出久君がなにもできない奴とはならないんだからさ」

 

「ありが、とう、ございます…そんなこと言ってくれる人初めてで…っ」

 

少年は涙を流す。ヒーローになりたいと思いながら無個性だと現実を突きつけられながら生きていかねばならない苦しみは幼い少年にとってどれほど辛いものだったのだろうか。

 

「…あの、その、百目鬼さんはどんな…個性なんですか?」

 

「ああ俺か?俺の個性は…」

 

少年の目の前に右の掌をだし、たくさん目が出る、とだけ告げて部屋中、身体中目だらけにした。そう、俺の個性はありとあらゆるところが見える、言わば古来日本で描かれた妖怪、百目蓮ような個性である。

 

「…っうわああああああああああっ!!!!!!」

 

「あっ…とごめん。そりゃびっくりするよな」

 

俺の個性を見て相当驚いたであろう少年は元の状態に戻しても口をパクパクして呆気にとられているようだった。

 

「…す…すごい…」

 

「あと目からビームが出る」

 

「ビームっ!?」

 

「そ。まあ便利に見えるけど小さい頃はおさまらなかったりとかして結構大変だったんだよ。あとその出した目は右目に繋がってるから出してる時に目になんか刺されたりとかすると右目だけに激痛が走る」

 

そんな事を言っているといつのまにか少年は何かを早口でブツブツ言いながらノートを取っていた。ヒーローだったらこんな使い方ができるとか良い点、悪い点、とか。すげーと煙草に火を付けて夢中になっている少年を見ていると我に戻ったのかハッとしてこちらを向く少年と目が合った。

 

「ごっごめんなさい」

 

恥ずかしそうに頭を掻く少年にこれがナードと呼ばれる理由か、と口には出さなかったが理解した。無個性だからと、弱気になっている少年に少し元気と自信を付けてあげたいと思ってしまった。ヒーローが本当に好きなんだなあと小さい声で呟くと聞こえなかったのかきょとんと首を傾げる。

 

「お腹空かない?あるものでいいならなんか作ろっか」

 

杞憂な自分の気持ちを少年に悟らせないために立ち上がってキッチンの方へ向かう。少年は口では断ろうとしたが彼のお腹はそうは言っていなかった。腹の虫がなるとまた、恥ずかしそうに頭を掻いていた。

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

「あっここまでで大丈夫です!」

 

「体調良くなったみたいでよかったよ。気を付けろよ〜」

 

「ありがとうございました!」

 

少年にご飯をご馳走した後、また少し色んな話をした。学校のこと。憧れているヒーローのこと。ほとんどの話が憧れのオールマイトの話で、少年が楽しそうに話すのを黙って聞いていた。時計の針が16時を回った頃、遅くなるといけない、家まで送るよと日が沈む前に彼の家まで送り届けに来ていたのだ。少年の家のマンション前まで行ったところで一言二言の言葉を交え彼が走り去っていくのを見届けた。

その後自分も踵を返してその場から離れた。

きっと、彼と会うことはもうないのだろう。

願わくば、心優しい少年の夢が残酷な環境で押しつぶされませんように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

「おい、聞いてんのか情報屋」

 

1年半前の夏、ふととある少年との出会いを思い出していた。それはとても目まぐるしい体験で、未だキラキラと輝きを残したまま記憶の中にしまってあった。あの緑谷出久という少年は今、あの交差点を渡って学校に通い、幼馴染にいじられ、オールマイトに憧れ、ヒーローを目指しているだろうか。そんなことをぼんやりと考えていたら顧客が不快感を隠す様子もなく言葉をかけてきたので、目の前の仕事に集中することにした。

 

「残りのオールマイトの情報は、残念ながら現在お渡しすることができません。ステインに関しては1日ほど頂ければお渡しできるかと」

 

目の前に座っている細身の男はボロボロの爪で首を掻いている。誰かの手で隠されている表情は考えが読み取れないが、態度と口調から苛立っていることはどこからどう見ても明らかだった。

 

「…はあ?冗談だろ?早急に情報が欲しいからアンタに頼んでるんだぜ」

 

言葉に殺意を乗せ俺が渡した資料を男が手に取ると触れているところからみるみる粉々になり男の指からすり抜けていく。

 

「…情報はあるんですがね。別のところの顧客が、その情報を買い取りたいとおっしゃられていましてね」

 

「あ?」

 

「とはいえ、死柄木さんの所もいつもお世話になっていますし、それを回すのだって、やぶさかではない…ま、色をつけるか、割引仕事ってところですかね」

 

「なめんなよ情報屋。言われたことを言われた通りすれば全ては丸く収まるんだよ。俺らとやり合いたくはねぇだろ」

 

「つまらない脅しはやめましょう死柄木さん。どうしてもというならあなたたちのトップと話をさせてもらいましょう」

 

「お前…っ!」

 

「落ち着いてください死柄木弔!」

 

死柄木は俺に手をかけようとしてくるが、バーカウンターにいた男が黒い靄で死柄木の手をワープさせる。俺はそんな死柄木を横目にタバコの煙を肺に入れる。

 

「話はそれだけです」

 

緊迫した空気の中モニターからSOUND ONLYという文字が浮かび上がる。モニターに顔を向けた死柄木は先生、と呟いた。

 

『フフフ…やはりきみは食えない奴だな、情報屋。僕は君を結構買っているのだよ。その誰も恐れない交渉術と底知れない情報量。判断力と頭の回転の速さ。それは経験どころか生まれ持った個性より強い個性だ。君が僕らと同じ目標に進んでくれるというのも君にとって悪くない話だと思うのだがね』

 

「お褒めに預かり光栄です。ですが俺はこの自由な仕事を結構気に入っているのです。きっとお役にたつのにも自分には限度があるかと思われます。連合の方々とは友好関係にある状態を維持していきたいと考えておりますが、必ずしも協力関係ではないことを心得ておいて頂きたい」

 

『…面白い。いいだろう、弔。

支払ってやりなさい』

 

「先生!」

 

 

そうして手続きが終わり嫌な空気をこちらに向けている死柄木にUSBを手渡した。タバコを消し荷物をまとめその場から去ろうと扉に手をかけたとき、情報屋、とモニターから呼び止められる。

 

『最近ヒーロー殺しが本格的に動いて来ているらしいじゃないか』

 

「…みたいですね」

 

『彼の思想の始まりはオールマイトからだ』

 

「正しき社会の為、と本人は言っていますからね」

 

『本人曰く、自分を殺していいのは本物のヒーロー、オールマイトだけとの事だ』

 

「…」

 

『となれば彼は、オールマイトを殺させたくないのではないだろうか。平和の象徴を、彼は潰してしまいたくないのではないだろうか。

君はどう思うかな、情報屋。君にはヒーロー殺しと僕たちはどう見えているのかな』

 

「…やはりあなたも食えない人だ」

 

『それはお互い様だろう』

 

くつくつと、モニターの向こう側から低く不気味な笑い声が聞こえてきた。彼は世の中の変わっていく様をそこの玉座から見下ろしているのだろう。なにを思いなにを思案してそこに座っているのか、俺には想像もつかず、興味もなかった。

不気味なその空間から逃げるように、消えるように今度こそ手をかけていたドアノブを回しそこのBarを後にした。

 

 

帰り道、タクシーの中で端末を見つめながらスケジュールを確認していた。帰宅道中よく通る海浜公園はゴミ山だったと記憶していたが、さっぱりとゴミがなくなっていて月に照らされた夜の海がとても綺麗に輝いていて、ほんの少し見惚れた。

 

 

 




百目鬼瞳
個性 百目
半径1km以内ならどこにでも目が出せる。ビームも出せる!
左目以外はつつかれると右目に激痛が飛んでくるぞ!
身長180くらい
ガリガリ
ヘビースモーカー
ショートスリーパー
仕事が恋人
モテる
完全に作者のタイプ

【挿絵表示】

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