どうやら俺は、とんでもない詐欺に引っかかったらしい。〜ライダー好きの元男の復讐譚《ヴェンデッタ》〜 作:クルスロット
原作:仮面ライダー
タグ:R-15 オリ主 神様転生 残酷な描写 アンチ・ヘイト 転生 性転換 クロスオーバー 神様転生杯 仮面ライダークウガ ン・ダクバ・ゼバ ショッカー グロンギ語 神様ヒロイン オレっ娘主人公 主人公最弱 独自設定 ガバガバ設定 オリキャラメイン TS
早速だが、
『FINAL VENT』
『EXCEED CHARGE』
『MAXIMUM DRIVE』
大ピンチだ! なんなんだくそ! やってらんねえぜ! なあ、おい!!
あー!全部俺狙いか!?馬鹿じゃねえの?!!?!!!!?!
龍騎に、ファイズとW! 全部俺の知ってるライダー達だ! 俺が大好きで、憧れてやまないヒーローたち! テレビの前に張り付いて、目に焼き付けてきた英雄だ!
そんなヒーローになんで狙われてるかって? なんか悪いことをしたのかって?
ばっか!俺は生まれてこの16年、何一つ……いや、確かにトイレが間に合わないから立ちションをしたことはある! 空き地の隅っこだ! それ以外悪いことをしたことはねぇ! 決して、何一つ! 仮面ライダーに誓って! だからあの神の野郎も俺を転生させてくれたんだ!!
それが、なんでよりによって……!
「
グロンギなんだよ! 畜生!! せめて通じる言葉が使える敵にしろ! こんなんじゃ誤解もとけねえじゃねえか!!って、やべえ! 龍騎のドラゴンライダーキック! ファイズのクリムゾンスマッシュ! Wのジョーカーエクストリーム! やばい! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬぅぅぅぅううううう!!!!
「
※※※
「残念ながら、お主は死んでしまったのじゃ」
「え!?めちゃくちゃ困るんだが???!!?!」
真っ白な空間に、俺こと二条雄也は居た。どこだよここ。今日、日曜日だから早起きして、ヒーロータイムに備えないといけないんだけど。
「じゃから、言っとるじゃろう。お主は、死んでしまったのじゃ。隕石が落ちてきての」
「隕石」
うむなんて部屋に負けずと劣らず真っ白な爺さんは、頷いた。いやまて。待て待て!
「い、隕石ってどういうことだよ!」
「隕石は、隕石じゃよ。でっかい隕石じゃ。逃げようがないくらいでっかいのう。それに押しつぶされてお主は、死んだんじゃ」
でっかい隕石って……あれか、渋谷隕石とかウォズが壊したくらいの……?いやいや……まさか……。
「そうそうそのくらい大きな隕石じゃ」
「ええ!?まじか!?」
「マジマジShow Timeじゃ」
「うわ……嘘だろ……」
母さんたち、海外旅行行ってて良かったな……。あー俺も行っとけばよかったか……。だけど、ヒーロータイムは、見逃せないしなぁ。
「うむ、お主の家族は、無事じゃ。大層悲しんでおったぞ」
「そっか……」
母さん父さんには、悪いことしたな……っていうか。
「心読めてる……?」
「うむ。もちろんじゃ。儂は、神じゃからな。それくらいできて当然じゃ」
神! はーこれが神様かぁー……。ネット小説で読んだ通りだぜ。まっ、流石にゾンビとかじゃないか。
「幻夢の社長は、神は神でも自称じゃろうが。どっちかって言えば、アギトのほうじゃ」
「まあ、確かに。ライダー詳しいね。神様」
「神じゃからな」
何でもありだなそりゃ。
「なんでもありじゃよ」
うお! 心を読むなよ! プライベートを侵害するな! 訴えるぞ!!
「何を言っておる。儂は、お主が生まれてハイハイして立ってからタッたお主をお主が上下す……「わああああああ!!やめろ!!」ほっほっほっ、冗談じゃよ」
はぁはぁ……なんてこった……もうお嫁に行けねえ……。死んでるから行けないし、俺、男だけど。
「んで、神様がなんのようだよ……」
「うむ、それがのう……」
困ったような神様は、とんでもないことを言った。
「お主が死んだのは、ミスなんじゃ」
「ええ!!?!?!?」
なんじゃそりゃ!?
「は?! じゃあ奇跡的に隕石を避けるとかそんなんだったわけ!?」
「違うのじゃ。隕石自体がミスでのう……。そもそも当たるものではなかったのじゃ。地球をギリギリですり抜けて、スリルを演出するくらいじゃったんじゃが……すまん! 手が滑った!」
「そっか……仕方な……なくねえよ!! テヘペロやめろ!!」
年甲斐もないポーズ決めるんじゃない!
「えーで、それで?俺は、蘇らせてもらえるのか?」
まあ、そっちのミスだし、当然だよな?って顔で、俺は言った。
「すまぬ!お主の戻る肉体は、完全に粉砕されてて無理なんじゃ!」
「は!?!! じゃあ、俺どうなんの!?」
「うむ……それでの、お主には……転生をしてもらう!」
「て、転生……?」
転生……ああ、ネット小説で読んだことあるな。確か読んだ小説だとどうだったかな……。
「好きな世界に転生させてくれるってやつだよな!」
「うむうむ。今回は、こちらのミスじゃしな。もちろんそうじゃ。それにお主は、いくつも善行を積んでおる。色々上手くやってやろう」
マジか……棚からぼた餅だ! これはもう、最高の選択を選ぶしかねえ。どうすっかな。あ、そうだ!
「もちろん、特典とかもあるんだよな!? こう、チートな能力とかすげえ能力とか! モテモテウハウハなやつとか!」
「うむ、儂のミスじゃしな。なんでもいいぞ」
「まじか……!!」
「それでは、早速じゃがどうする? どこの世界に、どんな能力を持って転生するのじゃ? 時間が必要かのう? 必要ならば作ってやろう。ここでの時間は、無限じゃからのう」
「いや、いらない。大丈夫だぜ」
俺の答えは、すでに決まっていた。俺が選ぶのは、一つ!
「俺がずっと考え続けてきた色んな仮面ライダーと色んな敵が存在する世界に、俺の考えた最強の仮面ライダーとして転生させてくれ!!」
「なるほど……。あれのことじゃな。分かったぞ。では!!」
って、うお!? 足元が真っ暗って、これ! 床が無くなってる!?
「元気にやるんじゃぞ~~」
「う、うわあああああああああ!!!! 急すぎる~~~~!!!!」
※※※
「ほっほっほっ……これで、参加者全員贈り終わったのう……」
儂は、最後の一人を見送ると腰を叩いた。ふう、面倒な仕事がやっと片付いたわい。これでゆっくりアマゾンビデオが見れるわい。
「いやあ、大変じゃったのう……。こんなに大規模に転生させたのは、初めてじゃ」
ほっほっほ……全く、大首領様も面白いことを思いつきますのじゃ。関心が止まらないのじゃよ。流石ですじゃ。
「転生蠱毒――無数の転生者ライダーと転生者怪人を戦わせ、残った者たちを洗脳し、手駒にする。なんと凄い計画じゃ」
下地を作る儂らも大変じゃが。これはこれで、面白い。転生や特典と聞いた馬鹿面のガキどもを大首領様の生み出したアナザー・ワールドに叩き込む。なんて爽快じゃ! これほど楽しい仕事はそうそう無いじゃろうな。
「それにしてもさっきのガキの馬鹿面、思い出しただけで腹が痛くなるわい。くっくっく……」
ぼくのかんがえたさいきょうのらいだー。まったくもってバカ丸出しな考えじゃの!! どいつもこいつも、身の程を弁えておらん! たかがかちょっと進化した猿の分際でのう!
「与えてやったのは、ズの雑魚雑魚グロンギパワー。あんな雑魚怪人の能力では、生き残れないじゃろうし、さっさと死ぬじゃろうな! ほっほっほっほ!!」
※※※
こうして、俺は、転生したってわけ。
はー! あの神、何が俺の望みを叶えるだ! ふざけんなっての! 誰が怪人にしてくれって頼んだよ!!
しかし、出て初っ端、自分の顔に驚いてかと思えば、出たてきた言葉がグロンギ語で、仮面ライダーに襲われて、驚いてばっかりだな……。やってらんねえぜ。
「
夜闇に紛れて、この廃墟までなんとか逃げ切ったけど、あー死ぬかと思ったぜ……。こんな雑魚っぽいグロンギ一体なんであんな必殺技を撃ってくるんだ? 馬鹿じゃないのか? ていうか、龍騎の必殺技が当たらなかったな……。本人じゃないのか……? 真司が使ったなら必中だもんな……。
龍騎が外して、上がった砂煙に紛れて、俺は、逃げ出したんだ。一番やばかったのは、ファイズ。マジで死ぬかと思った。掠ったら死ぬぞ。物質を分解するとかなんかで見たしな。雑魚グロンギなんて絶対、即死だわ。
「
俺の考えた世界なら皆、真司や剣崎みたいに本来の変身者のはずなのに……まあ、真司じゃなかったから助かったんだけど。真司だったら粉々だった。危なかったぜ。
「
わっかんねえな。でも一つ分かることがあるぜ。
「
しかし、なんでよりにもよって……。近くに転がっていた割れた鏡に映っているのは、小さな角が生えた真っ白でひ弱そうな体と赤い瞳の正真正銘の化物で――女。おっぱいがある。わりとでかい。股には、なんにも無い。無いんだ……。Oh……俺のウイングランサー……。なんてこった……。
「
とほほ~~。俺は、思わずその場に崩れ落ちた。
※※※
「貴方が、私達の救世主よ!」
「救世主《キュグゲギギュ》……?」
俺の目の前に現れた女の子は、そんな事を言った。
俺が転生して、グロンギになって、女になって、それなりの時間が経っていた。どうにか仮面ライダーから逃げ、逃げ、出会う怪人からも逃げて、死にたくなってた頃だ。人間態になることもできない。言葉もグロンギ語だ。グロンギだからグロンギ語なんだろうか。俺の頭の中にある言葉は、全部日本語なのに、吐き出すとグロンギ語になってしまう。悔しくて、何度も地団駄踏んて、暴れた。けれど、出てくる言葉はグロンギ語だったんだ。
可愛い女の子だ。白衣とジーンズに簡素なシャツで、飾り気はない。ツヤツヤなロングの黒髪に、小さく白い顔に収まった猫みたいで大きな瞳は、薄紫で神秘的。桜色の唇は、喜びに口角をあげている。
「ええ、だって! 貴方は……ズ・ダクバ・バなんだから!」
絶句してしまった。俺が、ダクバ……!? でもダクバは、男のはずだ。それにズだって!? ダクバは、グロンギ最強のン。ン・ダクバ・ゼバだ。おかしい。いや、この世界は、何もかもおかしいけど。
「ええ、そうよ! 貴方は、女の子。他の神を欺くために、女の子にせざるえなかったの……!!」
「!!
心を読んだ!! 読みやがった!! 間違いない、こいつは神だ!! 俺をこんな目に合わせたやつ! あの爺じゃないけど、仲間に違いない!! 俺の中の怒りが一気に燃え上がった。めちゃくちゃな怒りが湧き出て、目の前のこいつをぐっしゃぐしゃにしてやるって、心と手に力が漲っていく。拳を握り、一気に殴りかかる。殺してやる!
「どの面下げて現れやがった!! このクソ……あれ? あれ??」
日本語だ……。俺は掴み掛かろうとしたのをどうにか止めた。気のせいか?
「え? ええ? あれ……普通に喋れてる……?」
頭の中の声より随分可愛いけど、日本語だ! グロンギ語じゃない! いつの間にか体も変わってた。細くて女の子なのは同じだけど、色んな所にプロテクターみたいなのがついてるし、ちょっと筋肉質になってる。これは、一体……?
「今、貴方の等級が上がったのよ」
「え……ということは、メになったってことか?」
グロンギは、ズ、メ、ゴ。という風に、階級が上がる。他にもあるけど戦闘員の階級は、それだけだ。
「ええ。メ・ダクバ・バ。それのお陰で日本語が流暢に話せてるの」
「なるほど……。じゃあ体も?」
「それは、元々出来たはずよ。多分、貴方のイメージの問題ね。今、貴方は女性なの。元々の男じゃなくて。だから貴方は、自分が女性であることを理解して、受け入れて、自分が女性になった姿を思い浮かべてみて」
「女の子に……?」
なんて言われてもなあ……。女の子……女の子ぉ……? うーん……。そうだなあ。
「理想の姿になるはずよ、きっと。私がそういう風に調整しといたから」
なるほど……? 俺は、頷いて、目を瞑ったらイメージを思い浮かべる。理想。色んな女の子が思い浮かぶ。ドライブの霧子、ウィザードのコヨミ。後は、アニメの女の子。FGOのマシュ、シンフォギアのクリス。うーん、中々定まらない……。
「あら、いいわね。可愛いじゃない」
「へ?」
「ほら、見て」
目を開けて、向けられた手鏡には、これまたとんでもなく可愛い女の子がいた。肩口くらいの金髪でちょっとツリ目の女の子。気づけば青いパーカーとワンピースが合体したような服を着ていた。丈は結構短くて太ももくらい。黒いタイツとスニーカーを履いている。そんでもって何より目立つのは、この胸! めちゃくちゃおっきい。すげえ重量感だぜ……。
「う、うおお……?」
「こういう子が貴方の好みってわけね」
「え、いや、まあ、そうかも……」
すげえ性癖の暴露になってしまったぜ。なんだろうこの恥ずかしい空間。
「そ、そんなことはどうでもいい! 俺が救世主ってどういうことだよ!!」
「それはね。ここアナザーワールドで行われているパラレルショッカーによる転生蠱毒を破壊できるのは、貴方だけってこと」
真剣な表情で、女の子? 神? はそんな事を言った。なんだそりゃ?!
「ていうか、ショッカー!?」
「ええ。パラレルワールドに進出し、転生機構《リインカーネーションシステム》を乗っ取ったショッカーは、全時空を支配するための手駒を作り出すため、数多の世界から人々を無理矢理転生させ、怪人やライダーにしたの。それらを戦わせ、残ったのをショッカーの手駒にする……。とんでもない計画よ」
「規模がでかすぎてよくわかんねえな……」
「分かってもらう必要があるわ。貴方が最後の希望なんだから!」
「お、おう……。それで、あんたは何者なんだ?」
「私は、神の一人。レコード。全時空の歴史を記録するもの。お願い、私と一緒に、世界を救って!」
※※※
「これで、止めだ……!!」
俺の一撃がファイズの胸へと突き刺さる! 駄目だ、迷うな! 例え、元々が普通の人間だからと手を抜けば俺が殺されてしまう! さっき、別の怪人がファイズに灰にされた! 逃げ惑う怪人を背中から撃ち殺したんだ。この世界に来たばかりの何も理解していない無理矢理転生させられたやつらを何の躊躇いもなくぶっ殺した! だから、俺も躊躇うな! 俺が怪人だとしても!
「ぐあああああああ!!!!」
後ろに吹っ飛んだファイズの手から、すっぽ抜けたファイズエッジを空中でキャッチ! 俺は、もうゴの階級に登っている! 俺は、ン・ダクバ・ゼバになる、予定! だからモーフィングパワーで、これくらい変身させることくらいできるはずだ……!
「よし!」
ファイズエッジがイメージ通り、クウガタイタンフォームの持つ幅広の剣に変身した。頑丈で力強い剣だ! いける……! メの頃よりも強靭な、鎧を纏って、力を増した俺ならこの剣も満足に扱えるはず!
「こ、の、怪人……野郎……! 今すぐぶっ殺してやる……!」
よろめいて立ち上がるファイズの装甲が展開していく。まずい、アクセルフォームだ。高速移動からクリムゾンスマッシュを連続で食らったら無事じゃ済まない。
「だったら、これでも喰らえ!」
変身させるな! 俺は、今、怪人なんだ!! 手の剣を投げつける。習得してあまり経ってないから変身させた武器を投擲するのは、初めてだ。だがゴのモーフィングパワーなら手を離れてもしばらく保つはずだ。いけぇ!!
「くそ!」
一歩遅かった……! ファイズをすり抜け、剣は、背後の壁に突き刺さる。残像だ。アクセルフォームに変身させてしまった。まずい。俺の背中を冷や汗が伝っていく。残像と高速の足音に振り向く。だけどもうそこにファイズは居ない。
「ぐあ!!」
頬、頬、顎、腹、腹、腹と凄まじいラッシュを浴びせられる。さらに、蹴り。体が空に浮かんだ。やばい。これはやばい。クリムゾンスマッシュが来る。この体、ゴになって、肉厚で頑丈になった体でも耐えられるか分からない……いや、駄目だ。アクセルフォームのクリムゾンスマッシュは、ラッシュだ!! 一撃耐えても連続で来る!
死ぬ。嫌だ。死にたくない。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ――――。
「死んで、たまるかぁ!!」
「ガ……!」
浮かんだ体を無理矢理捻り、俺は、蹴りを放つ。高速で突っ込んできたファイズへものの見事に叩きつけることに成功した! 互いに吹っ飛ぶ俺とファイズ。
「グア!!」
「っ……!!」
しかし、俺も無事ではすまなかった。足から嫌な音がした。折れた? 砕けた? 兎も角、めちゃくちゃ痛い。すげえ痛い。だけど我慢だ! 気にするな! 止まってられるか!
「死、ねえ……!!」
装甲がボロボロになり、アクセルフォームを上手く解除できなくなったファイズへと俺は、立ち上がりながら走り出して、一気に距離を詰める。武器はない。モーフィングパワーで、作ってる暇はない。拳でケリをつけるしか無い。殴り殺すしかない。叩き潰すしかない。殺るしかない。今まで通りに! これまで通り!
「ああああああああああああああああああああッッッッッッッッ!!!!」
嫌な感触だ。嫌な音だ。何度も何度も叩きつける拳、耳、目、伝わる全てに俺は慣れない。慣れてないはずだ。命を壊す感触に、俺は、慣れてない。そうだ。間違いない。絶対に。湧き上がるこの衝動に、呑まれてなんていない……!!
考えふけっているうちに、ファイズの体が動かなくなった。当たり前だ。頭を粉砕したんだ。もう胸の辺りまで無くなっている。殴り過ぎた。俺は、荒く息を吐きながら反省した。見渡す限り、地面には、肉片とか血とか脳とかが散らばっている。当初は、込み上げていたゲロも今は、やってこない。見慣れてしまった。そして、俺の中のグロンギがどうしようもなく悦んでいるのが分かる。
俺が人間じゃなくなりつつあることを強く実感する瞬間だ。
「……殺った」
これで三つ。龍騎、W、ファイズ。三人のライダーを殺した。俺と同じく転生させられ力を与えられたライダー。レコードが言うには、この世界に存在するライダーは、あと一人だ。
「後、一人だ」
もう一人のライダーを殺せばこの
「グロンギ……? なんで? 俺は……」
俺は、両手を開いた。そこにあるのは、生身の、グロンギとしての俺じゃなく転生する前より小さな女の子の手。だけど骨や筋繊維が剥き出しで、とてもじゃないが軽症とは言い難い。それもすぐに修復されていく。ものの数秒で傷一つない綺麗な手。昔より、ずっと細く、綺麗で整っていて、ずっと血に汚れた手。柔らかくて小さな血塗れの体も一瞬で元通り。
「俺は、なんだ……?」
「雄也!」
息を切らしたレコードが走ってきた。満面の笑みだ。戦って、勝つたびにあの子は、俺に笑ってくれる。最初こそ神だからき必ずどこかで裏切ると疑っていたが今では、心強い味方だ。あの子がいるから俺は、今、戦えていると言っても過言ではない。
「レコード……」
「雄也、大丈夫……? 顔色、悪いけど……。さっきの攻撃でもしかして、何か怪我を……!?」
一瞬で、顔を真っ青にしたレコードが俺の体をぺたぺたさわさわと触ってくる。
「いや、こそばい! 大丈夫だよ! あははは!! い、いや、大丈夫だから! ほら!!」
ぐいっと肩を掴んで、レコードを引き離すと俺は安心させるように笑って。
「な?」
「……ほんと? きゃっ! もう、なに!」
「大丈夫だっての」
俺は、レコードの頭をワシワシと少し乱暴に撫でた。もーっとレコードは、怒ったような声を上げつつもはにかんだ。
「ここまで、順調だったんだぜ? 今更、下手うつかよ」
ああ、勝つぜ! 俺は、必ず絶対勝つ。俺をこんな目に合わせてる神を、パラレルショッカーをぶっ倒してやる! 俺は、心に、レコードに誓ったんだ。
※※※
「誓ったんだ……!! 誓ったのに、なんてなんてざまだ……!!」
目の前に立ち塞がる敵、最後のライダー。アマダムとゲブロン。霊石と魔石の交わるはずのない二つを併せ持つ最凶最悪! あっていいのかよ! クウガでもグロンギでもない。仮面ライダークウガで、絶対に生まれない存在……!
「我は、究極の深淵を齎す者。クウガ・トゥルーダーク。貴様ごとき、敵ではない。今こそ絶望タイムだ」
金の大きな角、真っ黒な複眼、黒く刺々しいボディに白銀のライン。アルティメットフォーム、ライジングアルティメットフォームでもないクウガの姿! まさに絶望そのものだ……勝てない。こんなの勝てるわけがない。
街が崩れ、道が砕け、世界が揺れる。あのトゥルーダークが居るだけで、この世界が壊れていってるんだ。現れたパラレルショッカーの怪人も、神も全部あのトゥルーダークが殺しやがった。ありえねえよ。なんだそりゃ。巫山戯てんじゃねえ。
「くっそ……!」
心がへし折れてしまいそうだ。俺は、あれに何も出来ない。俺のパンチにキック、剣に槍。全力で立ち向かったのに、指先一つ動かさせることすら出来なかった。何がゲゲルの成就だ。勝てないんじゃ意味がねえ。
「ふん……心も折れ、立ち向かうこともできないか」
そう吐き捨てたトゥルーダークは、俺に背を向けてどこかに去っていった。足音が遠ざかっていく。遠ざかるごとに俺の体の震えや恐怖も薄れていく。なんて情けないんだ。
「俺は、どうすればいいんだ? 分からない。分からないよ……」
視界が霞む。体が震える。弱音が口をつく。まるで昔の俺みたいだ。ヒーローに憧れてばかりで、何もしてこなかったあの頃の俺だ。体が弱くて、虐められてばかりな弱っちい俺。思い出すだけで、吐き気が出る。
「雄也!」
「……レコード。ごめんな。俺、勝てなかった」
違う。そうじゃない。
「いや、勝てないんだ……。俺は、あれに、あのトゥルーダークに、勝てない」
「勝てる。勝てるよ。雄也なら、勝てる」
「勝てないんだ……。見てくれよ、レコード。俺は、こんなに無様だ」
「違う。違う! 違うよ!」
「なにが、なにが違うだ……!! 見てただろ! 俺は、あれに負けたんだ……。掠り傷一つつけることができずに負けた。だからもう……」
「そうじゃない! 雄也は、ヒーローに憧れた雄也は、知ってるはずだよ!! 憧れている、誰よりも強くヒーローを望んだ人だから私は、貴方を選んだんだの!」
「俺、だから……?」
「そう……! 私は、歴史を見て、記憶するアカシックレコードのレコード! 貴方のことだって、ずっと見ていた! 貴方の仮面ライダーへの愛を貴方よりも知っている!」
「でも、俺は……」
「貴方の好きな人達は、こういう時、どうしてたの? 思い出して」
……俺の好きなライダー達は、こういう時、どうしてたっけな。決まってる。ぎりぎりでも限界でもやることは唯一つだった。
「立ち上がって、立ち向かう」
「だったら、雄也のすることは唯一つじゃない」
「でも、俺は、怪人だぜ? グロンギだ。いくらゴになって、もうちょっとで、ンになれるとしても……化物だ」
「仮面ライダーは、いつだって敵と同じ力で戦ってきたの忘れちゃった?」
「……そうだったな」
仮面ライダーは、皆、改造され、全てを奪われ、絶望の中に落とされても人々の自由のために立ち上がったんだ。
「だったら、俺も立たなきゃな」
こんなところで凹んでる場合じゃない。俺は、手と足に力を込めて、立ち上がる。無人の街、崩れる世界で、俺は、もう一度、立ち向かう勇気を手に入れられた気がした。レコードの声と仮面ライダーの思い出が俺を奮い立たせてくれる。俺は、仮面ライダーなんて器じゃない。だけど、今、立ち向かえるのは、俺だけだ。
だったら、グズグズしてる場合じゃない。
「頑張れ、仮面ライダー」
「仮面ライダー、じゃないよ。俺は、俺だ。二条雄也だ」
細い体に力を込め、しっかりと大地を踏みしめた。仮面ライダーか。仮面ライダーじゃない。
「仮面ライダーって、誰かが呼んで、初めて仮面ライダーになるんじゃなかった?」
「いや、そうかもしれないけどさ……」
レコードの言う通りではある。これくらい、許してくれるかな。ちょっとばかし格好つけたくなったんだ。もどきでも後ろの女の子にいい顔したいんだ。な? 頼むよ、仮面ライダー。返事なんてしないだろうし、返ってこないだろうけどさ。なんか許してくれる気がする。気のせい? いや、知らないね! 俺は、今、仮面ライダーって呼ばれたんだ!
「今だけは、仮面ライダーづら、してみるかっ!」
胸を張る。ぶるんとたわわが揺れる。うーん、これだけは慣れないな。
「じゃあ、レコード!」
変身の構え、夢見たポーズ。俺が考えた史上最強の仮面ライダーの構え。左手を大きく斜めに掲げ、左手を腰の前に! 白いベルトが腰に現れる。真ん中には、紫の霊石が浮かんできた。今までと違う感覚がする。力が漲ってきて、出口を求めてる。ああ、なんだかいける気がしてきた!
「見ててくれよな。俺の、変身!!」
――仮面ライダーダクバ プロローグエンド