機動戦士ガンダム -烈火のジャブロー-   作:オリーブドラブ

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-第13話からの登場人物-

-レルフ・ローガン-
 25歳。キャンベラ出身。元空挺兵の直情的なMSパイロットであり、かつての原隊を壊滅させられた怒りに燃えている。ゼファー・アルビオンとはかつて同期だった。ジムナイトシーカーに搭乗する。階級は中尉。
 ※原案はダス・ライヒ先生。

-ティオネ・アルマー-
 19歳。ウィーン出身。開戦から間も無くジオン軍の捕虜となり、苛烈な拷問や薬物投与、陵辱の数々を味わっていた過去を持つスタイル抜群の美少女。残り僅かな余命が尽きる前に自分を救ってくれたゼファー・アルビオンに感謝を告げるため、類稀な動体視力を武器に戦い続けている。柔肌は雪のように白く、かつてはブロンドだったロングヘアは白髪に変色している。迷彩仕様のジムスナイパーIIに搭乗する。階級は軍曹。
 ※原案はカイン大佐先生。

-エンジ・クサカベ-
 21歳。サイド3出身。借金返済のために入隊していた元テストパイロットであり、終戦まで生き残り無事に除隊するために戦い続けている苦労人。胸部に笑う熊のパーソナルマークを描いたドワッジに搭乗する。階級は中尉。
 ※原案は団子狐先生。

-アズレト・ヴォロノフ-
 23歳。サイド3出身。ルウム戦役やバイコヌール制圧作戦にも参加していたベテランパイロット。ブリティッシュ作戦における毒ガス攻撃を目撃して以来、大義を見失いながらも仲間達を生かすために戦い続けている。陸戦高機動型ザクに搭乗する。階級は中尉。
 ※原案はクルガン先生。



第13話 薄命の白姫 -ティオネ・アルマー-

 

 ジャブローの森林に降り注ぐ、深夜の「通り雨」。その豪雨はコスモス機が作り出していた火の海を徐々に弱め始めていた。しかし、戦火を鎮める恵みの雨と呼べるほどではない。血で血を洗うような死闘は、この雨の中でも続いている。

 

『断続的に撃ち続けろ! 敵の注意をこの艇に向けさせるのだ!』

 

 「森夜叉」の母艦であるギャロップ陸戦艇。森林迷彩の塗装が施されているこの艇は、遥か上空(・・)から迫り来る「敵機」を撃ち落とそうと、機関砲や連装砲から激しい弾幕を展開していた。しかし「敵機」はスラスターを噴かして自在に宙を駆け、その弾雨を紙一重で回避している。

 より疾く敵艦に迫るため、最低限の回避運動で迎撃をかわし、凄まじい速度で間合いを詰めようとしている連邦軍のMS。アイアングース隊の所属機であるその機体は、並外れた速度でギャロップに肉薄していた。

 

『は……速いッ! しかも、400m近くまでジャンプ出来るあのスラスターの推力……! 奴の機動性は化け物です!』

『くそったれ! こっちはほとんど身動きさえ取れないっていうのに……!』

『足が動かなくても砲台にはなれる! 友軍が退却するまでの時間を稼ぐためにも……俺達「森夜叉」が、殿の意地を見せるんだッ!』

 

 ジャブロー攻略の為に河川を利用しての移動が出来るようにと、現地改修でホバー出力を底上げされていたこのギャロップは、攻略に間に合わせるための無理な改造が祟り脚回りが故障してしまっている。

 しかしこの艇の乗組員達はそのような状態に陥ってもなお、友軍を逃がすために「殿」としての務めを果たそうとしている。そんな彼らを乗せた逃げ場の無い艇を上空から狙う連邦軍の刺客は、ここぞとばかりにスラスターを噴かして加速していた。

 

『てめぇらジオンを逃がすわけには行かねぇ……! 散々好き放題に攻め込んで来ておいて、ちょっと旗色が悪くなったらケツまくってトンズラ! そんなムシの良い話が通るとでも思ってんのかァッ!?』

 

 遥か上空から急降下して来るRGM-79V「ジムナイトシーカー」。その機体を駆るアイアングース隊の刺客――レルフ・ローガン中尉は、元空挺隊のスキルを活かして地上からの弾幕を流麗にかわしている。黒鉄色の機体は豪雨の雫と共に、ギャロップの元へ迫ろうとしていた。

 

 同胞達の命運を背負っているギャロップの対空砲火も、6基のスラスターによる圧倒的な推力を誇るジムナイトシーカーにはまるで通用していない。ギャロップの乗組員達を嘲笑うように、レルフ機は急降下しながらビームスプレーガンを構えようとしていた。

 

『1機で突っ込んで来やがるとは……舐めやがって、連邦の雑兵如きがッ! そんな戦い方で俺達の相手になるとでも思ってんのかッ!』

 

 しかしそこへ、「森夜叉」のエースが駆け付けて来る。ギャロップの護衛を務めていたMS-09G「ドワッジ」が、地上からジャイアントバズで迎撃して来たのだ。

 胸部にパーソナルマークとして、笑う熊が描かれているドワッジ。その機体のパイロットであるエンジ・クサカベ中尉は、圧倒的な速度で急降下して来るレルフ機に対しても臆することなく、雄々しく吼えていた。

 

 しかしジムナイトシーカーは機体を捻ってその砲弾をかわし、猛烈な速さで降下しながらエンジ機に狙いを移して行く。レルフ機はエンジ機の威勢を目にして、ギャロップよりも先に倒さねばならない「強敵」として認めたようだ。

 

『そのホバー移動は見飽きてんだよ……! どこの戦場に行っても、嫌というほど見掛けて来たからなァッ!』

『くッ……! コイツ、空中でちょこまかと……やりにくいったら!』

 

 ジャイアントバズを撃ち尽くしてしまったドワッジは、ホバー移動で距離を取ろうとする。しかしジムナイトシーカーは、機体に搭載された6基のスラスターをフル稼働させ、ビームスプレーガンを連射しながらエンジ機を上空から付け狙っていた。

 

(死んで行った奴らの無念は……てめぇらの命で精算させてやる。それが俺達、アイアングース隊のお仕事だからなァッ!)

 

 過去に所属していた部隊を「森夜叉」に壊滅させられた怒りを糧にして、レルフ機は雨粒と共に地上のエンジ機目掛けて猛接近する。そして大地と激突する直前、体勢を反転させたレルフ機のスラスターが一気に火を噴いた。その猛噴射が、ギリギリのところで地面への墜落を食い止めたのである。

 

『うぐぉおッ……!?』

『どんなにすばしっこくたって、相手が見えてねぇんじゃ宝の持ち腐れだなァッ! 邪魔者にすらなれねぇ雑魚は、ここで惨めにくたばるのがお似合いだぜェッ!』

 

 エンジ機も頭上のレルフ機を迎え撃つべく、ヒートサーベルを引き抜こうとする。だが、レルフ機の方が僅かに速かったようだ。ジムナイトシーカーは着地の瞬間、ビームサーベルでドワッジの片腕を切り落としてしまった。ヒートサーベルを振り上げようとしていたエンジ機の片腕が、虚しく宙を舞う。

 

『とどめだァッ……!?』

 

 しかし、エンジ機を追い詰めたレルフ機がとどめを刺す寸前。MMP-78マシンガンの実弾が、レルフ機の死角から飛んで来た。ジムナイトシーカーはスラスターを噴かして咄嗟に飛び退き、直撃を回避する。どうやら母艦(ギャロップ)を守護する最後の砦は、エンジ機だけではなかったようだ。

 

『くッ……まだやり手の護衛機がッ!?』

『エンジ、熱くなり過ぎるな! こんなところで死ぬわけには行かねぇはずだろう、俺達はッ!』

 

 MS−06G「陸戦高機動型ザク」がMMP-78マシンガンを手にして、この戦場に駆け付けて来る。どうやら先ほどの牽制射撃は、この機体のパイロット――アズレト・ヴォロノフ中尉の助太刀によるものだったようだ。

 エンジ機に匹敵する「やり手」の護衛が現れたことにより、とどめを断念したレルフ機はスラスターを噴かして、大きく距離を取ってしまう。迂闊に近付くのは危険な相手なのだと、歴戦の直感が教えていたのだ。

 

『アズレト……! あぁ、そうだな……! まだ借金の返済も終わってねぇんだ……! ここで何も出来ないままくたばるようじゃあ……うっかり化けて出ちまいそうだぜ……!』

『何をゴチャゴチャとッ! てめぇらまとめて皆殺しだァッ!』

 

 片腕を失い、後退しようとするドワッジ。そんなエンジ機にとどめを刺そうと、レルフ機のジムナイトシーカーがビームスプレーガンを構える。

 

『……そうは行くかよッ!』

『なにッ……!?』

 

 だが、その行く手を阻むようにアズレト機の陸戦高機動型ザクが牽制射撃を繰り出して来た。レルフ機のジムナイトシーカーも咄嗟に真横に飛び退き、機体への直撃を回避する。しかし全弾をかわすことは叶わず、ビームスプレーガンを破壊されてしまった。

 

『勝つためとはいえ……あんな真似(・・・・・)に手を染めた俺達ジオンには、確かに大義など無いのかも知れない……! だが、それでも! そうであっても! 今生きている仲間達を見殺しにするわけには行かねぇんだよッ!』

『コイツ……速いッ! たかがザクのくせにッ……!』

『吹き飛びやがれ! 連邦のゴーグル頭ァッ!』

 

 陸戦高機動型ザクは弾切れになったMMP-78マシンガンを投げ捨て、ザクバズーカを撃ち放つ。その照準はジムナイトシーカーの頭部を確実に捉えていた。矢継ぎ早に繰り出されるアズレト機からの攻撃に、レルフも焦りを隠せない。

 

『……! アズレトッ! 避けろぉおッ!』

『ぬぅあッ……!?』

 

 しかし次の瞬間、遥か遠方の森の中から強力なビームが飛び込んで来る。一条の閃光はレルフ機の頭部に迫っていたザクバズーカの砲弾を、瞬く間に撃ち落としていた。

 さらに2発目のビームが、アズレト機に向かって撃ち出されて来た。エンジ機からの叫びに反応したアズレト機は咄嗟に飛び退いて回避するが、余波だけで肩部のスパイクアーマーが溶解してしまう。

 

『ビーム兵器の……狙撃だとッ!? しかも、今の火力……!』

『あんなもんまともに喰らったら、一撃で御陀仏じゃねぇか……!?』

 

 陸戦高機動型ザクとドワッジが振り返った先――豪雨に晒された森の中。その奥深くに潜む1機のジムスナイパーIIは、ロングレンジビームライフルでの狙撃体勢を整えていた。アイアングース隊最強の狙撃手が、闇夜に紛れてこちらを狙っていたのである。

 

『レルフ中尉! いくらナイトシーカーでも、この弾幕の中を闇雲に突撃するのは危険です! ここでジオンと刺し違えるおつもりですか!?』

 

 森に溶け込んだ迷彩仕様のジムスナイパーII。この機体に搭乗しているティオネ・アルマー軍曹は、単騎でギャロップを沈めようとしていたレルフ機の無謀さに声を荒げていた。普段は淑やかな佇まいを見せている彼女も、仲間の窮地には居ても立っても居られなかったようだ。

 

『ティオネ……』

『……すでに我が隊にも、少なくない被害が出ているのです。レルフ中尉の勇敢さを否定したくはありませんが……私はもう、大切な仲間達を失いたくありません!』

 

 病的に白い肌に、白いロングヘア。豊満な巨乳に引き締まった腰つき、安産型の桃尻。そして、常に両手に包帯を巻いている儚げな美少女。そんな彼女は豊かな乳房をぷるんっと弾ませて、悲痛な想いを吐露している。

 

『……』

 

 彼女はその美貌と柔らかな物腰故、アイアングース隊においてはスキキルと双璧を成すアイドル的な存在なのだが。彼女の壮絶な過去を知るレルフは、ティオネの麗しさに惑わされることなく沈痛な表情を浮かべていた。

 

 ――開戦から僅か数ヶ月後。ジオン地上軍に囚われた彼女は、様々な拷問、薬物投与、陵辱の類に晒されていた。本来は艶やかなブロンドだった彼女の髪も、今は薬物の影響で白く染め上げられてしまっている。

 その当時の彼女はまさに、廃人と化す手前だったのだろう。しかし彼女の精神が完全に崩壊する直前のことだった。彼女を捕らえていた基地に襲撃を掛けた、ゼファー・アルビオン中尉を筆頭とする救出部隊によって一命を取り留めたのである。

 

 それからしばらくのリハビリを経て、ようやく戦線に復帰して来た身なのだ。薬物の影響が強く、また拷問の跡も酷かったため、最近までは前線に立つことも叶わなかったのである。

 しかし、今のティオネはただの「病み上がり」ではない。薬物の影響なのか並外れた動体視力に目覚めており、一種のニュータイプではないかと噂されるほどの域に達している。射程を最大に伸ばした彼女のジムスナイパーIIも、そんな彼女のために調整された特別製なのだ。

 

 だが、その代償はあまりにも重い。異常発達した能力に彼女自身の肉体が追い付いていないため、「限界」がすぐそこまで来ているのだ。彼女の余命は、あと数ヶ月も残されていない。

 そんな彼女の願いは一刻も早く戦争を終わらせて、自分の命が尽きる前に自分を救ってくれた人達に最期の「お礼」を言うこと。そして、まだ彼女がその感謝を伝えられていない最後の1人が、救出部隊の隊長だったゼファー・アルビオンなのだ。

 

『……っ』

 

 ジオンに深い憎しみを抱く者達が集うアイアングース隊においては、そんな彼女の境遇に胸を痛める隊員達も多い。それがスペースノイドに対する差別感情をさらに先鋭化させ、ミランダへの迫害を招いていたのだ。

 しかし、前線に復帰して間も無いティオネがそれを知ることはない。ミランダが犯した過ちも、彼女がかつての仲間達を手に掛けたことも。

 

『ティオネ……! お前こそ、誰よりも奴らを許すわけには行かないはずだろうが! どうしてそんなに冷静でいられる!? だってお前はッ……!』

『……っ』

 

 かつてゼファーと共にティオネを救出していた、救助部隊の元隊員として。レルフは彼女に代わってジオンに鉄槌を下すべく、ギャロップやエンジ達を睨み付けている。そんな彼の憤怒が優しさの裏返しであることを理解した上で、ティオネは鎮痛な面持ちで目を伏せていた。

 

『私は……復讐など望みません。私が求めるものは……ただ一つ。あの人に会って、自分の言葉で感謝を伝えたい……ただ、それだけです』

『……そうかよ。だったらお前こそ、絶対に生き残れよな。ゼファーの野郎に会ったら、ブン殴ってでもお前の前に引き摺り出してやる』

『ふふっ……ありがとうございます、中尉』

『……ふん』

 

 余命僅かなティオネの想いを理解しているからこそ。ゼファーの元同期として、レルフはぶっきらぼうに軽口を叩いている。そんな彼の不器用な優しさに触れ、ティオネも優しげな微笑を溢していた。

 

『……長距離からのビーム狙撃。しかも目の前のゴーグル頭は……単騎でこの弾幕を潜り抜けながら俺達と対等に渡り合う化け物、か』

『こりゃあ……いよいよ俺達も、年貢の納め時ってヤツなのかも知れねぇぜッ……!』

 

 一方。ティオネ機からの強力な援護射撃と、レルフ機の機動性を目の当たりにしたとアズレトとエンジは、冷や汗をかいて戦慄の表情を浮かべている。

 レルフ機のジムナイトシーカーだけでもかなりの強敵だというのに、強力なビーム兵器が見えない闇の中から飛んで来るのだ。これほど恐ろしい存在を相手にしたことはない。

 

『……例え報復を抜きにしてもよ。こっちは人を探してる最中で、ずっとイライラしてんだ。とっとと退かねえと……永遠に黙らせることになっちまうぜぇえッ!?』

 

 そんな彼らを鋭く睨み付けて。レルフは操縦桿を握り、愛機のジムナイトシーカーを疾らせて行く。ビームサーベルを引き抜いた闇夜の狩人は、獰猛な殺意を剥き出しにしていた。

 

『……ジオンの地上部隊。あなた方にも色々と思うところはありますが……撤退するなら、さっさとして下さい。こちらも……無闇に命を奪いたくはないのでッ!』

 

 さらに、ビームサーベルを振り上げたジムナイトシーカーが高く跳び上がった瞬間。その足元を潜り抜けるように、ティオネ機が遥か遠方からビームを撃ち込んで来た――。

 




 今話で言及されたゼファー・アルビオン中尉は、外伝「コバルト・キャリバー」の第4話(https://syosetu.org/novel/223795/15.html)や、外伝「ドラゴン・ライズ」の第3話(https://syosetu.org/novel/223795/65.html)などで登場しております。彼とレルフは元同期だったようですな(о´∀`о)
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