勢いで書いた。
※タイトル変えました。
保健室の先生は保険医ではなく、養護教諭でしたね。
キャラに違和感感じるかも。
「はあ……」
「どうした比企谷君。悩ましげにため息を吐いたりして」
千葉市立総武高校。
その保健室で、腐った眼をした高校生、比企谷八幡と、養護教諭、檜川修二が話していた。
室内は保健室特有の薬品の匂いが少し感じられた。
内装はどうということはない、どこにでもある保健室である。
怪我人のための絆創膏や、体調不良を訴えた生徒のための薬。
そしてベッドが二つ。
その保健室の中で、椅子に座る先生と生徒。
時刻は既に夕刻、放課後になっていた。
「今日は本当に厄日っすよ」
比企谷はもう一度息を吐いた。
檜川は意味が分からず首をかしげる。
「一体どうしたんだい? 君のことだ、友人ができない、なんてことでそこまで落ち込んでいるわけではないだろう」
「……檜川先生は俺が部活に入ったって言ったらどう思います?」
比企谷は檜川から目をそらし、そう言った。
窓から射しこむ夕陽で、比企谷の顔が照らされていた。
檜川は少し考えると。
「別にいいんじゃないか? まあ、君らしくはないと思うが」
「ですよねー」
比企谷は肩を落とした。
脱力したようだ。
檜川は言葉を続ける。
「それで、何の部活に入ったんだい? 君とは他の生徒よりも話すことが多くてね。気になるところだ」
そう檜川が言うと、比企谷は複雑な顔をしてこう言った。
「……奉仕部っす」
「……奉仕部?」
檜川は何かを思い出すように目線を上げると。
――確か平塚先生が言っていたような。
「ああ、確か雪ノ下君が部長を務めていたね」
「あいつのこと知ってるんですか?」
「成績のいい生徒のことは、何をしなくても耳にはいるものさ。ここに来る生徒が言っていたこともある。……いい噂だけではないがね」
檜川は顔をしかめる。
比企谷も同様に顔をしかめた。
何か、思うところがあるらしい。
「根本的な疑問なんだが……なぜ君が奉仕部に? 雪ノ下君と親しいわけではないだろうに」
「半ば強引にですよ。平塚先生に。君の発言は私を傷つけた、とか言われて」
「……はあ。あの人は本当に……」
「え、あの先生いつもあの感じなんですか?」
檜川は首を縦に振る。
どちらも口を開かず、静かな時間が流れた。
夕陽が、二人の顔を照らしていた。
そして、二人同時に息を吐く。
「……今日はもう帰ります。いろいろ疲れたんで」
「ああ、気を付けて帰るように。事故に遭わないようにね」
「あれは犬が悪いんですよ」
「君が何も考えずに行ったのも、偉いことだとは思うが、危険ことには変わりないよ」
「……へいへい」
比企谷は扉を開け出ていった。
その後ろ姿は、確かに疲れを感じさせるものだった。
「何か、癒しアイテムでも買ってみようか」
檜川は誰もいなくなった保健室を見回して、そう呟いた。
保健室と言うのは味気なくていけない、と。
そして檜川は自分の椅子と、比企谷が座っていた椅子を定位置に戻した。
カーテンを閉める。
今から保健室に来る生徒は少ない。
あとは書類を纏める作業をするだけだ。
檜川は保健室に置かれている教師用の机に向かい、今日診た生徒たちの情報と、今日話した生徒の話を書いておく。
彼の楽しみは先ほどのように生徒と話すことだった。
彼の個人のノートには、今までに話した生徒たちのことがたくさん書かれている。
それらを書き終えたころには、もう外は暗くなっていた。
檜川はもうここを使う生徒はいないだろう、と閉めようと出入り口に向かうと、誰かが扉を開いた。
「檜川は居るか?」
「……君か」
入って来たのは平塚静。
長い黒髪に、スーツの上に白衣と言う服装をしている。
国語の教師にして生活指導担当である。
それを思い出して、比企谷に行ったのは生活指導と言うことだろうか、と考えた。
「何のようだい?」
「うむ。何と奉仕部に新入部員が入ることになってな。それを自慢しに来たんだ」
「何で僕に……」
檜川はそう言いながら保健室の奥に戻っていく。
平塚はそのあとに続いた。
そして、先ほどの檜川と比企谷のように椅子に座った。
すると徐に平塚は胸ポケットから煙草を取り出した。
「保健室で煙草はさすがにやめてもらいたいんだがね」
「むぅ……分かったよ。その代り仕事終わりにラーメンでも食べに行くぞ」
「……好きにしてくれ」
何が代わりなのかわからない平塚の発言に呆れながらも、檜川は了承する。
それを聞いてから、平塚はまた話し始めた。
「先ほど新入部員が入ったといったな、あれは君も知る生徒なんだ」
「知ってるよ。比企谷君だろう?」
先回りして檜川が答えを当てると、平塚はつまらなそうに眉をしかめた。
「ちっ、つまらない奴だ」
「それは悪かったね。自分でもわかっているさ」
檜川は息を吐く。
これが二人にとってのいつも通りである。
「まあいい。私が言いたいのはそれだけだ」
「じゃあ、僕は保健室を閉めるから出て行ってくれるかい? 君も仕事があるだろう、終わったらメールでもしてくれ」
「うむ。忘れて一人で帰るなよ」
「はいはい」
平塚はそう言って保健室を出ていく。
心なしか、先ほどよりも楽しそうだ。
檜川は軽く室内を掃除し、鍵を閉めた。
―――――――――
――とあるラーメン屋。
その中に、檜川修二と平塚静は居た。
今現在、席が空いてないため、店の隅で待っていた。
店内はラーメンの熱気と、多くの客の熱気によって大分熱くなっている。
少し経ってから、二人は空いたカウンター席に通され、お冷を出された。
平塚はメニューも見ずに注文した。
「味噌ラーメン一つ」
「じゃあ僕も」
つられて檜川も頼んだ。
と言っても何でもいいわけではない。
ただ、平塚が頼んだものが不味いわけがないからだ。
ラーメンについては、檜川は平塚に絶対の信頼を置いていた。
「なんだ、私と一緒でいいのか?」
「君のことは信頼しているからね」
「う、うむ」
平塚は熱気のためか、少し頬を赤くして答えた。
檜川は水を一口飲むと、平塚に比企谷について話した。
「平塚、比企谷君を無理やり入部させるっていうのは、あまりいいことじゃないよ」
「なんだ、藪から棒に」
平塚も、一口水を飲む。
「比企谷君が言っていたんだよ。半ば強引に入部させられた、って」
「ちっ、比企谷め……まあ、私は生活指導担当でもある。あれは私なりに比企谷を更生させようとしているのだよ」
「ちゃっかり自分も楽しむんだろう?」
「ぐっ……」
檜川は苦笑する。
変わらないな、と。
そうやって話していると、注文したラーメンがやって来た。
――美味しそうだ。
味噌スープに細めの麺。
そしてもやしなどの野菜に大きなチャーシューが二枚乗っていた。
「これだけで足りるのかい?」
「……」
檜川は息を吐く。
どうやら僕に遠慮しているようだ、と。
「別に好きに食べてくれて構わないよ。遠慮するなんて君らしくない。お金が心配なら僕が出すよ」
「そ、そうか? すいませーん! 餃子一枚にチャーハン追加で! あ、あとビールを!」
――思い切りがよすぎるのも、考え物だ。
檜川は財布の中身を気にしながら、ラーメンにがっつく平塚を見るのだった。
余談だが、この後更にビールを追加で注文した。
店を出た後、酔った平塚を檜川が介抱することになったのだった。