蟲柱、胡蝶しのぶ。
鬼滅隊の柱の一人である彼女の目の前でかつてない程の危機に陥っていた。
鬼との生死を掛けた戦いよりも
人の命を救う事よりも
無表情な弟子の育成よりも
大きな困難が彼女の前に立ちふさがる。
「むっ」「ごめんねぇ!!」「いつも通りですね」


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鬼滅の刃が大きな展開が見えそうな中で、どうしても書きたくて、書いてしましました。



胡蝶しのぶの困難

「・・・」

 

胡蝶しのぶ、18歳。

 

10代という若さで鬼滅隊の中でも上位の存在、柱の一人である。

 

柱とは一般隊士とは隔絶した強さを持っており、文字通り鬼殺隊を支える柱となっている。

 

そして、藤の花から精製した特殊な毒によって鬼を滅殺し、その容姿だけでも生活出来る程に整った少女。

 

そんな彼女だが、今、これまでの人生の中で最も困難な場面に立ち会っている。

 

「やっ」

 

「ほらぁ、こっちよぉ」

 

そう言いながら、一人の男、正確には男の肩に乗ったまま降りてこない赤子に対して、甘い声を出しながら、近づく。

 

だが、赤子からの拒否する声によって、それは果たされなかった。

 

「うぅ」

 

「まぁ、そう落ち込むな、しのぶ」

 

男の名前は、胡蝶八種。

 

小柄なしのぶと比べても長身であり、細い身体に似合わない怪力を持っており、絶妙なバランス感覚で今も肩に乗っている赤子を落とさないようにしている。

 

そして名前で察してる人は多いと思われるが、この男は胡蝶しのぶの旦那である。

 

二人は多少の年齢差はあるが仲睦ましく、鬼殺隊の中でもおしどり夫婦として有名である。

 

だが、彼女の前で一つの試練があった。

 

「降りてきて、香奈江ちゃん」

 

そう言いながら、八種の肩に乗る赤子を見つめる。

 

彼女の名前は胡蝶香奈江、3歳。

 

3年前に二人の間に生まれた子供であり、今は死去している姉、カナエから名前を貰ったしのぶと八種にとって大事な娘である。

 

その見た目はしのぶとよく似ており、可愛らしい目をしていた。

 

そして、赤子とは思えない程に賢く、生後半年ではいはいが行えるようになり、その数ヶ月後には歩けるようになっており、そして現在では父である八種の肩にしがみつく程の脅威の成長をしている。

 

「しのぶ様、今回はさすがに諦めたらどうですか」

 

「でも」

 

そんなしのぶを促すように神崎アオイは呆れたように見つめていた。

 

「せっかく、久しぶりに時間が作れて、香奈江ちゃんに会いに来たのに」

 

「だからだと思いますよ」

 

そう、現在、胡蝶しのぶが陥っている危機、それは、娘である香奈江に嫌われているかもしれない事である。

 

彼女は柱として多くの隊士達を率いており、また蝶屋敷での医療行為など、現在の鬼滅隊にとってはなくてはならない存在である。

 

だが、そんな彼女の働く時間はとてつもなく多く、育児に手を出せない状況だった。

 

その為、彼女の世話はほとんど働いていない現在で言う所のニートのような存在である八種が行っていた。

 

そして、今日、久しぶりに時間が取れて、家族水入らずの時間ができたと思い喜んでいたが、その娘である香奈江は彼女を拒否。

 

父である八種の肩にしがみついたまま、しのぶにむーっとした顔で見つめていた。

 

「香奈江ちゃんは寂しかったと思いますよ。

この子、見た目よりもずっと賢いので、しのぶ様と会えなかった分、寂しかったと思います」

 

「それは、分かっているわ」

 

しのぶ自身もその原因を自覚していた。

 

だが、それを解決する手段を、今は持っていない。

 

「今、鬼滅隊から脱退する事はできません。

そうすれば、きっと多くの人が危機に陥り、死んでしまうかもしれない。

だから」

 

そう言い、普段は見せないような悲しい顔をしていた。

 

「はぁ、まったく」

 

そう、これまで無言を貫いていた八種はため息と共に片手をしのぶを抱きかかえる。

 

「えっ?!」

 

「そこまで悩まなくても良い。

香奈江の面倒ぐらいだったら、俺が見てやる。

だから、しのぶも、今、注げるだけの愛情は注いでやれ」

 

「八種さん」

 

そう言いながら、もう片方の肩に乗せられたしのぶはそのまま香奈江を見つめる。

 

香奈江もむっとしていたままだったが、しのぶは恐る恐る、香奈江の頭を撫でる。

 

すると、先程までむっとしていた表情は柔らかくなった。

 

「ふふっ」

 

その様子を見ていると、思い出すのは昔、自分も姉に似たような事をされていた事だった。

 

あの時の姉もこんな気持ちだっただろうかと懐かしくなりながら、しのぶはそのまま香奈江を抱きかかえる。

 

先程まで抵抗していた香奈江は簡単に抱きかかえられ、そのままゆっくりと見つめる。

 

僅かな時間、失った家族。

 

それでも、今はこうした幸せを得られた。

 

それを実感し、しのぶはただ笑った。

 

「・・・良い話にしているようですけど、この光景は」

 

そうして、立ち直った様子をしたしのぶを見つめるアオイは少し呆れていた。

 

目の前には八種の肩にしのぶが乗り、そのしのぶは香奈江を抱えているという奇妙な光景に色々と複雑な気持ちになるしかなかった。



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