クルシュが用件を告げた瞬間、束の間の沈黙が訪れる。
「……ほぉ」
その沈黙を破ったのはロズワール。
「同盟、ですかぁ。理由を聞かせていただいても?」
「……そうだな。まず、ここ最近の白鯨に関しては知っているか?」
「ええ。何でも、目撃情報が多発しているようですねぇ」
「ああ、そうだ。今まで奴は神出鬼没な上、目撃情報も僅かであった。だが、目撃情報が多発したことによって、段々と奴の出現場所と出現時間が掴めるようになった。そして私達は迎撃の為に出陣を決めた」
「つまり、貴方がたが我等の陣営に同盟を結ぼうとする理由は」
「察しの通り、討伐に協力してもらう為だ。特に、トキワ・ソウゴとウォズには協力してもらいたい。同盟も一時的なもののつもりなのだが、ここで組めばエミリア陣営にも白鯨撃破という後々に王戦で有利になる功績を与えることになるだろう。それ以外にもお互いに利益になると思うが?」
「ほぉう……」
興味ありげ、な感じのロズワール。
「あのさ、1つ聞きたいんだけど」
ソウゴが軽く手を挙げ、一同の視線が彼に集まる。
「そもそもさ、白鯨って何なの? 魔女が生み出した三大魔獣ってことしか知らないんだけど」
「……えっ、そこから?」
フェリスが小声で思わず突っ込んだ。
「……白鯨とは」
その時、しばらく沈黙を貫いていたヴィルヘルムが口を開く。
「約400年前に生まれたとされる大魔獣。霧の発生と共に出現する性質から、霧の魔獣とも呼ばれています」
「ふ〜ん…………えっ、400年前? 白鯨って400歳なの? すごい長生きじゃん」
「まぁ、魔女が生み出したからねぇ。それくらい長生きでも、何ら不思議じゃにゃいと思うよ」
ソウゴが軽く驚いて、フェリスはそう言った。
「奴はその巨体と、奴から発生する霧によって、沢山の犠牲者を出している。商家からしたら、天敵であり、災厄の象徴だ。過去に奴を討伐しようと何人も挑んだが、結果は惨敗。かつてルグニカ王国が編成した騎士団による討伐隊と、先代の剣聖も挑んだが、勝利することは無かった」
「何か、すごくヤバい気がする」
クルシュからの更なる説明に、ソウゴは何となく実感が湧かない。
「まぁ、とりあえず……エミリアは、どうしたい?」
「え?」
ソウゴはエミリアの方に顔を向けて、問う。エミリアは突然の問いに素っ頓狂な声が出る。
「俺は元々行くつもりだけど、クルシュ達はエミリアに同盟の案を持ちかけてる。だから、決めるのはエミリアとロズワールだ。そうでしょ?」
「ソウゴくんの言う通りです。エミリア様、どう致しますか? 私はエミリア様のご意向に沿うつもりですが」
ロズワールに問われ、エミリアは少し顔を下に向ける。
そして、しばらくすると、エミリアは顔を上げて、
「私、クルシュ様の同盟を受け入れたいわ」
「エミリア様がそうおっしゃられていますので、私も同盟の案を受け入れるとしましょう」
「同盟成立、だな」
そう言ったクルシュは立ち上がり、エミリアに向かって手を差し出す。エミリアも立ち上がって、その手を取って握手をした。
「細部の詰めは後日に行う。本日の会談はこれで終いとしよう」
こうして、エミリア陣営とクルシュ陣営の同盟が無事結ばれたのであった。
後2、3話くらいで3章完結すると思います。