正面、隊列を組んでいるのは王都へ引き上げる竜車の群れだ。竜車には白鯨討伐戦に参加した騎士が何人も担ぎ込まれている。乗っている彼らの口元には長年の想いを遂げた達成感が刻まれていた。
為すべきことを為し遂げた彼らにとって、今の王都への道筋は凱旋のようなものだ。運ばれる白鯨の頭部を王都に持ち帰れば、その奮戦は人々に称賛を以て迎えられることだろう。
そして、ある1つの竜車の中。
「あの金色のジオウってすごいわね! 色んな仮面ライダーを呼び出して戦えるなんて! それで呼び出してた3人のライダーは何なの? 後、アナザーオーズと戦ってた時に呼び出してたライダーは?」
「仮面ライダーブレイド、仮面ライダービルド、仮面ライダーディケイド、仮面ライダーオーズだ。まず仮面ライダーブレイドはアンデッドの力を使うライダーで……」
「あんでっど? あんでっどって何? その仮面ライダーブレイドが契約してる精霊なの?」
「いや、精霊ではなく不死の生命体だ」
「不死? 不死身ってこと? それに生命体ってことは、ブレイドはそのあんでっどを使役してるの?」
「いや、アンデッドをラウズカードと呼ばれる物に封印することによって力を使うんだ」
「らうずかーど? それは何なの?」
「………………ラウズカードはーーーー」
白鯨戦でジオウとウォズの活躍を見たエミリアは、二人の桁違いな力を目前にして興奮していた。そして現在、エミリアはウォズに質問攻めをしており、されている本人は少々、うんざりしているように見えた。
「にしてもホント、奇跡ですよね〜。負傷者こそはいたものの、
「本当にだ。今回ばかりは運に感謝するしかないな」
ふと、そんな会話をしていたウォズとエミリアと同じ竜車に居たフェリスとクルシュ。
白鯨戦(と、アナザーオーズ戦)の後でクルシュとフェリスが人員を確認した所によれば、どういう訳か、全員生存していたという。その内何人かは、白鯨の霧に潰される、と思いきや、いつの間にかフリューゲル大樹の近くに居たという。
何故か、何故か、何故なのか。考えたけれどまぁ、答えは出なかったので、気のせいだ、ということにしておいた。
「ソウゴ殿」
先述した4人と同じ竜車には、ヴィルヘルムとソウゴも居た。
「このような場で申し訳ありませんが、改めて、感謝を。我が妻を奪った憎き魔獣を討ったことに、我が主君、クルシュ様へのものと同等の感謝を」
ヴィルヘルムは、胸に手を添えて、頭を下げる。
「我が妻って…………あいつ、ヴィルヘルムの仇だったの?」
「はい。我が妻ーーーーーー先代の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレアは、かつて白鯨に敗れてしまった」
「ヴァン・アストレア………………あ、ラインハルトと一緒のじゃん! てことはヴィルヘルムの家名も…………」
「…………はい、ヴァン・アストレアです」
「はえ〜、そうなんだぁ。じゃあ、ヴィルヘルムってラインハルトのお爺ちゃん?」
「………………はい」
ヴィルヘルムの返事に間があったことに、ソウゴは少し訝しげな顔。
「――む?」
「どうしました? クルシュ様?」
クルシュが目を細めて小さくうなったことに、フェリスは疑問を飛ばした。
クルシュの瞳が捉えた違和感は前方の竜車。ソウゴ達もクルシュが向いている方に視線を向ける。
――クルシュの視界の中で、前方の竜車が『崩壊』した。
血霧が噴き上がり、竜車前方が突如として惨状へと変わる。
地竜も、竜車も、その中にいた負傷者たちも、一切合切が根こそぎ、まったく容赦のない圧倒的な破壊によって粉微塵にされていた。
「!」
それを見たソウゴはグランドジオウライドウォッチを取り出す。
『カブト!』
『HYPER CLOCK UP』
ソウゴがカブトを召喚した直後、カブトはハイパークロックアップを発動。
少し前の時間に飛び、先程、崩壊した竜車の中にいた人々を外へと連れ出す。
ついでに言っておくと、白鯨戦で白鯨の霧に潰されそうになった人々を助けたのも彼だ。
『HYPER CLOCK OVER』
その音声が発せられる頃には、ソウゴやクルシュ達を含む全員が竜車の外へと連れ出された。
一仕事終えたカブトは余韻に浸るように、指を天へ指していた。そのまま、赤い光玉となりグランドジオウライドウォッチの中へ戻って行った。
周囲には、破壊された竜車の破片が飛び散っていた。
「外…………? いや、それよりもっ!」
外へといつの間にか移動していたことに一瞬戸惑うクルシュであったが、すぐに腰の剣に手をかけて、警戒態勢を取る。
「ーーーーーーおやおや、どうやって皆、外へと出たのかなぁ?」
何者かの声がして、そちらに視線を向けるクルシュ。
一見、なんの変哲もない人物だった。
細身の体つきに、長くも短くもなければ奇天烈に整えられたわけでもない白髪。白を基調とした服装は華美でも貧相でもなく、面貌も目を引く特徴はない。いたって平凡な見た目の男だった。
しかし、彼が先程竜車を破壊した人物なのである。
皆、その人物を見て構える。
「…………成る程、君は魔女教大罪司教強欲担当のレグルス・コルニアスだね?」
「知ってるの?」
「少し前に調べてね」
ソウゴに聞かれて応えるウォズ。ウォズは魔女教について地球の本棚で調べた為、彼のことを知っている。
「へぇ、成る程成る程。そこの君はどうやら僕のことを知っているみたいだ。そうだとも、僕は魔女教大罪司教強欲担当のレグルス・コルニアス」
「貴様、何が目的だ? 私の臣下を殺そうとしたこと、忘れたとは言わせんぞ」
クルシュは鞘から剣を抜き取り、レグルスに向ける。見れば、ヴィルヘルムや騎士達も剣を抜いていた。ソウゴとウォズもベルトを装着してウォッチを持っている。
「やめてほしいなぁ、皆揃ってそんな怖い顔するの。僕はただ邪魔な物を少しどかそうとしただけで殺すつもりなんてこれっぽっちも無かったんだけど? それにさぁ、その君の臣下とやらは今無事なんだろ? なら別にいいじゃないか。過ぎたことでねちっこく責めるのはやめてほしいもんだね」
無事なんだから別にいいだろ、と身勝手なことを抜かすレグルス。謝罪の意思は見受けられず、平然とした態度である。
「貴様…………自分が何を言ってるかーーーーー」
「へぇ、お前達かァ。あの白鯨を殺した奴らはァ」
別の方向から声がして、そちらに視線を向けるクルシュ。
その声の主は、濃い茶色の髪を膝まで伸ばした、背丈の低い少年だ。身長は低く、年齢も14か15くらいだろう。不衛生な髪の下にはボロを纏った矮軀があり、剝き出しの手足は泥と垢で汚れている。
「魔女教大罪司教暴食担当のライ・バテンカイトスか」
「あァ? 何で名前を知ってるんだ? …………まァ、別にいいんだけどさ。そうさ、僕たちは魔女教大罪司教暴食担当、ライ・バテンカイトス」
「………………ん? 僕達? どゆこと?」
「暴食担当は彼の他にも二人いる。ロイ・アルファルド、ルイ・アルネブ。ロイ・アルファルドとは肉体を共有しており、ルイ・アルネブはライ・バテンカイトスの体を借りることで活動する。そして、暴食の魔女因子自体の特性に因子の分割と統合というものがあってね。だから暴食の大罪司教は3人で1枠分というイレギュラーな形を取っているのさ」
「何でお前そんなに知ってるんだ…………?」
ソウゴの疑問に丁寧に答えたウォズに対し、ライは少々訝しげな顔。
「まぁ、お前がそれを知ってたところで別に関係ないかァ。どうせ俺達に食われるんだから。四百年好き勝手してた僕たちのペットを殺したんだ。君達がどんな味なのか、気になってしょうがない! 君達が俺達の飢餓を満たしてくれるのか!」
口角を吊り上げ、涎を垂らすライ・バテンカイトス。
「正直、君のそういうところが理解できないよね。どうして今の自分に満足するってことができないわけ? あのさ、人は二本の腕で持てる数、自分の掌に収まるものしか持てないんだよ。それがわかれば、自然と我欲を抑えることもできるんじゃないの?」
「説教は僕たちにはいらないし俺たちは嫌いだ。あんたの言うことが間違ってるだなんて否定もしないけど、興味もない。あァ――本当に、僕たち俺たちはこの空腹感を満たすこと以外はどーォだっていいんだよ」
バテンカイトスは涎を啜り、レグルスは肩をすくめる。
「大罪司教が二人も…………白鯨の敵討ちにでも来たか」
クルシュが二人に問いかけた。
「敵討ちには興味ないさ。僕達が興味があるのは、死んだ白鯨よりもそれを倒したお前達のほうなんだから。一刻も早く味わってみたいもんだァ!」
「僕がここにいるのはたまたまの偶然さ。ああ、それと僕はそこの彼とは全然違うから安心していいよ。僕は彼みたいな飢餓とか渇望っていうの? そういう、下種な我欲とは無縁なんだ。常に満たされない哀れな彼と違って、僕はほら、今の自分ってものに満足してるからさぁ。争いとかさ、嫌いなんだよね。僕はこう、平々凡々とした穏やかで安寧の時間がずっと続けばそれで十分。それ以上は望まない。それが最善だ。僕の手はちっぽけで過ぎた欲も持たない。僕には僕という個人、そんな私財を守るだけで手一杯なんだからさ」
「言いたいことは、それだけか」
クルシュは、変わらず剣を構えていた。戦う意思があることが、目に見えて分かる。
「はぁー………………あのさぁ、別に僕はやりたくないってさっき言ったよね? 人の話、聞いてた? それを聞いててその態度なら、いかに無欲で心の広い僕でもーーーー」
ドスッ!!
「…………あ?」
何かに胸を貫かれる感覚を、レグルスは覚えた。そのまま、ゆっくりと下を見ると。
雷を纏った何者かの足が自分の胸を貫いており、心臓と思わしき臓器が、地面に転がっていた。
「なっ…………」
「ひっ…………」
クルシュは見開いた目でそれを見て、エミリアは青ざめた顔で思わず口を抑える。ソウゴやウォズ、ヴィルヘルムやフェリス、騎士達も同様な反応をしている。
ズボッ、と勢いよく足が引き抜かれると、レグルスはそのまま倒れた。
そして、彼を貫いた人物は、アナザーカブトであった。
「アナザーカブト…………!?」
「ぐああっ、何だこれえっ!?」
ソウゴがアナザーカブトの名を呟いた時、ライの悲鳴が聞こえた。
見ると、ライは空中に浮かぶ複数の裂け目から出てきた蔦に絡まれていた。そして蔦によって無理矢理顎を開かれると、裂け目から何かが飛び出してライの口内に入った。蔦の拘束を緩められたライはそれを咀嚼する。
そして、彼の口内に広がるーーーーーー甘美な味。まるでこの世のものとは思えないくらい、今までに味わったことのない物であった。
ああ、もっと食べたい。もっと、もっと、もっとーーーーーー
「モッ…………ト………………タベ…………タ…………」
ライ・バテンカイトスが食べたのは、ヘルヘイムの果実。そして、その果実を食らったが最後ーーーーーーたちまち、異形の化物となる。
大きな赤い目に、顎辺りに細長い黒い針を持つ異形。もはや、ライの人間としての姿はない。
裂け目から、橙の鎧武者が現れた。そしてそのまま、橙の大剣でインベスと化したライの首を刎ねる。首はそのまま地面に落ち、取り残された体は、倒れ伏した。
「アナザー鎧武まで!?」
ソウゴが驚いた声をあげて、ライを処刑したアナザー鎧武を見た。
「よう、お疲れさん」
何処からか、黒い装束を纏った男が現れる。頭はフードですっぽりと覆われており、当然ながら顔は見えない。
「おー、ちゃんと二人とも死んでるな」
レグルスの死体とライだったインベスの死体を確認する男。
「悪いが、お前はこのまま利用させてもらうぜ、レグルス」
男は懐から黒いライドウォッチを取り出して、レグルスの体に突っ込んだ。
そして、レグルスは黒い繭に覆われる。やがて、それが解かれてゆくとーーーーーー
『ブレイドォ…………』
レグルスがーーーーーーアナザーブレイドが現れた。
「よーし。じゃあライの方は…………頭くっつけて生体エナジーぶち込んで運用すりゃいいか」
ライだったインベスの前にしゃがみこんでそう言う男。
「あんたなの? アナザーライダーを使役しているタイムジャッカーは」
ソウゴに呼びかけられてこちらを向く男。
「常磐ソウゴか…………こっちじゃ初めましてだな」
「……こっちじゃ?」
「あーいや、何でもない。気にすんな」
こっちじゃ、と意味深なことを言った男に疑問を投げるソウゴだが、適当に濁す男。
「君は何が目的だ。我が魔王に代わる新たな王を擁立する気か?」
「そんなのには興味ねぇよ。俺がするのは常磐ソウゴ、お前への復讐だ」
「俺への…………?」
ウォズの質問に対してそう答え、ソウゴに指を指す男。それにソウゴとウォズは眉を顰める。
「とりあえず用は済んだ。これ以上ここにいる意味はない。じゃあな」
その時、のそり、と立ち上がったアナザーブレイドが大剣、アナザーブレイラウザーから雷を放出して、周囲の地面に直撃して爆発させる。
一同はその攻撃に思わず手で目を覆う。そして、爆発が晴れた時には、謎の男やアナザーライダー達は、もう既に居なかった。
「よーし、これで行けそうだな」
男は、目の前にいるライだったインベスを見て言った。刎ねられた頭はくっついており、項垂れながら立っている。
「そうだな、名前は…………ベルゼブブインベスにでもするか」
虫っぽい見た目と、ライ・バテンカイトスが暴食を担当してるからなのか、そう名付けた男。
「計画は順調か?」
ふと、後ろから声をかけられて、振り向く。するとそこには、同じく黒い装束を纏い、フードで顔を覆う男がいた。
「まぁ、ぼちぼちって所だ。今回、強欲の魔女因子と暴食の魔女因子がゲット出来たのは、中々良い収穫だ」
「ほう」
関心の声を漏らす男。
「そのまま励むといい。魔王の力を手にし、嫉妬の魔女の力さえも手にすれば、お前の目指す果ての理想郷へと辿り着けるのだからな。その為にも、精々殺されないようにするといい。なぁーーーーーー」
「
ナツキ・スバルと呼ばれた男は、フードを脱いでいた。
伸び気味の黒髪に、三白眼の鋭い目つきで、やせこけ少し老けたような顔立ち。
ナツキ・スバルは、男の方を向いて、口角を吊り上げ、
「分かってるさ」
ただそれだけ、答えた。
改題 #41 2019:オレの名前はナツキ・スバル
人物データ
ナツキ・スバル
アナザーライダーを使役していた男の正体。常磐ソウゴの復讐が目的らしいが、別の目的もあるようで…………?
謎の男
スバルに協力している謎の男。スバルの目的を知っているらしいが、詳細は不明。