Re:ゼロから始める魔王の異世界生活   作:きゃぷてん

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2019:Next New Stage ②

 ロズワール邸の玄関前では、ベアトリスを除く一同が揃っていた。

 

「それじゃ、お屋敷のことはお願いね。ベアトリスのことも」

 

「お任せくださいまし」

 

 エミリアが頼み、フレデリカは一礼する。

 

「……本当にそれで行くのでありますの?」

 

 少々案ずるような顔のフレデリカがエミリアの後ろを覗くように見る。そこにはライドストライカーがあった。

 聖域まで行くのに最初は竜車を使おうとフレデリカは提案したが、速いし荷物にならないのでバイクで行こう、という感じになったらしい。

 

「大丈夫よ。アレ、すごく速いから」

 

 心配するなと言わんばかりにエミリアが言った。エミリアは最近、クルシュ邸からロズワール邸まで帰還する時にライドストライカーに乗ったのである。

 

「……エミリア様がそう言うのであれば、心配は無いのでしょう。分かりました。それと、これを」

 

 フレデリカは懐から何かを取り出し、それをエミリアに見せる。

 それはどうやら、首飾り。青く透き通る、輝石の嵌った首飾りだった。

 

「首飾り?」

 

 覗き込んで見たソウゴが言った。

 

「それがあれば、森の結界を抜けて聖域へ入ることが出来ますわ」

 

「成る程。その石が結界を通るための条件というわけか。2日かけたのは、これの為かい?」

 

 フレデリカの持つ輝石を見るウォズの疑問に、口元を隠して笑い、

 

「厳密には、その準備に二日かけたとは言えませんけれど……無縁ではありませんわね。とにかく、『場所』と『資格』は揃えました。あとは覚悟と強い意志を」

 

「ん、すごーく大事なのはわかったわ。ちゃんとなくさないように……フレデリカ?」

 

 真剣なフレデリカの言葉に、深く頷いたエミリアが眉を寄せる。それは、差し出された輝石を受け取るエミリアの手を、フレデリカが強く握りしめたからだ。

 

「────」  

 

刹那、翠と紫紺の視線が絡み合い、フレデリカの頰が微かに強張る。ただ、彼女は頰を硬くした衝動に目をつむると、静かにエミリアの手を放して、

 

「エミリア様、『聖域』をよろしくお願いします。それと、お話ししたことを忘れずに」

 

「え、ええ、大丈夫。『聖域』がどんな場所かってことと……」

 

「──ガーフィールに、お気を付けになってくださいまし」

 

「うん、わかったわ。ガーフィールに気を付ける。絶対に」  

 

重ねられる注意勧告を重く受け止め、エミリアは渡された輝石を懐に仕舞い込む。

 

「それじゃあ行こう、聖域に」

 

 準備が整ったことにより、ソウゴはエミリアとウォズに告げる。

 

「ソウゴ様」

 

 ライドストライカーに乗ろうとした時、フレデリカに呼ばれ振り向くソウゴ。

 

「レムは……あの子は旅立つ時、どんなご様子でした?」

 

 フレデリカは、ナツキ・スバルと共にカララギへと向かったレムのことを問う。

 

「…………辛そうじゃなかったよ。むしろ、幸せだったんじゃないかな、そんな気がする」

 

「…………そうですか」

 

ソウゴの答えを聞いたフレデリカは、安堵したような表情だ。

 

「ご無事をお祈りしております。旦那様とラムにも、よろしくお伝えくださいまし」

 

「うん、分かった」

 

 フレデリカの頼みを引き受け、ライドストライカーに乗ってヘルメットを被る。後ろには既にエミリアが乗っており、隣にはウォズがライドストライカーに乗車している。

 

 エンジンが唸り、タイヤが回転して、ライドストライカーは発進。どんどん加速していき、ロズワール邸を発った。

 

「…………変わった乗り物もあるものですわね…………」

 

 大層驚いた表情で、フレデリカは完全に視界から消えたライドストライカーに対する感想を述べた。

 

「…………さぁ、屋敷のお仕事に戻りませんと」

 

 そう言って屋敷の玄関扉に向かおうとするフレデリカだが、最後に、もう一度、ソウゴ達が去った方向を振り返る。

 

 美しい翠の瞳が淡く揺らめき、フレデリカは胸ポケットから手紙の便箋を取り出す。

 

「──これで、旦那様にお言いつけ通りに。あとはエミリア様が、『聖域』を如何にして乗り越えられるか。祈る以外に、ありませんのね」  

 

何度も読んだ手紙、その縁を指でなぞって、最後にその指は己の首元へ向かった。しかしそこに、彼女が求めた感触はなく、

 

「どうか、エミリア様。ガーフィール……ガーフに、お気を付けくださいまし」

 

 

 

「それで、パックはまだ出てこないんだ」

 

「……うん、そうなの。何度も声はかけてるし、契約の繫がりは感じるんだけど……こんなに長く顔を見せないことって滅多にないから、すごーく心配」

 

 ソウゴとエミリアの間でそんな会話が交わされた。

 ここ数日間、パックがどうやら出てこないらしい。

 

「何か、屋敷に戻ってから見てない気がする」

 

「そうね、聖域のことも相談したかったんだけど、声が届いてる気がしなくて」

 

「パックが居なくなるのってたまにあるの?」

 

「えーと、私と契約する前は頻繁に……でも、契約してからはすごーく頻度は減って。だから何日も会えないと、不安かも」

 

「ふーん…………まぁ、大丈夫じゃない? しばらくすれば、ひょっこり出てくるかもしれないし」

 

「…………だといいんだけれど」

 

 不安げな様子で呟くエミリア。

 

 しばらくバイクを走らせ、一同は森に突入する。目的地である聖域に近づき始めたのだ。

 

 と、その時。

 

「きゃっ……⁉︎」

 

「どしたのエミリア……ってうわ⁉︎」

 

 声を上げたエミリアに少し後ろを振り返ったソウゴは驚く。

 なんと、彼女の胸元、その内側から突然青い光が膨れ上がる。

 その光に驚き、エミリアは懐に手を入れる。そこから、発光する青い輝石を引っ張り出す。

 

「輝石が何かに反応しているのか?」

 

 並走しているウォズが輝石を見て言った。

 

「もしかして、聖域にある結界って奴に?」

 

「恐らくはそうかもしれない」

 

 と、ソウゴとウォズがそんな会話をしている時、ソウゴは自身の背中に何かが倒れ込む感覚を覚える。と言っても、その原因は一つだけだろう。

 

「エミリア⁉︎ どうしたの⁉︎」

 

 エミリアが力なく自分の背中に倒れ込んでることに気づき、バイクのブレーキを掛けて停車する。

 

「エミリア……」

 

 言いかけた瞬間、一際強い光が青い輝石から放たれエミリアとソウゴを包み込む。

 

「我が魔王!」

 

 ライドストライカーから降りたウォズはその光の中に飛び込む。

 

 そして、光が止んだ頃、そこには誰も居なくなった。

 

 

 

光が止み、ソウゴは目を開いた。

 

「ここは…………」

 

 辺り一面は見知らぬ森の中だった。

 

「石の力で何処かにワープしたのか」

 

 近くにいたウォズが冷静に分析をする。

 

「あっ、そうだっ。エミリア!」

 

 ソウゴは地面に倒れ込んでいるエミリアを抱える。

 

「エミリア! エミリア、しっかり!」

 

 エミリアに呼びかけるソウゴ。しかしエミリアは起きない。

 

「気を失っているみたいだね」

 

「とりあえず、移動しよう。ここが聖域だとしたら、近くにロズワールやラムがいるかも。ウォズ、エミリアを頼める?」

 

「承知した、我が魔王」

 

 ソウゴに頼まれ、気を失っているエミリアを背負うウォズ。そうして一同は森から移動を始める。

 

 彼らがしばらく移動すると、視界が開いてゆき、森を抜ける。

 

「何これ、遺跡?」

 

 彼らの目の前には、ひどく原始的な建築様式に則った遺跡だった。 外観の大部分は緑の蔦や苔に覆われ、わずかに剝き出しの壁面は派手にひび割れている。

 

「ここにラムくんとロズワール氏は…………流石にいないだろう」

 

「よぉ、随ッ分と堂々としたお出ましだな、アァン?」

 

 ウォズが言った時、上から声がした。ソウゴとウォズが視線を上げると、遺跡の高所に人影が見えた。

 その人影が飛び降りて地面へと着地する。人影の正体は青年だった。

 逆立った短い金髪、額に目立つ白い傷跡。鋭い翠の双眸にボロ服を纏っている。猫背に丸めた背丈は男性にしては低く、しかし小柄であることを他者に侮らせないほどの鬼気を醸し出している。

 

「……誰?」

 

 少々困惑した様子でソウゴがその青年に問う。

 

「俺様ァ、ガーフィールだ。冥土の土産に覚えてやがれ」

 

「ガーフィール? ああ、あんたが……」

 

「てめぇらは半殺しにして森の外に捨ててやらぁ。ここのこと、誰にも言わねェって誓えるようになってからなァッ!」

 

 ソウゴが言い切る前にガーフィールと名乗った青年はひどく特徴的な、鋭い牙だらけの口で笑い、地面を踏み込んで一瞬で間合いを詰め、突撃する。

 

「うわっ……とおっ! 速あっ!」

 

 ガーフィールが襲いかかる未来が見えていたのか、どうにか避けることが出来たソウゴ。ウォズも避けているようだ。

 

「ちょっと待ってよアンタ! 俺達の話を……」

 

「『めくってもめくってもカルランの青い肌』……聞かねェよォッ!」

 

 そう言って再びソウゴへ突撃するガーフィール。

 

『Zi-O!』

 

「変身!」

 

『仮面ライダーァァァァァァ! ジ・オォォォォォォウ!』

 

 ウォッチを起動し、すぐさま仮面ライダージオウへと変身するソウゴ。

 そしてガーフィールから繰り出されるパンチを受け止め、彼と組み合いになる。

 

「やめてくれ! 俺達はアンタの敵じゃない! 俺達はロズワールに会いに来たんだ!」

 

「…………何でテメェからそいつの名が出やがった?」

 

 ロズワールの名を聞いた瞬間、顔をしかめるガーフィール。

 

「俺達はロズワールに呼ばれてここに来たんだ。エミリアと一緒に」

 

「エミリアぁ?」

 

 エミリアの名を聞いてガーフィールはウォズを見る。

 

「成る程、アイツが背負ってる女が噂のエミリア様か。ロズワールの野郎が抱えてる銀髪のハーフエルフの」

 

 納得したように頷いた彼は、組み合いの手を緩め、放した。

 

「悪ィなぁ、早とちりだった。よく来たな、エミリア様と御付き2人ィ」

 

 

 

 

「それにしても、何で俺たちがここにいるって分かったの?」

 

「そいつァ、俺様の鼻で余所者を嗅ぎつけただけだ。墓所の入り口にまで来られるたァ思ってなかったから、正直焦ったぜ」

 

道中、ソウゴとガーフィールの間での会話。

 

「——ぁ、ん」

 

微かな吐息がして、ウォズの背にいるエミリアが目を覚ました。

 

「目が覚めたかい」

 

「うぉず……?」

 

ウォズはしゃがみこんでエミリアを降ろす。寝起きだからか、少々ふらついた。

 

「良かったエミリア、目が覚めたんだ」

 

「ソウゴ…………あれ、その人は?」

 

 ソウゴの後ろにいるガーフィールを見たエミリアが聞く。

 

「あぁ、ガーフィールだよ。フレデリカから聞いたでしょ?」

 

「おォよ、俺様ァ、ガーフィールだ。よろしくなァ、エミリア様」

 

 軽く自己紹介をするガーフィール。

 

「よろしく…………それで、ここは何処? もう結界は越えたの?」

 

 辺りを見回すエミリア。それに対し、ガーフィールは少々呆れた様子で、

 

「おいおい、勘弁しろや。結界に近づいたからテメェは寝てたんじゃねぇのかよ?」

 

「結界のせいで…………?」

 

「聖域の結界は混じりの奴らに反応するんだよ。アンタもそうだろ?」

 

「成る程ね、曰くつきの亜人族がいるとフレデリカくんから聞いたが、聖域には混血の者達が暮らしているのか」

 

「ご名答……っておい、今フレデリカって言ったか?」

 

 ウォズから出たフレデリカの名前にガーフィールが反応する。

 

「フレデリカと知り合い?」

 

「……まぁ、ちょっとした縁でなァ」

 

 ソウゴの問いに、息を吐いてそう答えるガーフィール。

 

「少し立ち話が長くなったなァ、早く聖域に向かおうぜ」

 

そうして、一行は聖域への移動を再開した。

 

「付いたぜェ」

 

 そう言ってガーフィールが立ち止まる。

 

「改めて歓迎するぜ、エミリア様とその御付き2人。ロズワールは聖域なんて気取っちゃいるが……ここァ、そんなお綺麗な言葉の似合う場所じゃねぇ。半端者の寄せ集めが暮らす、行き詰まりの実験場だ」

 

 そこは深い森を抜け、開けた空間に存在する集落であった。聖域、と呼ばれる割には、貧相で神聖さには欠けている。

 

 集落の入り口には苔むした石塔が倒れたままになっており、遠目に点在している石造の住居は外観が蔦や苔に覆われた古めかしいものだ。

 

「———— 戻ったの、ガーフ。随分と遅かったようね」

 

 再び移動をしていた一同の前に、1人の少女が姿を見せた。

 

「ラム!」

 

 エミリアが少女の名を呼んだ。ラムの視線はエミリアへと向けられ、

 

「エミリア様、ようこそおいで下さいました。奥でロズワール様がお待ちですので、ラムがご案内します」

 

 

 

「やーぁ、エミリア様にソウゴ君にウォズ君。よく来てくれたぁーね」

 

 とある家屋の中で、ロズワールが胡散臭い笑みかつ、いつもの調子で三人に手を振る。

 

「話は聞いているよ。白鯨討伐、おめでとう。君達2人は我らエミリア陣営の誇りだーぁよ」

 

「そいつは、どうも…………それで、どうしたの、その格好?」

 

 軽く会釈したソウゴは、ロズワールの現状を見て、ちょっと引いたような顔で問う。

 

 現在、ロズワールは寝台に横たわり、その体中に包帯が巻かれていた姿であった。彼の体の上半身は隙間なく包帯を巻かれており、火だるまにでもなったのかと疑う程に重体だった。

 

「こんな大怪我するなんて……ロズワール、何があったの?」

 

 エミリアも心配げな様子で尋ねる。

 

「ふぅーむ、何処から話したものですかーぁね」

 

「だったら、私たちの質問に順番に答える。それで1つどうだろう?」

 

 ロズワールの飄々とした態度に意見を唱えるたのはウォズだ。

 

「成る程、じゃあそうするとしようかーぁな。じゃあ、聞きたいことがあるから自由に聞きたまえ」

 

「はーい、じゃあ俺。アーラム村の人達は今何処に?」

 

手を挙げてソウゴが聞く。

 

「彼らなら大聖堂さ。私が上手く交渉して、どうにかそこを避難所として開けさせた」

 

「…………じゃあ、私」

 

エミリアがおずおずと手を挙げる。

 

「ここについて……ううん、結界に触ってからだと思う。ずっと胸がざわついて落ち着かないの。ここは、何なの? 聖域なんて呼ばれ方なのに、私には全然そんな風に思えない。むしろ、それよりも……」

 

「魔女の墓場であると、そう呼んだ方がずーぅっと納得出来ると?」

 

「っ、どういう意味?」

 

「意味も何も、言葉通りですよ。ここはかつて、強欲の魔女と呼ばれた存在、魔女エキドナの最期の場所であるからですよーぉ」

 

「じゃあ……ここは、聖域は貴方が管理しているのでしょ? ロズワールは、魔女と何か関係があるの?」

 

「それは簡単。この土地は代々、我がメイザース家の当主が管理を引き継いでいるからですよ」

 

「じゃあ、昔から強欲の魔女とメイザース家は……」

 

「————エキドナ」

 

 ふと、名前だけ差し挟まれ、エミリアは面食らった顔になる。

 

「エキドナ。どーぅぞ、彼女を呼ぶ時は名前を。強欲の魔女なんて呼び方、いかにも邪悪な感じがして良くないでしょーぉう?」

 

「……ええっと、分かったわ。じゃあ、昔からエキドナとメイザース家は付き合いがあって、昔からずーっと管理してる……てことで良いの?」

 

「ええ。とはいえ、管理なんて大袈裟なことは何も。

エキドナの結界によって、森は正式な手順を踏まない部外者は通さない。その上、結界は血の条件を満たす者には特別な効果を発揮する。それは、エミリア様も体感なされたことでは?」

 

 覚えがある、といった様子で、眉を顰めるエミリア。

 

「それで、アンタは結局何でそんな格好してるの?」

 

 ソウゴは当初、ロズワールに投げかけた疑問を今一度投げかける。

 

「それはだね……ラム」

 

「……エミリア様は不思議に思われませんでしたか? 聖域に逃れてきた住人達、ロズワール様やラムが、屋敷に戻らずこの場に留まり続けてることを」

 

「それは、ロズワールの怪我が原因なのかな、って」

 

「今、わーぁたし達は全員、この聖域に軟禁されている状況なんだーぁよ。私も、ラムも、アーラム村の人間も…………あ、ここに入った時点で君達3人もねーぇ」

 

「…………えぇ?!」

 

 ロズワールの思いがけない爆弾発言にソウゴは素っ頓狂な声を出した。

 

「——— なぁんだ、まだタラタラ話してやがんのかよ?」

 

後ろから勢いよく扉が開かれると、そこからガーフィールが現れる。

 

「軟禁って…………まさか、ロズワールの怪我は貴方が!」

 

 エミリアは思わずガーフィールを睨みつけ、身構える。

 

「おいおい、早とちりはよしな。そいつの怪我は俺じゃねぇ、試練に拒否された結果だ」

 

「試練……?」

 

 新たな初耳のワードに思わず呟くソウゴ。

 

「どういうことなの?」

 

疑問に思ったエミリアがガーフィールに問う。

 

「結界に触れたらどうなるか……そいつはもう体験済みだろぉ? あの調子で中に入った混血は、外へ出られなくなるのさ……!」

 

「じゃあ、まさかエミリアも……!?」

 

 察したソウゴはエミリアの方に視線を向ける。エミリアも目を見開いており、驚いている様子だ。

 

「普通の奴らには関係ねぇ結界だが、そいつぁ、ちとばかし不公平じゃあねぇか? 結界を解くには、墓所の試練に挑むしかねぇ。だが混血以外の奴が試練に挑めば…………!」

 

「あのような結果になるということか」

 

 ガーフィールの言葉を締めるように、ウォズは包帯が巻かれているロズワールを見ながら言った。

 

「手っ取り早く、テメェらに俺様達の要求を突きつけてやらァ。

———— この聖域を囲む結界を解け、その為の試練を、エミリア様、てめェが受けろ。それが出来なきゃ、村の住人を誰も外には出しやしねぇ。最も、今はてめェ自身、出られやしねェけどなぁ…………!」

 

 

 

 

———— その後。

 

 エミリアはその日、日没後に墓所へと向かい、件の試練を受けた。

 

 しかし、その結果は———— 失敗だった。

 

 試練が終わった後、彼女はどうも異常な様子だった。何かに怯えきっていて、会話もままならない状態だったのだ。

 

 現在は一応、落ち着いて部屋で寝ている。(ラム曰く、香料の催眠作用のおかげでもあるとのこと)

 

「…………墓所の中で何を見たのかなぁ」

 

 とある家屋の一室で、椅子に座り机に左肘をついて手の平に顎を置くソウゴは呟いた。

 

「私たちは見てない以上、何も分からないが、どうも酷いものを見たのは確かなようだね」

 

 同席しているウォズが言った。

 

「何はともあれ、聖域の解放は遠ざかってしまったわけね」

 

 傍で立っているラムが言った。

 

「思ったんだけどさ、出ようと思えば出られるんじゃないの? 混血の人達を結界の影響を受けない皆で運び出すとか。そうすれば試練を受けずに出れそうだけど」

 

「———— やれるものならやっておるよ。やらぬのは皆、魂の抜け殻にはなりとうないからじゃ」

 

ソウゴが疑問を提示した時、扉が開かれ何者かが入ってきた。

 

 一同が扉の方を見ると、そこには小さい人影。

 

 長い薄紅の髪に、人形の如き美貌と尖った長い耳に、黒い貫頭衣を羽織っている。

 

「誰?」

 

「ワシはリューズ・ビルマ。一応、この集落の代表ということになっておる」

 

ソウゴに問われ、リューズと名乗った少女は自己紹介をする。

 

「見ての通りの、老いぼれじゃがな」

 

「老いぼれ…………? え、何処が? どっからどう見ても小さい女の子じゃん。アンタ幾つなの?」

 

 ソウゴはジト目でリューズの全身を見る。その背丈はソウゴの胸元に行くか行かないかくらいだ。

 

「安易に女子(おなご)の歳を聞くものではないぞ。マナーがなっとらんのぅ」

 

「あ……ごめん」

 

「ふふ、まあ良かろう。それで、お前さんがソウゴ、つまりソー坊じゃな」

 

「そ、ソー坊? ……まあ、良いけど。それで、魂の抜け殻って、どういうこと?」

 

「混血の者は、結界に意識を奪われるのは聞いておるじゃろ? 正しくは、魂を弾かれるんじゃ」

 

「成る程、混血の者が無理に結界を越えようとすると、肉体と魂が分離する。そして、魂は結界の中に取り残され、分離された肉体は抜け殻となる……ということか」

 

「ほほー、中々理解が早いの。お主は確かウォズ……ウォー坊じゃな。要約するとそうじゃ。抜け殻になるということは、死ぬのと同じなんじゃ」

 

ウォズの答えに感心した様子のリューズ。当のウォズは、リューズのウォー坊の発言に少々複雑そうな表情だ。

 

「……思ったんだけどさ、リューズもここにいる、ってことは混血なんだよね? てことは、アンタもガーフィールも、試練に挑もうと挑めるんでしょ? 何で挑まないの?」

 

「挑むだけなら、理屈の上では可能じゃなぁ。じゃが、聖域の解放は出来ん。それはこの地に受け継がれる、ワシら聖域の住人への契約よ」

 

「まっ、どちらにしろエミリア様が試練を突破するしかねぇ、ってこったなァ」

 

ソウゴとリューズの会話にガーフィールが割り込んだ。そして、ラムが淹れていたお茶を飲み————

 

「って、ウォェェェェェェ!! 茶ァマッズゥ! 草の味だッ! 何淹れたんだラムゥ!」

 

「その辺で拾った落ち葉よ」

 

「えぇ……」

 

 冷静にそう答えたラムに、ソウゴは引き気味な表情だった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 聖域の森付近で、ウォズが歩いていた。

 

 ウォズは、ある程度歩いた後、突如停止する。

 

「隠れてないで出てきたらどうだい? 見張っていたのはわかっているよ」

 

 振り返って突如口を開いたウォズに反応するように、茂みから複数の人影が現れた。

 

「君達は…………」

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

「…………ん、ぅ」

 

 ベッドで寝ていたエミリアは目覚めた。

 

「あ、エミリア。起きた?」

 

 傍で自分を呼ぶ声が聞こえて見ると、そこには常磐ソウゴが。

 

「ソウゴ……」

 

「エミリア、具合はどう?」

 

「うん、大丈夫。全然平気。……それで、ソウゴはずっと付いててくれたの?」

 

「うん、やっぱり心配だったからさ」

 

「そっか……」

 

 エミリアは申し訳なさそうな表情をして、

 

「昨日はごめんね、墓所ですごーく取り乱しちゃって。それに、試練も失敗して……」

 

「そんなに気負わなくていいよ。試練だって、何度でも挑めるらしいからさ。俺に出来ることなら何でも言ってね。全力でサポートするから」

 

「……うん、ありがとう」

 

「それで、今日の夜はいけそう? 駄目そうなら、別の日でも大丈夫だけど」

 

「ううん、大丈夫。今日、もう一度受けるから。……今夜、もう一度」

 

 最後に不安そうな声色で、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 聖域についてから4日目の夜。

 

 エミリアは試練を3回連続で挑んだものの、結果は全て失敗に終わっているという現状であった。

 

「どうすれば攻略出来るのかな」

 

「エミリア君の精神の問題、としか言いようがないね。出来ることがあるとすれば、彼女のメンタルケアぐらいだ」

 

「……そうだよね。エミリアが乗り越えないといけないもんね」

 

 家屋の椅子に座っているソウゴは天井を見上げて言った。

 

「にしても、ガーフィールはどこ行ったんだろ」

 

 どう言うわけか、ガーフィールは聖域に来た2日目から、ソウゴ達の前に姿を見せないのだ。ラムやリューズ、アーラム村の住人や聖域の住人達も、その姿を見ていないのだ。

 

「ウォズは見てない? ガーフィールのこと」

 

「………………実はだね……」

 

………………………。

 

「……ということなんだよ」

 

「…………ふぅん」

 

 話を聞いて、ソウゴがそう言った瞬間だった。

 

 突如、窓のガラスが甲高い音を立てて割れる。

 

「!?」

 

 ソウゴが驚いて見ると、どうやら氷の塊が投げ込まれたようで、それが窓を割った原因のようだ。

 

 誰が氷を投げ込んだのか確かめる為、ソウゴとウォズは扉から外へと出る。すると、

 

「ゴーア」

 

上空から5つの火球が飛び、2人はそれを避ける。

 

 2人が空を見上げると、そこには人影があり、それが降下し地面へと降り立つ。その人物は————

 

「……ロズワール、どういうつもり?」

 

 ソウゴは目の前にいる自分達を攻撃してきたロズワールに問いた。

 その格好は包帯姿ではなく、いつも着ている服装だ。

 

「君たちに、消えてもらわなければならない理由が出来てねーぇ」




> 俺に出来ることなら何でも言ってね
ん? 今……




























俺を見たな!!!!!これでお前とも縁が出来た!!!!!
さぁドンブラザーズのお出ましだ!!!!!悩みなんざ吹っ飛ばせ!!!!!
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