「さ、立ち話もなんだから、まずは座りなよ」
エキドナは傍にあるもう一つの椅子を指し、ジオウに座るよう勧める。
ジオウは変身を解き、エキドナの元まで歩く。
そして椅子を引いて座り込むと、常磐ソウゴは彼女と対面する形となった。
「それで、俺に何の用? 俺に会いたいって聞いてるけど。それに、ロズワールはほっといて良いの?」
「別に、問題は無いさ。今、ボクが興味があるのは君なのだから」
「俺に?」
「そうだとも、ボクはありとあらゆる知識を求める知識の権化、強欲の魔女。でも、君の存在は福音書どころかボクの権能でさえ分からない全くの未知数。だからこそ興味深い。強欲の魔女の権能でさえ知り得ない君が」
「俺は俺だよ。最高最善の魔王を目指しているだけだから」
「最高最善の魔王……? …………ふふっ、あはははっ」
ソウゴの言葉を聞いて、少しの間、呆然とした顔をしていたエキドナは突如として何かがおかしいように笑い出す。
「矛盾していないかい? 魔王というものは人に恐れられるものだ。なのに、最高最善を目指すだなんて」
「これが俺の道だよ、生まれたときから、ずっと決めていた気がする、ね」
「なるほど、まだまだ興味は尽きなさそうだ……聞きたいことがあるのは事実だが、ここに来た以上、君が知りたいことに答えよう。さあ、何が聞きたい?」
「じゃあ、そもそも何でアンタは俺を知ってたの? 俺、墓所の中に入るのがこれが初めてなんだよね。だからアンタとも初対面の筈だけど」
「それは簡単なことさ。ロズワールがここの試練を受けようとしたのは知っているだろう? その時、彼の記憶を見てね。それで君を知り、さっき言った通り興味を持ったのさ」
「へぇ…………じゃ、この聖域はどういう場所なの? 魔女の実験場って聞いてるんだけど」
「まぁ間違ってないよ。ここは元々ボクの不老不死の実験場。魔女と言っても年は取る。無限に知識を求めるなら、寿命も無限に必要だ。とはいえ、結果は失敗に終わったけれどね。
その後は、色々あって嫉妬の魔女が暴れた後に、抑止力として僕の魂はここに封印された、というわけさ」
ソウゴは小さく頷きながら、次の質問を飛ばす。
「この墓所の試練って何? さっきの昔の俺が見えたけど」
「君は蹴破ってきたけれど、試練は本来3つあるんだ。 最初の試練は自分の一番後悔している過去に向き合うこと。2つ目は、あり得た自分の可能性を見ること。そして最後はいずれ来る厄災の未来を見ること。
それらに対して自分なりの答えを出せればいい。それこそが僕が一番知りたいものだから」
「てことはさっきのは試練の仕掛けか…………じゃあ最後に、福音書って何なの? 未来を記す本って聞いてるけど」
ソウゴが聞いたとき、エキドナは何処からか一冊の本を取り出してみせる。
「これは叡知の書。強欲の魔女たる僕の権能が産み出した副産物でね、この本にはありとあらゆる今が自動的に記されるんだ。 僕としては、これを産み出したのは本意じゃないけれどもね。
ロズワールの持つ書は、いわばこれの複製品だ。機能も所有者の未来を記すように限定した。
そして試練の際、相手の記憶を再現するのは、この本さ。問題こそ僕が指定したけど、何を再現するかはこの本が決めるから、試練を受けた者が何を見たのかまでは、僕も分からないんだ」
「へぇ……」
椅子の背もたれにもたれるソウゴ。軽く下を向いて聞きたいことを聞けて納得出来たのか、云々と頷いていた。
そんなソウゴに今度はエキドナが問いかける。
「さて、色々聞きたいことはあるが、まずはここのルールとして、君に聞こうか、君の過去と、可能性の話を。 さっき見た光景が、君が一番後悔している光景じゃないのかい?」
「……思うところは確かにあるよ。ある意味あれが、俺の王の道の始まりではあるから。でも、後悔はしてないかな。おじさんが俺を引き取ってくれたから。 可能性の話も意味はないかな。確かに、他の形で最高最善の王様への道はあったのかもしれない。でも、この道をを選んだのは俺だから。それに、後悔はないよ」
「それは、この先に待ち受ける未来も、かい?」
「この先に何が待っていても、俺は仲間と一緒に未来へ進むよ、最高最善の魔王になるために。そのために俺は、自分の最高最善な面も、最低最悪な面も、全て受け入れたんだから」
そう言いながら、ソウゴはジオウウォッチⅡを取り出した。それを見て、エキドナはすぐに理解できた。あれは、彼が自分自身と向き合った証拠なのだと。興味は尽きないが、これ以上はなにもでないだろう。
「なるほど、君にとってこの墓所は意味の無い場所だったわけか。ボクとしては悔しいから、一つ、提案をしようじゃないか」
「提案?」
「ボクと契約しないか、トキワソウゴ」
「アンタと契約?」
「そう、ボクは君たちのような例外的な存在はともかく、この世界のことに関してはほぼ知り尽くしている。もっとも、ボクと既に死人、魂だけの存在だからこの墓所からは出られないけれど、福音書を通じてなら伝えられる。 君としても、知識や情報が時に必要になるだろう? 最高最善の道に至るなら、なおのことだ、どうだい?」
「俺へのメリットは分かったけど、俺と契約したアンタにはどんなメリットがあるの?」
「それは簡単なことだ。君が感じたものを、君が思ったことを、君の心に残るものを、君が知る未来を、君が為す何かを、君から生まれる可能性を、君という存在から派生していく『未知』という名の果実を、ボクに味わわせてほしいんだ」
「…………つまり、俺が歩む道を見たい、ってこと?」
「ざっくりと言えばそうなるね。さぁ、どうだい? ボクからしても、かなり条件が良い契約だと思うよ?」
「………… じゃあ、それに答える前に、色々と聞いてみようか」
ソウゴは視線を変え、右を見る。
「いるんでしょ、出てきなよ」
瞬間、地面に何かが衝突し、爆風を起こし、パラソルと土煙が宙に舞った。
土煙が晴れると、そこには1人の少女がいた。煌めく金髪を頭の横でサイドポニーに纏め、透き通る碧眼が鮮やかな少女だった。動きやすさ重視の短いスカートに、白を基調とした上着を羽織っている。
「驚いたわ、私の存在にいつ気づいたの?」
「誰かは知らないけど、ずっと見張っていたのは気づいていたよ。言いたいことも分かってる、契約に乗るべきじゃないんでしょ?」
ソウゴは椅子から立ち上がり、彼女と向き合う形になる。
「物分かりが良いわね。そうね、エキドナは利点は答えたけど、不都合なことは何も言ってないわ。この子はかなり性悪だから」
「分かってたよ、胡散臭かったし。契約にデメリットがあるんじゃないか、ってこともね。それで、アンタは……いや、
そう言ったソウゴの周りには、先ほどの金髪の少女を含めて5人の少女達がいた。
「…………貴方風に言うなら……世界中で暴れた悪名高き魔女、かな」
次の話で魔女5人のキャラ捌き切れるのー?(自問)