「それで、アンタは……いや、アンタらは誰?」
「…………貴方風に言うなら……世界中で暴れた悪名高き魔女、かな」
ソウゴの周りには、彼の問いに答えた金髪の少女を含めて5人の少女達がいた。
その他4人のまず1人は十歳前後の少女。
褐色の肌で、濃い緑色の髪、大きく丸い赤色の瞳。細部に青い花をあしらった白いワンピースが可憐に映え、頭にも服と同じ青い花の髪飾りを付けていた。
ある1人は、棺の中にいる少女だった。
外見年齢は十三、四程度。背中に届く灰色の髪を二つに括ったお下げにし、白い服の上から漆黒の拘束衣と鎖で棺に固定されている。両目には、顔の中心で交差するように眼帯が巻かれていた。
少女が納められている棺はアイアンメイデンのような形をしており、更に底部には蜘蛛か蟹のような節足動物風の足が生えていた。
そんな異様な風貌の少女の隣には平凡な容姿の少女がいた。
薄桃色の髪を長くした、どこか気弱そうな雰囲気の少女だ。目鼻立ちこそ整っているが、飛び抜けた美貌の持ち主ではなく、人並みに可愛らしい容姿といったところ。
首に巻いたマフラーは先端が地面につきそうなぐらい長く、手首が隠れるほど袖の深い白い服と合わせ、肌の露出を極限まで控えているのがわかった。
その少女の隣には、赤紫色の毛玉が————失礼、毛玉に見えるほど毛量の多い女性だ。
爪先まで届く長い髪、黒を基調とした煽情的な衣装と女性らしさに富んだ肢体。肌は白いを通り越して青白く、艶はあるが不健康な印象の拭えない美貌がそこにある。
地べたに横座りになり、紫色の瞳で場を眺めていた。
「出てきていきなり人のことを性悪と言うのはどうかと思うな、ミネルヴァ。それにボクのことをずっと見張っていたとは、さては君も彼が目当てかい? ボクに取られないか心配してたのかな?」
「そうやって茶化すのはやめなさい。これでも私、今貴方にかなり怒ってるんだから! その理由が分かる!?」
「……紹介しよう、トキワ・ソウゴ。彼女は『憤怒の魔女』ミネルヴァ。憤怒を司ってるだけあって怒りっぽいんだ」
「ちょっと無視しないでもらえる!?」
ソウゴの方を見てるエキドナにミネルヴァと呼ばれた少女は指を差して怒る。
「ふぅん。じゃあ、残りの4人は誰?」
ソウゴは視線を他4人に移した。
「緑髪の彼女は『傲慢の魔女』テュフォンだ。幼気な少女に見えるが、ああ見えてかなりの人間を処刑している。
棺の中にいる彼女はダフネ。『暴食の魔女』だ。同時に、君が倒した白鯨の親でもある。
マフラーの彼女は『色欲の魔女』カーミラ。気弱そうに見えるが自己愛の塊だ。
寝転がってる彼女はセクメト。『怠惰の魔女』だ。肩書きの通り、君が消した怠惰の魔女因子をかつて所有していた魔女さ」
「ふぅん……で、アンタらは俺の————」
敵か、味方か。
『傲慢の魔女』の場合。
「おー、はじめましてだなー。テュフォンはー、テュフォンなー。って、もうドナから聞いてたんだっけなー?」
「でー、おまえはー、そーだなー、ソウ! ソウなー!」
「それでー、テュフォンがソウのテキかミカタかー、だっけなー?」
「んーとなー」
「ソウがー、アクニンじゃなかったらミカタかもなー」
「でさー、ソウはー、アクニンなのかー?」
「ふーん、そうなのかー。サイコーサイゼンのマオーになるためには、アクニンになっちゃダメなんだなー」
「じゃーテュフォンはソウのミカタかもなー。ソウがサイコーサイゼンのマオーになれるようにおうえんしてるなー!」
『暴食の魔女』の場合。
「んぅ? この棺桶みたいなのぉ?」
「これはぁ、百足棺って言うんですよぉ。ダフネが動けなくて不自由したのでぇ、そのために作った子なんですよぉ。ダフネの汗とかおしっこで動くので便利なんですよぉ?」
「にしてもぉ、ソウソウってとっても危険な匂いがしますよねぇ。食べたらお腹壊しちゃいそぉ」
「まぁそれでぇ、ダフネはぁ、今のところは敵では無いですよぉ。かと言ってぇ、味方って訳でもないんですけどぉ」
「正直な話ぃ、状況によるんじゃないんですかぁ?」
「…………鯨ちゃんや兎ちゃんや蛇ちゃんを作った理由ぅ?」
「おっきい生き物のほうが、食べがいがあるじゃないですかぁ。鯨ちゃんは大きいから沢山食べれますしぃ、兎ちゃんは増えるからいくらでも食べられるんですよぉ」
「食べると沢山の人が満足しますしぃ、誰もお腹が減らずに済むと思うんですよぉ。すごぉくないですかぁ?」
「ちなみに兎ちゃんはぁ、特にダフネのお腹ペコペコなところぉ、見習って生まれちゃいましたからぁ、お互いを食べちゃったりもしちゃうんですよぉ」
「まぁ、仕方ないですよねぇ」
「食べられなかったらぁ、死んじゃうんですからぁ」
『色欲の魔女』の場合。
「わ、私、は、あ、あなたの、敵じゃない……よ? だ、だか、ら……嫌なこと、は、しない、で……」
「私、は、私に、嫌なことする人、を……『絶対に許さない』」
『怠惰の魔女』の場合。
「ここにあたしが現れたのはあくまでこの場の公平性を保つ為、ふぅ。つまりお目付け役さね、はぁ」
「実力行使に回れば敵になるけど、ふぅ。話し合いで事を進めてる内は、はぁ。敵にはならないさね、ふぅ」
「それとエキドナは最高最善の道に至るなら、なんて言ってるけれど、ふぅ。それも最後には、って枕詞が必ずついてくる約束さね、はぁ。意味なら分かるだろう、ふぅ」
「…………寝転がってる理由?」
「立ち上がっているのが面倒臭いから、それ以外に理由が必要かい? ふぅ」
残るは、『憤怒の魔女』。
「……少なくとも、私は貴方の敵じゃない。でも、一つ聞かせて」
「何?」
ミネルヴァがソウゴに問いかける。
「私たちはそれぞれ、背負ったものは違うけど、自分の信念に殉じた。その結果として世界すら敵に回した。私は、傷ついてる人を見たくなかった。 でも、結果として私は、世界の残酷さをこれでもかと見せつけられた。私だって、何度絶望したことか。 そんな世界だって分かってても貴方は、最高最善を目指すの?」
「目指すよ。それが俺の信念だから」
「世界は、とても残酷なのに? たった一人の人を救うことさえ、許さない世界なのに?」
「確かに、過去も未来も、世界は美しくはないよ。そういう残酷なものであるのも事実だよ。でも、仲間たちがいたから、今があって、未来がある。その未来を俺は生きたい。世界を、より良い未来にしていくために」
「……私は、未来を引き換えにしてでも今を救いたかった。今が救えないのに、未来に意味があるの?」
「……あんたはさ、世界の現実に向き合おうとしたことはあるの?」
「えっ?」
「俺はさ、ある人に行き着く先は最低最悪の魔王だって言われたから、最高最善の魔王を目指した。でも、未来の、最低最悪な自分を見て、さすがに心が揺らいだよ。世界は救えても、未来を救えなかったんだから」
「世界を救えたのに、未来を救えなかった……」
「いくら違うと叫んでも、それも俺であることに代わりはない。俺はそれを認めようとしなかった。認めたら、最低最悪の魔王になると思ったから」
「……」
「でもね、それも含めて全部俺なんだと、それを認めなきゃ未来なんてやってこない。だから俺は受け入れた。最高最善の魔王になるために、善も悪も、光も闇も、過去も未来も、全て受け入れて、初めて俺たちは未来に挑めるんだって、気がつけたから」
ソウゴの言葉を黙って聞き続けるミネルヴァ。他の魔女も同じだ。テュフォンはきょとんとした顔だったが。
「世界も、人生も、美しくないのは、当たり前だよ。本にかいてある訳じゃないんだから。何を美しいと思うかも、これから先をどうしていくかも、今を受け止めて、受け入れて、それで初めて挑めるんだから。あんたらは、そこまで考えてた?」
「……考えて……無かったな、そこまでは。目の前のことに必死……だったから」
「それが、魔女だよ、トキワ・ソウゴ。自分を曲げて残るくらいなら、自分の信念に殉じて滅んだ方がずっといい。そういう、破滅的な生き方しか出来ない。だから、そもそも現実を受け入れるなんて出来ないのさ、それこそ、自分を曲げることなんだから」
二人の間に強欲の魔女は口を挟む。
「それは違うよ。信念を貫きたいなら、なおのこと変わっていかなきゃいけない。変えちゃいけない部分以外は変わっていかないと。そうでないといつか、大事なことを見落とすから」
「貴方は……強いのね。ここで受けるべきことはもう経験してる。なら本当にここは、貴方にとっては、ただのより道でしかない」
「寄り道はひどくないかい、僕は大真面目に契約したいのだから」
「その契約だけど、断るよ。あんたと一緒じゃ、最高最善の未来は目指せない気がするから」
ソウゴのその言葉に、エキドナが反論しようとしたそのとき、空気が変わった。
視線を変えると、そこには、もう一人の魔女がいた。エキドナにとっては、懐かしくも忌まわしい存在が。
だがソウゴは、彼女たちの警戒に構わず、その魔女のもとに向かっていく。
ただ、両手には、ジオウウォッチとグランドジオウウォッチを起動できる体制で持っているが。
そして、魔女が語りかける。
「貴方を待っていました」
漆黒のドレスを纏い、顔貌を闇のベールで覆った女————かつて世界を滅ぼしかけた『嫉妬の魔女』、サテラ。
「あんたとは、あったこと無いけど————知ってる気がする」
「もう一人の貴方と共に見ていました、貴方が、未来を変えた瞬間を」
それは、未来を超えた聖戦。
「貴方にお願いがあります」
嫉妬の魔女は、サテラは懇願する。
「————この世界を、あるべき未来へ導いてください、そして、あの人を、私の愛した人を助けてあげてください」
ベールの向こうの顔が透けて見える。彼女は銀髪の髪を揺らし、紫紺の瞳を細めて、瞳の端から涙を流していた。
「————そしていつか、あの人と一緒に、私を殺しに来て」
「————悪いけど、俺が目指すのは最高最善の未来だ。だから、皆助けて見せるよ。あんたも、後ろのエキドナたちも、エミリアやスバルたちも、皆、俺の『民』なんだから」
その言葉と共に、空間が、世界が崩壊を始めた。
魔女たちは理解した。
目の前にいるのは、あらゆる魔女すら凌駕する真の魔王。 どんな災厄もどんな敵も、彼の前では意味をなさないと。
彼が望むなら、全ては彼の望むままに世界は変わる。
だからこそ、エキドナは、負け惜しみも込めてこう告げた。
「トキワ・ソウゴ、君は試練を全て達成した。だけど、君はそもそも、達成できて当然だった。君にとっては通過儀礼どころか、ただのより道なんだから。だから、お互いのためにも、今回の試練はなかったことにしよう————」
世界が光で消えていく。しかし、ソウゴにはエキドナの最後の言葉が聞こえた。
「私は墓所での君の行動を阻害しない。自由に動きたまえ、私に眩い刺激を魅せてくれ————」
「…………………」
常磐ソウゴは瞼を開き、目覚めた。
地面に伏していたその身を、手をつき立ち上がる。
ソウゴは周りを見渡す。墓所内の変化は特に何も無い。
ソウゴは、墓所から出ようと歩き出し、そして、外に出た。
「後は時が来るのを待つだけだ」
ソウゴは夜空へ視線を向ける。
「頼んだよ、パック」
その目は、未来を見つめていた。
「————うん。任せて、ソウゴ」
「……ふふっ」
とある屋根の下で、魔人は嗤う。その目に映るのは、未来の福音を授ける書、その一頁。
「やっと、未来の道標が定まったようだ」
不死身の吸血鬼と、魔獣を率いる者。
新たなる脅威が迫り始めていた。
時の王者は、試練を受けずに突破して見せた。
それを見届けた大精霊は、少女と契約を終わらせに。
魔人は書に記された新たな内容にしたがい、暗殺者を差し向ける。
物語は、転換点を向かえようとしていた。