Re:ゼロから始める魔王の異世界生活   作:きゃぷてん

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エミリアと初代ロズワールの過去はそのまますぎるんでカットしてます
申し訳ないけどそのシーンはアニメ見るなり漫画or小説読むなりしておくれ…ゴジョウサトルゥ!マンガカショウセツヲミロォ!
リューズさん関連はここで一気に回収します
色んな話詰め込んでるから結構長くなったから分けましたー


2019:魔術師と鬼と怪盗①

「ッ…………ぐっ」

 

「ガーフ、起きたの?」

 

 目覚めたガーフィールが最初に見たのはラムだった。

 

「……ああ、目が覚め……だっ!?」

 

「ならいい加減どきなさい。足が痺れたの」

 

 強引にラムは膝に乗っけていたガーフィールをどかした。

 

「……相変わらず、優しさの欠片もねぇ女だな」

 

「優しくする価値のある相手に、優しくしてあげなきゃいけない場面ならラムだってそうするわ。そうしていないということは、そうでない場面ということよ」

 

「……俺様に、その価値はねェか」

 

「なんて言ってほしいのか透けて見える発言ね。女の本音が聞きたければ、もっと工夫しなさい」

 

「あで」

 

目を伏せる額を、ラムの指にデコピンで弾かれる。された部分を押さえるガーフィール。

 

「……ガーフ、貴方馬鹿なんだから、考えるだけ無駄よ。今後は何も考えずに、頭空っぽで戦いなさい。今後はラムやエミリア様の為にね」

 

「はあっ!?」

 

 驚いたガーフィールはすぐさまラムの発言に食らいついた。

 

「ざっけんな! 負けたのは認める! けどな、認めるのと降るのとは話が別だ! 俺様ァ、今もピンピンしてる! 何なら、今から続きをやっても……」

 

「つべこべうるさい!」

 

 覇気と共に怒鳴りつけたはずが、ラムの一喝にガーフィールは息を呑む。

 

「負けたでしょう、ガーフ。いつまでもうだうだと、好きな女の前でどれだけ惨めになれば気が済むの」

 

「う…………だ、だからって、へらへら笑って、てめエらの列に並べってのかよ?その方がよっぽどできるわけッねェ! 負けたのは認めても、間違ってたとは認めてねェ!」

 

それは、苦し紛れでも言い逃れでもない、ガーフィールの本心だ。

 

「そォだ、負けは認める。……でも、俺様は、自分が間違ってたとは思わねェ。こんな、半端な気分で」

 

これまでの自分を裏切れない。ラムたちに、形だけでも降ることなんて不可能だ。

 

「半端に留まっていたくないなら、立ち止まっていないことを証明すればいいわ」

 

「......なんだと?」

 

荒い息をつくガーフィールに、ラムが静かな声でそう言った。

 

ラムが腕を持ち上げ、その白い指を彼方に向けている。その先をガーフィールは見た。

 

「墓所、『試練』......」

 

「ガーフが変われるのか、それとも蹲ったまま動けない小さな子どものままなのか」

 

「否定、したくなる言い方してんじゃねェよ……」

 

ラムの言葉に抗弁して、ガーフィールは喉を鳴らし墓所を目を鋭くして睨みつける。

 

「……覚悟、決まった顔しているわね」

 

振り向くガーフィールの隣に、立ち上がるラムが並び立った。

 

「まぁ、大丈夫よ、ガーフ」

 

ラムは珍しく声音に温かみを聖かせながら、剥き出しのガーフィールの肩を軽く叩いて、

 

「泣くほど怖い日に遭ったらラムが慰めてあげるわ。古い付き合いの好で、ね」

 

 

 ガーフィールは墓所の前に立っていた。彼は光を灯したそれの中に入っていく。

 

「長居はしたくねぇもんだな」

 

 そう言いながらも歩を進め、通路の奥へ。

 ガーフィールが試練を受けるのはラムが話したのでソウゴ達も知っている。

 

 ガーフィールはやろうと思えばこの墓所を破壊できる。その可能性に彼らが気づいてない筈がないだろう。つまり、破壊されないと確信があるのだ。

 

 扉へと辿り着き、開いて部屋の中へ入るガーフィール。

 

『まずは己の過去と向き合え』

 

その声を聞いて、気を失った。

 

 

 目を覚ましたガーフィールは辺りを見回した。

 

 自身は森の中にいて、近くには人がいた。

 

リューズと幼いフレデリカ、そして赤ちゃんを抱いている女性が。

 

「……母さん」

 

 そう、彼女こそがガーフィールとフレデリカの母である。


『どうしても行くんじゃな?』

 

『ええ、行きます。リューズ様にはご迷惑をおかけしますけれど……』

 

『別にそんなことは気にはせん。問題はこの子達の気持ちのほうじゃ』

 

 渋い顔をしたリューズと母が会話していた。フレデリカが母のスカートを掴む。

 

『お、お母様……わ、わたくしは……』

 

『ごめんね、フーちゃん。あなたにも、たくさん心配をかけちゃうわよね』

 

『いいんです。わたくしは大丈夫……でも、ガーフが可哀想で』

 

『一緒にいきたいけど、お母さんドジだもの。きっと、ガーちゃんに大変な思いをさせちゃうわ。フーちゃん、お母さんの子なのにしっかり者だから、お願いね』

 

 その後、母は自分の首飾りをフレデリカに渡す。

 

『これを二人に。フーちゃんとガーちゃんに』

 

 それは青い輝石が嵌め込まれたものだった。

 

『ガーちゃん、お母さん、いってくるわね』

 

呼びかけながら、母はガーフィールに首飾りをかけ、微みかける。

 

『きっと、あなたのお父さんを連れて戻るから。それまで待っていてね』

 

「ッ!」

 

母は何度も何度も、赤子のガーフィールの額に口付けする。

 

そうしてからようやく、幼いガーフィールをリューズへ手渡した。

 

しっかりとガーフィールの体を抱き、頷くリューズに母は微笑む。

 

母はそれからフレデリカと抱き合い、息子にしたのと同じように額に口付けた。

 

「お母様は、わたくしのことも、ガーフのことも、愛してくれていましたわ」

 

弾かれたように、今の自分へ向けられた声にガーフィールは顔を上げた。

 

ガーフィールに声をかけたのは、幼い姿の姉だった。

 

世界が静止していた。母は、リューズは、幼い自分は。ただ姉と、今の自分だけが。

 

「家族のためにお母さんは聖域を出た。そのことに、不満があるんですの?」

 

「ッ、ふざっけんな! 愛されてて、それがなんだよ! 俺様に何が……」

 

「愛されていない方が、気が楽だったですものね」

 

 幼いフレデリカがガーフィールを憐れむように告げる。

 

「愛情が一方通行だと思っていれば、自分の傷を正当化できる」

 

「違う……ッ!」

 

「愛していて、愛されていて……そうだったと思い知ってしまったら、『聖域』に残る選択をした自分を、正当化できなくなりますものね」

 

「違うッ! 何にも……知らねェくせに! 母さんが、このあと!」

 

「知らないはず、ないでしょう」

 

 フレデリカは涙を堪える表情でガーフィールを見ている。

 

「知らないはずがないでしょう。仮にお母様が、聖域を離れてすぐに不幸に見舞われたのだとしたら……それを、聞かされないはずがないでしょう」

 

「だったら……だったら、なんで……!」

 

「それを幼いあなたが聞かされなかった理由は、わかるでしょう? ガーフ。あなたはもう、幼い子どもではないのですから」

 

母に何があったのか、フレデリカは知っていた。きっとリューズも、他の住人も。幼いガーフィールだけが、変わらず幼くあり続けた自分だけが、知らなかった。

 

多くの思いやりを踏みつけにして、ガーフィールは頑なになっていた。

 

「額の傷は、お母様の口付けを忘れたくて、なかったことにしたくて付けたのでしょう」

 

額の白い傷痕。幼い、母に抱かれていたガーフィールにはなかった傷。

 

この傷ができたのは、初めて『試練』に挑んだ直後だ。母の死を知り、錯乱状態に陥ったガーフィールは、壁に頭を叩きつけ、消えない傷を刻んだ。

 

「過去が、終わりますわね」

 

フレデリカが呟く。

気付けば、過去の世界は徐々に形を失いつつあった。

 

「待って、待ってくれ……俺様ァ……どうしたらいい?」

 

「まったく……こんな小さいお姉ちゃんにまで頼らなきゃ、答えも出せませんの?」

 

「情けッねェのはわかってる! けど、姉ちゃんしか頼れねェ。なア、教えてくれ……姉ちゃんはどうして外に。俺様も、外に、いけばいいの……」

 

「ガーフは、どうしたいんですの?」

 

一瞬、ガーフィールは言葉に詰まった。自分がしたいことの話なんてしていない。

 

だが、ガーフィールは息を呑んで、

 

「……求められてることを、してェ」

 

「誰の、求めることをですの?」

 

「俺を……俺様を、必要としてる奴らに、求められてることをやりてえ」

 

「どうして、そんな風に思うんですの?」

 

「そいつらが……俺のことを想ってくれたからだ。————母さんが俺を愛してくれたように」

 

次の瞬間、夢の世界は白く薄れ、彼方へ消えた。

 

 

 試練に挑戦したガーフィールをラム達が見送り、小一時間が経過。

 

「ガー坊!」

 

 声を上げたのはリューズだった。そして側にはもう一人の白いリューズもいた。白い彼女はリューズ・シーマ。詳細な事情は省くが、リューズのクローンである。

 

 試練を受ける前に、繋がりのあったガーフィールが彼女に一連の出来事を伝えた。そして不安になって事の顛末を見届けようとしたのだ。

 

 当然だが、エミリアやゲイツは二人のリューズがいることに驚いていた。ウォズは大量のクローンを見たことがあるので驚いてはいなかった。とにかく、リューズの詳しい話は後ですることになっていた。

 

 二人のリューズは墓所から出てきたガーフィールを迎える。

 

「が、ガー坊。その、ワシは……ワシ達は……」

 

「似合わねぇ面してんじゃねぇよ、ババア達。……心配かけて悪かった」

 

 と、リューズ達の頭に手を置くガーフィール。

 

「ガーフ、どうだったの?」

 

 ラムがガーフィールに結果を問う。

 

「目に見えてどうだっつーのはねぇな。こんなもんかって感じじゃねえか? ……でも、区切りはつけてきたつもりだ」

 

 そう言ってガーフィールは鼻から深々と息を吐く。

 

「それとなんだがよ……俺様が試練に納得できたのは、多分テメェらのおかげだ……ありがとよ」

 

 ガーフィールがゲイツとソウゴを見て言った。礼を聞いた二人は、ただ静かに微笑む。

 

「でもあんだけ俺様に好き勝手言って、ぶっ飛ばしてくれたんだ。ここが開かれて、ババア達が不幸になったら許さねえからな!」

 

「分かってるよ。不幸になんかさせない。それが俺の王様としての務めだしね」

 

「俺も救世主を名乗ったからな……ここにいる間、責任は持つつもりだ」

 

「はっ! テメェらがただの口だけ野郎じゃねえってことをしっかり見届けてやるよ! うまくやれや、大将! ゲイツ兄ィ!」

 

 ガーフィールは歯を剥き出しにして笑いながらソウゴとゲイツの肩を叩く。

 

「……大将って俺?」

 

「あぁん? そうだよ、さっき王だとか言ってたろ? だったらそう呼ぶのが筋ってもんだと思ってな」

 

「そっかー……」

 

 嬉しそうな顔をするソウゴ。その顔を向けられてガーフィールは恥ずかしそうに顔を赤らめリューズ達の方へさっさと行った。

 

「ゲイツ兄とか呼ばれたが……そういえばアイツは幾つなんだ?」

 

「今年でようやく14になるわね」

 

「…………めっちゃ年下〜…………」

 

ゲイツからの質問に対するラムの回答にソウゴは呟いた。

 

 

 翌日。

 

 今夜にエミリアは改めて試練を受けることになる。

 

「……うん、分かった」

 

 電話していたソウゴは耳からファイズフォンXを離す。

 

「昨日、屋敷の方に襲撃が来てたみたい。ツクヨミ達がどうにかしてくれたけど」

 

「確実にロズワール氏の差し金だね」

 

「後は、ベアトリスの持ってた本が変化して、そこから紫の剣士のライダーが召喚されたってさ」

 

「紫の剣士のライダー……覚えがあるものなら、クウガやサソード、ネガ電王辺りが該当するが……他にどんな特徴があったかは聞いてるかい?」

 

「んーと……ドラゴンみたいな鎧と金の剣を持ってるって」

 

「……恐らく、未来で誕生した新たなるライダーを召喚した可能性があるね」

 

「未来のライダー……」

 

 ウォズの言葉を聞いたソウゴは、かつて夢で見たネオンイエローの仮面ライダー……ゼロワンのことを思い出す。

 

「ベアトリス君の持ってた本が変化したというのは?」

 

「なんかオーマジオウウォッチが光ったら変化したって」

 

「なるほどね……召喚はそれが理由か。それにオーマジオウの力なら未来のライダーの召喚も不可能ではないだろう」

 

 納得したように頷くウォズ。

 

「まあとにかく……屋敷の襲撃は阻止できた。後はロズワールがどうするかだね」

 

 

 夜、墓所の前にエミリア達がいた。

 

「……あんまり長居しても、覚悟が鈍るだけよね」

 

 真剣な眼差しでエミリアは墓所を見つめていた。

 

「いける?」

 

「うん、行くわ。ガーフィールに続いて、それから追い越してみせる」

 

「できんのかよォ」

 

「やるわ。変わっていくこと、もう怖がらないことにしたから」

 

 ソウゴとガーフィールからの問いに力強く頷くエミリア。それを見たガーフィールは歯を見せてニッと笑い、ソウゴも薄く微笑む。

 

「それじゃ、行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

 ソウゴが見送りの言葉を送った後、エミリアは意を決して墓所の中に入っていった。

 

 そして————。

 

「あれだけボロボロになって、よくここに挑めるね。常磐ソウゴに依存して立ち上がった君に、真実が受け止められると思っているのかい?」
 

「……私はエミリア、ただのエミリア! 同じ魔女の悪意になんてもう屈してあげない。誰が認めなくても、私は最高の王様、常磐ソウゴの民なんだから!」


 エミリアはエキドナに向けて、自信ある笑みを浮かべてそう告げた。

 

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———。

 

——。

 

 試練の中で、過去の世界の全てを見届けたエミリアは、氷漬けになった幼い自分を前に立ち尽くしていた。

 

かつて故郷に起こった何もかもを、エミリアは全部思い出した。

 

謎の力を使う少女のことを、フォルトナの死を、ジュースの狂乱を、故郷が氷に閉ざされた理由も、何もかも。

 

幼き日のエミリアは全てを忘れて今日まで生きてきたのだ。

 

「記憶の改竄に関して自分を責めてるのなら、それはお門違いというものだよ」

 

 声をかけてきたのはエキドナだった。彼女は氷漬けになった幼いエミリアを眺め、

 

「君たちが相対していたあれは虚飾の魔女だ。薄っぺらで自議な論理を振りかざし、事象を自分好みに書き換える。歪な記憶の補完は、『虚飾』の権能で間違いない」

 

「虚飾の魔女……」

 

「生き汚さの極地のような権能だ。単純な力で言えば、幼い日の君はパンドラを凌駕していた。ただ、あれの強みとの相性がこれ以上ないほどに悪かっただけでね」

 

「パンドラのこと、聞いたら教えてくれる?」

 

「……他人との会話を好ましく思うボクだが、君に限って話の脱線はお断りだ。ダメかもしれないけど聞くだけ聞いてみよう、なんて意気込みで質問されるのも気に入らない」

 

「そっか。……ありがと」

 

悪態をつかれて礼を言ったエミリアに、エキドナは唇を歪める。

エキドナの変わらぬ態度に救われる。そのぐらい、過去は救いようのないものだった。

 

かつての記憶は本当の意味で、エミリアの人生をひっくり返していったのだ。

 

凍て付く森からみんなを救い出すと、その一心で王選に身を投じたのに。

 

「皆が氷像にしたのは私で……それも、皆が私を、助けようとしてくれてて」

 

その想いに応えられず、結局は全員を氷漬けにしたのだ。

氷から解放されたエミリアは記憶をなくして森で過ごしてきた。毎日、氷像と化した仲間たちの世話をし続けたのは、そうしなくてはならないと強い使命感に急き立てられたもので————それが贖罪のための、罪悪感だったとも気付かずに。

 

「君は『過去』を思い出し、『後悔』を見届けた。だが、『試練』はまだ終わらない。過去は滞りなく暴かれた。『試練』に挑んだ君の後悔、最も強い過ちの記憶を辿る旅はこれで終わりだ。あとは、答えを出さなくてはね」

 

「『試練』に対する、答え……」

 

「第一の『試練』は、己の最大の後悔に決別することで達成される。過去の自分を肯定するか、否定するか。拒んだとしても、それは選択だ。選択し、結末を選ぶことが尊い」

 

エミリアは深く息を吐いた。パックとの契約を失い自分を取り戻すことで、エミリアは己の記憶の蓋を開け、ここに辿り着けたのだ。

 

「だとしても、逆に君は途方に暮れたかもしれないね。なにせ、君にとっての決意の出発点は汚された。他ならぬ君自身の罪で、君の母は、友人は、家族は氷像と成り果てた」

 

エキドナは言葉でエミリアを切り刻む。凍結した森と、氷像と化した仲間たち。森は魔獣の病魔に侵され、母は失われ、ジュースもまた心を壊し。

 

村のみんなを、母を、救いたいと願ってエミリアは森を出た。

 

なのにその決断は夢物語でしかなく、大事な第一歩目から盛大に踏み外して、自分は奈落へ落ちてゆく。こんな自分に、何が残されているだろう。

 

「それは、もう教えてもらったもの」

 

答えに惑いかけたエミリアの心を、力強く記憶が繋ぎ止めてくれた。

 

 自分が尊敬している王に抱きしめられた時の温かさが、与えてくれた言葉が、エミリアの心に火を灯す。

 

「母様は、私を愛してくれていたわ」

 

「…………」

 

「私は母様を…………フォルトナ母様を、助けてあげたかった。また抱きしめてもらって、一緒のベッドで眠りたかった。大好きって、何度でも伝えたかった」

 

「なら、後悔しているかい?」

 

魔女の問いかけは、決断を迫られたときのことを問うている。

あのとき、エミリアが約束を破ることを選んでいれば、フォルトナもジュースも、みんなも無事だったのだろうか。過去を振り返り、やり直せるのならそうかもしれない。だとしても

 

「後悔なんて、しないわ」

 

「…………」

 

「約束を守って、あの場所を譲らなかったこと、後悔しない。私が後悔するとしたら、あのときに力が足りなかったこと。賢く頑張れなかったこと。母様の言いつけを破って、パンドラの言いなりにならなかったことを後悔するなんて、絶対にしてあげない」

 

だって、フォルトナは最後まで言ってくれたではないか。

約束を守ったエミリアを誇りに思うと、あなたは自分の宝物だと。

その言葉こそ、エミリアの中にずっと残り続ける宝物だ。

 

「その母親は救えない。君は、戦う意味をなくしたんじゃないのかい?」

 

「そんなことないわ。母様は……救えなかった。でも、村のみんなはまだわからない。みんな、氷の中で眠りながら、今も待ってくれてる」

 

「氷像になって百年以上、森は黒蛇に汚染されてもいる。仮に凍土が溶けたとしても、肉体を病魔に蝕まれていたら? 先祖代々の土地には決して残れないとしたら?」

 

「そんなの想像だわ。それも悪い想像よ。氷の中でみんなは助けを待ってる。早く起こしてあげて、私はみんなに怒られるの。それから、生きててくれて良かったって笑うのよ」

 

「馬鹿げた妄想だよ」

 

「いいえ、幸せな未来予想だわ!」

 

切り捨てようとするエキドナに、エミリアは強く言い切って前に出る。

 

「誰にも、まだ見えていないものは否定させない! 母様が残してくれたものが、そんな悲しいことに終わるなんて認めない! 母様の理想は、私が遂げてみせる!」

 

「理想? 君の母親が、いったい何を求めていたって言うんだい?」

 

「母様は言ってたわ。いつかみんな森を出て、普通に暮らせるときがくる。ジュースたちと村のみんなが仲良くできてたみたいに、母様とジュースが並んで歩けたはずの世界が、きっとくるわ!」

 

「そこに、氷像となった村人の姿があると? 君がその手で氷漬けにしておいて」

 

「すごーく謝る。何度も何度も、何度だって許してもらえるまで謝る!それで許してもらえたら、みんなに世界を紹介するの。もう、隠れて暮らす必要はないのよって。ここが、フォルトナ母様の言っていた世界なんだって!」

 

息を吸い、エミリアは胸いっぱいの言葉を叫ぶ。

いつしか二人は雪景色ではなく、白い光に包まれた世界の中にいた。

 

「声を嗄らして夢を謳って、空の上にいる母様に聞こえるように言うの! 母様の愛した世界で、私は幸せでいるよって!」

 

瞬間、音を立てて世界がひび割れた。

白い空間に裂が走るのを見て、エミリアはようやく様変わりした景色に気付く。目を丸くするエミリアの前で、エキドナは深く嘆息する。

 

「なるほど。理解したよ。わかっていたつもりでいたが、ボクの想像以上だ。押し付けがましく、傲慢で、独りよがりで、身勝手で、偽善の押し売りだ」

 

「そうね。ダメ?」

 

「別に、どうとも思わない。ただ、君のそういうところは母親そっくりだよ」

 

整った眉をしかめてみせるエキドナに、エミリアは驚いて眉を上げた。

 

「あなた、私の母様を……フォルトナ母様じゃない、もう一人の母様を知ってるの?」

 

「知っているよ。ボクが君に対してこれほど感情的になってしまうのも、それと無関係じゃない。どうして君ばかりが、とやっかみのようなものではあるけどね」

 

拗ねた風に目を逸らしたエキドナの姿がふいに乱れ、エミリアは目を見開く。

同時にエミリアは視界がぼやけ、意識が重くなるのを感じた。手足に熱が通っていく実感があり、夢から覚めるのだと理解する。

 

「これで『試練』は終わりだ。どれだけ独りよがりな結論であれ、過去の決着に違いはない。母の犠牲を覚悟の言い訳にして、せいぜい身勝手な願いを貫き通すといい」

 

「好きに言ってくれていいわ。私、エキドナの悪態、慣れてきたもの」

 

腰に手を当てて、エミリアは最後まで憎まれ口を叩き続けるエキドナに真っ向から向かい合う。エキドナはやれやれと首を振り、

 

「残す『試練』はあと二つ。せいぜい、君の無様な苦闘に期待したいところだが……」

 

「え、待って!『試練』って、まだあるの? あと二つも? 全部で三つ?」

 

「数は数えられるようだね。その驚きで少しは溜飲が下がる……と言いたいところだが、口情しいことに、残る「試練』はあまり君には堪えないだろうね」

 

「そう、なの?」

 

「開き直りってものはいつだって、自身への問いかけの天敵なんだよ。君の内面に踏み込む『試練』は、今の君とはすこぶる相性が悪い。ある種の思考放棄なわけだからね」

 

「なんだかそれ、何も考えてないって言われてるみたいですごーく、心外」

 

エキドナの講釈にエミリアは不満を露わに頬を膨らませる。しかし、それ以上にやり取りする時間はない。魔女との対話、『試練』の時間が終わりを迎える。

エキドナの姿が光に呑まれ、エミリアの意識も光の中に霞み始める。最後に、エキドナが悪意に満ちた微笑みを浮かべ、

 

「ボクは君が嫌いだよ」

 

「でも私、そんなにあなたのこと嫌いじゃないわ」

 

エミリアの答えにエキドナがどんな表情をしたか、見なくてもわかった気がした。

 

 

エミリアが一つ目の試練を終える少し前。


 エミリアを見送った後、ソウゴとウォズとガーフィールは、ロズワールの元を訪れていた。

 

「……何ともまあ、丁寧に飼い慣らされたものだね、ガーフィール」

 

 ガーフィールを見て失望するよう、嘆息気味に非難したロズワール。

 

「あれだけ威勢よく余所者に噛みついていた君が、今やソウゴくんの元に下ったというわけだ。その変わり身の早さには驚かされるよ。君が心の奥底で大事に守り続けてきた母への愛情すら簡単に破り捨てるとは、ね」

 

 ガーフィールの心を切りつけようとするように非難を続けるロズワール。だが、

 

「……テメェの言葉は軽いな、ロズワール」

 

「何?」

 

「俺様が半端って話なら否定できやしねェよ。ほんの何時間かで、俺様が大将の方にッついてんのは本当のこった。変わり身が早ェってそしりも受けてやらァ」

 

「変わり身の次は開き直りか。君がこれまで解り続けたきた想い……決して短くない、十年の月日を費やしてきた願いはどこへ消えてしまうんだい? 願いは、消えてなくなりはしない。本当に愛していたのなら、想いは決して形を変えないはずだ。君の十年は、そんなに容易く形を変えてしまうものだったのか?」

 

嘆かわしいとばかりに、ロズワールの声音に暗い熱が増していく。

 

「たった数日、ソウゴくんと接して何がどれだけあった?愛したものへの想いと匹敵するほどの何かを、彼と積み上げたか?そんなはずがない。愛したものに並ぶほどの想いなど、何を積もうと届くものか。一番に何かを想うとは、そういうことだろう」

 

声は静かで、なのに熱があって、心変わりを糾弾するように始まったはずのそれは、しかし訴えかけるように、懇願するように、聞くものの心を悲痛に打とうとしていた。

 

「……それとも、愛していなかったのか?ガーフィール」

 

ガーフィールの変化を、ロズワールは否定しようとする。

十年を費やした愛情を、一度出した結論を、違えようとするガーフィールを否定する。

 

「君は母を、家族を愛していなかったのか?だから、簡単に違うものに心を委ねられるのか? 鍛え続けてきた力及ばず、牙をへし折られた程度で曲がる想いが君の十年間なのか? だとしたら、君の愛を脆く儚い物にしたのは、君自身の過ちだ」

 

表情を変えず、ロズワールは言葉のみでガーフィールの心変わりを弾劾する。

 

「てめェの言葉は軽ィなァ、ロズワール」

 

弾劾を受けたガーフィールが、ロズワールに再び言った。

 

表情は変わらず、感情は堪えず、態度は刺々しく。眼差しは、どこか哀れむように。

 

「てめエが、俺様をどォ詰めようと知ったことかよ。だが、勘違いだけはすんじゃねェ」

 

「……勘違い?」

 

「俺様ァ別にケンカに負けたッてだけで大将についたわけじゃねェよ。負けは確かに効いたがよオ、それぐれェでひっくり返るほど俺様

のおつむもやわッこくねェしな」

 

とんとんと、自分の頭を指で叩いてガーフィールが牙を鳴らした。

 

静かに熱を増すロズワールと対照的に、ガーフィールの闘気は冴えていく。

 

「てめェの言う通りだ、ロズワール。俺様は十年、ずっと過去に揃ってた。……そのことをてめぇに打ち明けた覚えはねェが、今さら知ってたッことに驚きゃしねェよ」

 

「…………」

 

「その過去と、十年ぶりにやり合ってきた。大将が……っつーか、ラムか。ラムに言われてよ。墓所に入って、過去と……で、俺様はこっちに立ってる」

 

自分の足下を指差し、ガーフィールが自分が立つ瀬を決めた理由を表明する。

 

「過去と、相対したのか。ガーフィール、君が」

 

その宣言に、ロズワールの双眸は見開かれる。

ガーフィールが再び、自分の過去を望むために墓所に挑んだ事実を、直視して。

 

「自分の過去には勝てッこねェ。俺様もそォ思ってたぜ。だから、てめェが同じとこで足踏みしてッても俺様は笑わねェよ。笑えやし

ねェ」

 

「…………」

 

「俺様が中で何見て、どうして大将につくのか話してやるつもりもねェ。けどな、一個だけ、俺様がてめェじゃなく、大将につく気になった決定的な理由を教えてやらァ」

 

先ほどの意趣返しのように、今度はガーフィールがロズワールに言葉の刃を向けた。そして彼は牙を見せ、立ち塞がる障害たるロズワールに言い放つ。

 

「弱ェ弱ェそのまんまでいろって言われるより、お前はもっと強くなれって言われる方につきたくなんのが当然だろォがよ」

 

シンプルなガーフィールの言葉、それがロズワールへの答えだった。

その断言を終えて、ガーフィールはふてぶてしく腕を組む。

 

「……ガーフィールは過去を見た。それで俺たちの味方になっても、家族への想いが消えるわけじゃない。ガーフィールは変わらないで変わったんだよ。それが分からないの?」

 

「……分かる必要はないさ。そもそも、ソウゴくんは何しにここへ来たのかーぁな?」

 

「アンタに降伏勧告をしに来た、ってとこかな。ここのこと、リューズ・シーマから全部聞いたよ」

 

「…………」

 

 

 昨日、ガーフィールが試練を受けた後のこと。

 

 一同は墓所の前で集まっていた。

 

「じゃあ話してもらおうか、ガーフィールくん。あの時いた大勢のリューズ氏と、今目の前にいる白いリューズ氏について」

 

 ウォズがガーフィールに問いかける。今回、彼を説得することによってようやくリューズの謎に触れることができるのだ。

 

「ババア……」

 

「ワシが話そう。ウォー坊が見たという大勢のワシと、今ここにいるもう一人のワシ。そしてワシ自身……全員、リューズ・メイエルの複製体じゃ」

 

 ガーフィールが黒い方のリューズを見る。視線を向けられた本人が語ることとなった。

 

「複製体? リューズ・メイエル?」

 

「順を追って話す。かつて強欲の魔女は実験を行っていた。その内容は、不老不死を実現させるためにワシら複製体を作ることじゃ」

 

「不老不死を実現? それが複製体を作ることとどう繋がるんだ?」

 

 いまいち繋がらなかったのか、問いかけるゲイツ。

 

「複製体はワシらを除いて、中身が空でのう。その空の複製体に記憶や魂を注ぐことで、不老不死を実現しようとしたんじゃ」

 

「なるほど、仮に身体が古くなっても、その都度新しい複製体を用意して同じ手順を踏めばいい……一種の不老不死ではあるね。……しかし、我が魔王は墓所で魔女に会ったと聞いた。計画は成功しなかった、ということかな?」

 

「その通りじゃな。どうやらリューズ・メイエルの器では、強欲の魔女を受け入れることが出来なかったんじゃ」

 

「型に嵌まらなかった、とでもいうべきか。複製体というのは今も作り出せるのかい?」

 

「うむ。とある場所にある魔晶石に一定のマナが蓄積されると生まれる。自動的にな」

 

「言うなれば、全自動の複製体工場か。ガーフィールくんは複製体達を使役してるように見えたが、複製体は人の言うことをホイホイ聞くものなのかな?」

 

「それはガー坊が強欲の使徒だからじゃよ。使徒は複製体への指揮権を持つ。それと強欲の使徒というのは、魔女エキドナの走狗のようなものじゃ」

 

「ほう、ではガーフィールくんはエキドナに会ったと?」

 

「いや、会ったことはねぇ。けど俺の記憶にねェだけで、何か小細工はされてたのかもしれねぇな」

 

「……なら、ジオウも複製体の指揮権を持っているのか? 魔女に会ったのだろう?」

 

 ゲイツがソウゴを見て問いかけた。

 

「うーん……何かされた感じはしないから分からないな。そういう力が使えるって感じもしないよ」

 

「ソー坊の言葉からは強制力のようなものは感じられん。恐らく使徒ではないんじゃろう。使徒というのは何かしら証を与えられるもの、記憶が確かなソー坊に覚えがないならそうなんじゃろうな」

 

「証か。そんなものは貰わなかったけど」

 

「むぅ、そうか。どういう意図なのかは理解できぬが…‥まあ良い。話の続きじゃが、魔女は今度は魂の総量を操作することで器に適応させられないかと考えた。しかし、嫉妬の魔女が呑み込んでしまったことにより間に合わなかった」

 

「そしてこの場所と複製体だけが残ったわけか」

 

「アンタは外に出よう、とかは考えなかったの?」

 

 ソウゴが問いかける。

 

「それは契約の縛りじゃな。ワシは複製体として、最初の四体の一人じゃ。ワシらは増え続ける複製体と『聖域』を管理するために、知識と人格を与えられた。今も、その役目を続けておるよ、代わる代わるな。ここにいるもう一人のワシも、4体のうちの1人じゃ」

 

「名前は……全員同じ、とかじゃないよね?」

 

「そうじゃな。ワシはリューズ・デルマ。こっちはリューズ・シーマ。残りの2人はアルマとビルマじゃ」

 

「代わる代わると言っていたね? それはどうしてだい?」

 

 今度はウォズが疑問を問いかけた。

 

「ワシら複製体の体は血肉ではなく、疑似的なオドにマナを纏わせてできておる。マナは活動に応じて消耗し、丸一日、活動し続けることはできん」

 

「それで役割を交代でやっているのか」

 

「だが、こっちのシーマは別じゃ。10年前に問題があってな。創造主である魔女との誓約に逆らった。故に、役目を外されたのじゃ」

 

「誓約?」

 

「リューズ・シーマは誓約に逆らい、墓所に立ち入った。言いつけを破り、墓所の『試練』に挑んで戻らなかったガー坊……ガーフィールを連れ戻しに、な」

 

「…………」

 

 ガーフィールは苦い顔をして少し俯く。

 

「だが、ワシは墓所に入ったおかげで聖域のことについて知ることが出来た。リューズ・メイエルのこともな」

 

 シーマが言う。

 

「今度はワシの番じゃ。語ろう、リューズ・メイエルのことを。聖域やロズ坊のことを。始まりは、まだここが聖域と名付けられる前のことじゃった」

 

—————————。

 

———————。

 

——————。

 

—————。

 

————。

 

———。

 

——。

 

「……これが、ワシが見たリューズ・メイエルの過去じゃ」

 

 シーマは全てを語り終える。

 

 かつて聖域を襲ってきた『憂鬱』の男のこと、400年前から存在していたベアトリスのこと、リューズ・メイエルが取った行動、聖域が魔人へ対抗する為に作られたこと、それら全てをソウゴ達は聞かされた。

 

「……話を聞く限り、リューズ・メイエルの献身は上手くいったんだろうね。この聖域が現存してることが何よりの証明だ」

 

「……しかし、それはワシの知る聖域の在り方とは余りにも違いすぎる」

 

 話を聞いていた一同の中で一番動揺が大きいのはリューズ・デルマだった。

 

「……リューズは何処で聖域の役割を知ったの?」

 

「……ワシらは管理者としての役割を与えられた最初の複製体。知識の目的は最初から会った。しかし、それを疑ったことなど……」

 

「最初はワシも飲み込めんかった。結果、行動や考えに正常性をなくして、管理者としての役割を失ったわけじゃろうな」

 

困惑するリューズに、同じ衝撃を十年前に乗り越えたシーマが餅きかける。今はまだ、リューズも冷静に受け止め切ることは難しいだろう。

 

「とりあえず今は話を進めよう。憂鬱って何者なの?」

 

「ラムは、『憂鬱』なんて存在のことを聞くのは初耳よ。『強欲の魔女』ですら名前程度の知識だけど……『憂鬱」は正真正銘、聞いたこともないわ」

 

「俺様も知らねェ。……シー婆がボケてんじゃなけりゃァ、どォいうこったよ」

 

 ソウゴの疑問にラムもガーフィールも首を横に振る。

 

「大罪の魔女だって、その存在ぐらいは歴史に残ってる。それなのに、歴史に残っていない大罪だなんて。しかも、聞くだに凶暴だった存在だし、絶対何かあるわ。

 そもそも、『聖域』が作られた目的すらリューズ様に隠匿していた。つまり、『憂鬱』の存在は意図的に消されているのよ。その目的まではわからないけど」

 

「少なくとも、深い事情があるのだろうということは確かだ。リューズ氏達にも伝えて無いあたり、よっぽどなのだろう」

 

 ラムの言葉を聞いて、ウォズはそう結論付けた。

 

「じゃ、ここが不老不死の実験場として機能し始めたのは、憂鬱を撃退した後ってことかな」

 

「恐らくだが、そうなんじゃろうな」

 

 ソウゴの言葉にシーマは頷く。その後、ゆるゆると首を振りながら言い始める。

 

「……結界を解くことが、リューズ・メイエルの望みを、ワシらの始祖の願いを踏み躙るのではないかと、ワシはずっと恐れておった。時間が経てば、時代も変わる。かつて、この地へ追いやられた同胞……禍血と呼ばれた混血への扱いも、少しは風通しが良くなった。そんな言い訳で、始祖の願いを騙して」

 

「……不安なのはわかるよ。嫌な思いは、森の外にいってもするかしれない。でもエミリアが自分の理想を叶えたら、終わらされた『聖域』はまた始まる。世界中が誰にとっても『聖域』って言えるようになるよ。そうでしょ、エミリア?」

 

「ええ」

 

 ソウゴからの呼びかけに頷いて応じるエミリア。

 

「……そうか。うっ」

 

「シーマ?」

 

「安心せい。活動の限界が来ただけじゃ」

 

ふらついてラムに支えられたシーマをソウゴが心配する。その後直様、本人が説明してくれた。

 

「……預けたぞ、ソー坊、エミリア様」

 

「……うん、任せて」

 

「……ええ」

 

 リューズからの言葉に2人は頷く。それからリューズはラムに体を預け、意識を手放した。

 

 

「……これが、俺が聞いた全てだよ」

 

 ソウゴはロズワールに、リューズから聞いたことを説明し終える。

 

「……なるほど、ね。情報の有利も全て自分にあるから、私に降伏を迫ってきたと言うところかな?」

 

「そうだね。ロズワール、アンタの目論みはもう終わりなんだよ。屋敷の襲撃も阻止したし、ガーフィールのことも説得し終えた。後はエミリアが試練を突破するのを待つだけ。それでもアンタはまだ挑むの?」

 


「君は確かに魔王だ。私の悲願を完膚なきまでに叩き潰そうとする、まさに魔王だ。しかし、その程度で崩れ落ちるほど私の四百年は甘くはない。

 それにだ、エミリア様が試練を超えることができると、君は本気で信じてるのかい?」

 

「当たり前でしょ。乗り越えるよ、エミリアは」

 

「乗り超えられるものか。寄る辺をなくし、自分の抱える後悔に押し潰され、変われるなんて大望を抱いたことを悔やみ、泣きじゃくって君に縋る。彼女にはそれがお似合いだ」

 

「泣いたなら、また笑えるように俺はエミリアを助けるよ。それに、エミリアは思ってるほど、もう弱くは無いんだよ。————お前如きが、人の強さを勝手に見くびるなよ」

 

「お前如き、ね。そうか、そうだね、そう呼ばれるほど、私は君に追い詰められている。だが、私の意見は変わらない。エミリア様は、試練を乗り越えられない」

 

「俺も変えない。エミリアは乗り越える。それを邪魔しようとするなら、アンタの練るどんな策でも、全部潰す」

 

 ソウゴの言葉に、ロズワールはしばし目を閉じる。その後、息を吐いた。

 

「…………これ以上、何を話しても無駄なようだね」

 

「奇遇だね、俺もそう思ってたよ」

 

「……先も言ったが、私の400年はこれで崩れ落ちはしない。故に、最後まで足掻き続けさせてもらうよ」

 

「そう」

 

 ソウゴは、その一言だけ言ってウォズとガーフィールと共にロズワールの部屋から出ていった。

 建物の外に出たソウゴ達を待っていたのはラム。

 

「その様子だと、ロズワール様との交渉は決裂したようね」

 

「ま、分かってはいたけど。正直、ダメ元な部分はあったしね」

 

「……一体どうするの?」

 

訪ねるラムにソウゴは、


「エミリアが最初の試練を突破してからの話だけど、そうなった時点でロズワールは必ず動く。屋敷への攻撃を阻止されて、もうロズワールは後がない。ならこの聖域で行動を起こす筈。そのときが、ロズワールの福音書奪取のチャンスだよ。そのために、布石になる人も用意してるからね」

 

と、そう告げた。

 

それからしばらくして、エミリアが最初の試練を突破した。

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