Re:ゼロから始める魔王の異世界生活   作:きゃぷてん

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生存報告とエタってはないよという意味を兼ねての投稿
原作そのままの部分は結構省略してるよ



2019:ライダー無双

「カッコよく、していたいの」

 

「憧れの、フォルトナ母様みたいに。優しくて強い、ジュースみたいに。一度だって私に嫌なことをしようとしなかった、タンセおば様達みたいに。最後の最後まで、私を怖がらせないように笑ってくれた、アーチみたいに」

 

「1人にしないで、守り続けてくれた、パックみたいに。大切な人のために、一番その人のためになることをしたいと願える、ラムみたいに。弱音も泣き言も絶対に言わなかった、ガーフィールみたいに」

 

「皆のために戦える、ソウゴみたいに」

 

「あの人たちに、カッコつけられる私でいたい。大丈夫だよって声をかけてくれる人が、私に大勢いたみたいに、私も誰かに手を差し伸べてあげたい」

 

「私は、大丈夫。外の世界も未来も、怖くないわ」

 

「————私に、この世界を見せてくれてありがとう、エキドナ」

 

「————君が憎い。————ただ君が、憎い」

 

「————なんだ。————思ったより、フォルトナ母様に似てなくて残念……」

 

 

「………………っ」

 

 目覚めたエミリアの視界に入り込んだのは薄暗い墓所の景色だった。エミリアは身を起こし、試練のことを振り返る。自身がフォルトナとジュースと共に過ごしている、ありえたかもしれない平和な世界のことを。

 

「私が母様と、父様を……お兄ちゃん達を、大切に思える気持ちは変わらない」

 

 その思いは以前にも増し、強くなった。この思いを持って、これからも進むのだ。

 

「これで、二番目の試練もおしまいでいいのよね」

 

 エミリアは立ち上がり、三つ目の試練を受ける準備のために外へ向かう。墓所への出入りが次の試練の切り替えの条件だからだ。

 

「お待たせラム……あれ?」

 

 外にいるだろうラムと話そうとしたが、彼女は居ない。代わりにいたのは大勢の人間だった。

 

「あ、おいでになられたぞ!」

 

 エミリアに気づいた誰かの声が上がる。

 

 エミリアの目の前にいたのは避難してきたあーラム村の住人達だった。

 

 彼らは皆、出てきたエミリアを慮る言葉を投げかけてくる。

 

「……心配してくれて、ありがとう。私は、全然大丈夫です。ただ、ごめんなさい。まだ試練は全部終わってなくて……でも、皆をここに留めておく理由はなくなったの。結界は必ず私が解いてみせるけど、みんなはもうアーラム村に帰ってもよくて……」

 

 アーラム村の住人を留めていたのは、この場所を結界から解き放つための条件だった。そしてガーフィールが考えを変えた今、彼らを留めておく理由はない。

 

「…………いえ、私どもは約束通りエミリア様を待ち続けます。貴方が終わらせると信じていますから」

 

 約束。それは、聖域に来た初日のことだった。

 

 

-初日-

 

常磐ソウゴとエミリアは大聖堂と呼ばれる場所にいた。

 

 まずはソウゴが入り、彼の存在に気づいたアーラム村の住民が寄ってくる。

 

「ソウゴ様!」「おお、よくぞご無事で!」

 

 彼らは姿を現したソウゴを歓迎する。

 

「魔女教に襲われて避難したって聞いたけど、皆大丈夫だった?」

 

「ええ、大丈夫です。死亡した者はいません。そちらも、村に異常は?」

 

「無かったよ、そこは安心して」

 

その答えに安堵する村人達。彼らの反応にソウゴは笑みを返す。

 

「ですが、残してきた畑や家畜が心配ですね」

 

「領主様のお怪我は大丈夫でしょうか?我々のためにひどい傷を……」

 

 彼らは残した村やロズワールへの心配をこぼす。

 

 彼らも自分たちが『聖域』に留められている事情は知っているのだ。そのためにロズワールが負傷したことも、解放の目途が立っていないことも。

 

「皆、聞いて! ここを出るには試練を受ける必要があるのは知ってるよね? 大丈夫、試練を受ける人がいるからさ」

 

「それって……もしや、ソウゴ様が?」

 

「いや、俺じゃない。挑むのは……エミリアだ」

 

 ソウゴの言葉に村人たちは息を呑んだ。そんな彼らの反応に頷き返し、ソウゴは聖堂の入口で待機していた彼女を手招きする。

 

一瞬の躊躇いのあと、ゆっくりと姿を見せるのはエミリアだ。彼女は緊張しながらも村人たちを見回した。

 

「ま、待たせてごめんなさい。領主、ロズワール・L・メイザースに代わって、この聖域の試練には私が挑みます。頼りないかもしれないけど……きっと乗り越えて、みんなを結界から解放してみせるから」

 

そのエミリアの宣誓に、村人たちは戸惑いながら顔を見合わせた。彼らにとって、エミリアとの関係は複雑なものだ。

 

 エミリアは世間ではハーフエルフとして恐れられ、その考えは村人達も持ってある。だからこそ、そんな彼女が自分達を助けることに戸惑っているのだ。

 

エミリアは俯いたまま、村人たちの反応を待っている。ぎゅっと唇を強く噛んだ横顔には、拒絶されることへの覚悟と、恐怖が薄く垣間見えた。

 

だが、そんなエミリアに一歩、近付く人影アーラム村の村長である老婆だ。その気配にエミリアが顔を上げると、老婆は頷いて、

 

「貴方は何故、こうして手を差し伸べてくださるので? 王選のために? 領民の支持を得たいから、頭まで下げてお救いくださるとおっしゃる。それは自然なことです。それならそれで構いません。そう言ってくだされば。ただ、私どもが恐ろしいのは、理由がわからぬことなのです」

 

「理由が、わからないこと?」

 

「……私どもの中にも、ハーフエルフを恐れる者はいます。貴方がそれを知らないはずがありません。それなのに、ハーフエルフである貴方こうする理由がわからない。ですから、知りたいのです」

 

困惑に瞳を揺らすエミリアに、老婆はその顔を見ながら真っ直ぐに問いかけた。

 

「貴方が、私どもの理解できない魔女ではないということを」

 

魔女と真っ向から比較され、しかしそれを否定しろと言われたことにエミリアは驚く。

 

一瞬、エミリアの目がソウゴの方へと振り向いた。その視線に彼は顎を引くだけ。

この場に求められているのはエミリア自身の言葉、借り物の言葉では意味がない。

 

「私には、今、立派なことを答えられる自信がありません。すごーく説得力があって、みんなを納得させられるような言葉は、何も。でも私は、王選候補者として、みんなを助けたいって思ってます。支持してほしいだとかは、あんまり考えてませんでした。それでできればみんなと、えっと、仲良くしたいとは、思っています」

 

最後の最後、急速に語調の弱くなるエミリア。そんな彼女の言い分に、村人たちは互いに無言でいる。そのまま沈黙が数秒経ち、

 

「エミリア様」

 

「は、はい」

 

「都合のいいと思われるのは承知しています。ですが、よろしくお願いします」

 

エミリアは一瞬、呆然と思考の抜けた顔をした。が、目の前で老婆が頭を下げるのを見て、意味を理解する。

 

「こ、こちらこそ、不束者ですが、よろしくお願いします!」

 

エミリアはそれ、その後もぽつりぽつりと話しかけてくる村人の対処に追われることになった。

 

 

「それに、エミリア様の活躍に期待されてるのは私どもだけではありませんよ?」

 

「え?」

 

アーラム村の人々の背後、茂みを揺らして広場へやってくる、また別の人々の姿が見えてくる。

 

「リューズさんと……聖域の、人たち?」

 

「その様子じゃと、二つ目の『試練』を終えた戻り、のようじゃな」

 

 少し息を吐き、そう言うリューズ。

 

「聖域の人たちって……こんなに、いたんだ」

 

ここに集った聖域の住人は50人ほど。

これだけいるのにエミリアはここで過ごす間、聖域の住民とほとんど顔も合わせられていなかった。

 

「……エミリア様とここの住人が会えんかったのは、住人の意思……いいや、ワシらの意気地なさが原因じゃよ。エミリア様、よくぞ『試練』を乗り越えられた。そのことに感謝を。そして……」

 

深々と頭を下げたリューズが、隣に立つ老婆に目をやり、

 

「ガー坊と、こちらの村の方々……内と外、二つの声を聞かされて、ようやくワシらも重い腰を上げることができた。日和見主義の誹りはれんじゃろうが」

 

「迷ったり、立ち止まったりしてたことについては私も人のこと言えないわ。私なんて、同じところで百年ぐらい眠ってたりしたんだから」

 

「とはいえ、ワシらの頑固も代々続いて四百年じゃからな。お互い様じゃよ」

 

「ガーフィールの声はわかるけど……みんなも、「聖域』の人たちと話してくれたの?」

 

「そう大げさなことでは。ただ、生活する場所が同じなら、自然と関わりも生まれる。炊事や洗濯の合間に言葉を交わすぐらい、暇な老人にはよくあることです」

 

「そして、暇な老いぼれは話題に飢えておるもんじゃ。ワシも『聖域』へきて長いが……余所の人間と、ああして幾度も言葉を交わしたことはなかった」

 

リューズと村長とは顔を見合わせ笑った。

 

「エミリア様……お話しさせていただいて、よろしいですか?」

 

「は、はい」

 

そこへ挙手し、一歩踏み出したのは聖域の住人の一人だ。顔に獣毛と、わずかに長い犬歯を持った男性。彼も人と亜人のハーフのはず。

 

「私たちはその……正直なところ、心を決めかねています。あなたを信用していいものか、どうかをです。聖域の外へ出ることは、我々には怖くてたまらない。私もここで生まれ、ここで育ったんです。外でもロズワール様のお世話になるのなら、変える必要なんてないんじゃないか。ずっと、そう思っていました」

 

「......うん」

 

「ですが……ガーフィールの怒鳴り声を、聞いていました。あの頑張り屋がどんな気持ちでいたのか、それを知って、俺は、自分が情けない……」

 

悔しさと自責で、顔を歪める男。それにエミリアは胸が詰まった。

 

「あいつは、まだ14の子どもだ。それでいつから、あんな風に思い詰めていたのか。あの子は……立派だ。エミリア様、それはあなたにも、言えることです」

 

「私は、そんな立派なんかじゃ。今夜まで、全然ダメな子のままで……」

 

「それでもです。ロズワール様に無理だと言われ、誰もが恐れる試練に行って……それでも、あなたはここに立っている」

 

「……はい」

 

「結果がどうなったとしても、あなたがやろうとしていることはすごいことだ。尊敬に値する。ここにいる全員が全員、その気持ちを共有してるわけじゃありませんし、まだ俺もあなたを測り切れていない。ですから、見届けさせてください」

 

無言のエミリアに、男性だけでなく、その背後にいる人々の視線が向けられる。それを受け、エミリアは強く顎を引いた。

 

「わかりました。きっと無事に終わらせて、そのとき、ちゃんと話をしましょう」

 

「はい、約束します。実際に話もせず、ただ立場だけで誰かを遠ざけるなんて……他でもない、俺たちがしていいことじゃなかった。わひゃっ」

 

男性が、突然の刺邀に跳ねる。見れば、その原因は彼の隣に立ち、急に小突いたリューズの仕業だ。

 

「長いし、真面目すぎる。途中で『私』から『俺』に戻っとったし、恥じゃ恥じゃ」

 

「……す、すみません、長老」

 

「ともあれ、ワシらの意見は今の通りじゃ。これも……うん?どうされた?」

 

軽く男性をからかったリューズが、目を丸くしたエミリアに首を傾げる。

 

「えーと……リューズさんが、長者って呼ばれてるの聞いて、驚いちゃった。本当に、ガーフィールと話してるところぐらいしか、見てなかったんだなって」

 

反省、とエミリアが舌を出し、リューズは呆気に取られた顔を男性と見合わせる。

 

それからすぐに、「ははは!」と声を上げて笑った。

その笑いはリューズと男性だけでなく、「聖域』の人々に、そしてアーラム村の住人たちにも伝染し、広場に一時、笑いが満ちる。

 

「なんだか釈然としないけど……リューズさん、ありがと。それに、ミルデさんも、すごーく頑張れそうです」

 

「……エミリア様、名前を覚えておいででしたか」

 

礼を言われたリューズの横で、老婆……ミルデ・アーラムが驚いた顔をする。

 

「私、こう見えて、王様になる勉強してる真っ最中ですから。人の名前ぐらい、ね」

 

「王様は、下々の名前なんていちいち覚えていないものと思いますが……」

 

「それはきっと、あんまり記憶力が良くない王様なのね。私は、物覚えがいいのです」

 

エミリアの受け答えに、ミルデは微かに目を細め、それから深々と腰を折った。

そんな友人の様子を横目に、リューズは

 

「エミリア様のお力になれたなら幸い……次が、最後の試練とのことじゃが」

 

「ええ、すぐに挑むつもり。なんだけど……リューズさん、ラムがどこかわかる?」

 

「……ラムは、外せぬお役日があるそうじゃ。エミリア様の健闘を祈っておると伝言を。『エミリア様はエミリア様の、ラムにはラムの。それを果たしましょう』だそうじゃ」

 

ラムを真似たリューズの言い方に、彼女らしいとエミリアは苦笑しそうになる。

 

「それじゃあ、いってきます」

 

エミリアの言葉に、アーラム村と『聖城』、双方の住人の応援の声がかかった。エミリアは多くの期待を背負い、強い決意を抱いて、墓所の奥へ踏み込んでいく。

 

『いずれきたる災厄に向き合え』

 

最後の試練が、くる。

 

 

『嫌い、嫌い、大嫌い。私、あなたのことが大っ嫌い。本当よ。全部、本当。初めて会ったときからずっと……たまらなく、あなたのこと、嫌いだった。私たちやっぱり出会うべきじゃなかったのかもしれないね』

 

『お前は英雄だよ。英雄にしかなれない……!』

 

『僕は————』

 

『助けてくれてありがとうよ!』

 

『————がなければ、剣も振れぬか、盗人がア!』

 

『儂の、自慢の孫は……良い子に、育ったじゃろう……」

 

『ごめんなあ。殺してやれなくて、ごめんなあ。これでもうずっと、————は永遠に独りだ。俺が、弱くて、ごめんなぁ……」

 

『呪いなどというわけのわからないものに殺されるのではない!』

 

『ほら、見よ。また、安の勝ちじゃ』

 

『これほど殺したいと思った相手が優しい人だったなんて、とんでもない悪夢だわ』

 

『抗えぬ失意に膝を折り、剣さえ失って……この手に、いったい何が残るというんだ?』

 

『独りきりになりたないよって……何が、そんなに難しいん?』

 

『————これが、最高最善なんだ』

 

『————お望み通り殺してやらァ! あァ!? ナツキ・スバルゥゥゥゥゥ!』

 

『俺が必ず————お前達を救ってやるよ』

 

『ただ、気付いただけだよ。……これまでの日々、一人で歩いてきたわけじゃーあなかったということに』

 

『わたくしたちは血の一滴まで、購いのために流し尽くさなくてはなりませんのね』

 

『どうして魂が宿らないのお!?」

 

『テメーはそこで足踏みしてろ。アタシは、魔女だろーが龍だろーが、道塞ぐんならぶっ潰す』

 

悲劇を見た。

 

「三つ目の試練、あなたの目にはどう映った?」

 

 エミリアの後ろにいる彼女は問う。

 

「選択の結果、あんな風になる未来もある。だけど、ああならない未来もある。それがわかれば、大丈夫。私は戦えるわ。そうしなきゃダメって、すごーく強く、言い聞かされちゃったから」

 

「悲しい未来が待ってるなら、走っていってよけちゃうの。それでもうダメそうなら、勢いよく飛び越える。落っこちてる人がいるなら、頑張って引っ張り上げる。それを繰り返していけば、さっきの涙もきっと全部拭ってあげられる」

 

「自満々に、無鉄砲にそんなこと言って……すぐ、折れちゃうんじゃないの?」

 

「一人だけだったら、そうかも。でも、私は一人ぼっちにはしてもらえないの」

 

「強いのね、あなた。そういうところ、母親には全然似てない」

 

「ねえ、魔女さん。もし会えたら、エキドナに伝えてもらっていい?」

 

「なあに?」

 

「また会えたら、きっとお茶会をしましょう。私、夢の中に化けて出てきても、きっと歓迎するから。できれば、貴方や、他の魔女たちとも」

 

「ええ、言っといてあげる。嫌がっても、首根っこ掴んで引っ張り出してやるわ!」

 

 

 

『試練』からの目覚めは、睡眠からの覚醒とは違ったものに感じられる。

 

エミリアは立ち上がり、石室の奥に、目を向ける。

すでに何度も通った、この『試練』が行われる石室には、墓所のさらに奥へ続く扉があるのだ。堅く閉ざされ、通ることができないと思わされた扉。

 

「開いてる。奥に、きなさいってこと?」

 

丘の上で、魔女は扉を出れば結界は解かれると話してくれた。だが、エミリアには実感として、墓所に変化『聖域』の結界が解かれた感覚はない。

だが、同時に感じてもいる。この扉の奥に、本当の意味で結界を解く鍵があると。

 

「……よし、いきます」

 

微かな不安を度胸で押し返し、エミリアは気合いを入れて扉を潜った。

 

そこは、『試練』の石室よりも一回り以上は小さい部屋だ。

だが、そんな感想は部屋の真ん中に置かれたとあるものを見てすぐに消し飛んだ。

棺があったのだ。

魔晶石で作られた棺に、一人の女性が横たわっている。

 

息はない。血の気の失せた顔に生命力はなく、命の抜け殻だ。

長く艶やかな、雪のように白い髪。白磁を思わせる肌に整った美貌。その肢体を漆黒を思わせるドレスに包み、女性は白と黒、この世で最も端的で余計なもののない、美しさの粋を極めていた。

 

「エキドナに似てるけど、誰なの?」

 

彼女を思わせる出で立ちでありながら、エミリアの見知らぬ女性がそこにいた。

 

「エキドナじゃない……似てるけど、お姉さんなのかな」

 

記憶に鮮明な魔女の容貌と、棺の女性との間には類似点が多い。瞼を閉じた目や、鼻筋から唇にかけての顔のつくりが似ている。ただ、エキドナが十代後半に見える年頃だったのに対して、この女性は二十代半ばほどー血縁なのは、間違いなさそうだ。

 

「エキドナのお墓なのに、お姉さんが寝かされてるって、すごーく変だけど……」

 

他の結論が浮かばず、エミリアはその不可思議さに首を傾げる。そして傾げた首は、棺を中心に墓所全体に張り巡らされる術式に気付き、さらに角度を深くした。

 

「あ……」

 

と思わず声が痛れる。それほど術式はさりげなく、高度に複雑化されたものであった。自然と、これが聖域の結界、その構成の鍵であると確言できる。

 

「あった。たぶん、ここの流れを止めれば、それで術式が壊れるはず」

 

棺に手を触れ、エミリアは精緻な作りの術式の核を見つける。それはちょうど、棺の中で眠る女性が手を組んだ胸の上、そこが中心点だ。

一瞬だけ、躊躇いがあった。術式を壊せば結界は解け、墓所は役目を失って停止する。そうなれば、あの茶会へ行く術はなくなり、魔女の知る実の母の手掛かりもし、

 

「そんなの、何もかももう、関係ないの!」

 

迷いを振り切るように、エミリアの拳が棺へ叩きつけられる

 

瞬間、術式の核が砕かれ、結晶製の棺の蓋にひび割れが走った。

マナの流れは狂い、光の流れが室内を荒れ狂う。それは空気を乱しやがて、唐突に消えてなくなる。

墓所の機能停止、その事実をエミリアは確かに感じ取った。

 

「今、終わった……ん、間違いなく、その感覚があった」

 

目に見える変化はない。だが、確かに変わった。

これで、『聖域』の住人を阻む結界はなくなった。この結果を受け、彼らが故郷と外の生活のどちらを選ぶか、それは彼ら次第だ。

 

「そう言えば、ロズワール、先生って……ひょっとして、この人がその先生?」

 

墓所へ挑む直前、エミリアにロズワールは言っていた。始めたのは自分と、先生だと。それが、何を始めたことなのか詳しくはわからない。

ただ、それが聖域のことならば、この女性はロズワールと縁があるはずだ。

 

「それも含めて、みんなに……ラムと、ロズワールに話をしにいかなくちゃ」

 

棺の女性のことは二の次。今は結界が解けた事実を伝えに行こう。

エミリアは急ぎ足に通路を抜け、墓所の外を目指した。

 

そして、エミリアは墓所の外へ飛び出して

 

「え?」

 

肌を刺す冷気と活吹雪に覆われる『聖域』に、エミリアの白い息が帰れた。

 

そこには雪の景色が広がっていた。いったい、何があったというのか。

 

「エミリア様!」

 

声を聞きつけ、エミリアは飛び出して広場へ駆け下りる。雪に隠される世界で、エミリアは広場にいたはずの人々の姿を懸命に探した。

 

「みんな! ダメよ、こんな雪なのに! ちゃんと家の中に……え?」

 

豪雪の中、エミリアは肩を寄せ合う人だかりを見つけて駆け寄った。そして、雪中に残る判断を下したことを叱ろうとして、言葉に詰まる。

そこでは『聖域』とアーラム村の住民がエミリアの帰還を待ち続けてくれていた。ただ、その状況が想像とかけ離れている。

四方を氷の壁に囲われ、吹雪から身を守られる状態でいたのだ。

 

「これって……」

 

「エミリア様がお帰りだ! エミリア様!  『試練』は終わったんですか!」

 

思わず立ち止まったエミリアに、氷壁の中にいた若者が声を上げた。それに気付いた住民たちから歓声が上がる。

 

「あ、ありがとう! みんなのおかげで、無事に戻れました! すごーく感謝してるんだけど、これも大変で! ねえ、何があったの? この雪は?」

 

「ほんの少し前から降り始めたものです。あっという間に、これほどの量に」

 

と、勢いに気圧されるエミリアに応じたのはミルデだ。彼女は深々と腰を折り、

 

「この氷の壁のおかげで風雪が凌げました。なので、私の判断でこの場に留まっておりました。どうか、ご容赦ください」

 

「それは……うん、正解だと思う。この雪じゃ遭難しちゃうかもしれないもの。だけど……」

 

「結界が解けても、これでは移動は困難……でしょうな」

 

エミリアの結論を引き取り、ミルデが息を吐く。

 

「……大聖堂に戻るのが難しいなら、墓所はどう? あの中ならマナの働きで暖かいし、雪がすごーく積もっても崩れたりする心配もないわ」

 

「中に、入れるのですか?」

 

「ええ、大丈夫! 危ないカラクリは止めたから、入ってもへっちゃらのはずよ。みんなを中にお願い。それから……あなた! お願いがあるの!」

 

静かに驚くミルデに頷きかけ、次にエミリアは一人の男性を指差した。それは、最後の『試練』に挑む前に言葉を交わした人物だ。彼は目を丸くし、顎を引く。

 

「! トカクです! 何でも言ってください!」

 

「ありがと、トカクさん。あのね、まだここにこれてない人がいるはずよね?その人たちを集めてきてほしいの。みんな墓所に集めて!」

 

この場にいる人以外にも、聖域には少数の滞在者がいた。彼らを放ってはおけない。何が起きるにせよ、一ヶ所にいてくれた方が守りやすい。その判断だ。

 

「……任せてください。必ず、やり遂げます!」

 

エミリアの指示にトカクが力強く頷く。

 

「リューズさんはどこにいったの?それに、ラムとロズワールも……」

 

「それが、長老は雪が降り始めてすぐ、家族を迎えにいくと。止めたんですが……」

 

「家族? 家族って……それ、シーマさんのこと?」

 

家族と言われ、エミリアの頭に浮かぶのはリューズと邸ずつの姉妹であるシーマだ。

厳密にはリューズとシーマは姉妹ではないのだが、エミリアの理解ではそうなっている。そしてシーマは今、自宅で安静にしているとラムに聞かされたはず。

 

「でも、あんなに小さいリューズさんが自分で連れ出しにいかなくても、誰かの力を借りたらよかったのに……」

 

「ええと、すみません、エミリア様……その、シーマというのは誰のことですか?」

 

「ええ!?  知らないの!? どうして!?」

 

シーマの名に首を傾げるのは、アーラム村の人間だけでなく聖域の住民も同じだ。聞けば彼らは誰一人、シーマの存在を知らないのだという。

 

「でも、私はホントに会ったもん……とにかく、二人は私が探しにいきます! 二人じゃなくて、三人? 四人? 多い! でも、私が探しにいくから!」

 

リューズにシーマ、それにラムとロズワール、エミリアの尋ね人は増える一方だ。

それぞれ色々事情はあるのだろうが、話し合いは全部、安全な場所でしてほしい。

 

「あとは……この氷の壁! 作ってくれた人と話したいの。魔法が得意な人なら、トカクさんを手伝ってくれると嬉しいんだけど……」

 

その言葉に人々は顔を見合わせ、

 

「エミリア様がやってくださったんじゃないんですか?」

 

「え? 私が? 私はやってないけど……」

 

またしても、思わぬ指摘にエミリアが目を丸くする。しかし、エミリアにとって最も大きな衝撃は直後にあった。驚くエミリアに、ミルデが続けた言葉は、

 

「ですが、あの精霊は感謝ならエミリア様に……リアに、伝えるようにと」

 

リア、と呼ばれたことにエミリアの息が詰まった。

 

「雪が降り始めた矢先に、この広場の上空に小さな精霊が飛んできて、あっという間にこの壁を。エミリア様が精霊使いとは聞いていましたので、てっきり……」

 

「パック……」

 

ミルデの説明に心を震わせ、エミリアは氷壁に手を触れる。これを形作ったのがパックならば、触れることでその痕跡に、想いの名残りを感じられるのではと。

 

「あ」

 

触れた掌を通じて、何かがエミリアの内へ流れ込んでくる。途端、轟々と吹き付ける寒風の隙間に、エミリアは世界のひび割れる音を聞き、顔を上げた。

豪雪にけぶる視界の彼方、白く染まる森に氷でできた塔がそびえ立っている。

 

『まだ、リアの仕事は残ってるはずでしょ?』

 

パックの声が聞こえた気がして、奥歯を強く噛み締める。

あの場へ駆け付けなくてはならないと直感し、エミリアは皆に向き直った。

 

「私、あそこにいかなくちゃいけないみたい。無事で、待っててくれる?」

 

「試練の前にお約束した通りです。エミリア様こそ、ご無事で」

 

見送りの言葉をかけられ、エミリアは微笑み、それから氷の塔へ、森へ足を向けた。

 

森にそびえ立つ氷の塔を目指し、エミリアは雪道を懸命にひた走っていた。

 

無論、氷の足場は雪の上よりはるかに滑りやすい。だが、凍れるエリオール大森休で育ったエミリアには、この程度、物の数ではない。

 

ぐんぐんと、白い森へ潜っていく。それをエミリアは不安に思わない。

 

エミリアは森の深奥にある白い施設へと辿り着けていた。

 

 

 

「……エミリア様やそれ以外にも多くの力をお借りしました。その結果、こうして機会が与えられたなら、ワシはワシらの役目を果たすべきじゃろう」

 

「役目は……役目はわかる! じゃが、どうして、それをお前がするんじゃ!」

 

「十年、ワシらはお主を蔑ろにしてきた。管理者の役目を外されて、独りきりでずっと過ごして……それなのに、今さら、その役目を負おうとせんでも」

 

「……そうじゃな。十年、ワシが独りきりだったら、恨みつらみあったじゃろう」

 

「じゃが、ワシは独りではなかった。ワシを知る、可愛い孫が一緒にいてくれた。あの子がすくすくと成長し、強くなっていくのをちゃんと見届けた。そして今、あの子は……ガーフは、ワシらの孫は、外へ行こうと胸を張っておる」

 

「ワシは、あの子の背中を押すよ。その先を、どうか見届けておくれ。アルマ、ビルマ、デルマ……ワシの、半身を分けた姉妹達よ」

 

「あとのことは、任せて」

 

「……ほんの半日で、驚くほど成長される。こればかりは、年寄りの楽しみですな」

 

「……いきましょう、リューズさん。私たちは、やらなくちゃいけないことがある」

 

「エミリア、様……」

 

「証された想いがあって、やり遂げたい願いがあって、だから」

 

「泣くのは、全部後回し」

 

 

エミリア達は外に出ていた。

 

聖域の目、それがリューズがエミリアに説明した、少女たちの役割だった。

無言で、指示に従ってくれる少女たちに思うところはある。が、今は呑み込む。

シーマが役割に殉じ、リューズにも役割があるように、少女たちにもそれはある。

ただそれは、役割以外の何もしてはならないという意味ではない。

役割以外の、多くの素晴らしいものを与えよう。この全てが終わったあとで、必ず。

だから今、この瞬間だけはその役目に頼らせてほしい。

 

瞬間、エミリアは振り返り、その腕を背後の森へ振るう。

こちらへ飛びかかろうとした魔獣が根こそぎ氷漬けになる。それは魔獣『大兎』。

胸に手を当て、エミリアは新たに首から下げた魔水晶の矢片に祈りを捧ぐ。

 

助けてほしいと願うのではなく、これをやり遂げると誓うために。

 

「……私が、必ずみんなを守るから!」

 

 

場面変わってソウゴ達がいる小屋。

 

ベアトリスの一件が終わった直後、ふと外を見たゲイツは驚愕した。先程まで雪の気配など全く無かったのに、突如雪が降り始めたのだ。それも、かなりの猛吹雪だ。

 


「おい、外はかなりの猛吹雪だぞ。ここは天候が替わりやすい場所なのか?」

 


そう言われて外を見たソウゴとウォズ。その光景は、あの大雪を思い出す規模だ。

 


「あの大雪はロズワールが起こしたもの……あの時はそれにつられて兎の魔獣の大群が現れた……まるでそれの再現だ……」

 


「兎の魔獣? その話、詳しく聞かせるかしら」



 

ウォズはそのままベアトリスに簡潔に説明した。ここに来てちょっと経った後、突如の大雪と兎の魔獣の大群。それをウォズが迎撃したこと。ついでにエミリアが墓所の第一の試練を突破したことも説明した。

 


「間違いないかしら、その兎は三大魔獣の一角『大兎』なのよ。食欲の権化、一匹でも生き残れば無限に増殖する厄介な魔獣なのよ」



 

「そんな厄介な魔獣なのか……ウォズ、どれくらいの数だったの?」

「とにかく大群だったとしか言えない数だった。少なくとも、万単位はいたはずだ。六割は焼き払ったところで突如逃げ出していったが」



 

「万……」

 

 その大規模な数にソウゴは思わず口から漏れる。

 


「さっきも言ったけど、一匹残れば無限に増殖するのよ。ただ、最大数に限度があるってのは聞いたことがある。それでも十万近くにはなるはずかしら」

「そんなものが突入してくれば……」

 


「聖域にいるもの全員エサにされるだけかしら。骨も残らないのよ」

 



「でもなんで急に雪が振りだしたんだろう? ロズワールが何かしたのは確定だけど、ラムたちと戦ってたんだよね?」

 

 ソウゴは疑問を口にし、それをベアトリスが答える。

 


「恐らく、事前に術式を刻んでおいたのよ、それも、この規模だとすれば魔水晶を触媒にしてる筈。それなら、戦っていても問題はないのよ。
それなら、あの戦いは頷けるかしら。事前に戦って疲弊していた分を含めても、切り札の六重展開をしなかったのは、雪雲を呼ぶ術式維持のため。遠隔であっても常に展開し続ける必要はあるから、制限がある状態だった……」

 


「その状態でラム君とディエンドの戦闘を凌ぎきるとはただ者じゃないね。まぁ、我が魔王には及ぶまいが」

 



「そう言えばにーちゃはどうしたのよ? 鬼の娘と一緒だったようだけど、半魔の娘と一緒じゃなかったのかしら?」

 


ラムとも戦っていたと聞いたベアトリスが思い出したように聞いてきた。


ソウゴは、今までの話をベアトリスに話した。パックがエミリアの記憶の鍵だったこと、そして、契約を破棄して記憶を戻させたこと。ただ、そのあとは一切姿を見ておらず、てっきり消滅したものだと思っていた。

 



「それは違うのよ。にーちゃなら、契約を破棄しても、別の寄り代を用意していればそっちに移れるかしら。ただ、魔力の供給が途絶えるから、相当制限があったはずなのよ」

 


「つまり、エミリア君との契約を破棄した後、寄り代を乗り換えた後にラム君の元に移っていたわけか。魔力供給に制限がある以上、動くときを見計らう必要があったから、か」

 


「おまけに、ここまで事情がわかれば、にーちゃがどう動くかの予測もつくのよ。魔力的にも余裕が無い以上、半魔の娘のためにも、魔水晶の結界や防御用の術式を壊せるだけ壊して、術式の発動を遅らせにかかるのよ。……聖域の人間の避難のために広場辺りに氷の壁を作ったうえで」



 

「そこまでやったらパックは……」

 

 消滅をしてしまうのではないか、とソウゴは懸念する。

 


「消滅はしないかしら。でも、限界まで魔力を酷使するわけだから、当面は目を覚まさないのよ」



 

そう言い終えたその瞬間、ベアトリスは察した。結界の反応が消えたことを。それは、エミリアが試練全てを突破し、機能が完全に停止したということ。

その反応を見たソウゴは全員に告げた。

 


「ガーフィール、聖域の人たちの避難は頼める?」

 

「おう、良いぜ。大将の頼みってならなァ!」

 

「じゃあお願い。よし、行こう! エミリアが待ってる! 大兎を迎え撃つよ! 

大雪が降る中、ソウゴたちは駆け出した。

 

◇



 

そして試練の突破と聖域を機能停止させたエミリアは、聖域に突入した大兎たちと戦闘を開始した。

 


猛吹雪が吹き荒れる極寒の地獄のなか、エミリアは瞳に強い意思を宿し、徹底抗戦を続けていた。

 


「絶対の、絶対に……誰にも、何も失わせたりなんてしない!」

 

 


エミリアの膨大なマナを行使し、凍てつく魔法を連発して大兎の大群を切り裂いていく。

 

しかし、エミリアの呼吸は荒い。未だに扱いきれない膨大なマナの一部が制御を失い、エミリアの半身を凍らせ始めていたのだ。

このままでは遠からず、あのときと同じ様に自身の魔力で氷像に成り果ててしまう。
だとしても、引けない。引くわけにはいかない。

 


「母様や、ジュースのこと。今日の日のみんなのこと。……それに、ソウゴが言ってくれた言葉を忘れないでいられる限り、私はもう諦めたりしない」

 



だから、たとえこの体が氷に包まれたとしても、もう後悔だけは絶対にしない。

だが、魔獣の包囲は徐々に縮まり、彼女を追い詰める。彼女が破られれば、一瞬にして地獄の顕現だ。
いざとなれば————そう考えたそのときだった。

 



『クウガ』



 

その電子音がなると同時に金のゲートが開き、全身黒色の、刺々しい戦士が現れた。彼が片手を掲げ、手のひらを開いた瞬間、大兎が次々と爆発炎上する。



 

『ファイズ』

 


『Faiz Blaster Discharge』

 


金のゲートから現れた赤色の戦士は、肩の砲台と手持ちの大型砲で大兎を吹き飛ばす。



 

『鎧武』

 


さらに金のゲートから現れた橙色の鎧武者は、手持ちの大筒のつまみをいじると、凄まじい速射で大兎を一掃し始める。

こんなことが出来る人物をエミリアは一人しか知らない。

 


「エミリア!」



 

駆けつけてきたのは、エミリアの思った通り、ソウゴだった。彼に続いてゲイツとウォズ達も続いてくる。

 


「エミリア大丈夫なの!? 半分凍ってるけど!」

 


「我が魔王、ウィザードだ」

 


「そっか!」

 

『ウィザード!』



 

そういうとグランドジオウウォッチの力でウィザードが呼び出され、フレイムドラゴンスタイルの炎を操る力でエミリアの氷を溶かしていく。


 

氷を溶かし終えたウィザードはそのまま大兎と戦闘開始。

 


氷が溶けて動けるようになったエミリアがソウゴ達の方に振り向くと、ゲイツ、ウォズ以外に知らない女性が一人、そして、ここに絶対いないはずの存在が一人いた。

 



「ベアトリス!? なんでここにいるの!?」

 


「話は後かしら。早くあの大群を潰さないと、みんな揃って胃の中なのよ」



 

「しかし、この数は想像以上だぞ!」

 

 改めて目にした大兎の軍勢にゲイツは険しい顔をする。

 


「それでもやるしかないのよ。一匹でも残せば、また増殖するなら、ここで殲滅するしかないかしら!」

 


「まぁ、それが事実だからね。今度こそ焼き払うとしよう」

 


 ウォズがそういうと3人はドライバーをつけ、ウォッチを起動させる。

ソウゴはドライバーをつけながらエミリアに顔を向けて言った。

 


「エミリア、後は任せて。ベアトリス、エミリアをお願い。あと、あの兎達をここから通さないよう防衛戦を作って!」

 


「ソウゴ、私も戦うわ。私はもう諦めないんだから!」

 


「なら、エミリアもベアトリスと一緒に防衛戦を作って。撃ち漏らす気はないけど、この数だから……猫の手も借りたい状況だしね!」

 



そういってソウゴはオーマジオウライドウォッチを起動させる。

その瞬間、エミリアが胸にいれていたパックの眠る魔水晶が浮き上がり、同時に現れた時計の針が高速で逆回転を始める。ある程度逆回転した針は、今度はものすごい勢いで進みだし、そして、ジオウの能力で時間遡行を行うときに発させられる鐘の音が鳴ると同時に、ポン! という音と共にパックが現れた。

 



「パック!」

 


エミリアは、涙を浮かべながらパックを抱き締めた。しかしながら、当のパックは何が起こったかわからない顔をしていた。
ベアトリスは、驚愕の顔を浮かべている。

 


「じ、時間遡行に時間改変かしら!? 極致の領域の魔法をこんなあっさりと!?」

 



当のソウゴは大したことはしていないという顔でパックに喋りかける。

 


「パック、起きて早々すまないけど、今は猫の手も借りたい状況なんだ。エミリア達を手伝ってあげて」

 



「……全く、叩き起こされて早々働けなんて、猫使いの荒い魔王様だね。まぁ、やることはわかったけどさ」

 


呆れながらも体を伸ばしながら、「じゃあ、一丁やりますか~」と気持ちを切り替えたパック。

 


エミリアは驚きとパックが復活した嬉しさで内心気持ちはグチャグチャだが、それでも、強引に気持ちを切り替える。

驚きから唖然としているベアトリスだったが、そのとき彼女の仮面英雄歴が光だし、独りでにページを高速で開いていく。
次々と現れるライダーズクレスト。そのクレストに共通しているのは、全て、平成2号ライダーのものであること。

 



最後のクレストが現れ、全てのクレストが光を放ちながらひとつになり、赤色のウォッチに姿を変えてゲイツのもとに飛んでいく。その形状は、赤色のグランドジオウライドウォッチといったところ。

 



「これは!?」

 


受け取ったゲイツは、少し考える素振りを見せた後、ウォッチを起動させた、

 


『ゲイツマジェスティ!』

 


ウォッチをドライバーに装填し、ドライバーを一回転。



 

「変身!」



 

『マジェスティタイム!』



 

『G3! ナイト! カイザ! ギャレン! 威吹鬼! ガ・タ・ッ・ク! ゼロノス! イクサ! ディエンド! ア・ク・セ・ル! バース! メーテーオ! ビースト! バ・ロ・ン! マッハ! スーペクター! ブレイーブ! クーローズ! 仮ー面ーラーイダーー! Ahーーーー! ゲイツ! マジェーースーティー!』

 



突如現れたウォッチで新たな姿に変身したゲイツ。誰もが驚くそんな中で、突如ウォズが震えだした。

 



「……祝いたくはないが……私のプライドにかけて! 祝え!闇に苦しむ人々を救い、未来に光を取り戻す真の救世主! その名も仮面ライダーゲイツマジェスティ!まさに生誕の瞬間である!」

 



「それ、今やらなきゃいけないこと? というか無理に祝われても嬉しくないと思うんだけど?」

 


「ま、ウォズらしいっちゃらしいじゃない? 俺たちもいくよ!」

 

『オーマジオウ!』

 

ツクヨミの疑問に笑いながら答えた後、ソウゴはベルトを装着し、ウォッチを手に取り起動。

 

『ツクヨミ!』『タイヨウ!』

 


ツクヨミも呆れながらウォッチを装填し、ウォズは、スッキリしたような顔をしながらギンガウォッチを装填する。



 

「「「変身!」」」

 

『ツ・ク・ヨ・ミィ!』

 

『タイヨウ! ギンガタイヨウ!』

 

『キングタイム! 仮面ライダー! ジ・オーウ! オー! マァー!』

 

他の三人もそれぞれ変身完了。

 


「さぁ、皆行くよ!」



 

ここに、最後の戦いという名の魔王軍の蹂躙が幕を開けた。

 

 

『インフィニティ! プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーン!』


 

『ロックオープン! 極アームズ! 大! 大! 大! 大! 大・将軍ッ!』

 


ソウゴがオーマフォームに変身すると、ウィザードはインフィニティースタイルに、鎧武は極アームズにフォームチェンジ。

 

『カイザ!』『ギャレン!』『バース!』『ビースト!』『スペクター!』

 


ゲイツはネクストカイザ、ギャレンキングフォーム、バースX、ビーストハイパー、シンスペクターを赤いゲートから召喚し、文字通りの総力戦が始まった。

ジオウは大兎の大群を因果率操作で次々と爆殺。

 

『G3-X!』

 

『ゼロノス!』

 

ゲイツはGMー01とゼロガッシャーボウガンモードを召喚し、両手で撃ちまくる。ツクヨミは時間停止しながらルミナスフラクターで切り自分裂いていく。ウォズはギンガタイヨウの能力で次々と焼き付くしていく。

 


ゲイツに召喚されたバースXはカニアームから"カニ・コアバースト"による光弾を発射し、スペクターはガンガンハンド銃モードを使用する"ラストバレット"、ギャレンは"バーニングショット"、ビーストは"シューティングミラージュ"を叩き込む。


 

『Start up』

 

 ネクストカイザはアクセルフォームに変身し、超加速してカイザクロスラッシャーで大兎達を切り裂いてゆく。

 

 ウィザードは高速移動して兎達を切り裂き、鎧武は火縄大橙DJ銃で、ファイズはファイズブラスターで撃ち抜いてゆき、クウガは大兎達を燃やし続ける。

 


その間に、エミリア達は氷柱と魔力柱で壁を作り住民が集まっている墓所に繋がる道を封鎖し、そのままソウゴ達の援護射撃を開始した。

大兎の軍勢を徐々に押し返し始めてはいたが、それでもとにかく数が多すぎた。

 


「キリがないよ、この数!」

 


「十万近いらしいからな! 時間はかかるだろうさ!」

 


「まとめて焼き払うにしてもこっちも限界が見えてきたからね……別の方法を考える必要がありそうだ、我が魔王!」

 


「と言ってもどうするの!?」



 

そのとき、ソウゴがあることをひらめいた。大兎達は時間経過ととも増殖していく。つまり、この大群は、それだけ時間が経過した証拠だ。なら、逆に時間を逆行すればどうなるか?

 


そう考えたソウゴは、背中の長針・短針である"アポカリウス・オブ・キングダム"で大兎達の時間逆行を開始。すると、ソウゴの読み通りのことが起こった。

時間経過とともに増えるのならば、時間が逆行すれば、当然増えることはない。逆に減り始めたのだ。

 


ならばと一気に加速させるべく、ジオウ以外のライダー達は各々の必殺技を叩き込み始める。

 

『Exceed Charge』『ハイタッチ! シャイニングストライク!』『極・オーレッ!』『FOUR CARD』『Exceed Charge』『ハイパー! セイバーストライク!』『デッドリーオメガドライブ!』『エル・サルバトーレターァイムバーァスト!』『バーニングサンエクスプロージョン!』『タイムジャック!』



 

その連撃で一気に数を減らした大兎にソウゴの止めの一撃が叩き込まれた。

 



『キング! ギリギリスラッシュ!』



 

最大出力のサイキョージカンギレードで凪払われ、文字通り焼き尽くされ、完全に大兎は殲滅された。



 

それを援護しながらも見ていたエミリア達はただ驚くしかなかった。
エミリアは、白鯨戦でグランドジオウの力を見ていたが、今のソウゴは比べ物にならない。片手を振るだけで魔獣を爆殺、時間を意のままに操る。

 



ウォズ達も含めて、見事な連携ができていた。自分達がどれだけ必要だったのだろう、と思うくらいに。

そして、ベアトリスもまた、同じようなことを考えていた。これだけの魔獣の大群なら、マナを全て使いきるかも……と思っていた

 

が、現実はソウゴ達の蹂躙だ。

 


なぜ、ソウゴの未来であるオーマジオウが魔王と呼ばれるのか。その答えがこれだ。まさしくその力は魔王と呼ばれるにふさわしい。自分の新たな主の力の前に、恐怖を抱きながらも、同時に興奮しているのをベアトリスは感じていた。



 

大兎も片付き、ひとときの平穏がやってきた。
ベアトリスは目覚めたロズワールと墓所の中に、ソウゴ達もその近くで休んでいた。そこにエミリアとラムもやってきた。

 



「凄かったよ、ソウゴ。あんな凄い魔法の連続、驚いちゃった。おまけにパックも復活させるなんて……」

 


エミリアがそう言うが、当のパックがいない。それを問いかけると、復活したての所でそこそこ魔力を消費したので、いまは眠っているらしい。



 

「これで、一応全部終わりかな?」

 


「そうね。エミリア様は試練を乗り越えたことで、結界は無くなった。叡智の書も処分して、魔獣は全部倒された。後は聖域の住民達の移住の手配などの後始末が残っているけど……一応全部片付いたと言っていいわ」



 

ソウゴの疑問にラムが答えた。

 


「じゃ、私はロズワール様とベアトリス様を待つことにするわ」

 


「そう、行ってらっしゃい」



 

そういってラムは去っていく。
するとエミリアは改まった顔でソウゴに言った。

 



「ソウゴ、あのね……私、色々とやれるだけやってみる。ソウゴにお願いする前に、もう少しだけ頑張りたい。その上で、無理だとわかったらソウゴに頼る。でも、もう無理はしないわ。無理はしないけど、やれることは全部やり切りたい。それだけやった上でなら、ソウゴに頼っても、間違いじゃないって思えるから」

 



「……わかった。でも、困ったら、いつでも言って。墓所にいるときも言ったけど、俺たちはいつまでこの世界にいられるかわからない。もし、エミリアが王様になって、願いを果たすのが間に合わないなら、先に、エミリアの願いだけは何とかするからさ」

 



「……うん!」

 

 ソウゴの言葉に、エミリアは笑みを浮かべ頷いた。




"最強"の戦跡、聖域(ここ)に刻む!!

次回 2019:会議

Q.ゲイマジェって召喚いけんの?
A.超英雄祭に出てた時やってた
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